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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国   (15) 「高鉄体」 その他
   
     
 

 記者の仕事を初めて間もないころ「相手の本音を聞き出したいなら、怒らせるのがいい」という技法を先輩から伝授されたことがある。取材対象の口が堅く、なかなかこちらの質問にまともに答えようとしない場合、あえて挑発的な質問をすることで、怒らせて本音を聞き出すという作戦だ。個人的にはあまりいいやり方だと思わず、実際に試したことはないが、中国にはそのテクニックの名人がいるようだ。
  つい最近も、中国・大連で開かれた世界経済フォーラム(ダボス会議)の会合で、米国のゲーリー・ロック(駱家輝)駐中国大使に向けて、ぶしつけな質問をした記者がネットで話題になった。

 「大使、あなたはエコノミークラスで来たそうですが、それは米国が中国に借金をしていることを米国民に意識させるためですか」
  この質問をしたのは中国中央テレビの芮成鋼記者。これに対してロック大使は平然と「大使館員や領事館員、大統領のスタッフも、エコノミークラスを使うことになっている」と機知に富んだ返答をした。

 

 

 
 
   
     

  芮成鋼記者は、かつて北京の故宮にスターバックスがあることを「文化侵略だ」などと問題視し、話題を呼んだ。さらに昨年のG20会議では、韓国記者の質問を受け付けようとしたオバマ大統領に向かって「私は中国人ですが、アジアを代表することができる」と豪語し、無理やり質問したことも知られている。
  芮記者は、今は中国が米国債の最大の保有国となっていることを皮肉り(ただこれは中国政府が投資先として米国債を選んでいるのであって、必ずしも中国が金を貸しているということではない)、さらには自らの微博で「ロック大使は、あらゆる機会を使って米国の価値観を宣伝しようとしている」と批判した。
  このやり取りに対し、中国の網民は賛辞を送るどころか、芮記者を批判した。米国大使にはぶしつけな質問をしても、自国の指導者には処罰を恐れてできないからだ。そして、芮記者の口調を真似した悪搞(パロディー、本コラム9回目参照)がネットでは次々と登場した。
  「大使、あなたは妻を米国から連れてきたそうですが、中国には指導者が2号さんを囲う習慣があることを知らないからですか」
  「ニューヨーク市長が地下鉄に乗るのは公用車を買うお金がないからか」
  「地溝油を口に入れないのは作ることができないからか」
  「強制立ち退きがないのは、城管の技量が低いからか」
  「米国の役人が指導者の写真のPSをやらないのは、米国のPSの技術が低いからか」
といったものだ。中国の役人が上から下まで公用車を乗り回していることや、愛人をつくるなど風紀の乱れを皮肉っている。さらに最近問題になっている、「地溝油」、つまりレストランから出た廃油や残滓を精製し、新品であるかのように見せかけた粗悪油で、不衛生で発がん性があると言われている危険な食品や、あるいは「城管」、つまり都市の治安管理部隊で、露天商の締め出しや強制立ち退きで暴力をふるい、民衆の不満を買っている公権力の横暴などもやり玉に上がった。PSについては本コラム12回目を参照いただきたい。
  網民によるこうしたパロディー表現は、「芮成鋼体」と名付けられた。「体」とは文体のことだ。
  7月23日に浙江省温州市で発生、乗客40人が死亡した高速鉄道事故に関連する「芮成鋼体」もある。
  「あなた方が高速鉄道を作らないのは、米国の民衆の肝っ玉が小さく、死ぬのを恐れているからか」
  「米国で重大事故が起きても奇跡が起きないのは、米国人が神を信じてなどいないことを中国人に知らせるためか」
  2番目のジョークはちょっと説明が要る。鉄道事故発生後、メディアの批判にさらされたのは王勇平・鉄道省報道官の7月25日の記者会見での発言だった。
  事故現場で車両をなぜすぐに埋めてしまったのか、という記者の問いに、王報道官はこう答えた。
  「現場責任者の話では、地面がぬかるんでいたため、作業をやりやすくするために車両を埋めたそうだ。(この説明を)あなたが信じようと信じまいと、私は信じる!(至于你信不信,反正我是信了)」王報道官は手振りを交えてこう答えた。
  事件発生からわずか1日で生存者の捜索を打ち切ったものの、撤去中の車両からは瀕死の状態の女の子が発見された。捜索のずさんさを批判する記者に対し王報道官は「これは奇跡なのだ。まさに奇跡が起きたのだ」と言い切った。上のジョークはこの発言を受けたものだ。当局のずさんさを「奇跡」で片付けてしまうようなことは、米国ではありえないだろう、ということだ。
  王報道官の発言がテレビやネットで伝えられると、鉄道省に対する網民の不信と怒りが爆発、「高鉄体」(高速鉄道文体)というパロディー表現が生まれた。次のようなものだ。
  「中国サッカー協会は語った。『中国サッカーは2014年ワールドカップに出場できるだろう。君が信じようが信じまいが、私は信じる!』」
  「三蔵法師がお供を連れ、西方の楽土に経典を取りに向かった。道を急ごうとした三蔵はどうすれ速く着くかを孫悟空にたずねた。悟空は『飛行機は(三蔵を乗せた)白龍馬より速いって聞きましたよ』猪八戒も『師匠、(有人ロケットの)神州6号はもっと速いそうです』と提案した。その時、沙悟浄が4枚の高速鉄道の切符を渡し『師匠、これに乗ればあなたを真っ先に西の国(あの世)に連れて行ってくれますよ。あなたが信じようが信じまいが、私は信じます』」
  IT方面のブログ「月光微博客」(7月26日)によれば、「あなたが信じようと信じまいと私は信じる」がネット流行語になり、微博では「高鉄体作文コンテスト」により事故に対する疑問や不満を表現しようと呼び掛けた。こうして上のような高鉄体が次々と生まれた。
  列車事故の余韻もさめやらぬ9月27日、今度は上海市の地下鉄で追突事故が発生した。幸い死者こそ出なかったものの、日本人も含む270人以上が負傷、大都市で起きた事故だけに国内外のメディアの注目を集めた。
  事故を伝える中国中央テレビ(CCTV)のニュース画面で、「地鉄十号線列車発生軽度追尾」(追尾は追突のこと)というテロップが流れ、この写真が微博で公開された。
  「270人も怪我したのに、『軽度な追突』とはどういうことだ?」という網民の批判が、今度は「軽度体」という新しい文体を生んだ。微博で最もフォロワーが多い女優、姚晨さんがこの事件を「軽度転発」(軽く転載)したほか、「軽度無聊」「軽度不安」「軽度脳残」(軽く頭がおかしい)「今天天気軽度不好」など、次々とパロディー表現が登場した。

 

今月のことば
芮成鋼体(芮成钢体):
中国中央電視台記者・芮成鋼がロック米国大使に対するぶしつけな質問を真似て、中国の役人の腐敗などを揶揄した表現。

高鉄体(高铁体):
中国鉄道部報道官・王勇平が会見で発した「あなたが信じようと信じまいと、私は信じる!」「これは奇跡だ」などの無責任な対応を揶揄した表現。

軽度体(轻度体):
2011年9月27日に発生した、上海市地下鉄追突事故に関する中央電視台新聞頻道報道の際に画面に表示された「軽度な追突」というテロップを揶揄し、むやみやたらと頭に「軽度」を付けた表現。

 

地溝油(地沟油):レストランから出た廃油や残滓を精製し、新品であるかのように見せかけた粗悪油で、不衛生で発がん性があると言われている危険な食品。

城管(城管):都市の治安管理部隊で、露天商の締め出しや強制立ち退きで暴力をふるい、民衆の不満を買っている。

 

 

高鉄体
高速鉄道事故について会見する鉄道部報道官・王氏

 

軽度体
上海地下鉄追突事故を報道する中央電視台

     
     

 この軽度体の流行は、政府のいわば杜撰な広報の結果だ、という「四川在線」サイトに出た評論を紹介したい。原題が「“軽度体”走紅是官方語言的失敗」という一文は、「重大事故が発生するたびに、政府が大事件を矮小化し、被害状況を発表する際も控えめな言葉遣いをしたがる心情は理解できる。しかし自分の都合で不用意なことを言って、人々の笑いものになっては駄目だ」と述べている。さらに前述した鉄道省報道官の「あなたが信じようが信じまいが~」を引き合いに出し、政府の言葉遣いは個人の主観があまりに強く出すぎてはならず、さもなければ大衆は反感を抱くだろう、と指摘する。
  評論は最後に「ネット時代の今、世論は政府が独占できるものではなく」、「適切な言葉遣いをしなければいずれや政府の発言の権威性は失われ、民はこれを信じなくなる。公然と嘘をつき、完全に政府の側に立つメディアを、人々が信じることなどできるだろうか」と警告している。
  こうした「~体」は中には芸能人のギャグを真似ただけのものも多く、流行り廃りも激しい。だがこの評論にあるように、役人調の言葉や現実離れした言い逃れは、ネット世論の笑いものになる。網民は微博などの情報ツールを通じて、場合によっては政府よりも情報を早く、詳しく手に入れることもある。「~体」と槍玉にあげられないよう、ネット社会とのコミュニケーションを高めることが必要と言えるだろう。
  それにしても、今回の高速鉄道事故で、微博の役割が大いに発揮された。今や微博が中国の社会世論の最大の担い手と言っても過言ではないだろう。紙幅が尽きたが、こうした微博の台頭とそれに対する政府の対応についても考察したい。

 

 

 

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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