マレーシアにイポーという街がある。ここに到着すると、殆ど初めての街なのに、なぜかホッとしてしまった。それはマレー系人口が多いこの国にあって、イポーは100年以上前、錫鉱山の労働者として中国系移民が沢山流入してできた街であり、70%が華人という特殊性をもち、街全体が中国的なのである。
実はそこはグルメの街でもあり、名物の煮麺を食べようと老夫婦が経営する食堂に入ると、夫人が広東語で話しかけてくる。華語で返事をすると、その返事は華語ではなく、流ちょうな英語だった。更に麺を食べるために持ってきた箸をわざわざ引っ込めて『あなたはこっちね』と言ってフォークを渡されたので本当にびっくりした。まさかタイ華人にでも間違えられたのだろうか。
イポーで他の華人に聞いたところ、『いつからとか、その理由は分からないけど、イポーでの華人の共通語は広東語だよ』とあっさり言われてしまう。更には『食堂や喫茶の店をやっているのは海南系が多いね』ともいう。そういう本人が海南系で、カレー麺という独特の麺を作っている食堂の3代目だった。また白珈琲もイポー発祥で海南系がやっているケースが多い。
これはイポーだけの話かと思ったら、クアラルンプール(以下、KL)の友人(福建系華人)の会社に行ってランチを食べた時にも、華人10人でテーブルを囲んだが、ボスが福建系であるにもかかわらず、共通語は広東語だった(隣同士では、福建、広東、海南などが飛びかっていたが)。しかも潮州料理の店なのに、そして全員華人なのに、食事はマレー式、フォークとスプーンで食べていた。これは一体どういうことだろうか。
当人たちに聞いても、『昔からそうだったから違和感はない』と言い、全員がマレー語、英語を含めて、5つ以上の言語を解していた。因みにマレーシアではKLとイポーでは広東語、ペナンなど北部では福建語が共通語として使われているようだ。ジョホールバルなど南部は、シンガポールの影響で華語が使われることが多い。インドネシアのスマトラ島、メダンでも共通語は福建語だと言っていた。このあたりの摩訶不思議な華人の使用言語と生活習慣について、もし先行研究があれば、是非参考として、今後更に調べていきたいところだ。
|