●東洋美術から現代アートまで揃う芸術書の宝庫
現在、大業はTinnyさんと夫で篆刻家の馬召其さんの2人で切り盛り。馬さんが店内の管理や接客などを担当。Tinnyさんは文筆業のかたわら、SNSを使って新しく入荷した本やオススメ本を紹介し、大業の活動を発信している。
先代・張さんが「世界中どこを探しても、大業ほど東洋美術の本を置いている店はない」と自負していたほど、芸術書の品揃えは素晴らしい。
「中国芸術の分野だけでも、玉、陶器、書画、篆刻、青銅器、家具、貨幣、建築、オークション関連など幅広く、4,800種類以上あります。店には数万冊はあるでしょうね。他にも倉庫があり、うずたかく積まれた本の山がいくつもあります。歩くスペースがないくらい(笑)」と馬さん。
Tinnyさんが店を継いでからは、東洋美術に加え、現代アートや地元香港のアーティストの本など、これまで置いてなかった新しい分野も取り扱いを始めた。また、店で扱う本は、内容はもちろんのこと、貴重本や印刷の良いものと限定している。著者にサインを入れてもらうのもその一環。サインなどの付加価値を付けることで、手元にずっと持っていたいと思ってもらえるような本にしている。
「うちは小さな書店なので本を大量に仕入れて安く売ることはできません。なので、少量でもいいので価値のあるものを置きたいと思っています。ある日、お客さんが1冊の本を見つけてすごく喜んでいたんです。どこを探しても見つからなかったのに大業にあったと言って本を抱きしめて帰っていきました。本屋冥利に尽きる瞬間でしたね」
客層も徐々に変化が出ている。以前は先代からの常連や骨董品のコレクターがよく本を見に来ていたが、最近では香港の歴史本や芸術本を求めて若い人たちがやってくるようになった。また篆刻家である馬さんのファンの来店も多く、馬さんとの芸術談義を楽しみに立ち寄る客もいるそうだ。
●知識をシェアする場を提供
Tinnyさんは、今後注力したいことの1つに、講座などのトークイベントの開催をあげる。
「今は新型コロナの影響で出来ませんが、状況が落ち着いたら、本の内容に関する講座を開きたいですね。知識のシェアになりますし理解促進にもつながると思います。以前、中国現代絵画の大家・呉冠中に関するトークイベントを開催したことがあり、サザビーズの専門家と呉冠中を長年にわたってよく知る人物、そして私の3人が登壇しました。また呉冠中のお弟子さんが折良く香港に来たので協力してもらい、ドキュメンタリー的なビデオも撮りました。このビデオは香港芸術館でも上映してくれ、おかげで人々の呉冠中への関心が高まり、本の売り上げにも繋がりました」
“白馬の王子様”として大業に現れたTinnyさん。大業にとって閉店を免れハッピーな展開をもたらしただけではなく、我々にとっても芸術の知識をシェアする場を提供してくれている。新型コロナが1日も早く収束し、大業のイベントに参加できる日が待ち遠しい。
(取材日:2021年4月23日)
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