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微観中国  (23)「ネット強国」時代の「自干五」現象
   
     

 

 中国では春節(旧正月)を迎え、大量の観光客が訪れるなどお祭りムードは日本にも伝播しているが、ネットの世界では厳しい取締りによる厳しい冬が続いている。半面得意げなのは中国政府のネット管理部門だ。
 2月13日ニューヨーク・タイムズ(中国語版)によれば、中国国家インターネット情報弁公室(略称は「網信弁」)は首都インターネット協会がこのほど行った春節祝賀行事で自らが進める政策「ネット強国」を讃える歌曲を発表した。

 著名メディア関係者やネット企業の幹部の前で披露された「網信精神」
)という曲は、革命歌曲のような勇ましいメロディやリズムで、歌詞も「ネット強国 世界に中国の夢の台頭を伝えよう」というもの。同弁公室のスタッフは残業してリハーサルをしたという。
 中国メディアの報道によれば、北京五輪主題歌や流行歌「小さなリンゴ」の作者がそれぞれ作詞、作曲した。歌詞の一部は

ネット強国 ネットあるところ栄光と夢がある

ネット強国 遥か彼方の宇宙から懐かしい我が家を思う

ネット強国 世界に中国の夢の台頭を伝えよう

ネット強国 一人一人が世界の中で国を代表している

という内容。
 同弁公室は、多くの人がこの感動的な歌曲のため多くの努力をしたと自負したが、動画がネットで公開されると多くがただちに削除されたという。
 動画は同弁公室のサイトのほか、ユーチューブでも見ることができるが、コメントは散々だ。ただいずれにせよ、ネット言論空間を戦場と位置付け、その支配を握ろうとする習近平政権の強い意志を感じさせる。

 
   
     
 

 さて、前回取り上げた「自干五」という言葉について、先日中国の学者らと懇談した時、「こんな言葉が流行っているそうだね」と言ったら、「もう知っているのか」と苦笑された。最近の中国ネット言論状況を表す言葉として取り上げてみたい。
 自干五という言葉を初めて目にしたのは、2014年5月に著名思想サイト「共識網」に載った「海外華人の『自干五』現象」という文章だ。米国で暮らす中国人留学生がなぜ過激な民族主義を持つようになったのかを分析したものだ。その主な理由を「『狼の乳離れ』をせずに育ったため」などと次のように紹介している。

 「中国の子どもたちは基本的に民族主義の爆撃のもとで育った。学校の各種儀式、教科書、抗日ドラマ、児童読み物の政治的な注入、オリンピックなどのメディアの狂喜の中で育つ。しかしながら、なぜ出国したことのない壁の中の人々は成人になると民族主義の洗脳から抜け出せるのか。
(その理由は)国内の若者は往々にして社会的な試練を受けることによって、心身が健全な者であれば自らへの圧力は外国人によるものではないし、国家の利益イコール個人の幸福では必ずしもないということが分かる。政治的な尋租(レントシーキング、利権の追求)が個人や社会に重大な損害を与えていること、政治的問責制度の欠落による弊害が汚職にとどまらないこと、こうしたことを知ってからより多くのことを自ら学ぶのだ。
ところがこのように中国社会の現実を経験してから海外に留学するのは少数で、大体は直接大学院、あるいは大学に留学する。この結果中国の行政許認可を経験したり、自らお金を払って病気を診てもらうことはなく(子供の病気を診てもらうことはなおさらない)、生活の試練の中で『狼の乳離れ』をする機会に恵まれないのだ」。

 ここで言う「狼の乳」とは愛国主義など中国で受ける洗脳的教育のことであり、社会に出て官僚主義や腐敗など現体制のもたらす様々な問題を体験することで、乳離れが進み自らの頭で物事を考えるようになるが、大学を出て直接海外に出てしまうとその機会を失ってしまうという指摘だ。
共識網はこの他の理由として、「理科系の留学生は社会問題に対する理解が低い」「海外に行ける人はそもそも社会的に恵まれた体制内の出身が多く、国家へのアイデンティティが高い」「海外では排斥され、ガールフレンドと知り合う機会も少ない」「外国人からのお世辞を真に受け、自らを国家と一体視し、自国を誇らしく思うようになる」などを挙げ、「海外で自干五になるのは何も不思議な点はない、これは道徳の問題ではなく、生活経験の問題だ」とした。

 ネット流行語「自干五」を中国の政府系メディアで大きく取り上げたのは共産党機関紙「光明日報」だった。同年11月15日「『自干五』は社会主義核心的価値観の確固たる実践者」との文章を発表、議論を呼んだ。その主な内容は次のようなものだ。

 現在、ネットでは2つの集団の間の論戦が非常に盛んだ。うち一つは「公知」つまり「公民」と「知識分子」を結合したもので、彼らは現実社会の中の暗い面を無限に拡大、西洋人の語録を引用、口からでまかせを言い、社会や政府のあら探しをする。
もう一つは「自干五」つまり「自帯干粮的五毛」のことで、自覚的に社会のプラスのエネルギーを賞賛し、中国の発展を鼓舞する網民である。自干五を誹謗する人は、彼らはお金をもらい書き込みをする「五毛党」にも及ばない、お金をもらえず「干粮(携帯食料)」を持参するしかないと言うのである。
だが、筆者は旗幟鮮明に自干五の立場から発言したい。なぜなら彼らは実事求是(事実に基づいて真理を追求する)の前提で、中国を侮辱する言論に対し理性的、歴史的、客観的に闢謡(デマ封じ、本コラム参照)し、説明し批判しているからだ。彼らはお金をもらってネットに書き込むのではなく、寝食を忘れ自ら資料を調べ、理論を探すのだ。彼らは理性的に思考するものには寛容な態度を取り、色眼鏡で社会を見て、刺々しくあざ笑うような言葉で政府や社会の現実を攻撃する公知とは本質的に異なる。
自干五は法を守り、愛国・勤勉で、祖国の富強と繁栄、社会の公正と清廉を望み、自由民主、知行合一を提唱する。彼らは自覚的に社会主義の核心的価値観を実践し、その行為はプラスのエネルギーに満ちている。

 (中略)

自干五は例えば中国の建国60年の歴史の中に誤りを見出すこともあるが、全体的には業績が誤りよりも大きいと考えており、これは今日の発展の実際に即している。(公知のように)デマを流しマイナス面だけを無限に拡大するようなことはしない。両者を比べればどちらが道徳的に高いかはすぐ分かるだろう。
中国のネット空間を清浄なものとするためには、より多くの自干五が立ち上がり、人々を良好な道徳風紀の建設者と導き、社会文明進歩の推進者となるよう導くことが必要だ。

 この光明日報の評論について、多維新聞(11月17日)は「中国社会世論は『自干五』に対する評価は大きく分かれている。為政者にとっては、彼らの立場は正確であり、社会での自らの支持勢力であり、愛国者だ。一方批判者にとっては、彼らは共産党に洗脳された、自我独立意識のない無知な者たちだ」とした上で「社会において、同一の問題に異なる意見が生まれ、政治に対して支持と批判があるのは正常な現象だ。米国の政治に保守派と急進派の政党が存在するように、一党専制の中国では、体制外の自干五と公知の力比べとなっている。突き詰めれば、この2者は世界観と方法論が異なるだけで、国家への感情という共通点があり、つまりは愛国主義の異なる表現形式である」と論じている。

 光明日報は自干五を賞賛しているが、多維は「当局の自干五への評価は過度にプラスで現実離れしている。ネットでは多くの自干五の態度は強烈過激で、『売国奴』などのレッテルを自らと意見を異にする人にかぶせることがある」としている。
さらに、公知と自干五は社会的背景が異なると指摘、「公知は多くが高等教育を受け、西側文化の薫陶を受けた知識人であり、年齢は30歳以上。一方、自干五は社会の下層にあり、教育も限られた20代の一般人」とし、従来は公知がネットで強い発言権を持っていたが、多くの一般人がネットにアクセスし、政府が大Vへの弾圧を強めた結果、自干五の声が強まったとしている。
ただ一方で、公知と自干五は実は共通点があるとしており、具体的には(1)社会世論の中で活発かつ急進的なグループである(2)世界観や方法論は異にするが、国家や社会に対し、愛国主義とも言える強い責任感がある(3)自干五は中国モデル、公知は西側モデルに対しそれぞれ盲目的な信頼がある―と指摘している。
つまり、公知は中国には多くの問題があり、西側の制度や価値観を導入すれば、暮らしは良くなり、国は富強になると考えており、一方で自干五は過去30年の中国の発展により民衆の生活レベルは向上するなど、現在の発展路線は正しく、共産党の制度やモデルを支持すべきだということだ。
その上で「自干五にせよ公知にせよ、彼らの発する声は中国の多様な見方がネットによって出現したということであり、政治意識の覚醒である。混乱や過激な部分があっても、マクロ的、長期的、楽観的な態度で見るべきで、為政者は中国には解決を要する多くの矛盾があり、彼らの論争が反映する問題を自らのものとして考えるべきだ」としている。

 多維は公知と自干五を対立する概念として取り上げているが、問題は公知すなわち自由派知識人の発言の機会が大きく阻害されているからだ。ご存知の通り、昨年来多くの自由派知識人が投獄されたり国外へ追放されたりしている。
 その内の1人、風刺漫画家の変態辣椒は「胡錦濤時代から、『公知、弁護士、記者』に対し汚名をかぶせる動きが始まった。習近平時代に入り、このような汚名化は基本的に完成、多くの人が自干五や『理中客』へと変化した」と筆者に語った。
 そして汚名化が非常に成功したのが香港のセントラル占拠運動だと指摘。「五毛党のほか、大量の自干五や理中客の傾向にある網民が共産党の宣伝と一致し香港市民を罵倒、運動を支援した香港スターの映画をボイコット、映画興行が大失敗したのも、党と自干五の共同の努力の結果だ」という。
 ここでさらに「理中客」という言葉が出てきた。辣椒の説明によれば「理中客とは『理性、中立、客観』を装う網民」のことであり、辣椒は自分の作品に対し彼らから「あまりに過激で、客観的でない、共産党のプラスの面も見なければならない」と批判を受けるなど、「専制社会では、中立とは往々にして政府の手助けすることになる」と指摘した。
筆者が以前「『網民』の反乱」という本の中で、網民を「ネットを使い政府や社会に対して自らの意見を積極的に発信するようになった中国の人々」と位置付けたが、その時には政府に対する批判的な意見が多数を占めており、五毛党はこうした声を力ずくで抑えこもうとする悪役だった。だが自ら政府の支持者を買って出る自干五の登場により、網民の声も多様化しているのは事実だ。
 ただ、繰り返すが問題は網民すべてに公平な議論の場が与えられていないことだ。多維も「公知の反対の声と力がますます強まり、執政者にとって深刻な挑戦となった。このことが共産党が反体制派への許容度が非常に低く、自干五に『ニンジン』を与える一方、公知には『棒』を振り下ろした原因だ。この結果ネット環境は確かに『清らか』になったが、社会全体に打撃を与え、ネットの活発度はかつてより明らかに低下した」と指摘している。
政府寄りの声だけが叫ばれ、正当な批判の権利が奪われた「ネット強国」になってほしくないというのは「話語権」(ものを言う権利)を手にした網民が誰でも感じていることだろう。

   
   

 

 

 


「網民」の反乱 ネットは中国を変えるか?
古畑康雄

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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