さらに日本側の参加者からは「対日世論がなぜ05年以降変化したのか。政府の世論誘導によるものか」と質問が出た。黄さんは「そうではない」と以下のように説明した。
民間には情報を得る様々なルートがある。(07~08年に放送されたNHKのドキュメンタリー)「激流中国」など、NHKの多くの番組をネットからダウンロードしている。このような動画を見られるサイトでのユーザーの声は中国政府の立場とは大きく異なる。外国人が我々をどう見ているか知ったら、それを自分たちの考え方とする。(「富人と農民工」)など中国の貧富の格差を扱った)激流中国を見て多くの人が涙を流し、本当の中国を知りたければ激流中国を見なさい、それに比べてCCTVの日本紹介番組は全く恥ずかしいと言った。NHKのドキュメンタリーを見て、日本語を勉強して日本で働きたいという人が増えた。自分も含め、NHKのドキュメンタリーの愛好者は多く、そのための字幕組(海外の番組を翻訳し字幕を付けるグループ)も存在する。このような文化の影響力は非常に大きい。さらに宮﨑駿、(AV女優)蒼井そらの貢献もある(笑)。
著作権違反は問題だが、結果的に日本への見方が変わったのは歓迎すべきだ。さらに「経済が低迷したらその不満を対外的に向ける可能性は?」という質問も出た。これに対し賈さんは「その可能性は高い。ただ心配しなくてよい。新疆、チベット、台湾いずれも同じような問題を持っている。短期的には日本の番にならない」と冗談交じりで語った。
朱さんは「日本への世論の変化と同様、WTO加盟など経済グローバル化により、中国がかつてのような閉鎖的な国に戻ることはありえない。技術の進歩により多くの壁を破ることが可能となり、自分たちは大きな恩恵を受けた。交流が増えれば日中相互の理解が深まる。(激流中国撮影のため)NHKのスタッフ4人が南風窓で62日滞在、飲食や仕事を共にした。中国でこのような状況は、かつては考えられなかったし、日本の会社もこのような取材を受け入れるのは難しいだろう。このような交流によりお互いを更に理解することが可能となる。政治家がいかに代わろうと全体的な趨勢を変えることはできない」と指摘した。
「中国の対日言論はどうなっているか?日本との開戦を煽る声もある」との問いには、賈さんは「ますますバランスの取れたものになっている。情報の自由な流通や経済発展と関係がある」黄さんも「ピラミッドのようなもので、社会の上の方は反日ではなくなった。ただ公に日本を賛美できないが黙っている。日本を罵るのはピラミッドの低層だ」と先ほどの見解を強調した。
朱さんも「私達はそのようなこと(開戦)は全く感じない。日本を批判するのも匿名の人が多い。上層のエリートは、歴史問題は語るものの公開で日本を賛美も批判もしない。政治的、利益の衝突は当然ある。普通の人はより穏やかな気持ちで中日関係を見ている。理性があり正常な人は最悪の事態が起きることを望んでいない」と述べた。
以上の発言を聞いていて、新鮮な印象を受けた。激流中国は中国で大きな反響を呼んだことは知っていたが、中国のジャーナリストにこれほどの影響を与えたとは知らなかった。
そして社会的に地位の低いグループが、反日により自分を国家の代表の1人となることで、存在価値を確認しているという指摘も興味深い。12年の反日デモは地方出身者を動員したヤラセの可能性が強いという指摘など、中国の「反日」の実情を知る上で大変興味深い指摘だ。しばしば言われる、中国の反日はある意味国内問題だという指摘はこのような背景を指しているのだろう。
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