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微観中国  (21)にわかにもてはやされた「若手ネット作家」
   
     


周小平(手前)と習近平(中央奥)

 

 2013年の夏から続く厳しいネット世論取り締まりで、いわゆる政府に対抗する網民の声は寂寞たる状態にある。こうした中で、急に注目を集めたのが、周小平という政権寄りの言論を発表、習近平国家主席(共産党総書記)からも賞賛された若手ネット作家だ。
 フランス国際ラジオ(10月17日)は次のように伝えた。

 中国共産党の習近平総書記は10月15日に開かれた文芸工作座談会で演説、この中で、ネットに中国当局寄りの書き込みをする2人の「五毛党」を称賛した。党中央が開いた高レベルの座談会で、ネット上では軽蔑の対象になっている2人を総書記自らが称賛したことに、批判の声が上がっている。
習総書記は座談会で、文芸活動は市場経済の大潮流の中で方向性を失ってはならないなどと演説した後、ネットに言及し「今日は2人のネット作家が来ていると聞いたが」と発言。周小平、花千芳の2人が挙手をすると、さらに多くの良い作品を創作してほしいと声をかけた。2人はこれまでネット上で、共産党を弁護する多くの文章を書いている。
しかし名指しされた2人ともレベルが低いことで知られ、特に周小平はかつてポルノサイトを運営し警察に取り調べられたこともある。総書記はこうした2人の実情を知らずに称賛した可能性もあるという。華東政法大学の張雪忠準教授は「周小平のような無学無能の人物が文芸の典型とされるのは、文革中に白紙答案を出して称賛された張鉄生と同じ現象だ」と批判した。
周小平 花千芳

 

 
   
     

 周は1981年4月四川省生まれ。中学を卒業後仕事を始めたが、かつては著名経済学者、郎咸平をかたって「中国の不動産市場は3年以内に崩壊する」といった文章を発表したほか、上の記事にもあるように09年「分貝網」というサイトの副総裁として猥褻なネットサービスを行ったとして取り調べを受けた。
 だが周が注目を集めたのは、2010年ごろから環球時報などに政権寄りの文章を書くようになってからだ。「この時代を裏切ってはいけない」「あなたの中国あなたの党」「夢破れた米国」などで、さらには自由派オピニオンリーダーらを微博で批判した。
 ネットでは周は「周帯魚」というあだ名が付けられている。帯魚とはタチウオのことで、彼が大Vの薛蛮子(本コラム参照)を批判する文章をブログで発表した際、「薛蛮子は浄水器を売り込むため、中国の水質は有毒だと誹謗、(浙江省)舟山のタチウオの養殖場は売れ行きが鈍り、地元の多くの養殖業者は倒産した」と書き込んだ。ところが多くのネットユーザーが調べたところ、タチウオは養殖できないことが判明、周の言説のデタラメさをからかう意味で「周帯魚」とあだ名が付いた。

周帯魚
 
 亜洲週刊(10月25日)は周を「80後のブロガー、周小平という出しゃばりの若者であり、この時代の荒唐無稽さを一身に集めている」と以下のように批判している。
 「周はいかなる意味でも「文芸工作者」などではなく、大きな総論を呼んだ『正能量』(プラスのエネルギー)の時事問題のブログを数本書いたに過ぎない。政府の言う『正能量』とは、通常愛党、愛国、反米のことであり、この点で周は際立っている。この座談会の翌16日、新華社傘下の「参考消息」は一面を使って周の文章を載せた。
 彼の最大の特徴は、彼の政治的な態度ではなく、データを創作しデタラメを混ぜあわせる遠慮のなさだ。『夢破れた米国』では米国の平均給与、不動産権、自動車価格、教育制度、食品安全、さらにはiPhoneの値段まで虚偽を並べ、米国が全面的に中国よりも劣っていると証明した」。

方舟子 これに対し、ネットで学歴詐称、ニセ科学、あるいは流行若手作家韓寒の代筆疑惑などを暴いてきた方舟子は自らのコラムで周を論破し、ほとんどすべての論拠がデータの捏造か、根拠のないデタラメだと論じ「彼のこうしたデタラメは、米国に住んでいれば分かることもあるし、米国に住んでいなくてもちょっとネットで調べれば分かる」と指摘した。
ところが方がこの文章をネットで発表した数時間後、この文章が全面的に削除されたばかりでなく、方はブログや微博をすべて閉鎖され、ツイッターに転戦せざるを得なかった。
興味深いのは参考消息が周の文章を掲載する一方、同じく政府系メディアである新華網は16日「習近平が問うたネット作家はどのような人か」との文章を発表したことで、この中で周は「最も基本的な事実と常識の面で多くの低レベルの間違いがあった」と風刺され、前述の「周帯魚」のあだ名が付いた経緯も紹介している。
新華網が周に疑問を投げかける文章を掲載したのは、共産党トップで周への評価が一致せず、宣伝部門が「習近平を困らせる」目的でやったとの意見もあったという。だが亜州週刊によれば、少なくとも周小平が文芸座談会に参加した点では、党内トップの争いはなく、掲載は新華網独自の行為だったという。亜州週刊は「周小平はあまりにレベルが低すぎるので、メディアの人間は皆彼を嫌っており、こういう形で紹介したのだろう」との消息筋の話を紹介、この文章は発表後数時間で削除されたという。
亜州週刊は、周がわいせつサイトを運営したとして公安機関の取り調べを受けたことも紹介、「その後2年間沈黙を守ったが、再び世間に姿を現した時、共産党や中国のための旗振り役へと一変した。だが、こうした不名誉な経歴は周の人気に影響しないようだ。新華網の原稿が撤回されてから、環球時報は『周小平の影響力や価値を認めなければならない』人民日報は『欠点は長所を覆い隠すことはできない、我々は多少は瑕疵があろうと周小平を必要としている』との評論を相次ぎ発表した」と締めくくっている。

ネット世論分析師募集

 政府メディアによる大々的な紹介の後、周は地方宣伝部長との面会や、大学での講演に呼ばれた。
 華商網(11月7日)の報道によると、陝西省西安では省党委員会宣伝部長景俊海が面会、景は「インターネットの発展とともに成長した著名な若手ネット作家として、周小平は自らの実体験から出発し、中華の優秀な伝統を発揚し、民族の自信を増強し、プラスのエネルギーを伝える優秀な作品、例えば『あなたの中国あなたの党』『この時代を裏切ってはいけない』などを発表、ネットで幅広い支持を受けており、素晴らしいことだ」と賞賛した。
 周は講演で「米国の対中文化冷戦の重点は何か」「ネットイデオロギーのコントロールが失われた結果どうなったか」などのテーマで、「祖国が強大になることで、個人は自立することができる」と述べ、情報が莫大になったネット時代、如何に是非を判別し、独立した思考能力を養うかなどを語り、「ユーモアと生き生きした演説は観衆から熱烈な拍手で迎えられた」としている。
 だが、厦門大学で11月に行われた講演には学生の抗議運動が起きた。フランス国際ラジオ(11月8日)によると、厦門大学が11月5日、公式微博に「周小平先生の厦門大学での演説を歓迎する」と書き込んだところ、同大学生らネットユーザーは「厦門大学の学生への侮辱」「厦門大学がここまで下品とは」といった不満や批判を受け、翌日この書き込みは削除された。
 このように習近平時代の新たな“ネット御用文士”として脚光を浴びた“周帯魚”は最近になり、同じく座談会で賞賛された花千芳とともに、突然お蔵入りになったという。(花は1978年遼寧省生まれ、中学卒業後、農業をしながら著作を発表した。)香港紙、信報(12月11日)は次のように伝えている。
 

消息筋によれば、周、花は「民間草の根の力」代表として座談会に出席したのは、政府の対応の誤りで、中央宣伝部は2人への取材を禁止するなど、「雪蔵」(お蔵入り)にしたという。
10月15日、周、花が座談会で習近平から指名されてから、ネットでは騒然となり、この反響は非常にマイナスだった。周、花のロジック、著作のレベルへの批判が絶えず、政府系メディアは彼らは「プラスのエネルギー」に満ちていると養護したが、ネット上の2人への言論を封殺、議論がこれ以上高まらないようにした。
消息筋は、周はかつて新浪微博でオピニオンリーダー(前述の薛蛮子ら)を批判したことでネット市民から注目され、当局もこれに留意したが、座談会の前に彼の経歴について詳しく調べなかったと指摘。周はかつてウェブサイトでわいせつな情報を流したとして取り調べを受けたが、関連部門は知らなかったようだ。
11月に浙江省・烏鎮で開かれた「世界インターネット大会」でも周、花が参加した「烏鎮ネット著名人フォーラム」は会議の重要な日程ではなく、政府系メディアの報道もないなど、当局が「誤って選んだ」ことを薄めようとしていることが明らかになった。
ネットで周の動向を調べても、本人の微博を除けば、政府系のチャンネルからは消失した。
ネットでは以前、周、花が文芸工作座談会に出席したことに、「劉雲山(政治局常務委員)が習近平を困らせようと故意に偽物を潜り込ませた」といった憶測が出た。だが中宣部の対応は、「誤って選んだ」ことへの後遺症と解読できるという。
もう1人の「ネット作家」である花は、このほど遼寧省撫順市作家協会副主席に就任したが、これも地方政府が情勢を誤り、追随した結果だとみられている。

中国ネット動向を報じる米国のウェブサイト「中国数字時代」の編集者、蕭強は周小平について、「真理部(宣伝部)が自由派に対する影響を与えることを放棄した」との見方を発表している。
「たとえ一般的なレベルのネットユーザーでも、周の文章が非常にデタラメと分かるだろう、ではなぜ朝廷(共産党政権)は大々的にこのようなでたらめな作家をもてはやしたのか」として、(1)宣伝部が習近平を罠にかけた(2)人材不足(3)影響力を与える対象を調整した―の3つを挙げ、自らは3の見方を取るとして、以下のように述べている。
「3つの見方はいずれも推測にすぎないが、1つだけはっきりしていることがある。それは周を持ち上げることで、多くの習近平ファン(知識人を含む)が失望したことだ。だが習近平は決して愚かなわけではない(さもなければここまで高い地位に登りつめられるわけがない)。彼が周小平を持ち上げたのには意図があったはずだ。それゆえ、自分は3番目の見方、つまり朝廷は『自由派や民主派』を騙すことはあきらめ、底辺の民衆を騙すことに精力を集中したのだ。底辺の民衆とは経済レベルではなく、思考レベルであり、簡単に周小平に騙されるような人々で、その思考能力は大したことがない」
習近平政権のネット世論政策は、批判的な声の断固たる封じ込めから、自らの政権を賛同、さらには「歌功頌德」(為政者の功績や徳をほめたたえる)周のような御用文士による一般大衆への教化宣伝へと進んでいるようだ。だがネットで様々な情報を得るようになった網民らは決してこうした宣伝に惑わされるほど愚かではないというのが、今回彼らも得た教訓ではないだろうか。網民との対等かつ真摯な対話なくしてネット社会の主流を占めることはできないのである。

 

 
   

 

 

 


「網民」の反乱 ネットは中国を変えるか?
古畑康雄

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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