中国・本の情報館~東方書店~
サイト内検索
カートを見る
ログイン ヘルプ お問い合わせ
トップページ 輸入書 国内書 輸入雑誌  
本を探す 検索 ≫詳細検索


過去のフェア
中国書画関連書籍
仏教関係中国図書目録2018
中国武術関連書籍フェア
春の中国語テキストフェア
始皇帝と兵馬俑関連図書フェア
中華再造善本フェア
『東方』購読のおすすめ
東方書店公式Instagram
東方書店公式Instagram
東方書店公式Twitter
東方書店公式Twitter
神保町店舗のTwitter
神保町店舗のTwitter
神保町店舗のfacebook
神保町店舗のfacebook
Knowledge Worker
個人向け電子書籍販売
BOOK TOWN じんぼう
神保町の書店在庫を横断検索
日本ビジネス中国語学会
 
北京便り
上海便り
ネット用語から読み解く中国
 
bei_title  
 
 
 
   
ネット用語から読み解く中国 

(9)「悪搞」

   

艾未未氏(維基百科より)
艾未未氏(維基百科より)

 前回このコラムを執筆後、日本では3月11日に東日本大震災が発生、未曽有の大災害は海外メディアも注目する事となり、一時は中国からも記者やカメラマンが大挙して来日、被災地の様々な状況をリポートした。

 一方中国でも、今月3日、ネット世論を震撼させる事件が起こった。本欄(5)「河蟹」で紹介した著名芸術家、艾未未(Ai Weiwei、敬称略)の拘束である。事件を最初に伝えたのはツイッターで、同日午前10時29分(日本時間)、「艾未未が北京・首都空港の税関で2人の係官に拘束され、(同行した)助手とは別々の場所に連行された。携帯電話は電源が切られ、20分以上つながらない」という内容(原文中国語)だった。筆者も約3時間後の午後1時41分、「中国の著名な行動芸術家艾未未が本日北京空港で拘束され、自宅も捜索を受けているとの情報」とツイッターに書き込み、同日夕までに日本の主要メディアも報道した。
拘束から1週間が過ぎたが、艾未未は「経済犯罪に関わった疑い」(中国外務省)として、当局に身柄を拘束され、自宅アトリエも捜索、パソコンなどが押収された模様だ。筆者は中国の多くのネット市民や西側メディア同様、経済犯罪はあくまでも口実で、彼に対する言論弾圧が事件の本質だと考えている。

 
   
     

 では、なぜ艾未未がターゲットにされたのだろうか。米国在住の経済学者・ジャーナリスト、何清漣は、このほど発表したブログで興味深い見方を披露している。
  「当局は一体艾未未の何を気にしているのか?中国共産党の敵に対する容赦ない闘争精神を熟知していれば、北京が問題視したのは艾未未がからかう(原文:戲弄)ような態度で表現する、権力に対する挑戦であると分かるだろう」
  何清漣は北京五輪後、言論統制が強まり、批判の声はますます弱まる中、艾未未の出現は、あたかも淀んだ水に広がった波紋のようであったと述べ、「加えて彼の世俗から超然とした(原文:特立独行)スタイルは『80後』(80年代生まれ)の若者たちに独特なネットの『悪搞』と非常に符合し、自然と多くの追随者から崇められた」と指摘する。
  前置きが長くなったが、今回紹介したいのはこの「悪搞」というネット流行語である。維基百科(ウィキペディア中文版)は「悪搞」の定義として、「厳粛なテーマを解体し、喜劇的、風刺的な効果を創り出す、悪ふざけの娯楽文化。既成の話題や番組などを改編した形で発表することが多い」とやや難解な説明をしている。分かりやすく言えば、要は「パロディ」である。
  筆者が初めてこの「悪搞」という言葉を知ったのは、中国の映像作家、胡戈(Hu Ge)のパロディ作品を見たのがきっかけだ。胡戈と聞いて、ああ、あの「一個饅頭引起的血案(マントウ殺人事件)」の作者ね、と知っている人もいるだろう。05年末に胡戈が初めて発表した、中国映画の巨匠、陳凱歌の「無極(プロミス)」をこき下ろしたパロディ映像だ。胡戈本人や作品の内容については、これまで日本のネットでも紹介されているので、詳しくは説明しない。ユーチューブでも見ることができる。(http://youtu.be/xIU4udZRKEY

 筆者は09年11月、上海市郊外にある胡戈の自宅を訪問した。東京で開く中国のネットに関するシンポジウムに彼を招くのが目的だった。無造作にパソコンや自転車が並べられたコンクリート張りの部屋で、彼は次々と作品を生み出していた。翌年1月、シンポジウムで、「饅頭」を制作した理由を次のように語っている。
  「『無極』は、05年12月の公開前、大々的に宣伝、テレビも傑作とたたえた。DVDなどの海賊版が一般的な中国では、わざわざ高い金を払って映画館に行くことは、年に1、2度。さぞや素晴らしい作品だろうと、自分も期待して見に行った。ところが実際はあまりにひどい内容だった。騙されたと思った自分は、パロディという自分なりのやり方でこの映画を批判、風刺しようと考えた」制作には8、9日間かかったという。
  当時は現在のような動画サイトがなかったので、友人だけにサーバーからダウンロードする方法を知らせていたが、数日間で中国のネット全体に広がり、多くの人が賞賛したという。陳凱歌が彼を名誉毀損などで訴えると言い出したときは怖かったそうだが、多くの人やメディアが胡戈を支持、陳も訴訟を取りやめた。
  「メディアはこの事件を高く評価、歴史上初めて、無名の人間が著名人に挑戦した事件であり、普通のネット市民が『話語権(ものを言う権利)』を獲得しつつあることを象徴する事件だとの評価まであった。だが自分はこのような目的はなく、自然なやり方で意見を表しただけ、何万ものネット市民がこのパロディ動画をそのような高みに引き上げてくれたのだ」と述べている。
  胡戈はその後、映画作品の切り張りではなく、自らキャストを集め、撮影した「鳥籠山剿匪記」「007大戦黒衣人」「007大戦猪肉王子」などのパロディをネットで発表、話題を呼んだ。それぞれがユーモアと諷刺があふれる作品だが、紙幅の関係もあり詳しくは述べない。ここでは彼が制作したもう一つのパロディ「山寨新聞聯播」を紹介したい。
  「山寨」とは「権力の手が及ばない」「非官製、非エリートの」「偽物、パクリ」などの意味で、日本でもしばしば紹介されている流行語だ。「山寨手機」は「パクリ携帯」のことでiPhoneならぬ「iorange」(appleではない!)、iPadならぬ「iPed」などが売られているという。「山寨新聞聯播」とは中国中央テレビ(CCTV)の定番ニュース番組「新聞聯播」のパクリである。
  「山寨版」は本物の厳かなテーマ音楽に合わせて安物の地球儀が回り、画面左上に表示されるテレビ局の名前は「CCAV」である。ちなみにこれは中国のネット市民がCCTVを揶揄するときによく使う。
  Tシャツに安っぽい黒のネクタイを締め、アナウンサーに扮した胡戈本人が新聞聯播そっくりの口調でニュースを読み上げていく。だが内容はいずれも、若者たちが住む集合住宅で起きたというインチキニュースだ。例えば「無業遊民経済工作会議」(無業遊民とは定職もなくぶらぶらしている人のこと)では、職のない若者たちが今年の経済活動の重点について熱心に討議、長期間仕事のない「宅男(おたく)同志」が共産党の指導者よろしく、「内需拡大が必要だ」と偉そうな口調で「重要演説」を発表、参加者が熱烈な拍手をするのだ。
  トイレの数が足らず、詰まるなどの事故が頻発している問題解決のため、身分証明書の末尾の数が奇数、偶数かによってトイレを使える日を制限する対策を打ち出した。これは北京市などで行われた交通渋滞解消策のパロディだ。
  中でも傑作なのが、大学を卒業する彼らの就職問題解決のため「特別会議を開き、熱烈な討論」の後、その解決策を発表するというニュースだ。
  会議では、大学院で修士(中国語では碩士)や博士の学位を取ってもまだ就職できない学生のために、「壮士」という新たな学位を授け、それでも見つからない場合、順に「勇士、聖闘士、闘牛士、武士、爵士、的士、猛士、労力士、路易士、披頭士」という称号を与え、最後には「烈士」になる、というものである。聖闘士は中国でも人気のある日本のアニメ「聖闘士星矢」(セイントセイヤ)から、爵士はジャズのことであり、的士はタクシー、労力士はローレックス、路易士は人名のルイス、披頭士はビートルズの音訳である。
  要するに「~士」という名前が付くだけの、全くのでたらめな肩書きだ。最後の烈士とは革命などに殉じた人のことだ。要するに職のない学生はでたらめの肩書きをもらえるだけで、最後はあの世行き、という皮肉なのである。
  新聞聯播はしばしば、宣伝であってニュースではないといった批判がされる。30分間のうち、最初の3分の1は「中国の指導者はこんなに忙しい」、次の3分の1は「中国はこんなに発展している」、最後の3分の1(国際ニュース)は「外国はこんなに混乱している」、これの繰り返しだというのだ。
  胡戈の一連の作品について、シンポジウムで筆者は「中国のネット空間における悪搞(パロディ)の持つ意味」として次のようにコメントした。

 

今月のことば

悪搞(恶搞):パロディ/厳格なテーマを解体し、喜劇的、風刺的な効果を創り出す、悪ふざけの娯楽文化。既成の話題や番組などを改編した形で発表することが多い(维基百科より)http://zh.wikipedia.org/wiki/%E6%81%B6%E6%90%9E

話語権(话语权):ものを言う権利
山寨:権力の手が及ばない/非官製、非エリートの/偽物、パクリなどの意味で使われる。

無業遊民(无业游民):定職もなくぶらぶらしている人のこと。

壮士:大学院で修士や博士の学位を取っていてもまだ就職できない学生に対する新たな学位
  聖闘士(圣斗士):日本のアニメーション「聖闘士星矢(セイントセイヤ)」
  闘牛士(斗牛士)
  武士:
  爵士:
  的士:タクシー
  猛士
  労力士(劳力士):高級時計ブランドROLEX(ロレックス)
  路易士:人名ルイス(Louis, Lewis, Luis, )
  披頭士(披头士):The Beatles(ビートルズ)

 

映像作家、胡戈(2009年11月、上海の自宅で筆者が撮影)
映像作家、胡戈(2009年11月、上海の自宅で筆者が撮影)

 

山寨新聞聯播の画面(ユーチューブに公開された映像より)
山寨新聞聯播の画面(ユーチューブに公開された映像より)

     
     

 悪搞は中国のネット文化で独特の意味を持っている。南京大学のネット研究者、李永刚は「悪搞と山寨は極めて中国の特色を有しており、“無権者の反抗”を極めて透徹した形で発揮している。諧謔的な表現により、その意義を失わせ、主流価値を嘲弄する防御的な意図がある」と述べている。
  胡戈のパロディはその代表的な例である。胡戈が挑戦したのは主流価値を代表する大監督、陳凱歌である。中国においては、前衛的、周縁的な芸術であったものが、主流価値(体制)と結びつくことで、大きな商業利益を納めることができる。「反抗の象徴」とされた中国ロック(崔健を除く)や、中国映画第五世代の旗手であった陳や張芸謀がいずれも商業主義化していったのがその好例である。胡はさらに「山寨新聞聯播」により、宣伝、教化型メディアの象徴である「新聞聯播」を解体した。
  パロディは、主流価値に対する形を変えた「NO」である。「あなたの権威を、私は信じない」「これは本当の“新聞”ではない」という表明だ。
  「パロディはしょせんパロディ、批判としての力を持ちえない」という意見も、中国の知識人の間から聞かれる。だが、正面から権威に挑戦するのでなく、ユーモアを武器に、軽やかにその虚構を突くパロディは、中国の独特の政治、社会状況で大きな意味を持っている。ここ1~2年の間に登場した「草泥馬」、「河蟹」などのネット上のスラングもこうした草の根のたくましい創造性と反骨精神を表している。

 

 

 

 

   
     

 話を冒頭の艾未未に戻す。何清漣は前述の評論で「彼は独特かつ模倣ができないやり方で、中国の政治権力をからかい、それは政権を転覆させるわけではないが、共産党がまだ有していると考えている“神聖さ”を消し去るのである」と指摘する。
  「悪搞」の作品を挙げていけばきりがないのだが、そこに通じるものは、中国式プロテスト(抗議)だと考える。日本でも、言論の自由のなかった戦時中「ぜいたくは敵だ」のスローガンに一文字加え「ぜいたくは素敵だ」というパロディがあったように、自由にものが言えない社会でできる数少ないプロテストのあり方が、この悪搞なのではないだろうか。以前中国のジャーナリスト、長平が筆者に「ネットは弱者の武器」と述べたが、まさに悪搞はそのような役割を担っていると言えるだろう。

 

 

 

 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
  b_u_yajirusi
 
 
     
   
中国・本の情報館~東方書店 東方書店トップページへ
会社案内 - ご注文の方法 - ユーザ規約 - 個人情報について - 著作権について