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微観中国  (15) ブロガー交流から見えた日中関係
   
     

笹川日中友好基金が主催した中国ブロガーとの交流会
 

 日中の関係悪化の原因に、メディアの問題が指摘されることがしばしばある。確かに、両国のメディアは、お互いの姿を正しく伝えているとは言い切れない面がある。日本のメディアに登場するのは強面で日本批判を繰り返す中国の政府、軍の要人、あるいは対日強硬論を繰り返す環球時報などの中国紙が登場することが多いからだ。
 一方で中国メディアによる日本報道にも大きな問題がある。この点は以前も指摘した◆(1)。 日本に駐在しているにもかかわらず、正確に日本を伝えるどころか反日的な世論に迎合、歪めた像を伝えているのだ。
 こうした問題を正す仕組みとして、日中間のメディア交流はずいぶんと前から定例化している。だが残念ながら相互理解と関係改善に十分な役割を果たしてきたとは言いがたい。日本について十分理解しているはずの中国の政府系メディアの記者は、非公式な場ではある程度は本音を話しても、結局は党や政府の宣伝方針に従い、彼ら自身の判断で対日報道の基調が変化することはまずない。ふだん人民日報などに辛辣な日本批判を書いている日本研究者が実際に会ってみると非常に温厚な人物だったということはよくあることだ。
 ましてやメディア交流に名を借りた観光と言うしかない場合もあり、筆者も以前訪日したメディア交流団との交流会に参加したことがあるが、内陸都市の交通情報ニュースの編集者という初老の男性も含まれていた。日本に来る必要がないとは言わないが、このようなメディアとの交流に対日世論の改善を期待することは難しい。
 だが、世論を動かす場が新聞などの伝統メディアからネットメディアへと大きく移りつつある中国では、むしろブロガーやネットメディア編集者との交流が有効だ。その意味で前回、前々回も紹介した著名ブロガーとの交流に政府、民間ともに力を入れているのは大きな意味がある。

  1. 微観中国 (6) 朝日微博閉鎖と歴史教科書めぐる報道
 
   
     

 


朱学東

 


黄章晋

 

 

 

 

 

 

 

 先日も笹川日中友好基金が主催した中国ブロガーとの交流会に参加した。参加したのは、詩人の兪心樵さん、中国誌「南風窓」元編集長の朱学東さん、「鳳凰週刊」元編集長の黄章晋さん、騰訊の著名コラム「大家」編集者の賈葭さんら。うち朱さんは220万、黄さんは84万のフォロワーを持つなど、いずれも「大V」だ。
 2時間ほどの交流会で、筆者はまず次のような質問をした。「現在微博や微信の言論が厳しくコントロールされており、社会の不満がうっ積し、これが反日やナショナリズムなどの形で爆発しないだろうか?」
 中国側からは次のような回答があった。長いが引用する。主に答えてくれたのは黄さんだ。

 まずネットの対日言論について答えたい。ネットは開放的なプラットフォームを提供した。開放は理解を促進し怨みを解消する。自分は2002年からネットを始めたが、ネット上の日本に関する言論は大きな変化が起きた。つまり、日本について怨みを表明する人の比率は大幅に低下し、公に日本を賛美し同情する人が増えている。
今日民族主義者を含む世論に影響力のある人も日本への怨みを煽動することはない。日本への怨みを口にするのは社会での底辺のグループで、情報に十分に触れられない人々だ。
05年頃、新浪網で日本に関するキーワードはネガティブなものばかりだった。ラテンアメリカで殺人事件があると、凶器は日本刀だとわざとデマを書き込む人がいた。ところがその後ポータルサイトのスタッフの考え方が大きく変わった。例えば(日本関係の)ニュースへのコメントをめぐり、スタッフがユーザーに「あなたは日本のことを知らない」と批判することもある。現在ポータルサイトでは日本について煽動する文章は非常に少ない。
ただ自分が挙げたこのような事例は人民網新華網千龍網環球網など政府系のサイトは含まれていない。(政府系サイトは相変わらず反日言論が多い。)
05年に初めて日本に来た時、7日間の滞在中靖国神社に2回行ったが、靖国についての文章を書いた時、自分が行ったとは書かず、歴史や仕組みを紹介するにとどめた。自ら行ったと書くことで編集長から叱責、警告されることを恐れたからだ。
その後09年に再び靖国を訪れ、旅行記を書いた。その時初めてこれで靖国に行ったのは3回目だと明かした。だが(対日世論)環境が変化したので、そのことを恐れることはなかった。参拝があるとこの時の自分の原稿が転載されるが、10年前とは全く状況が異なる。当時なら靖国を爆破するとか、ガソリンを積んだ車で突っ込むといった過激な事を書く人がいた。今靖国神社について検索すると、ニュースを除けば一番多いのが「中国も自分の靖国神社を作るべきだ」という発言だ。
インターネットという開放された空間は、確かにコントロールもあるが、我々普通の中国人に多くの情報を提供し考え方を変えた。例えば台湾問題で、台湾独立に同情する人は、以前は全くいなかったが今はかなりの比率になっている。少なくとも今は台湾を(奪取するため)爆撃しようというような声はない。
日本についても同様で、05年のデモと10年以降のデモは大きく異なる。12年9月のデモでは自分は3時間現場で観察、約500人を調査したが、この中には北京人はおらず、地元政府が周辺の農村から車で連れてきた農民だった。日本大使館の周囲を1周するたびに、地元政府は彼らにペットボトルを1本ずつ渡し、半分飲んで残りを大使館に投げつけた。北京市民で自発的にデモに参加した人はいなかった。参加者は農村からバスで来て、弁当や手当が支給されたのだ。
だが、地方の小都市は10年前の北京と状況が大差ない。デモに出る人は多く、かつそれを楽しんでいる。自分は彼らの心情を理解できる。自分は日本に感謝すると書いた人がいる。日本は自分たちにデモをする権利を与えてくれたからだ。
つまり、公に日本に反対することで、社会での存在感を見出すことができる。彼らはお金も良い仕事もなく、社会の底辺で暮らしている。だが(反日デモでは)彼らは国旗を振り回し、いわば中国の代表として参加することができる。日本は社会の底辺で踏みにじられている人に輝かしい一瞬を与えてくれるのだ。それゆえ、日本に対し恨みを持つことは一部の人には価値があることだ。

 


NHKのドキュメンタリー「激流中国」 「富人と農民工」より
 

 さらに日本側の参加者からは「対日世論がなぜ05年以降変化したのか。政府の世論誘導によるものか」と質問が出た。黄さんは「そうではない」と以下のように説明した。

 民間には情報を得る様々なルートがある。(07~08年に放送されたNHKのドキュメンタリー)「激流中国」など、NHKの多くの番組をネットからダウンロードしている。このような動画を見られるサイトでのユーザーの声は中国政府の立場とは大きく異なる。外国人が我々をどう見ているか知ったら、それを自分たちの考え方とする。(「富人と農民工」)など中国の貧富の格差を扱った)激流中国を見て多くの人が涙を流し、本当の中国を知りたければ激流中国を見なさい、それに比べてCCTVの日本紹介番組は全く恥ずかしいと言った。NHKのドキュメンタリーを見て、日本語を勉強して日本で働きたいという人が増えた。自分も含め、NHKのドキュメンタリーの愛好者は多く、そのための字幕組(海外の番組を翻訳し字幕を付けるグループ)も存在する。このような文化の影響力は非常に大きい。さらに宮﨑駿、(AV女優)蒼井そらの貢献もある(笑)。

 著作権違反は問題だが、結果的に日本への見方が変わったのは歓迎すべきだ。さらに「経済が低迷したらその不満を対外的に向ける可能性は?」という質問も出た。これに対し賈さんは「その可能性は高い。ただ心配しなくてよい。新疆、チベット、台湾いずれも同じような問題を持っている。短期的には日本の番にならない」と冗談交じりで語った。
朱さんは「日本への世論の変化と同様、WTO加盟など経済グローバル化により、中国がかつてのような閉鎖的な国に戻ることはありえない。技術の進歩により多くの壁を破ることが可能となり、自分たちは大きな恩恵を受けた。交流が増えれば日中相互の理解が深まる。(激流中国撮影のため)NHKのスタッフ4人が南風窓で62日滞在、飲食や仕事を共にした。中国でこのような状況は、かつては考えられなかったし、日本の会社もこのような取材を受け入れるのは難しいだろう。このような交流によりお互いを更に理解することが可能となる。政治家がいかに代わろうと全体的な趨勢を変えることはできない」と指摘した。

 「中国の対日言論はどうなっているか?日本との開戦を煽る声もある」との問いには、賈さんは「ますますバランスの取れたものになっている。情報の自由な流通や経済発展と関係がある」黄さんも「ピラミッドのようなもので、社会の上の方は反日ではなくなった。ただ公に日本を賛美できないが黙っている。日本を罵るのはピラミッドの低層だ」と先ほどの見解を強調した。
朱さんも「私達はそのようなこと(開戦)は全く感じない。日本を批判するのも匿名の人が多い。上層のエリートは、歴史問題は語るものの公開で日本を賛美も批判もしない。政治的、利益の衝突は当然ある。普通の人はより穏やかな気持ちで中日関係を見ている。理性があり正常な人は最悪の事態が起きることを望んでいない」と述べた。
以上の発言を聞いていて、新鮮な印象を受けた。激流中国は中国で大きな反響を呼んだことは知っていたが、中国のジャーナリストにこれほどの影響を与えたとは知らなかった。
そして社会的に地位の低いグループが、反日により自分を国家の代表の1人となることで、存在価値を確認しているという指摘も興味深い。12年の反日デモは地方出身者を動員したヤラセの可能性が強いという指摘など、中国の「反日」の実情を知る上で大変興味深い指摘だ。しばしば言われる、中国の反日はある意味国内問題だという指摘はこのような背景を指しているのだろう。

 


騰訊微博の「提問 朱学東・兪心樵・黄章晋 談中日関係現状」
 

その後彼らは、騰訊でネットユーザーと討論を行い、日中関係に関する様々な質問に答えた。主な内容(原文は中国語)は次のようなものだ。

 Q.過去120年の中日関係から見れば、日本人に道理を説いても仕方がない。我々は経済、国防、軍事をしっかりとやって強大となり、日本(やその他の帝国主義者)が二度と我々を馬鹿にしないようすることが正しい道だ。
A.あなたの考え方は1945年に日本が降伏する前の日本人の考え方と大変似通っている。今の日本やあなたが言う「他の帝国主義国家」の大多数の人はそのような考えを持っていない。
Q.今回中国メディア関係者として日本に行き、日本国民はますます強くなる中国に対してどのように見ているのか教えてもらえますか?
A.(日本は)懸念を持っている。それは中国が強大になったからではなく、頼るべきルールがなく無秩序で、多くの不確実性があるためだ。これは私も同感だ。
Q.中国と日本の間に横たわる最大の怨みとは何か?それをどう解決できるか?
A.我々は戦後60年あまりの間、日本が平和憲法のもとで政治構造と社会構造の変化を遂げたこと、そして日本が中国社会、経済の発展に尽力したことに気付かなかった。大多数の中国人は閉鎖的、一方的な情報の下、日本の政治、社会の構造への認識がいまだに遥か過去にとどまっている。これが双方の怨みが積もり積もった根源だ。
Q。今回の活動の目的は何か?中日友好を促し、隔たりを解消し、民間交流を拡大するためか?それとも他の目的があるのか?
A.相互理解を深め、食い違いを解消するのが目的だ。私自身は日本を直接知ることができました。これは多くの本を読むよりも有益だった。
Q.日本がいくら文明度が高いと言ってもその対外的な野心を隠すことはできない。70年以上前の中国侵略の時期も国内では同じようにマナーや法治を重視していたのでは?
A.先ほども言ったが、戦後60年あまり、日本が平和憲法のもとで政治や社会の構造が大きな変化を遂げたことを我々が完全に無視していることが問題だ。世界の変化も同様であり、かつての暗黒なもの(侵略など)は今日の文明世界では唾棄され、法律的にも二度と復活することがないよう法的にも保障された。このことが見えないのは、自分の生活がそのような暗黒にいるからだろう。
(同様の質問に)70年以上前の日本はマナーや法治を重視していなかった。当時の日本は愛国の名のもとで特務統治を行っており、政府の対外政策に不満を表明する人は、様々な罪名で処罰されていた。
Q.軍国主義復活は日本国民とは無関係と言われるが、国民は政府に人質に取られており、総選挙の前に多くの政治家が靖国神社を参拝するなど右翼的傾向を全面に出している。日本軍国主義の復活が日本国民と無関係と言えるのか?
A.日本ではいかなる軍国主義の兆しも感じたことはない。むしろ日本人や在日中国人学者から、平和主義、国民主権、基本的人権の尊重という日本の小学生でも知っている憲法3原則を教えられた。街頭でたまに右翼の街宣車を見ることがあるが、中国の観光客以外は誰も気に留めない。
Q.中国人は歴史を忘れやすく、痛みを忘れやすい民族と言われる。もしそうなら、次のように理解してよいか。つまり中日関係は日本の出方次第であり、日本が中国への挑発的行為をやめ、中国人の気持ちを傷つけることをやめれば、中日関係は回復できるのでは?
A.最初の言葉はある程度正しいと思うが、完全に正しいとは言えない。つまり中国人は歴史の痛ましい記憶は選択的であることだ。それは集団(民衆)が無意識に選んでいるのではなく、集団的に枠にはめられた結果。だから主導権は中国人に歴史を記憶させたり忘れさせたりする人にあるのであり、日本とは無関係だ。

 そして最後にこのような質問への答えで結んでいる。

 Q.皆さんが見聞きしたことはどうして我々の理解とこんなに大きな隔たりがあるのでしょうか?
A.我々がふだん閉鎖的な世界にいるからだろう。その世界は政治やメディアが形作ったもので、真の世界とはかけ離れているかもしれない。

 彼らが指摘したように、一部のネットユーザーは圧倒的に日本への理解が不足し、偏った情報により反日を募らせているという不幸な状況がある。そしてこの状況を作り出している政府やメディアの責任を大胆にも指摘している。さらに軍国主義時代の日本を引き合いに出しながら、中国の言論状況を批判している部分もある。 
この状況を打破するにはやり現代日本社会についてできるだけ十分で多彩な情報を提供しつつ、観光や文化交流などで日本に来るためのハードルを下げ、実際に日本を体験してもらうのが一番だ。そして社会的に抑圧された立場にある中国の大衆が、その不満の矛先を日本などへ向けるのではなく、あくまでも国内問題として政府に解決を要求するよう促すことも必要だろう。
昨年来微博への統制が強まっていることについて、彼らは「こうした価値観の変化があるため、中国政府はネット管理を強化するようになった。例えば新疆問題では政府と違った声が出るようになった。政府のネットへの管理は厳しくなっているが、人々は常に新しい表現の方法を見つけ出すのだ。もし文字を検閲するなら、画像で表現する。管理は強化されようとも、情報を得ようとする自由は阻止できない。中国社会の観念がますます開放的になる傾向も阻止することはできない」と答えた。中国政府がネット言論などに対して厳しい弾圧で望んでいる現在、必ずしも楽観できないが、いずれにせよ今後も彼らのようなネット世論のリーダーたちとの積極的な交流を続けていく必要がある。本欄でもこうした交流を今後も取り上げていきたい。

   

 

 

 

 


「網民」の反乱 ネットは中国を変えるか?
古畑康雄

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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