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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国   (13) 「人肉捜索」
   

 

 「愛車はランボルギーニ、マセラティ、ミニクーパー」「豪華な別荘暮らし」「持っているエルメスのバッグは10数個」「飛行機はいつもファーストクラス」…。
  何やら、日本のバブル経済のころの"成金自慢"のようだが、もしこれが20歳の女の子の生活ぶりだったら、ジェラシーを超えて何かおかしいと思うだろう。しかも、この子「中国赤十字会の関連企業の社長」を名乗っている…。

  今年6月から7月にかけて、中国のネット社会を大いに騒がせた「郭美美事件」はこうして始まった。分不相応な肩書きや派手な生活に疑問を抱いた網民(ネット市民)は協力して、彼女の本名や家族構成などを次々と暴きだした。こうしたネット市民が人海戦術により特定の個人や事件を暴き立てることを「人肉捜索」といい、中国のネット社会では頻繁に発生する現象だ。

 
   
     

 人肉捜索は、いわば人間によるクラウド・コンピューティングであるが、ネットでは次のように説明している。

  「人肉捜索とは、人手をかけて検索サイトから情報を選び出す一種の仕組みであり、他人の助けを借りて自分では探し出せない情報を捜すことである。ユーザーの疑問が検索サイトで見つからない時、他のルートや他人との交流を通じて答えを見つけようとすること」(百度百科)

  「人肉捜索とは、インターネットを媒介にして、人海戦術により検索サイトが提供する情報の真偽を判別し、または匿名の情報通が公表した資料を基に情報を捜索、ある人物や事件の深層を探ろうとする群衆運動であり、時に『網絡爆紅』(ネット上のお祭り騒ぎ)現象を引き起こすことがある」(中国語ウィキペディア)

 さて、郭美美(敬称略、以下同じ)の場合はどうだっただろうか。「かつては偽物携帯を使うほどのつつましい暮らしだったのが、ここ2年の間に母親、本人ともに急に豪勢な生活をするようになった」と、彼女の知人が微博(ミニブログ)に書き込んだ。さらに郭美美の本名は郭美玲であることや、1991年生まれで、両親が離婚し母親が引き取ったこと、整形手術があるなどと次々にネットに虚実ないまぜの情報が寄せられた。
  だが郭美美がやり玉に上がったのは、決して彼女のプライバシーへの興味だけではなかった。「我々が赤十字に寄付したお金が、このような贅沢三昧に流用されたのではないか」網民たちの疑惑の目は赤十字会へと向けられた。
  赤十字会は騒動が広がってから約1週間後の6月28日に会見を開き、郭美美が社長を務めているという「赤十字会商業」などという機構はないと関係を否定した。
  だが7月はじめ、赤十字会とつながりのある「中紅博愛資産管理有限公司」社長の翁涛という人物が、郭美美は同社の元取締役、王軍という人物のガールフレンドだと暴露。ついには北京市公安局が捜査に乗り出し、(1)郭美美は中国赤十字会とは直接の関係がない(2)郭美美は中国赤十字会について何も知らなかったが、3月に王軍と赤十字会の商業部門との提携の話を聞いた(3)郭美美はかつて新浪微博に「司会者、俳優」という肩書きを使っていたが、虚栄心を満足させようと、5月に「中国赤十字会商業総経理」と書き込んだ(4)郭は自己の行為を反省している―などと発表、ようやく騒動は沈静化に向かうかにみえた。
  ところが8月3日、著名経済学者、郎咸平のトーク番組に、これまで取材を受けていなかった郭美美と母親の郭登峰の美人母娘が出演したことで、再び注目を集めることになった。特に、なぜ郭美美は高級外車やエルメスのバッグを持ち歩くなどの贅沢三昧をしているのかとの問に、郭登峰が1990年に深圳で5種類の株を購入、数万元から数カ月で数百万元まで儲けたなどと語ったことから、「これだけの元手で大儲けするなんて、まさに神業で、ありえない話だ」などと伝統メディアからも批判が相次ぎ、消えかけていた火に再び油を注ぐ形となった。
  人肉捜索はこうして単なる好奇心だけでなく、不正や非人道的行為への義憤から一気に広がることが多い。

 最も古い人肉捜索のケースといえば、2006年2月に起きた猫虐待事件がある。きっかけはある中年女性が子猫をハイヒールで踏みつけて殺す一連の写真がネットに公開された。この写真はまたたく間に広がり、この無慈悲な投稿者を「宇宙規模で指名手配」する大規模な人肉捜索が展開され、写真の中の橋が黒龍江省夢北県にあることなどが判明、わずか6日足らずでこの女性が同県の病院の看護師であることが分かり「警察を上回るほどの捜査能力」と評価されるほどだった。この女性の住所、電子メール、電話番号、身分証番号などの個人データがネットで暴露され、女性と撮影を手伝ったテレビ局職員はいずれも職場を解雇された。ネット市民の動物虐待への怒りが強烈な集団行動を引き起こしたのだった。
  07年4月には、深圳で60代の老人が自宅近くの路上で車とぶつかる事故があり、双方が口論となり、車の運転手から殴打された。たまたま一部始終を撮影していた防犯カメラの録画がネットで公開されると、またもや網民の怒りが爆発、殴った男性の住所、勤務先、電話番号や、さらには10歳の娘が通う学校までも暴露された。男性はその後逮捕され、懲役2年の判決を受けた。
  さらに、09年6月には中国中央テレビ(CCTV)の人気番組「焦点訪談」がやり玉に上がった。18日の放送は、海外のインターネットサイトが有害なわいせつ情報を流している、という内容で、要は中国当局が規制の対象にしたグーグルへの批判だったが、その中で登場した高也という男子大学生の発言に疑惑の目が向けられた。
  彼は取材に「ネット上のわいせつ情報、特にグーグルのようなリンクの害毒は特にひどい。クラスメートが好奇心からわいせつなサイトにアクセスし、気持ちがいらいら(中国語は『心神不寧』)していたが、政府が統制するようになってから、よくなった。ところがグーグルを通じてわいせつなサイトにアクセスできることが分かり、彼はまたもとに戻ってしまった」と語った。
  だがこの発言の不自然さに疑問を持ったネットユーザーが人肉捜索を呼び掛け、あっという間に彼のブログなどから彼が重慶の大学の4年生で、番組放送当時、CCTVのインターン(実習生)であることが暴露されてしまった。いわば初めに結論ありきの自作自演だったということがばれてしまったのだ。
  しかもネット上では彼の携帯やQQ(インスタントメッセンジャー)の番号、ガールフレンドと一緒に撮った写真までもが公開されるなど、プライバシーが次々と暴かれた。高也の語った「心神不寧」という言葉は、ネット上で流行語となった。
  CCTVには以前も同様のやらせ疑惑を指摘され、ネットで流行語が生まれたことがある。07年12月、同じくネットのわいせつな情報を問題にした報道で、北京市海淀区の小学校4年生、張殊凡という女の子が、「ネットで資料を調べようと思って、突然開いたページがとってもいやらしく暴力的(原文は『很黄很暴力』)だったので、急いで閉じました」と語った。
  これが、同じくいかにもやらせではないかとネットユーザーに指摘され、「很黄很暴力」は当時流行語になり(今でもよく見かける)、彼女の生年月日、学校名、成績までが明かされ、彼女をからかう悪搞(パロディー、本コラム9回参照)も登場した。当時のネットの書き込みでは、「張殊凡は記者に言われたとおりに話したに違いない、嘘つきだ」との批判や、「まだ子どもなのだから、悪いのは彼女ではない」といった議論があり、彼女の父親と名乗る人物がプライバシーの暴露を厳しく批判する手紙も公開された。

 

今月のことば

人肉捜索(人肉搜索):
百度
Wikipedia

網絡爆紅(网络爆红):网络迷因ともいう
百度
wiki

心神不寧(心神不宁):
百度


很黄很暴力(很黄很暴力):
百度

 

     
     

 いずれにせよ、こうしたネットユーザーの熱心な調査によって、CCTVのやらせ疑惑は大きく知られることになり、かつては地方幹部の不正を暴くなど、調査報道の象徴であった「焦点訪談」も、結局は政府や共産党の宣伝部隊にすぎないと、その客観性や公正性に疑問符が付くことになった。
  人肉捜索は、正義感に駆られた網民の集団行動だが、時に当事者だけでなく家族や知人までも個人情報が暴露され被害をこうむるなど、不正追及とプライバシーの問題が常に表裏の関係になっている。次回は、政府幹部を対象にした人肉捜索のケースを紹介しながら、再びこのテーマについて考えてみたい。

 

 

 

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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