中国・本の情報館~東方書店~
サイト内検索
カートを見る
ログイン ヘルプ お問い合わせ
トップページ 輸入書 国内書 輸入雑誌  
本を探す 検索 ≫詳細検索
東方書店楽天市場店「東方書店plus」
楽天市場店 東方書店plus
 
各種SNS
X東方書店東方書店
X東京店東京店
X楽天市場店楽天市場店
Instagram東方書店東方書店
Facebook東京店東京店
 
Knowledge Worker
個人向け電子書籍販売
 
BOOK TOWN じんぼう
神保町の書店在庫を横断検索
 
日本ビジネス中国語学会
 
北京便り
上海便り
ネット用語から読み解く中国
 
bei_title  
 
 
 
     
微観中国  (6) 朝日微博閉鎖と歴史教科書めぐる報道
   
     
 

 日頃から中国の微博をチェックしているが、今回ほど驚いたことはない。朝日新聞の微博が7月17日、突然封鎖されたことだ。この事件についてはすでに各メディアも伝えており、ネット上でも評論などが出ているので、詳しくは書かない。
 だが、筆者は本業で中国語ニュースサイトの編集を10数年続けており、朝日が中国語サイトを始めるに当たって、同社の知人から運営の仕方などについて相談を受けたことがあった。その後中国語サイトや微博をスタート、特に微博では時事問題を漢字に巧みに盛り込んだコメント「晚安•哦呀苏咪(おやすみなさい)」が中国の網民の称賛を受け、「朝日君」のニックネームが付くなど、活躍ぶりにはライバルながら感心していただけに、今回の事件は残念でならない。
 ただ、同業者として見ていて若干心配があったのも事実だ。例えば盲目の人権活動家、陳光誠氏に関する関係者のインタビュー記事や、薄熙来問題など、中国国内の敏感な問題をしばしば中国語でも報道していたからだ。この問題が起きてから、筆者は微博に「新浪網は(今回の封鎖について)説明する必要がある」と書き込んだところ、新浪網関係者から「我々の問題ではない」とコメントがあった。4サイトがいっぺんに閉鎖されたことからして、つまりは新浪網を超えた当局(おそらくはネット管理部門)の判断で決まったのだろう。

 
   
     

 先日発行された朝日新聞の「ジャーナリズム」(2013年7月号)に中国のソーシャルメディア発展と日中関係について寄稿させていただいた。

 その中でも書いたのだが、日本のメディアが中国語のサイトを運営する場合、民主化や民族、宗教問題など中国国内の敏感なテーマは扱うべきでないし、その必要もないと考えている。そのような問題を扱う外国メディアは、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)やラジオ・フリー・アジア(RFA)など幾つもあり、しかもいずれもが中国当局からアクセスをブロックされているからだ。そのようなテーマを日本メディアがあえて伝える必要があるのか、疑問に思っている。
 一方で日中関係の諸問題における日本側の立場や事情などは、できるだけ正確かつ多面的に伝えるようにしているし、そのことで今回のような嫌がらせを受けたことはない。特に中国語メディアや一部の華人“ジャーナリスト”が伝える内容について、事実に誤りがある、あるいは反日感情を扇動するようなものだった場合は、一方的な報道がもたらす悪影響をできるだけ減らすように努力している。
 例えば、ことし3月に広島県江田島市で起きた中国人技能実習生が水産加工工場の経営者ら6人を殺傷した事件で、ある在日華人“ジャーナリスト”は自らの微博に「毎日経営者からバカヤローと罵られていた、このような屈辱を受けていたら、あなたはどう思うだろうか」などと書き込んだ。これは明らかな扇動であり、実際には危険な作業のため社長は時々厳しい言葉を言ったことがあるが、実習生は日本語がほとんど分からず、誤解を生じたのかもしれない。社長は実習生を旅行に連れて行ったり、事件当日も実習生のために美味しい米を注文するなどふだんから気にかけていたという。様々な行き違いが生んだ事件を単純化し、反日感情を煽り、“モノを言うジャーナリスト”として中国の微博ユーザーにPRしようとしたのだろう。我々の中国語サイトではこうした背景を詳しく報じ、微博でも在日華人などから次のような書き込みがあったが、こうした“ジャーナリスト”たちへの批判と言えるだろう。
 「一部の華人は日本で高度な福祉などの待遇を享受しながら、一方で(日中)両方から金をせしめ、良心をごまかし、環球時報などの国内メディアで同胞を騙し洗脳する、まさに恥知らずの極みだ。」
 だが、日中関係の悪化を受けて、政府系メディアも時に度が過ぎた日本批判をすることがある。幸いなのは微博ユーザーにこうした報道を鵜呑みしない判断力があることだ。
 今月14日、人民日報の微博が、中国中央テレビ(CCTV)の報道内容を伝えた。
 「『中日戦争で多くの中国人が死んだが、知っていますか』『知らない』『南京大虐殺を知っていますか』『うーん、忘れた』―安倍政権は『侵略、南京大虐殺』などを教科書から抹殺しようとしている(注:原文のまま)。日本の教科書は改ざんにつぐ改ざんで、真実からますます遠ざかっている。歴史を正視できない国が、どうやって未来をはっきりと見分けることができるだろうか」という内容で、番組のビデオ映像も添付されている。

 一見して、ひどい内容だと思った。おそらくは学校で歴史をまだ学んでいない、中学1年生くらいの生徒数人に、街頭で突然インタビューした感じだ。聞かれた方は戸惑った様子で、「知らない、分からない」と答えたのだろう。そしてその後は歴史教科書に批判的な日本人へのインタビューだけを流し、記者の「歴史を正視できない国が」云々のコメントで終わっている。
 通常、このような取材をする場合、しかるべき学校や教育委員会に取材を申し入れ、歴史授業の様子を取材したり、教員、生徒から学校できちんと話を聞いたりすべきだ。自分の主張に沿ったコメントだけでなく、反対の声も取り上げなければならないのはメディアとして当然のやり方だが、CCTVは「初めに結論ありき」なのだろう。
 カリキュラムの都合で歴史、しかも近現代史を教わっているかどうか分からない子供に、初めに結論ありきのインタビューをして、それをもって日本政府がどうだとか、未来がどうだとか言うのはあまりに問題が大きい。近現代史については、NHKのドキュメンタリー番組「日本人はなぜ戦争に向かったのか」など、教科書以外にも様々な場を通じて学ぶことができる。そうした日本社会の取り組みを伝えずに、街頭の適当な取材で「歴史を正視できない国が」などと言うCCTVの報道には強い疑問を感じる。
 だが、この報道を見た網民は、心配したほど愚昧でも、洗脳されてもいなかった。約1万7000本のコメントの一部を見ると、中国政府の歴史教育への批判が強いことがうかがえる。
 「あなた(人民日報)は中日の民族の恨みを煽ることはできる。だが南京大虐殺よりも凄惨だった中国人が中国人を殺した歴史を、人民日報はなぜ書けないのか?文化大革命、3年の大飢饉(注:1958年、毛沢東が主導した大躍進政策により59年から3年間に数千万人が餓死したが、中国当局はこれを「自然災害」だったとして政治的責任を否定してきた)、国民党が正面軍で日本と戦った事実など、歴史書では軽く触れているだけで、詳しくは書かれていない。更に我々の歴史書にはある事件(注:天安門事件のこと)が抹殺され、まるでなかったかのようだ。歴史を正視できない国に、未来はあるのか」
 「歴史を正視しようとしない国が、他国に歴史を正視するようどうやって要求できるのか。歴史を反省しようとしない国が、他国に歴史を反省するようどうやって要求できるのか」
 「中国政府とparty(注:共産党)は真実の歴史に向かい合っているのか」
 「十年浩劫(10年の大災難、文革のこと)を知っているか?“自然災害”を知っているか?」
 「まず自分のことをしっかりやってから、人のことに構いなさい。小学生でも知っている道理を、国が分かっていないとは」
 「私はnintyeightynine(注:1989)あの年に何が起きたのか知らない、歴史書にも書いていない」
 「もし現在中国の街頭で中学生を取材し、彼らが自国で1959~61年に何が起きたのか、1966~76年の間の歴史を知っているか、1989年6…について聞いたことがあるかたずねたら…」
 「NHKが中国の街頭で高校生に、文革10年に何が起きたか、多くの中国人が正常でない死に方をしたか、あの年春と夏の境目に天安門や中国全土で何が起きたか(取材したらどうなったか?)我々は知っているのか?歴史を正視できない国がどうやって未来をはっきりと見分けることができるのか」
 このようなコメントはきりがないのでこのくらいにする。さらに興味深いのが、この報道を受けて大手サイト「網易」がネットユーザーに「中日歴史教科書、哪个更靠谱(どちらが道理にかなっているか)」という調査を始めたことだ。この調査によると、「日本の教科書は歴史を悪意をもって改ざんしている」という意見と、「中国の歴史教科書は白を黒と言いふくめている(是非を転倒している)」を支持するという意見が、本稿執筆時点でそれぞれ2727:8932と明らかに中国の教科書を否定する声が多いことだ。中国の教科書を批判する側には、日本の扶桑社などの教科書の採択率が低いことや、歴史の教科書で日中戦争の経緯や南京事件について記述してあるとの指摘もある。
 このような調査をネットでできること、そして網民がこのように堂々と中国の歴史教育を批判できること、人々がCCTVをCCAVと呼び馬鹿にするなどメディアとしてあまり信用を置いていないこと、こうしたことに「もはや我々は一方的な情報操作に騙されないぞ」という中国社会の世論の成熟ぶりを感じる。日本の政府やメディアも、こうした中国のネット世論の動向を正確に把握し、適切な発信を続けていくことで、中国の民間世論をより理性的な方向に変えていくことも可能ではと考える。理性的な日本批判を受け入れつつ、一部の中国メディアの報道が歪曲する日本像を修正していく努力が、今ほど必要とされている時期はないと思う。その意味で朝日微博の閉鎖は残念であり、ぜひ良きライバルの復活を望む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「網民」の反乱 ネットは中国を変えるか?
古畑康雄

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
  b_u_yajirusi
 
 
     
   
中国・本の情報館~東方書店 東方書店トップページへ
会社案内 - ご注文の方法 - ユーザ規約 - 個人情報について - 著作権について