Q.今回日本関係の本を出した理由は
A.2つの大きな理由がある。まず中日関係や日本に関する話題の重要性は十分で、国内読者の関心を呼ぶことができる。中国のネットでは日本に関する関心は非常に高い、ホットな話題だ。90年代以降の20年間、日本は中国のニュースの中で常に関心の高いテーマだ。
もう一つの理由はここ数年中日関係が冷却化しているためだ。政治的には緊張しているが民間の交流は盛んで、非常に矛盾した状況だ。多くの人はこのような状態に困惑している。日本問題に多くの作者を抱えるメディアとして、このような本を出すべきと考えた。
3つ目の理由は5月にもう一つの日本関係の電子ブック「日本:最陌生的隣居(最も見知らぬ隣人)」を出した。この本の評判が良かったことも今回の出版につながった。
Q.内容の違いは?
A.電子ブックはネット上に出ている日本関係の文章をテーマ別に集めたもの。一方今回の本は企画を立ててから描き下ろしてもらったものが大部分。
我々の編集部の中でも日本への関心は高く、副編集長も何度も日本に来ている。そうした様々な要素で出版が決まった。
さらに、大家には多くの「日系」作者がいる。在日中国人や中国に暮らすが日本の背景がある作家で、彼らの数は多い。この日系は大家の中でも特色となっており、(出版は)いわば機が熟したと言える。彼らの日本に関する文章のレベル、信頼性は高いと思う。
Q.大家はいつから始まったか?当初から日本関係の文章は多かったか?
A.2013年初めから。当初日本関係は少なかった。創刊半年後、香港で読者との交流会を開いた時、「日系」作品は非常に真面目で、詳細な資料を引用するなど、レベルが高いとの評価を受け、日本関係の文章はより受け入れられると考えた。テーマが日本というだけでなく、文章のレベルも大陸の多くのコラムニストを上回る。それゆえ昨夏から
李長声氏ら多くの作家と契約するなど、日本関係の文章の比率を増やしたが、その判断は正しかったと思っている。現在大家の文章の4分の1は日本関係になっている。微信アカウントでもほぼ毎日日本関係の文章を案内している。
我々は政治関係について語ることは少ない。「中国政府の政策に従っている」(笑)から、時事問題について語ることは少なく、文化、経済方面が多い。
Q.契約している作家の数は?
A.300以上、うち活発に書いているのは60~70人。うち日本関係は7~8人。中には一本も書いたことがない人も50人くらいいる。
Q.ノルマ等は?
A.課していない。無理に書けと要求はしない。緩やかな雰囲気の中で書いてもらっている。中には日本関係で月3本程度も発表する人もいる。他のジャンルの作家が日本について書くこともあるが彼らを「日系」作者には入れていない。
Q.読者からの圧力は?罵りとか。
A.罵りは特に多い、だがそれを圧力とは考えていないし、気にしていない。騰訊網のユーザーは若者が多い。彼らはもっと啓蒙されなければならず(笑)、彼らの罵りは気にしていない。我々が気にすべきは学者やメディアの同業者からの意見だ。彼らからの評価は悪くない。中国国内で日本問題について頻繁に文章を掲載するメディアは我々しかなく、影響力も増えている。
Q.ネット上の対日世論の状況は?
A.以前に比べてより理性的になっている。例えば反日デモへの参加者、特に若者は減っている。2012年(9月)に北京でデモに参加したのは年配の農民ばかりだった。収入が高い北京などの都市では反日は減少している。12年で目立ったのは長沙だったが、毛沢東の出身地でありイデオロギーの影響なども強く、例外だ。深圳では200人ほどしか参加しなかった。
Q.しかもデモ隊は政府に向かった。
A.そう、司法の不公正や強制立ち退きなどに反対した。反日は街に出る口実にすぎなかった。この10年間に民間の対日世論は友好的になっている。中国の旅行サイトで最も人気があるのは日本への自由(個人)旅行だ。自分の周辺など中国の中産階級の間で、日本に旅行する人が増えている。中国からの旅行は香港、台湾、日本の順番に開放された。香港や台湾に飽きた人が日本に来るようになった。所得制限はあるが。中産階級の活動範囲はどんどん広がっている。数年後には欧州や米国も開放されるだろう。
中国の中産階級は海外旅行を通じて自らの視野と経験を広げつつあり、彼らこそが微博など中国のソーシャルメディアで最も発言権を持っている。(著名ブロガー)五岳散人は、10年前は労働者で時々文章を書くくらいだった。彼は今(中国)料理店を経営、刀剣のコレクター、700~800万のフォロワーを持つ微博ユーザーで、しばしば日本を訪れている。彼の微博には日本の風土人情、写真、出来事などがしばしば登場する。これ以外にも(著名ブロガー)羅永浩は初めて日本に来て「日本がなければ、アジアは取り上げるに足らない」と微博に書き込んだ。かつてこのようなことを書いたら、ネットでは「売国奴」と一方的に罵られただろう。だがこうした罵りは以前よりも減っている。こうやって中産階級が日本に来て日本について語るようになり、フォロワーに影響するようになった。でなければ中国からの訪日観光客数が過去最高を記録するのを説明することはできない。
重要なのは自ら日本に来て見聞することだ。友人の祖父は日本軍に殺されたので、ずっと日本に恨みを持っていた。だが一昨年日本に来て、「日本には学ぶべきところがある」と父親に語った。それまでの凝り固まった日本へのイメージを変えた。このような交流は恨みを解消することもできる。自分の90後のいとこは日本のアニメやドラマを見て、日本のアイドルのファンとなり、日本の化粧品を使っている。彼女の生活は日本に取り囲まれている。90後の若者にとって日本のドラマ、アニメを見るのは普通なことで、心理的な依存感があるといって良い。
80後は大学を卒業するとともにネットに触れるようになり、上の世代よりも多くの情報を得た。
Q.主流メディアの日本批判一辺倒の報道を見て心理的矛盾は起きないのか?
A.主流メディアの先導が中産階級に実際的な影響があるとは考えない。中国は有効な統治方式がずっと欠けているため、愛国主義や民族主義に依頼している。民族主義ではチベットやウイグル独立、台湾独立などもあるが、日本が一番便利だ。チベットやウイグルで民族主義をあおればあおるほどそれが現実化する恐れがある。だが日本はある程度中国と距離が離れており、便利で安全だ。なぜなら日本に関する記念日は7月から8月に集中、学生は帰省しており、テレビでどんなに煽っても学生が街に出てデモをする心配がない。当局はこうやってイデオロギーの宣伝を強化し、中国国民に我々の敵は日本人と思わせるようにしている。外部に敵を作ることで、内部で(党、政府への)恐怖心や依頼心を生み出そうとしている。日本を敵視するのは、外交目的ではなく、国内の需要ゆえだ。
だが外国語ができて、海外に行く機会もあり、ネット規制を乗り越えられる中産階級は国内のこうした扇動を信じていない。
中学、高校生が社会人となる過程で、彼らの思想は変化する。収入があれば本を買ったり、外国に行ったりする機会も増える。だから自分は今後民族主義が中国の対日関係などに影響を与えることは心配していない。
自分も1999年の米軍機誤爆事件の時は反米だった(がその後、思想が変化した)。一定の文化、思考能力のある人々が反日になる心配はない。
昨年の7月7月(後述)にCCTVは日本を批判する番組をかけ続けたが、もしこれが10年前なら暴動の数はもっと多かっただろう。
中国政府も内心は、反日をあおっても戦争はできないとわかっている。「民族主義は諸刃の剣」というのは、もし反日をあおり過ぎたら、「なぜ日本はそんなに悪いのに戦争をしないのか」という疑問の声が起きる。そうなったら説明ができないし、自己矛盾により党のイデオロギー(民族主義に訴える)は崩壊してしまう。
だから反日宣伝は過度にはできないが、(ある程度は)利用しなければならない。したがって反日宣伝がどうだろうと心配していない。中日は国家の実力と戦略があり、非友好にならざるを得ないが、胡耀邦がかつて言ったように「中日关系好也好不到哪去,坏也坏不到哪去(良すぎることも、悪すぎることもありえない)」だ。
中国政府は日本に対し1972年や92年のような友好的な態度は取れないが、民間の対日世論は良くなっている。10年前には今のようにこれだけ多くの人が日本に来て、日本に関する文章を書くなどということは考えられなかった。今回の出版にも全く圧力や干渉はなく、中国大使館は発表会に祝電を贈ったほどだった。
Q.日本の国内世論は中国メディアの反日報道を見て、反感を覚えるが、民間との違いが分からない。
A.そういう状況はチベット、新疆、台湾、香港にもある。CCTV、人民日報、環球時報など声が大きなメディアは反日だ。だが自分たちのような民間の声は海外からはなかなか容易には分からないだろう。民間と政府の声は非常に遠く、いわば全く異なる2つの方向だ。
Q.他のサイトには同じようなコラムがあるか?
A.新浪網や鳳凰にもあるがいずれも量は少なく、専門に日本問題を取り上げているのは我々だけだ。文章の量、質から言って我々は最も影響力があると言っていいだろう。
Q.騰訊は大家を重視している。
A.特別重視しているということはないが、お金、スタッフを提供してくれる。
Q.スタッフは?
A.自分を入れて10人。全員が80後で、最も若い人は88年生まれだ。
Q.中国の新興メディアはいずれも若者が主流だ。
A.中国の新興メディアは02~03年に生まれ、突如大量のメディアが出現した。南方報業だけで40以上の新聞が生まれた。ウェブサイトは06年頃から勃興、多くの人材を必要とした。伝統メディアは日本と同様、若者が責任あるポストに就くことは少ないが、市場化されたメディアは急速に発展したため多くの若者を必要とした。自分が大学を卒業した2002年ごろには多くの新聞が創刊、数百人のスタッフを必要とした。
都市報は現在経営が良くないが、都市報は多くの人材をウェブサイトに提供した。騰訊は現在ニュース編集部門で1400人のスタッフがいる。オンライン・メディア・グループと呼んでいる。政治関係の取材はできないが、その他の分野は開放され、今回のW杯でも70数人の記者やカメラマンを派遣した。東京五輪でも派遣するだろう。
中国のメディアの将来は、今は管理が厳しく時期を待つしかないが、やや緩やかになれば一気に(自由度が)広がるだろう。自分は同じ世代の若者の考え方を理解しているので、楽観的だ。
注
*1999年の米軍機誤爆事件:1999年5月にコソボ紛争でNATO軍所属のB-2爆撃機がベオグラードの中華人民共和国大使館を誤爆し、多数の死傷者が出た事件。