さらに質の悪い五毛党は、中国国内や海外で活動する民主活動家、知識人などのツイッターアカウント(ID)と酷似したアカウントを登録、本人になりすましてデマを流している。例えば1989年の天安門事件で活躍し、その後当局に拘束された後に海外に出国した民主活動家、王丹氏のツイッターアカウントは@wangdan1989なのだが、ある五毛党は@wangdan198964というアカウントを登録、王丹氏が使っているツイッターの写真をそのままコピーし、本人になりすましながらジャスミン革命に批判的な書き込みを始めた。だがこの目論見はすぐにばれ、推友(ツイッターユーザー)から「スパム」(悪質ユーザー)とみなされたようだ。本物の王丹氏のツイッターには2万6000人ものフォロワーがいるが、「偽王丹」のフォロワーは僅か1人である。
この他にもツイッターのリツイート(引用、転載)機能を悪用し、著名芸術家艾未未氏(本コラム第5回「河蟹」参照)の発言だとして「君たち、もっと冷静になろう。ジャスミン革命は君たちを利用しようとしているだけなんだ」などというメッセージを捏造、これに引用記号を付けて信用させようとするなどの手を取っている。以下がその実例だ。
「RT @lailiangping:RT @aiww: 中东局势一乱,国际油价就上涨了,茉莉花行动如果让中国乱了,受苦的还是老百姓。#cn306 #cnjasmine」(中東情勢が混乱し、石油の価格が上がった。ジャスミン運動が中国を混乱させれば、困るのは一般庶民だ。)
これは@hyaoshi72という五毛党と思われるアカウントの書き込みだが、@aiww(艾未未)の発言を@lailiangpingがリツイートした形になっている。だがグーグルで調べたところ艾未未氏本人はこのような書き込みはしていない。ツイッターをやっている人には分かることだがリツイートを繰り返せば、簡単に誰かの書き込みを偽造できるのだ。
報道によれば、艾未未氏は五毛党の跋扈に対して、「それじゃあ、君たちの話を聞こうじゃないか。10~20分間話をしてくれれば2000元出すよ」という「五毛党取材活動」を始めた。艾氏は「あなたたちの人生の理想はたったの5毛であるわけがない、私はあなたたちに2000元を支払いたい、勇気ある人が出てくれるのを期待している」と呼びかけたそうだが、応じた人が出たのかどうかは分からない。
さらには「このツイッターアカウントは五毛党だ」といった書き込みを流して警告する、いわば「五毛党狩り」も激しさを増している。五毛党の側はジャスミン革命を支持する推友を「美分党」あるいは「五美分党」などと罵っている。「美分」とは「セント」のことで、要は「お前らだって米国の意を体しているだけの(5)セント党じゃないか」ということである。こうして、中国のツイッターではお互いにレッテルの貼り合い、罵り合いで大荒れ状態になっている。
五毛党が一般のネット市民から嫌われるのは、当局に雇われた「お抱えネットユーザー」だからである。自らの意見を発表するのではなく、政府が右といえば右、左といえば左とその指示に従い、ネット空間を埋め尽くし、その対価として些少の報酬を受け取る、その卑しさゆえである。
北京大学のネット研究者、胡泳氏はブログで「政府を支持する言論は本心からのものだ。利益のために自分を売ってはいない」とある「網評員」の発言を紹介している。確かにネット上で政府の立場を擁護する事は当然あるだろうが、問題はそのやり方だ。他人になりすましてデマをばらまき、その対価として金銭を政府から受け取っているとしたら、そのような言論は社会を動かす力とは成り得ないだろう。意見があれば、正々堂々と名乗ってやればいいのだ。そういう主張に対しては、たとえ意見が異なっても、受け入れるだけの寛容性を中国のネット市民は持っている。
ただ胡泳氏も「政府が網評員を動員してネット上で自らを擁護させても網民(ネット市民)は反感を持つだけだ」と指摘。世論誘導という点でもかえって逆効果だと指摘する。「五毛党の出現は、当局がネット世論の大きな圧力に直面していることを意味している」とも述べているが、確かに今回中国のネット空間に起こった「ジャスミン革命」の大きなうねりとそれに対する政府の異常なまでの防御反応を見ても、ネット世論の拡大に対して、より開放的かつ理知的なやり方で世論に向かい合う必要があると筆者も強く感じており、現在のやり方は民心の離反を招くだけではないだろうか。
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