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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国   (20)「Hold住」
   
     

「Miss Lin」
 

 一昨年(2010年)夏にスタートした本コラムも今回で20回となった。ネットは急速な変貌を遂げる中国社会を映し出す最良の鏡であり、ネット流行語にはその時代の雰囲気が凝縮されている、そういう着眼点から書き始めたが、その趣旨通りに伝えられただろうか。読者の皆さんのご指摘をお願いしたい。ただ、いずれにせよ、中国社会をネット流行語から切り取っていくという作業は、公式メディアには載らない大衆、特に網民(ネット市民)目線から中国観察を続けようと考えている自分にとって大きな楽しみだ。

 
   
     

  さて、今回紹介する「Hold住」は、中国メディアなどでは昨年(2011年)最大の流行語と言われている。この英語と漢字の奇妙な組み合わせは、中国語の伝統から言えば明らかに異端だ。カタカナで外来語を表記できる日本語と違い、中国語は19世紀からネット時代の今日まで、漢字によりその意味を解釈し外来語を表記してきた。19世紀には電話を「徳律風」(テレフォン)と表記した(その後日本で作られた「電話」に置き換えられた)例もあるが、例えば原題でも「互聯網」「硬盤」「内部存儲器(内存)」など日本語なら「インターネット」「ハードディスク」「メモリ」などとするところをその意味を踏まえた漢字に置き換えている。
  とはいえ、例えばIT関係では「BP機」(ポケベル)「U盤」(USBメモリ)の様に、英中混合の言葉も登場しているし、「派対」(パーティ)「秀」(ショー)のような音訳や、「cosplay」(コスプレ)の様に直接英語で表記する言葉も最近では登場。中国国内でも外資企業のホワイトカラーの間で「在Office加班」「穿得够Fashion」などの言葉が使われているという。国際化に加え、教育水準の向上に伴い英語が日常語彙にも広がっているのだろう。
  さて、この「Hold住」が流行したのは、昨年夏に台湾で放送された娯楽番組「大学生了没」がきっかけだ。「Miss Lin」というフランスでファッションを学んだと自称する女性がバスでの通勤やパーティに参加する様子などをコミカルに演じ、動画サイトで中国でも人気に火がついた。Miss Linは「Not fashion!」(流行じゃない、格好悪い)などと奇妙な英語を交えながら、海辺のパーティに参加しようとビキニを持ってきたら、清朝パーティ(?)だと分かり、慌てずに胸につけていたビキニのブラジャーを頭にかぶって清朝の「格格」(王女)に変身(!)という抱腹絶倒のギャグを披露した。この時に彼女が「大丈夫、この状況を私はコントロールできるわ」の意味で「整個場面我Hold住」という言葉を使った。このコントの動画は以下で見られる。

 

 

今回のことば
Hold住:台湾のお笑い番組をきっかけに広がった言葉で、「様々な状況に冷静さを失わず、自信を持ち、一切に対応できる」という意味。

「唱紅打黒」:「革命歌を歌い、マフィアを取り締まる」重慶市の薄煕来・前書記が在任中に提唱したキャンペーン。薄氏の知名度を高めた半面、多くの冤罪を生んだとされ、結果的に薄氏は政治生命を失うことになった。

神馬都是浮雲:本文参照

 

 Hold住はこうして「様々な状況に冷静さを失わず、自信を持ち、一切に対応できる」という意味で広がった。
  新浪網に掲載された「2011年中文流行語:Hold住」では、Hold住は各種の状況を把握し、コントロールできることを指し、さらに「給力、加油」の意味もあると説明している。(「給力」も2010年頃からネットで流行りだした言葉で、「素晴らしい」或いは「頑張れ」の意味がある。)
  そしてこの言葉は新しいものではなく、香港で生まれた中英混合語の一つで、広東では「你hold住先」(電話を切らないでちょっと待って)のように20年ほど前から使われていたのだという。
  「この言葉はどんな時にも使える。地下鉄で、ショッピングセンターで、事務所で、厄介なことがあっても、自分に向かって『Hold住』、つまり落ち着いて、動揺せずに、自信を持って乗り切ることができると言い聞かせる。意中の人から花や指輪をもらったり、待ち望んでいた昇進をしたり、長年憧れていたアイドルに会ったり、あらゆる心がドキドキするようなときにも、喜びを隠しつつも『Hold住』と心の中でつぶやけば、落ち着き、泰然として対応できるのだ」このように「Hold住」の効果を説明する。
  このHold住は単なるエンタメ業界の流行語から政治、経済のニュースにも広がった。2011年12月20日の揚子晩報は「明年股市能否Hold住還需看政策」(来年の株式市場が持ちこたえられるかは政策次第だ)との見出しを付け、来年の相場を予想。この中で2011年は株式市場が軟調だったが、「どんなことも『物極まれば必ず反す』であり、方向を正しく定めるには『Hold住』することが必要で、『Hold住』できなくなりそうなら、それは転機が訪れるということだ」としている。
  今年3月に中国政府が石油の公定価格を引き上げた時には、「油価終帰没Hold住 合肥93号汽油漲至7.96元」(石油価格はついに持ちこたえず 合肥の93号ガソリン7.96元に)、「油価“破8”,開車的你Hold住嗎?」(石油価格がリッター8元突破、ドライバーのあなたは持ちこたえられる?)といった表現が見出しを飾った。
  経済だけにとどまらず、この流行語を取り入れた指導者まで登場した。新華網12月31日の記事「汪洋朱小丹発表新春賀辞:Hold住幸福和未来」によれば、広東省の汪洋書記と朱小丹代理省長(その後省長に昇格)は新年のメッセージを発表、この最後の部分には次のように書かれていた。
  「我々は、多くの網民が関心を持って参加し、全省が上から下まで心を合わせれば、広東は科学的発展を推し進め、社会調和を促進する排頭兵(最前列で戦う兵士、物事を率先してすすめる人)となり、小康社会(衣食住が満ち足りた、ある程度ゆとりのある社会)の建設を率先して進めることができるだろう。我々は共に手を携え肩を組み、共に努力し、幸福をHold住し、未来をHold住しよう!」
  烏坎村で発生した、地元幹部の汚職に抗議した住民運動を平和的に解決するなど、民意に耳を貸そうという姿勢を見せる汪洋とは対照的に、上からの「唱紅打黒」(革命歌を歌い、マフィアを取り締まる)運動により政治的業績を樹立し、共産党トップの政治局常務委員入りを狙ったのが汪洋の最大のライバルでもあった重慶市の薄煕来・前書記だったが、報道の通り、腹心の王立軍副市長が成都市の米国領事館に駆け込んだ事件をきっかけに、その責任を問われ書記の座を追われた。まさにその権力を「Hold住」できなかったのだ。
  さて、先ほどの「2011年中文流行語:Hold住」で、北京大学の教授は、Hold住の流行には社会的、文化的な背景があると分析している。
  「2008年の北京五輪、2010年の上海万博後、中国の台頭は国際的に認可され、中国人が国際的に認められたいという感情は既に解決された、2011年からは、より個人的な体験を重視し、身辺の出来事に関心をもつようになった。『Hold住』はまさにこうした情緒を反映したものであり、『兜得住(責任を持てる)』、自分のことは自分で責任を持つことを強調する一方、それは一種の期待、社会が自分に代わって問題を解決してくれるとの希望を表している」と指摘する。
  そして、2011年は微博(短文投稿サイト)など社交網站(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の大流行で「信不信由你,我是信了」(本コラム「高鉄体」参照)や「神馬都是浮雲」(何もかもはかないものだ、「神馬」は音が似ている「什麼」を置き換えたもの)など多くの流行語を生んだが、「Hold住」ほど普及しなかった。なぜならこうした流行語は具体的な事件を反映したもので、長すぎるなどの理由で拡散に向かず、結果として流行り廃(すた)りも激しい。一方、数年前からの流行語『給力』や『打醤油』(元来は『醤油を買う』という意味だが、『俺の知ったことか』『自分に関係ない』という意味で使われる)などはまだ流行を続けており、人々が常用する言葉となった、と指摘する。
  そして、「2011年の新たな傾向として、流行の分散化と関心の多元化が挙げられる」とする。具体的には2011年には多くの事件が発生し、個々の事件に注目した場合、中国には解決を必要とする多くの問題があると感じるのだが、「全体を見れば、これらの事件は中国全体の発展を否定するには至らず、全面的に否定する結論にはならないのだ」という。
  例えばいかに食品が安全ではないと言われていても、全体的には中国人の平均寿命は伸びているし、微博を開けばマイナス面のニュースばかりだが、微博で人々は得てしてマイナスの感情を発散しがちであり、実際には自ら見聞きするものではないし、これらの事件により自分の生活に絶望的になるということはない。「この1年、マイナスの情緒も蓄積したが、より必要なのは積極的な向上心であり、『Hold住』はこうした情緒を反映し、それが広く使われる原因だろう」としている。
  現実に起きている様々な不幸な事件や、汚職の蔓延、貧富の格差などの問題を考えた場合、筆者が言うように前向きな雰囲気ばかりが広がっているのかどうか、疑問に感じるが、人々が現実の諸問題に対して、不満を爆発させるのではなく、「Hold住」しながら粘り強く解決の糸口を探るようになれば、それは確かに望ましいことだ。隣国の一国民としても、近年両国で起こる様々摩擦に対しても、互いに「Hold住」しながら共生の道を探っていきたいと願うばかりだ。
  今回は「給力」「打醤油」など他の流行語も出てきたが、これらは改めて次の機会に詳しく取り上げることにしたい。

 
     

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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