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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国 

(5)「河蟹」

   

艾未未氏(維基百科より)
艾未未氏(維基百科より)

 秋は上海蟹のおいしい季節。昨年の11月上海を訪れた時に、友人の自宅でいただいたのが懐かしい。最近は池袋の中国物産店などにも並ぶようになったが、やはり本場物にはかなわないだろう。
  さて、今年の11月、上海市郊外で蟹を食べる大掛かりなパーティが開かれた。欧米メディアの報道によれば、全国各地から600-800人の参加者があったという。たかだか蟹を食べるパーティをなぜ欧米メディアが注目したのだろうか。
  その理由は、パーティの主催者が行動派芸術家、艾未未 (アイ・ウェイウェイ)氏だったことだ。北京五輪の主会場となった「鳥の巣」の設計に参画したことで知られるが、一方で四川大地震で倒壊した学校の下敷きとなって亡くなった多くの子供たちの調査活動などに取り組んだり、今年2月には北京の芸術家村が破壊され、日本人芸術家らが負傷したことに抗議、長安街でデモを敢行するなど、体制を恐れぬ芸術家として知られている。ではなぜ彼が蟹を食べるパーティを企画したのだろうか。
 
   

 事のきっかけは、艾未未氏が上海市郊外に建設したアトリエが同市政府により違法建築とみなされ、撤去を命じられたことにある。ところが、艾氏によれば、このアトリエは同市が芸術村を建設するため、依頼があって作られたものだという。英ガーディアン紙報道(11月3日)によると、艾氏は「文化地区を設けたいとの市の意向で自分を含め6人の芸術家がスタジオを建設するよう招かれたのだが、その中で私だけがスタジオを取り壊されることになった」と述べている。
  その理由として考えられるのが、艾氏が今年初め、成田空港に長期間ろう城した人権活動家、馮正虎氏の闘争を紹介するドキュメンタリービデオ「馮正虎回家」を製作、発表したことだ。馮正虎氏は上海市当局から8度にわたり帰国を妨害され、成田空港の入国審査前の制限エリアで約3カ月にわたり抗議活動を続けていたが、ツイッターや外国メディアで彼を支援する動きが広がり、今年2月帰国することができた。
  この活動を紹介したビデオを製作、ネットで公開した艾氏に対し、市政府関係者が激怒し、嫌がらせのために違法建築を理由に取り壊しを命じたのだろうと艾氏はガーディアン紙の報道に答えている。
  そこで艾氏はまもなく破壊されるスタジオで「河蟹宴」という名の蟹を食べるパーティを企画したのだ。艾氏はツイッターなどで参加を呼び掛け、私財を投じて何百人分もの蟹を用意したという。だがこれは、単に蟹がおいしい季節だったからという訳ではない。
  河蟹(hexie)は今日中国のネット空間では同じピンインの和諧(hexie)の代わりに使われる。和諧とは胡錦濤国家主席が提唱する「和諧社会」にも出てくる「調和(harmony)」の意味だが、ネットでは共産党政権の「維穏」(安定維持)に不都合な言論や活動を取り締まる意味でも使われる。「我的文章被河蟹了」(ブログなどに載せた自分の文章が削除された)などである。前回紹介したGFW(国家ファイアウォール)が外部のウェブサイトを遮断するものなら、「和諧(河蟹)」はBBS(電子掲示板)、博客(ブログ)、微博(ミニブログ)など国内の言論に対する規制と言えるだろう。
  「河蟹」宴とはすなわち政府の理不尽な「和諧(河蟹)」政策に抗議し、これを食ってやろうという目的で開かれたのだ。
  中国のウィキペディアで「河蟹」を調べると、「表面上は暴力、わいせつなどの情報をブロックするとあるが、実際には中国共産党の統治に不都合な情報を削除、ブロックすること」とある。ネットユーザーらは皮肉の意味を込めて「和諧」を使うようになったが、ネットで「敏感詞」(敏感な語句、前回コラム参照)とされたため同音の「河蟹」を使うようになった。これには蟹の横歩きに例え、「横行(横行する、のさばる)」の含意があるという。ところが「河蟹」も「河蟹」された(?)ため、今度は「水産」という言葉まで登場したという。過度なネット規制が生んだ一種の言葉遊びのようである。
  中国ウェブサイトはネット上の敏感詞を削除するために多くのスタッフを投入している。これに関して、「北京晩報」(8月22日)には「尋找微博安全路径 捜狐毎天屏蔽五千微博」(ミニブログの安全なルートを求めて 捜狐は毎日5000もの書き込みを削除)という興味深い記事が出ている。
  報道によれば、新浪、捜狐、網易、騰訊、人民網などの主要サイトはいずれもミニブログを持っているが、わいせつ、暴力などの書き込みに対し、1000以上の敏感詞を設定してフィルタリングを実施、規制対象は主に銃器弾薬、わいせつ、薬物、暴力などの内容だという。そして捜狐は24時間監視体制をとっており、「微博(ミニブログ)」では1日に書き込まれる7~8万の書き込みから、約5000本を削除。BBS(電子掲示板)への書き込みは1日20万以上あり、このうち4万以上を削除しているという。そしてこうした削除作業はソフトウェアによる自動的な処理に加え、専門のスタッフにより行われていると、捜狐の“サイト検閲担当者”は明らかにしている。実際には検閲内容はわいせつや暴力だけにとどまらないだろう。
  だが、一企業であるポータルサイトがこれだけ大量の人海戦術をかけて「河蟹」行為を続けることは、自ずから限界があるだろう。今年6月に香港で開かれたあるシンポジウムで、前回も紹介した中国のブロガー、毛向輝氏は「微博ユーザーが一定の数に達したら、新浪、捜狐、騰訊のいずれであろうと、あらゆる敏感なコンテンツを削除することは不可能になる、検閲をするためのコストが莫大なものになるからだ」と指摘している。
  毛氏によれば、2002年から08年までの間に中国でネットにより生まれたコンテンツの量は124倍に達しており、これがさらに2014年には124倍にとどまらず、02年の1万倍を超えるだろうとみており、こうなっては現在の検閲態勢がこれ以上役立たなくなり、維持するためのコストを民間も、政府も負担できなくなるだろうと予測している。
  「河蟹」にかかるコストをできるだけ減らし、有効に検閲したい。そこで政府が思いついたのが個人のパソコンすべてに検閲ソフトをインストールし、強制的に河蟹することである。それが昨年、政府が導入を計画したものの、ネット市民の大反対を受けて挫折したフィルタリングソフト「綠壩 花季護航(Green Dam Youth Escort)」だったのだが、この問題については回を改めて紹介したい。
  実は、艾氏はパーティの数日前になって、事態の拡大を恐れた公安当局から軟禁状態に置かれた。ドイツの国際放送「ドイチェ・ヴェレ」中国語サイトの報道(11月20日)によれば、パーティーは艾氏が来られないことが伝わったにもかかわらず、数百人が参加、蟹をはじめとした料理を平らげ、歌を歌ったりして盛り上がった。
  このための費用約200万円を艾氏は自ら負担、さらには地方から来た若者のために旅費を負担したという。艾氏は自らも盛り上がりぶりに驚いたと語り、「たとえ私の行動を妨害しても、それでも多くの人が訪れたのだ。この社会は既に変化が生じたのだ。技術的に一人の行動の自由を制限することで問題を処理したり、対話を拒否しても、いかなる効果も生まない。今日の若者は脅しにより行動を制限することはできないということを政府も学ぶべきだ」と答えている。
  この政府のネット検閲のシンボルである河蟹に対して、今回の艾氏やパーティに参加した若者たち、つまり草の根のネット市民を象徴するのが「草泥馬」(Grass Mud Horse)と呼ばれる架空の動物である。この言葉も中国のネット社会を語る上で不可欠だ。これを次回のキーワードとしたい。

今月のことば

河蟹(hexie):川ガニ/不都合な言論や活動を取り締まる意味
 =和諧(和谐 hexie)
 =水産(水产)
「我的文章被河蟹了」(ブログなどに載せた自分の文章が削除された)

草泥馬(草泥马 Grass Mud Horse):草の根のネット市民

 

 

 

ネットで公開された『河蟹宴』の様子
ネットで公開された『河蟹宴』の様子
 
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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