「今天你“围脖”了吗?」―2009年11月7日、広州の夕刊紙、『羊城晩報』に載った記事の見出しだ。
「囲脖(围脖)」は襟巻きのことだが、ここでは襟巻きとはまったく関係はない。
中国のネット社会では次々と新たなコミュニケーション・ツールが生まれている。特に昨年以降、ユーザーが急増しているのがツイッターに代表されるミニブログ(あるいはマイクロブログ)だ。ミニブログは中国語では「微型博客」略して「微博(weibo)」と呼ばれ、そこから同音の「囲脖」という愛称も付けられた。つまり冒頭の見出しの意味は「今日、あなたはミニブログをやりましたか」ということだ。
中国における「微博」の元祖は「飯否(fanfou)」だ。広東の有力日刊紙、『南方都市報』が昨年7月の報じた記事「Twitter時代:人人都可発新聞(人々が皆、ニュースを発信できる)」によれば、ツイッターに触発され、同様のコンセプトを持つミニブログが雨後のたけのこのごとく誕生した。
「飯否」は司馬遷の『史記』にある言葉からとったとのことで、中国人がよく使う日常あいさつ「吃飯了嗎?(食事をしましたか?)」の意味だという。創業者の王興さんはもともとは「校内網」と呼ばれる学生向けSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス=交流サイト)を立ち上げ、07年に「飯否」をスタート。ユーザー数は09年の前半までに、100万人に達し、同年6月には米コンピューター大手のHP(ヒューレット・パッカード)がお金を支払いページを開設した初の企業ユーザーとなり、多くのネット文化人や『南方週末』などのメディアもページを開いたという。
昨年6月のイランにおいて、選挙結果への抗議運動を続ける国民の重要な情報交換の手段としてツイッタ―が使われた。西側メディアはツイッターを他国内の動きを探る重要なニュースソースとした。こうした状況を受けて、中国のある現代芸術家は『南方都市報』の取材に、「ミニブログにより一人一人がメディアとなり、ニュースを発信できることができるのだ」とコメントした。
ところが、「ミニブログは革命であり、その価値はまだ十分発掘されていない」(前述芸術家)うちに、中国での発展が期待されていたツイッターや「飯否」は、規制対象になってしまった。きっかけは7月5日に新疆ウイグル自治区で発生した暴動である。漢民族とウイグル族の間で起きた大規模な流血事件について、ツイッターや「飯否」ではネットユーザーが自ら集めた写真や動画などが公開され、事件の経過がネット上で詳しく伝えられたという。
中国のネット動向を伝えるウェブサイトによれば、「飯否」は7月8日に当局により閉鎖された。同時にツイッターも中国国内からはアクセスができなくなった。ただし、ツイッターは今でもジャーナリストやオピニオンリーダーの間で使われており、その状況については、次回以降報告したい。
その後、いわば政府のお墨付きを得る形で登場したのが、大手ポータルサイト新浪網やニュースサイト人民網などが運営する「微博」である。特に人民網は今年2月、胡錦涛国家主席がユーザーとして登録されたことで、一躍中国のネットユーザーや国内外メディアの注目を浴びた。だがこれは後に、単なる技術的な問題で、本人の意思で登録したのではないことが分かり、わずか数日で取り消された。
現在微博を開設しているのは新浪網、人民網のほか、網易・捜狐・騰訊・鳳凰などの大手ポータルやニュースサイトだが、形式を見るとツイッターと瓜二つである。ツイッター自身、機能が非常にシンプルであり、クローンが作られやすいのだろう。どのサイトも大差ないため、有名人をユーザーとして囲い込み、彼らの発言に注目してもらうことでサイトへのアクセスを上げようとしている。ユーザーが自由に発信し、情報交換する場というよりは、有名人でお客を集めるという商業主義的な側面が強い。ツイッターと中国的特色を持つ「微博」は似て非なるものと言えるだろう。
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