実は中国人の質問でもっとも難儀するのは「煎茶」かもしれない。今は日本茶と言えば、日本人は煎茶を思い浮かべる。ただ福建人から「煎茶とは文字からすれば煎じる茶だが、日本人は今、急須に茶葉とお湯を入れて抽出するだけで、煎じてはいないだろう」と突っ込まれると、もうこれは答えることができない。
日本の煎茶の祖は、清朝の初め、日本に亡命してきた中国の高僧、隠元禅師だと言われている。隠元が持ち込んだ茶葉がどんなものだったかは今では不明だが、茶葉を煎じていたのは間違ないだろう。すると一体いつ、煎茶が煎じない茶になったのか。煎茶を広めた黄檗宗の僧、売茶翁の時代か、はたまた日本の煎茶製法を確立したとも言われている、宇治の永谷宗円の時代なのか。この辺が解明されて来れば、「茶色から緑の茶への変化の過程」に一歩近づくことができるのであろう。
同じような質問に「抹茶はなぜ抹茶と書くのか?」というのもあった。日本語の辞書によれば、「抹」には「細かく砕く」などの意味があるが、中国人によれば「中国の辞書には『拭く』という意味しかない」という。抹茶も宋代の中国から渡って来て、その後本国では廃れてしまった。日本では茶道などにより、大いに発展したため、中国人の関心は非常に高いのだが、我々日本人は何も考えずに抹茶という文字を使っていることになる。
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