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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国   (24)「売萌」「転生党」
   
     

「売萌」
顔文字を多用したアメリカ領事館の微博
 

 中国インターネット情報センターが半年に1度発表する「中国インターネット発展状況統計報告」の最新版(2012年7月)によると、微博(短文投稿サイト)のユーザー数は約2億7300万人で、11年12月と比べ9.5%増と伸びは鈍化したものの、ネット人口(5億3800万人)に占める利用者の比率は50.9%と初めて50%を超えた。特に、携帯のアプリを使ったユーザーの伸びが続いており、半年前と比べ24.2%増の1億7000万人に達した。
  こうしていつでも、どこでも微博にアクセスするようになった中国ネットユーザーに対して、外国の政府機関やメディア、企業も次々と微博を開設している。日本の政府、企業も日本大使館や共同通信、朝日新聞などのメディアが微博で情報を発信している。微博の長所は読者の反応がすぐに分かることで、面白い書き込みはたちまち転載され、コメントが付く。中国の読者の関心がどこにあるのか、リアルタイムで知ることができるメリットは大きい。

 
   
     

 微博による発信で、より読者の「吸引眼球」(目を引き)、粉絲(フォロワー)を増やすためにため、流行しているのが「売萌」(簡体字は卖萌)と呼ばれる方法だ。「売萌」とは文字通り「萌えを売る」、可愛らしさを売り物に読者を引き付けること、やや古い言い方では「ブリっ子」で、英語では「acting cute」(可愛らしく振る舞う)と訳すという。

 この「売萌」で有名になったのが、中国にある米国総領事館だ。北京の米国大使館は真面目な内容だが、香港と上海の総領事館は顔文字を多用し(写真1)、「神馬」(什麼の代わりに若者がよく使う)など若者が使うネット流行語を取り入れた。さらには中国政府や党機関紙「人民日報」をからかうような内容など、かなり際どいことをやってきた。

 例えば、今年5月、米国政府が議会に中国の人権状況を報告、これに対して人民日報が反論する社説を発表した。香港総領事館は5月25日、社説を次のように引用した。
「世界各国は社会制度、発展レベル、歴史伝統が異なり、民主、人権問題への理解にも違いが存在するのは、全く正常なことだ。肝心なのは政治的対話により『求同存異』(小異を残して大同につく)ことだ。」そしてその後に「じゃあ、なんでいつも私の書き込みを削除するの?」と絵文字付きでコメントを加えた。

 さらに「民主の発展と人権の保障は中国共産党が終始変わることない奮闘目標、追求価値である」という引用の後ろには「えーっ!結局、私達の目標はどっちも民主の発展と人権の保障じゃない、(意見が)ぶつからないね!」書き込みはそれぞれ3600、8600以上も微博ユーザーにより転載され、コメントもそれぞれ1600、3200もついている。

 前にこのコラム(「適度腐敗」参照)でも紹介した「適度な腐敗を受け入れるべき」との環球時報の評論についても、5月30日、「環球時報の社説を読んで、文章添削のやり方を学ぼう」として、

 「原文:『腐敗はいかなる国家も根絶することは不可能であり、肝心なのは民衆がそれを許容する程度だ』、これを『腐敗はいかなる国家でも根絶できないが、我々は腐敗というこの種の現象を許容するすることはできない』とするのはどうでしょうか?」と書き込んだ。

 さらに続けて「原文:『中国は明らかに腐敗の頻発期に当たり、腐敗を徹底的に退治する条件は備わっていない』、これを『中国は明らかに腐敗の頻発期に当たり、すでに腐敗を徹底的に退治せざるを得ない段階に来ている』とするのはどうでしょうか?」

 800件を超えるコメントには「米国領事館があのでたらめ時報(原文は『混球時報』)に中国語の授業を開くことを要求する」「米帝国、あなた人が悪いね(原文は『你好坏』)」と悪乗りするものや、「その通りだ。確かに腐敗を根絶すべき時期に来ている。さもなければ国が滅ぶだろう」といったものもあった。香港総領事館の微博フォロワーは22万人を超えている。

 さらに上海の総領事館は中国の大気汚染の指標として注目されているPM2・5(2・5ミクロン以下の微細粒子)のデータを発表していた。PM2・5はスモッグなどの原因とされ、肺など人体に入ると健康に重大な危害を及ぼすと言われている。これに対し中国政府は不当な干渉などとして反発していた。

 こうしたことが積み重なったためか、新浪微博は7月12日、上海総領事館の微博を閉鎖した。報道によれば、直接の原因となったのは7月6日、天津市薊県のショッピングセンターで起きた火災へのコメントだという。地元政府は、死者10人、けが人16人と発表したが、目撃者の話などから、ネットでは「被害者は378人」といった未確認情報も流れていた。
これだけ関心を呼んだニュースにもかかわらず、天津市当局は事件に関する報道を禁じ、ネットでのコメントも禁じた。秋に開催予定の中国共産党の18回大会で、政治局常務委員入りを狙っていると言われる張高麗・天津市党委員会書記が、自らの経歴にマイナスが付くことを恐れたとも言われている。

 これに対し網民は「天津」を「紐約」(ニューヨーク)と言い換えて、情報を流そうとした。ある網民が上海総領事館の微博に「ニューヨーク市で中国天津の人が焼死した事件について、米国政府から説明してほしい」と書き込んだところ、領事館は「これは痛ましい事故です。しかし我々が米国内のあらゆるメディア報道を調べてみたところ、ニューヨークでこのような事故は起きていません」とコメントした。(写真3)微博閉鎖は、この書き込みが当局の怒りに触れてしまったためとみられている。ドイチェ・ヴェレ (ドイツ国際放送)の中国語報道によると、閉鎖前に上海領事館の微博は8万人のフォロワーがあったという。

 環球時報は微博閉鎖に対し、20日「米国の傲慢さが原因であり、少しは慎むべきだ」との評論を発表した。「はっきり言って、上海領事館の微博は、米国の価値観の押し付けだ。“地元のモデル”(微博)により巧妙に偽装しているだけで、多くの情報は社会にとって有害な“ゴミ”だ。例えば、閉鎖前に、党機関紙の視点を反対の角度から引用、“萌え”の顔文字を付けて、巧妙に中国の政治的権威に対して“挑戦”したが、これには“軽んじる”意味も込められていた。これこそが米国によくある傲慢な意識の現れだ。この種の傲慢さは言論の自由の問題ではなく、国家の態度の問題だ」と中国政府がしばしば使う「米国的価値の押し付け論」を持ち出して批判した。

 さらに「外国の領事館は一国のイメージを代表するものであり、本来言行には慎重であるべきだ。微博が規則や道徳に反する言論を散布したことで閉鎖されたのは、駐在国の尊厳を守らないという最低線を越えてしまったからだ」と閉鎖を支持した。

 網民の中には微博封鎖を支持する声もあったが、一方で元外交官の肩書きを持つ著名な作家、ブロガー楊恒均は外交問題に発展する可能性もあると指摘した。「微博を閉鎖するのは一匹のアリを握りつぶすようなものと(新浪は)考えているかもしれないが、今回閉鎖されたのは米国の上海総領事館だ。もし(新浪が)どのような規定や法律に違反するのかを指摘しなかったら、どのような結果になるか分かっているのだろうか?中国政府は西側、特に米国で一体どれだけの宣伝活動をしているのか、もし米国人が気に入らないという理由でこれらを閉鎖したら、一体どうなるだろうか?」。中国は昨年秋、ニューヨークのタイムズ・スクエアに国家イメージを高める狙いで中国の著名人が次々と登場する宣伝ビデオを大々的に上映。豊富な外貨にものを言わせて米国で大々的な宣伝をしながら、米国領事館の微博を封鎖するのは確かにアンフェアと言えるだろう。もっとも、そのようなプロパガンダで西側の人々の中国への好感度がすぐに上がるとは思えない。

 アカウントを削除された上海総領事館は新浪微博のライバル、騰訊微博に開設した微博で、「どうしてこのような事が起こったのか。われわれの微博ができる限り早く復活し正常に運営されることを望む」と新浪に抗議するとともに、領事館のスタッフもこれに抵抗した。報道官のスミス・ハリソンは自らの微博が閉鎖されると、すぐさま「スミス・ハリソン2世」として再びアカウントを作り「新浪微博は流氓(ゴロツキ)だ」「流氓が支配するソーシャル・ネットワークで活動することはできない」などと書き込み、予想通りこの微博は再び閉鎖された。ところが再び「スミス・ハリソン3世」が登場、このアカウントは現在も続いているものの、新たな書き込みはない。

 ハリソンのこのようなやり方は網民の間で「転生党」と呼ばれている。死後再び生まれ変わるチベットの活仏になぞらえたもので、転生するたびに「2世」「3世」と数字が増えていく。維権網によると、盲目の人権活動家、陳光誠を支援していた「余男」という人が新浪網に開設した微博は71回も閉鎖されたという。多い日で1日に2度、最短では開設からわずか30分後に閉鎖されたが、その都度「転生」し支援のメッセージを書き込んでいた。

 ところが新浪微博が実名制(本コラム「実名制」参照)を導入した3月16日からは、「余男」の微博は消えてしまったという。実は、微博実名制導入の目的の一つが、この「転生党」を潰すためだったと言われている。

 ネット規制へのユニークな抵抗方式だった「転生党」は今後、鳴りを潜めていくのかもしれないが、アイデア豊富な網民は、次々と新しいやり方を編み出していくのだろう。

 それにしても、「売萌」で読者の興味を引き、中国の政治や社会をやんわりと批判し、当局の封鎖にも「転生」で対抗するなど、米国領事館は実に中国ネット社会に通じている。このやり方を真似して、日本の大使館も「売萌」路線から始めてみてはどうだろうか。両国間の感情摩擦の緩和に多少は役立つかもしれない。

 

今回のことば

売萌(卖萌):可愛らしさを売り物に読者を引き付けること。英語では「acting cute」(可愛らしく振る舞う)と訳すという。

転生党(转生党):微博などが管理者により一方的に閉鎖された場合、同じ名前の後ろに「~2世」「~3世」などとして再びアカウントを開設、書き込みを続けること。死後再び生まれ変わるチベットの活仏になぞらえたもので、転生するたびに「2世」「3世」と数字が増えていく。

 


アメリカ香港総領事館 微博
「じゃあ、なんでいつも私の書き込みを削除するの?」

 


▲アメリカ上海領事館 微博(現在閉鎖されている)
「これは痛ましい事故です。…」とコメント



▲アメリカ上海総領事館報道官スミス・ハリソン氏 微博
「転生」を繰り返すも現在は削除されている。

 

その他関連サイト

◆アメリカ駐中大使館
 WEB  微博 BLOG

◆アメリカ駐香港総領事館
 WEB

◆アメリカ駐上海総領事館
 WEB 騰訊微博 BLOG

 

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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