■1冊から請け負います
上海で“自費出版”を請け負うのは出版社や出版企画会社ではなく、超印速という印刷会社。印刷された本は書店の店頭に並ぶことはなく、あくまで印刷物の域を出ないから、厳密に言えば自費出版とは言えない。しかし、たとえ店頭に並ばなくても、自分の原稿を本という形として残したいという欲求は強い。超印速がこのサービスを初めてまだ3カ月余りだが、ネット上で申し込み、入稿、デザイン決定などが簡単にできる手軽さもあって人気を呼んでいる。『新聞晨報』によれば、申し込みをしてきた人は5,000人を超え、すでに印刷された本は400冊近いという。
さらに、1冊からでもOKという少量印刷や価格の手頃さも、人気を後押しする。書店に流通する本を出版するとなると、ほぼ四六判の大きさで約300ページのボリュームならば、書籍登録番号代金と編集・審査費で10,000~15,000元、デザイン諸費3,000元、紙・印刷・製本費13,000~15,000元、その他5,000元で、合計約40,000元はかかるという。上海市民の平均月収が3,000元と言われるなかで、一般市民がとても手を出せる金額ではない。10年ほど前に日本の研究者が上海で論文を書籍化するには2万元かかると言っていたが、物価の高騰でいまや4万元にまで跳ね上がっている。
また印刷サービスであれば、発行部数というハードルがない。出版物なら1冊でも5,000冊でも同じ価格になってしまうが、このサービスを利用すれば欲しいだけを1冊からオーダーできる。モノクロなら1ページ0.13元にソフトカバーの製本代18.2元、300ページのものならば計57.2元となる。10冊を注文しても70分の1の価格ですむ。
日本で出版されているジャンルは自分史や俳句・詩歌集などが主流で、世代は50、60代が多いと聞くが、上海ではブログをまとめたいという20、30代が最も多い。そのほかの世代を見ると、40、50代では企業管理の理念であるとか市場分析など経営者としての実績を残しておきたいというのが少なくないようだ。いかにも起業家精神旺盛な上海ならではということか。会社規模もさほど大きいわけではないだけに、押し出しも必要なわけで営業ツールや従業員教育として使われているのではないだろうか。60、70代の年配者になると自分史や家系に関するものなど。
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