●店主と持ち回りの「店長」/開業の経緯
見山書店の店主はシャロンさん。一方、「店長」は持ち回り制だ。20人以上いる「日替わりの店長」が毎日一人で店を切り盛りしている。中には、以前からシャロンさんと「読書会」を開いていた人もいて、いずれも本好きな人たちだ。取材の日の「店長」はエイミーさん。シャロンさんとエイミーさんのお二人に、まず開店の経緯から話を聞いた。
シャロンさんが前の職場を退職してフリーになった頃、小さな雑貨店を経営している友人と話す中で「私なら本屋が開けるかもしれない」と思い立った。しかし、何か大きな構想や将来への展望があったわけではない。ただ小さな店を開きたいと思っただけだという。以前から書店巡りが好きだった。旅に出たなら、必ず現地の書店を見て回る。日本にもお気に入りの書店があり、東京神保町の呂古書房だそうだ。
シャロンさんは、本屋を開くなら自宅からも徒歩で行けて、他に本屋のないこの辺りでと考えた。若者も多くやってくる地域であり、住民には外国人も多い。そうするうちに、空き家になっていた今の物件を見つけた。「大きな樹の下にある」この場所が気に入った。以前は花屋が入っていたという。そして2018年5月にオープンした。
当初、店のある「太平山街」にちなんで店名には「平山」を考えていたという。そんな時、ある古典の「あなたが会いたい人がいるなら、歩いて会いに行けばいい」という言葉を思い出した。「人と会う」――中国語では「見」を使うが、書店も同様、本を探しに行く――「見」に行くものだ。そして「見山」と命名した。
一方、英語の店名は「Mount Zero Books」。シャロンさんの知人が名付けてくれた。ゼロに戻ること――中国語で言えば「返璞帰真」。本来の自然な状態に回帰すること。山に登ったなら、麓に戻って来て登山が完結する。それで「円満」になるということだそうだ。
●見山の店内と「前庭」
店の面積は8畳くらいだろうか。1階には店長が陣取り、中央のテーブルには新刊などが平積みされており、周囲には書架が並ぶ。階段を上って2階に行くと、壁に書架が並ぶ他は椅子が置かれ、そこで本を読んだり、窓辺の机で作業ができたりする。その机にはノートが置かれ、客が好きなように自分の思いを綴っている。
最近新たに立ち上がった香港の独立書店は、イベント開催が可能なスペースを具えているところが多い。この点について尋ねてみた。
「ここの2階に『スペース』がありますが、イベントができる広さではありません。しかし私たちには『前庭』があります。ここでフォーマルな講座などは難しいが、他にはないリラックスした雰囲気があるのです」
実際にこの「前庭」では、作家が自著にサインをしたり、芸術家が自らの作品を展示販売したりする「イベント」が頻繁に行われている。
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