腐敗に対する民衆の不満が強いゆえに、うかつなことを書くと、批判の集中砲火を浴びてしまう。では、腐敗はどの程度ひどいのだろうか。それを象徴するのが「裸官」という言葉だ。
裸官とは「裸体官員」の略で、配偶者や子女が仕事以外の理由で海外で暮らす、あるいは外国国籍や永住権を取得している中国政府の公務員のこと。海外へ逃亡する汚職公務員の中にはこの「裸官」が多いことが問題となっている。
ボイス・オブ・アメリカは今年2月21日の記事で、中国社会科学院法学研究所が20日発表した「法治藍皮書(青書)」を紹介している。4割近い公務員がいわゆる「裸官」を是認、この数値は一般の人よりも高く、体制内の腐敗は非常に深刻だと分析している。
報道によると、社会科学院法治国情調査研究チームが23の省、市の公務員や一般人を対象とした調査で、38.9%の公務員が配偶者が外国籍を持っていてもよいと考え、この比率は一般人の34.2%を上回った。
調査を受けた省、市の人民代表大会、政府部門、司法部門の公務員のうち、省・部級、司・局級、県・処級の公務員は半数以上が子女が外国国籍や永住権を持つことを問題ないとしており、地位が上がるほど裸官に対して寛容だという。
今回の調査について政治学者、劉軍寧は役人は(政府に対して)既に信念を失っており、出国したいとの願望が強いのはそれだけ国内にとどまるリスクが高いことを示している、と指摘した。
近代史学者の章立凡も、役人が裸官をよしとすることは、この政治体制を是認していないことを示していると指摘した。「これは体制の失敗であり、エリートはこの体制を個人の利益を得るための道具としか考えておらず、奉仕すべき事業と考えていない、彼らは(現体制への)信仰を失っている」と述べた。
「海外に逃亡し、逮捕された中国の汚職役人はこの12年で1万8000人に達し、金融や国有企業の職員が多いと伝えた。更に多くの者が逃亡したままで、海外に流出した金額は8000億元(約10兆円)に達した」裸官に関連して、このような驚くべき報道もある。
6月5日、明鏡ニュースによると、中国人民銀行は昨年「汚職により海外流出した資産」に関する報告を発表、中国社会科学院の調査として、90年代中期以降海外に逃亡した党、政府幹部、公安、司法幹部や国家事業単位、国有企業の幹部などで海外逃亡、失踪した人数は1万8000人、持ち出した金額は8000億元に達した。
北京大学清廉政治建設研究センターの李成言主任は、海外に逃亡した役人は1万人近く、金額では1兆元に上るとみている。
福建省人民検察院政策研究所の林雪標主任は、国連腐敗防止条約や国際組織犯罪防止条約が発行する前の03年8月3日から5日に北京、天津、上海、広州などで実施した取り締まりで、海外逃亡を図った60人の役人を逮捕、うち持ち出し額が最も少ない者でも60万ユーロ(5990万円)だったと明らかにしている。
林主任によると、金額が多く、地位が高い役人は米国、カナダ、オランダ、オーストラリアなどに逃亡しており、これらの国は中国と犯罪人引渡し条約を結んでいないため逃げおおせているという。
この報道によれば、逃亡先として人気のあるカナダには「貪官小区(汚職役人のコミュニティ)」までが形成されているという。もっとも、カナダの中国語メディアの記事を見ると、さすがにこれは中国メディアのつくり話で、中国から追っ手を逃れようとひっそりと暮らしている汚職役人が、堂々とコミュニティを作ることはありえない、と否定している。
話を冒頭の「極端主義」に戻す。この文章に対しては、海外からも批判の声が上がったと、ラジオ自由アジア(6月16日)は伝えている。
「国と政府は別の概念だ。実際には大部分の批判は政府や執政党に対してであり、この国に対してではない。中国は長期にわたり党、政府、国という概念が渾然一体となり、政府を批判すると、共産党は直ちに『(そのようなことを言うのは)愛国ではない』などと言い出す、これこそ極端主義だ」在米コラムニスト、章天亮はこのように述べている。
「大量の極端主義の言論は主に政府が独占するメディアが発するものであり、共産党のイデオロギーと密接に関わっている。共産党のイデオロギーが解決されない限り、極端主義は中国からなくならない」
これは上の記事にあった中国の作家のコメントだが、確かにチベット問題などで「ダライ・ラマは分裂主義者」などと相手の主張に耳を貸さず一方的に罵ったり、民主活動家の権利維持活動に対して「国家政権転覆扇動罪」などの罪名をかぶせて拘束するなどといったやり方は極端主義以外の何物でもない。極端主義が生まれる大きな原因は中国の政治体制にあると言っても過言ではないだろう。民主化や報道の自由などを通じて、「裸官」などの腐敗を根絶し、社会の不満を生む様々な要素を取り除かなければ、いくら「理性的な議論を」と呼びかけても絵にかいた餅に終わるだろう。
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