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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国   (17) 「実名制」
   
     
「北京市の微博実名制規定」
「北京市の微博実名制規定」
 

 ネットを通じて中国社会をウォッチするこのコラムは、2月のジャスミン革命や、7月の高速鉄道事故反骨の芸術家艾未未氏の動向、さらに“お騒がせ美女”郭美美さんなど様々な話題を取り上げてきた。1年の締めくくりに何かよいテーマがないか、思案していたところ、またもや微博に実名制導入という大きなニュースが飛び込んできた。ネットでは今やこの問題で議論が沸騰しており、来年以降もますます波紋が広がりそうな気配だ。今年はまさに微博を中心に中国のネット世論が動いた年と言える。
  このニュースを推特(ツイッター)でキャッチしたのは、発表当日(12月16日)の昼ごろ、フォローしている中国の推友(ツイッターユーザー)の書き込みだった。その日はバットマンに出演した米国人俳優、クリスチャン・ベールが山東省の村に幽閉されている盲目の人権活動家、陳光誠氏のもとをCNN記者とともに訪問し、険悪な顔つきの警備員に追い返されるニュースが推友の間で話題になっていた時に飛び込み、急いで次のように書き込んだ。

 

 

 
 
   
     

 「北京市が微博実名制導入か。RT @qhgy: 北京市发布微博客管理规定,要求微博客用户在在进行真实身份信息注册后,才能使用发言功能。对使用微博客浏览信息的用户,未作出限制性规定。北京要求已开展微博服务的网站需在规定公布后3个月内对用户进行规范。」
  「ghgy」氏の書き込みは「北京市は微博管理規定を発表、微博ユーザーは本当の身分で登録後、発言機能を使うことができる。情報を閲覧する(だけの)ユーザーに対する制限はない。北京は微博サービスを展開するウェブサイトに3カ月以内にユーザー(に対して)この規定に従うよう求めている。」この記事はポータルサイト網易から引用されたものだ。http://news.163.com/11/1216/11/7LD4H55I00014JB5.html
  規定はつまり、微博で自ら発言する際には実名登録が必要で、今回の規定(正式名は「北京市微博客発展管理若干規定」)は北京市の微博サービス事業者が対象であり、具体的には公称ユーザー2億5000万人の新浪網や捜狐網が主なターゲットとなる。
  前回のコラムで北京日報が10月の時点で実名制導入を呼び掛けていることを紹介したが、まさにその通り北京でまず実施が決まった。
  公称ユーザー数3億1000万人の騰訊網は本部が広東省深圳市にあるため、当初はこの規定を免れるのではないかとみられていたが、本稿を執筆中の22日、広州市と深圳市でも同様の規定が実施されると発表、主要サイトはほぼ規制を受けることになった。
  当局は実名制導入の理由を、「微博発展の過程で、デマ散布や虚偽情報が出現、『粉絲』(ファン、フォロワー)の売買、ネットを利用した詐欺などの問題が突出しており、公共利益を損ない、ウェブサイト、ユーザーらの不満を招いている。社会各方面は微博サービスを規範化し、ネットの健全な発展を呼び掛けている」としており、前回指摘した“デマ”など有害情報への対応のためと強調している。
  さらに、実名制を義務化する法的根拠は?との問いに対して、「中華人民共和国電信条例」第59条にある「いかなる組織や個人も虚偽の身分証明書によりネット接続の手続きをし、ネット伝達秩序を撹乱してはならない」という規定を根拠にしている。(この問題点については後で述べる)
  また、「後台実名、前台自願」、つまり実名は微博への登録の際に必要だが、微博を使用する、つまり書き込む際は実名でもニックネームでもよいということを強調している。

 

今月のことば
北京市微博管理規定(北京市微博客发展管理若干规定):

後台実名、前台自願(后台实名、前台自愿):
実名は微博への登録の際に必要だが、微博を使用する、つまり書き込む際は実名でもニックネームでもよいということ

「新浪網の編集部門」
「新浪網の編集部門」(2011年6月、筆者撮影)

 実名制導入について、新浪網、捜狐網などのサイト運営側は判を押したように賛成を表明している。新京報12月18日報道によれば、新浪の副総裁で微博事業部総経理の彭少彬氏は「政府部門の規定や要求に、新浪は積極的に答え、困難を克服し、全力で実名登録作業を進める」と答えた。捜狐の微博運営総監・劉鑫智氏も、「実名登録は無責任で有害な情報を減らし、ユーザーの交流がより実質的な意味のあるものとなり、長期的にみて微博の発展に有益だ」と答えている。   >>>新京報12月18日報道

 実名制導入について、「第一調査網」というサイトが16日に実施した調査を発表している。これによれば、回答者約1300人のうち、「デマ散布や誹謗の防止に有利」との答えが28.6%、「微博運営の健全な発展に有利」が28.63%、これに対し「ユーザーが使いにくくなる」は17.21%と、数字だけを見れば導入賛成派が多い。

  >>>第一調査網

 だが、筆者がツイッターや海外の中国語サイトなどで調べた網民(ネット市民)の声はかなり異なる。ドイチェ・ヴェレ12月21日の記事よれば、筆者の友人でジャーナリスト、ブロガーの安替氏は次のように指摘する。
  「中国は微博を交流の場ではなく、(敵味方どちらが占領するかという)世論の陣地とみているため、それを支配し、管理することは当然重要だ。微博は政府が認めた交流の場ではあるが、政府は同時にユーザーが増えることは望んでいない。微博は政府にとり脅威となっており、閉鎖せずに管理するのであれば実名制は彼らが思いつく策略の一つだ。これにより一般の微博ユーザーに心理的な影響を与え、以前のように自由に発言できなくなるのだ。自分の発言が記録されることで、“出軌(度を超えた)”発言が減ることを政府は望んでいるのだ」
  さらに3カ月以内に既存ユーザーの実名登録を完了するという規定にも、実施はあまりに困難と疑問を投げかけている。「2億5000万人の新浪微博ユーザーのうち、仮に5000万人に対してでも、そのコストと人力は莫大な問題であり、微博の商業的運営や株価に影響を与える。最終的には融通のきく方法になるのではないか、この政策が本当に徹底されるとは思わない、そのコストが高すぎ、現実的でないからだ」要はネットの管理強化のコストを新浪網のような民間企業に担わせるのは、あまりに非現実的だという指摘で、最後はうやむやになるのではないかという意見には同感だ。
  ジャーナリストだけではなく、学者からも批判の声が上がっている。著名なジャーナリズム研究者で北京外国語大学の展江教授は、「微博実名制規定の撤回を求める4つの理由」という文章をネットで発表した。昨年1月に東京と札幌で開いた中国のネットに関するシンポジウムにも参加した展江氏は次のように指摘する。
  「1、新規定は『中華人民共和国電信条例』『互聯網信息服務管理弁法(インターネット情報サービス管理規則)』などの法律、法規を根拠とするとあるが、このいずれも法律ではない。しかも上記の条例などはいずれも2000年9月に実施されたもので、当時は微博はなく、これらを法的根拠にすることはできない」
  「2、胡錦濤総書記は2008年の談話で、人民の知る権利や参加する権利、表現する権利、監督する権利などを保証すると述べ、『ネットは思想文化情報の集散地、社会世論の増幅器』と指摘しており、この談話の方が古い条例よりも現実と符合する」
  「3、マルクスはメディアにおいて匿名で発表することは、一種の先進的な社会世論の伝達型式だと指摘している。北京市の管理者もマルクスの輝かしい思想を復習すべきだ」 
  「4,前車之鑑(前車の覆るは後車の戒め)、中国新聞社8月11日の報道によれば、韓国ではあるポータルサイトがハッカー攻撃を受け、3500万人のユーザー情報が漏洩、それにはユーザーの氏名、電話番号、身分証明書番号などが含まれていた。個人情報を違法に収集する行為を減らすため、韓国政府はネット実名制を段階的に廃止すると決定した」
  詳しく紹介したのは、現在この文章がネット上から削除されているためで、実名制導入にあたり不都合な言論を人々の目に晒さないようにするという当局の狙いが見え隠れする。だが本欄でしばしば紹介する北京大学のネット研究者、胡泳氏も23日、「なぜ微博実名制に反対か」という一文を自らのブログで発表、批判の戦列に加わった。その趣旨は「一部の悪質な行為が生むリスクは、網民すべてに身分を公開することを求めるほど深刻だろうか。匿名によるマイナス面(違法行為)は防ぐべきだが、匿名そのものを違法とすべきではない」「緩やかなネット環境は我々に自由をもたらしている。一定の代価を支払っても、この環境が我々の生活をよりよくしていることを認識しなければならない」「公正な社会においても、権力への批判は報復を受けることがあり、匿名は身を守るための価値ある手段だ。不公正な社会においてはなおさらである」と、権力の恣意的乱用が起きやすい中国社会こそ匿名性は重要だと暗に示唆している。
  一般ネットユーザーの反応はより辛辣だ。「実名制は脅迫のためであり、人々に自己検閲させるためだが、捕まえるためではない。彼ら(当局)は技術的手段により捕まえることはとっくに可能だ。だが対応しなければならない人が多すぎるため、(人々に)に自ら口をつぐむことを望んでいる。もし本当に自己検閲をする人がいたらまさに彼らの思う壺だ。発言者が多くなれば、彼らは目標を定めることができない、反対に大部分の人が沈黙すれば、彼らは一部の人に対して行動すればいいことになる」これは以前紹介したネットクリエーター、胡戈氏が騰訊微博に載せた発言だ。
  次のような厳しい批判もある。「包丁も実名制、微博も実名制、だが三公消費(公費による外遊、公務接待、公用車の購入・使用)の明細は機密、役人の档案(身上調書)も機密、役人の財産も機密、GDPの統計根拠も機密、役人に関してはすべて機密にしながら、庶民のすべて実名を求めるなんてあまりにも恥知らずではないか?」(騰訊微博)ここで言う「包丁も実名」とは昨年、上海万博や広州アジア大会が開かれた際、包丁や一定以上の大きさの果物ナイフは決められた店で身分証明書を示し、実名登録しなければ購入できないという治安対策が取られたことを意味している。
  先ほど実名制賛成者が多いとした「第一調査網」の書き込み欄でも、賛成論も見られる半面、「実名制は人々の口を塞ぐため」「上に政策あれば下に対策あり」「まったく意味が無い」といった声もある。
  実名制はネットにとどまらない。前述の包丁の他にも、来年1月1日から、列車の切符を購入する際にも実名制が導入されるとの報道があった。従来は高速鉄道(中国版新幹線)では身分証明書を示す必要があったが、今後はあらゆる切符にも適用されるという。ラジオ自由アジアは、当局はダフ屋行為などを防ぐのが目的と説明するが、実際は腐敗摘発のため北京に陳情に訪れる人々や、反体制活動家の動きなどを把握することが真の狙いと指摘する。ネットにせよ、包丁にせよ、切符にせよ、実名制を導入する目的は早い話結局どれも同じ、治安維持のためなのだ。

   

 そもそも中国で微博がこれほど短期間に急速に広がったのは、当局による様々な規制が難しいからだ。実名制は微博発展の勢いを止めることになりかねない。
  まして、生活の様々な面に実名制が導入される社会は、あまりに息苦しい。5億のネット人口を抱える中国社会にわずか3カ月で導入することが可能なのか、年明け以降の動向を注意していきたい。

 

 

 

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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