■北京ビジネスセンターに現れた“都市型書斎”
北京市東部の朝陽区にあるビジネスセンター、CBDエリアに最近お目見えしたのが、24時間営業の“都市型書斎”「郎園·良閲書房」だ。東西を走る大通りの建国路にほど近く、お隣の省・河北省へ向かう長距離バスターミナルにも近いというから、東京でいえば「バスタ新宿」界隈といった繁華街に位置するだろうか。
地元の公共図書館「朝陽区図書館」と、一帯をカバーする中国政府肝いりの文化産業実験区「郎園Vintage文化創意産業園」が共同で建設した。
この“都市型書斎”が公共図書館やリアル書店と違うのは、「読書の楽しさ、すばらしさ」を広めようと、さまざまな活動を通じて読書ファンを24時間迎え入れるところのようだ。
CBDエリアを利用するビジネスパーソンや住民などを対象に、図書の貸し出しや読書の場を提供するのみならず、リラクゼーションやコミュニティーの場を解放している。
具体的には、テラスや室内に「書斎」を設けるほか、カフェやシアターなども併設。
図書の貸し借りについては、朝陽区図書館の会員カード「借閲証」を作ることができ、カードを通じて同図書館の電子書籍や一般書籍なども無料で借りることができる。「郎園·良閲書房」で借りられる蔵書は、ざっと3000冊はあるという。
インターネットを通じた同好の集いをはじめ、専門家や著名人の公開セミナー、読書会、文化サロン、古本市、映画上映会などの「オフ会」も多数計画されている。
北京市が進める「公共文化サービス」の一翼を担う、新しい“多機能型書斎”を確立しようとしているようだ。
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■内外の注目集める「世界初のシェア書店」
今年7月16日、「世界初のシェア書店」という鳴り物入りで登場し、内外の注目を集めたのが、安徽省の省都・合肥市にある「新華書店 合肥三孝口店」だ。中国の大手出版グループ、新華発行集団(安徽)の傘下にあり、全国に先駆けた実験的書店としてオープンした。
利用者は、まず同書店のアプリケーションをスマホなどの情報端末にダウンロードし、オンライン決済サービスの「智慧書房」口座を設ける。
次に99元(1元は約17円)のデポジットを支払って、書籍カバーにある二次元コード(QRコード)を読み取れば、定価計150元以下の書籍を2冊まで借りることができるというわけだ。
書籍は10日以内に返却すればレンタル料はかからないが、期限を過ぎれば1日ごとに1元の超過料金を収めなければならない。
また読者にとってうれしいサービスもあり、書籍を期限までに返却すれば、1元の「読書奨学金」が口座に振り込まれる。さらに3カ月で12冊の本を読めば、デポジットの8%が「ボーナス」として返金される特典もある。
中国メディアの報道によれば、こうした目新しい読書システムが受けたと見えて、オープン1カ月で約8万冊の本が貸し出されたという(中国新聞網)。
「シェア書店」や「シェア図書館」という概念も一律ではないものの広まっており、北京市内にある中堅銀行「光大銀行」の複数の支店では、やはりデポジット式の図書の貸し出しサービスを7月末から始めたという(海淀区万柳支店、朝陽区望京西支店など)。
こうした動きに中国メディアは「(流行の)シェア自転車、シェア自動車を想起させるもので、図書業界も“シェア経済”に乗り遅れまいとしているかのようだ」(同)と分析している。
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■中国政府のてこ入れで変わる書店模様
先に述べた“都市型書斎”や“シェア書店”のみならず、中国では今、既成概念にとらわれないユニークな書店や図書館がじわじわと増えている。
それというのも全国民向けの読書活動や、淘汰の進んだ「実体(リアル)書店」の救済策を推し進める、中国政府のてこ入れがあるからなのだ。
とくに2000年代以降だが、オンライン通販や電子書籍の普及、さらには家賃の高騰などによって、中国の書店業界は先進国と同じように寡占化が進んでしまった。
北京だけでも大手書店「北京第三極書局」、個性派書店の「北京風入松書店」、民営書店の「光合作用書房」などが次々と閉店を余儀なくされた。当時、北京に滞在していた私も、そうした書店の栄枯盛衰を目の当たりにしただけに「書籍文化の衰退か……」と寂しい思いをしたものだ。
※ 関連記事 「民営書店を救え! 上海では24時間書店がオープン」 (「北京便り」2012年4月)
しかし中国政府は、まず、国民のそれまで低迷していた読書率を上げるため、2006年から「全民閲読」(全国民読書)活動を提唱。それを受けて各地の政府が住民団体に書籍を寄贈したり、読書会を行ったりとさまざまな読書普及活動を行い、18歳以上の成人1人あたりの読書量が2010年の4.25冊から、2014年の4.56冊へと明らかに向上したと伝えている。
次に、寡占化の進む書店業界を救う“切り札”として打ち出したのが「実体書店免税政策」だ。これは書店の倒産を防ぐために、書籍の卸売・小売業に対して「増値税」(※)を免除するという政策で、2013年1月から実施されている。
(※)中国の付加価値税。物品の売買、加工、修理役務に課税される。税率は品目により異なり、書籍販売には13%課税される。
さらに、中国政府の提唱を受けて、リアル書店の発展や新スタイルのユニークな書店の建設にも、各地の政府(地方行政)が支援の手を差し伸べている。
例えば、北京市は2016年に1800万元(約3億600万円)もの巨額の資金を、市内のリアル書店71店舗の発展のために投じている。その中には「新華書店 王府井書店」や「北京三聯韜奮書店」といった老舗書店の名前もある (『北京新聞出版広電発展報告 (2016~2017)』、別称『北京メディア青書』)。
また、支援を受けた新スタイルの書店としては、「北京で最も美しいコミュニティー書店」といわれる「甲骨文・悦読空間」(2016年1月開業)、北京初・50歳以上のシニアのライフスタイル向上をテーマにした「建投書局·北京50+店」(同年4月開業)、書店やカフェ、テーマレストランなどを併設した巨大ショッピングセンター「薈聚西紅門購物中心」(同年7月開業)などが続々と登場し、それまでの「本(のみ)を販売する」というシンプルな「書店」概念を一新している。
良し悪しは一概にはいえないが、中国の書店模様がしだいに塗り替えられているのは確かなようだ。
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■シェア書店は発展するか?
ところで、前述した「シェア書店」だが、これについては中国国内でもさまざまな議論がある。
肯定派は「シェア書店のほうが、公共図書館よりも本の更新頻度が高い。だからより新しい本が借りられる」「個人では買えないような高価な本も、図書館より手軽に借りられる」などとその人気のわけを分析する。
一方、否定派は「シェア図書やシェア書店には明確な定義がなく、トリックを使うかのようだ。まるで新しいボトルに古い酒を入れるようなもので、看板を掛け変えただけではないか」と手厳しい。
確かに以前、中国各地で見られた「流動書亭」(移動貸本屋)とどこが違うのか? という声もある。新しいのはスマホを使って借りること、デポジットが必要だが本を借りる料金がほとんどかからないこと等ではないか、と……。
今後シェア書店を拡大するためには、盤石な経営基盤を整えることもネックとなっているが、肯定派は「“シェア”の概念をうまく実現させることが大事。店側は丁寧なサービスを提供し、店内で飲食してもらい、読書サロンなどの(有料)イベントを行うなど、利用者と書店のウィンウィンの方法を追求することだ」と楽観視する。
実際には、現状の本の貸し出しだけでは、経営はほとんど成り立たない。そこに付加価値をつけなければ、シェア書店が生き延びる道はないということだろう。
シェア図書にせよ、シェア書店にせよ、それは書店業における経営モデルの新しい試みではある。
シェア書店が中国で成功するか、拡大発展していくのか? はたまた厳しい環境が続く日本の書店業の参考になるかどうか?
変わりゆく中国の書店事情とともに、これからもチェックしていく必要がありそうだ。
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