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東京便り―中国図書情報 第6回 .

 【Interview この人に聞く (3)】
 現代中国漫画の大作『チャイニーズ・ライフ』を翻訳した野嶋剛さん
  激動期を生き抜いた主人公の半生通し 現代中国人の価値観知る“入り口”に

   
   

『チャイニーズ・ライフ』翻訳者の野嶋剛さん激動の中国を生き抜いた、ごく普通の少年の成長を描いた現代中国漫画の大作『チャイニーズ・ライフ』(上下巻、明石書店)がこのほど翻訳出版され、話題を呼んでいる。
1955年に中国南西部・雲南省の省都昆明に生まれた中国人画家で漫画家、ジャーナリストの李昆武(リー・クンウー)氏の自伝的作品。大躍進や文化大革命(文革)、四人組批判、そして改革・開放政策による驚異的な経済発展という混乱と繁栄の時代を生きた自らの半生を漫画で振り返った、リアルで重厚なおもむきの異色作だ。

李氏と交流があったフランス人のフィリップ・オティエ氏が共作者となり、2009年にフランスで最初に出版。その後、英語版、ドイツ語版など欧米を中心に世界10カ国以上で翻訳され、さまざまな賞を獲得するなど本書は国際的に高く評価されている。
2013年1月には中国に里帰りして「逆輸入」される形で出版(中国語題『从小李到老李 一个中国人的一生』、生活•読書•新知三聯書店)。同年秋には中国で「2013年中国漫画大賞」を受賞し、この作品と作家の李氏には国内外の注目が集まっている。

『チャイニーズ・ライフ』を日本に紹介した翻訳者の野嶋剛さん(朝日新聞国際編集部次長)に、本書との出合いや翻訳の苦労、昆明で訪ねたという李氏の印象、そして今、日本語版を世に問うことの意義などについて縦横に語ってもらった。
 

   
 

――『チャイニーズ・ライフ』は英語版からの日本語訳で、野嶋さんご自身にとっては初の翻訳書にあたるそうですね。

野嶋(以下略) 2012年の冬、私の著書『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)などを読んでくださった明石書店の編集者から依頼を受けました。
記者としてはまだまだ自分で書くほうに興味があって、翻訳に手をつける気はなかったんですが……。実は、私は週に7、8冊は漫画雑誌を購読し、気分転換は“漫喫”(漫画喫茶)という熱烈な漫画マニア(笑)。それで漫画を訳すという話には、すぐにピクッときたわけです。
また中国の漫画に対しては、読みにくい「連環画」(子ども向け小型絵物語、中国版コミック)のイメージが強かったんですが、原書を読んでみると「いや、これはすごい作品だ。これだったら引き受けたい」と快諾しました。

――中国の大躍進や文革といった混乱の時代を描いた作品は、日本でもこれまでに小説や自叙伝、映画などの翻訳版がいくつか発表されています。
一方、この『チャイニーズ・ライフ』は、漫画という接しやすいスタイルもさることながら、「どこにでもいる1人の中国人の人生にスポットを当てた点」がユニークですよね。

『チャイニーズ・ライフ』日本語版より私たちが目にする中国人の自伝といえば、戦乱や大飢饉、文革、天安門事件などに遭遇し、苦難に見舞われた1つの「悲劇」として語られたもの、何らかの「告発」をする目的で書かれたものが多かったように思います。
ただ、現在の(共産党政権下の)中国から飛び出した人は限られている。苦難の体験を生き抜いて、その後も中国で「普通」の人生を送る人から見た大躍進や文革のとらえ方には、改めて新鮮さを覚えました。

もう1つ印象的だったのは、本書に描かれた天安門事件についての議論です。
事件に対して否定的な見方を投げかけるフランス人の共作者に対して、主人公の李氏は自分としてはそれを描けない理由を1つひとつ丁寧に説明する。自分は目撃していないとか、経験者に知り合いはいないとか……。
さらに事件について自らの考えを述べるシーンで、中国人が求めているのは「つまるところ、秩序と安定」であって、逆にいえば、経済発展のためにはそれ以外はさほど大切ではないと明らかにしています。

「秩序と安定」と聞くと、日本人は「ああ、また中国人の建前論だな」「共産党のプロパガンダだ」と思うかもしれません。ですが、それは政府の公式発言などではなく、内心に深く刻まれたものであると李氏は述べています。中国の苦難の20世紀に「文化大革命、批判運動、階級闘争、干ばつ、飢饉、電力不足、極貧」などを経験した末に持った確信であり、「発展と再生のために必要な秩序と安定を求める私たちの深い渇望」を理解してほしいと、彼は真摯に語りかけます。
中国で会う中国人はなかなか本音を漏らしませんが、こうした李氏の思考法こそが、現代中国人に共有されている1つの揺るがせない価値観ではないか? もちろん異論のある読者もいるでしょうが、李氏の考え方もまた、中国人社会における現実的な一面であると、私は理解しています。

――本書は漫画という親しみやすい形態をとりながら、だからこそかえって視覚的に訴えるものがあるような気がします。ペンさばきに勢いがあり、白と黒のコントラストが非常に強く、中国のかつての革命版画や、李氏が少年時代に習っていたプロレタリアート芸術(革命画)の系譜に連なるような……。
とくに李氏が少年時代に遭遇した大躍進、文革の描写は強烈なインパクトがあって、私は軽いめまいを覚えたほどです(苦笑)。生活感あふれる公営住宅の室内の様子や、群集の1人ひとりの喜怒哀楽といった表情もリアルに描かれていて、細部までじっくり見入ってしまいました。


『チャイニーズ・ライフ』下巻290ページ李氏はもともと雲南日報社で新聞の挿絵を描いていました。下巻の290ページを見ていただくとわかりますが、このようにデフォルメされたイラストです。
けれども本人に会った時にいっていましたが、この作品は最初に欧米市場向けに描いたので、こういうイラストではダメだった。それで彼は自分の絵を変えようとかなり努力して劇画タッチに変更した。ですからこれは新しいタッチで描いた第1作なんです。
見ていると絵がね、だんだんうまくなってくるんですよ。彼も話していましたが、最初から今ひとつ絵が上手じゃないところも、子ども時代の「小李(シャオリー)」(李昆武氏)を描く上ではかえって効果的だったと。時代が進むにつれて絵がクリアになってきて、人間の表情とか線描とかもキッチリしてくる。それが逆に時代の変化を表すような効果を生んだので、本人は「すごくうまくいった」と喜んでいましたね。

――初めての翻訳書で苦労された点は? 漫画マニアでいらっしゃるので、セリフの訳などはお手の物だったのでは?(笑)

いやあ、そんなこと全くないです(笑)。漫画ですから、一般書と違って口語が中心でしょう。普段書いているニュース記事やノンフィクションの文章とは異なる会話調なので、その意味で大変でした。しかも子どもらしい会話の中に「反動的行為だ」といった中国的な言語感覚も入れなければならない。純粋な日本風の漫画のセリフにもできず、そのバランスの取り方が難しかったですね。
秦の始皇帝の時代を舞台にした人気漫画『キングダム』の作家で、本書の帯を書いてくださった漫画家の原泰久さんとは古い友人で、セリフの訳をちょっと見てもらいました。「ここは、こんな感じかな」などと、さすがのアドバイスを受けました(笑)。

――この作品は、中国で「2013年中国漫画大賞」を受賞されたそうですね。とはいえ大躍進や文革といった混乱の時代を生き抜いて、それを赤裸々に描いた本書は、センシティブ(敏感)な側面もあるのでは?
もちろん中国では、文革は「内乱」であり「歴史的悲劇」であったという公的見解がなされていますが、その一方で、今でも教科書やマスコミには詳しく取り上げられない政治タブーの1つでもある。中国での本書の評判は、実際にはどうなのでしょう?

実は、この作品の評価が圧倒的に高いのはヨーロッパなんです。あちらでは李氏の作品が新作を含めてすでに6、7冊出版されていて、彼は超有名な漫画家になっている。数多くの賞も受賞しています。
それに比べると漫画大賞を受賞したとはいえ、中国では(マスコミに)十分に取り上げられていないような気がします。理由は2つほどあって、1つは取り上げるほうの自己検閲。敏感な問題に触れるので、書評などを大々的に掲載するのは止めておこうと。実際、一部のリベラルな雑誌メディアが取材したほかは、メジャーな新聞、テレビは大きく取り上げていないようです。
2つ目は(描かれた世界が)中国人からするとある意味、当たり前すぎるからかもしれない。欧米人や日本人からすれば「一般的な中国人の人生」に関心があるのですが(同じ歴史を共有する)中国人には、我々ほど付加価値が生まれないのかもしれません。

――翻訳を進めるさなかの2013年夏には、中国出張の折に立ち寄った昆明で作家を訪ね、ほぼ2日間を一緒に過ごされたとか……。

原著者・李昆武氏(右)とフィリップ・オティエ氏李昆武氏は、非常に頑固で、でも裏表のない議論好きなおじさんでした(笑)。良く来たなぁといって大変喜んで、いろんな所へ連れて行ってくれたり、本書にも登場する李氏の家族や友人たちに会わせてくれたり。移動中でもひたすら議論するわけですよ。
中国政治や日中関係など多くの問題について中国語で語らいましたが、その中で意見が一致したのは「この作品は、ごく普通の中国人がどんなふうに今を生きているかがわかる、非常に貴重な本だ」ということ。
必ずしも皆が反日デモに参加したり、日本の悪口をいったりして生きているわけじゃない。中国人はどこか不思議で不気味な存在だと思う人もいるだろうけど、等身大の中国人はこういう風に考えていて、そこには我々と共有するものもあれば、違うものもある。当たり前のことかもしれないが、そんなところが素直にわかってもらえる書になればいい、ということですね。
また李氏は「日本は中国の歴史に深く関わった隣人だ。だから日本人に自分の本がどう読まれるかは非常に関心がある。日本の読者にはぜひとも本書を読んでほしい」と繰り返し強調しました。私も同じ思いです。

――日本と中国が対立を深めています。日中関係は近年「最悪」だといわれますが、なぜこのような時期に、現代を生きる「中国人」そのものをテーマとした本書を日本に紹介されたのでしょう?

人間の価値観や考え方というのは、その人たちが生きている時代や状況によって大きく作用されると思う。
例えば、中国人は対外的に過剰な警戒心や猜疑心を持っているように見えたり、「秩序と安定」の重要性をやたらに強調したりする。一方で、政府のやり方に不満を持っていたとしても、ある部分ではそれ(秩序と安定の堅持)を受け入れているようにも見える。

長時間のインタビューに応じてくださった野嶋さんそれは何なのかと考えると、やはり怒涛のような衝撃の時代を経験したからではないか? 革命後、大躍進から文革、四人組打倒に至るいわば「最低」の状況から、突然改革・開放が始まって、全く別次元に連れていかれた。そうした劇的な経験があるからこそ、今の貴重な安定と繁栄を手放してはならないんだという……。
それも過剰な考え方かもしれないけれど、彼らのロジックでは非常にスムーズに説明されてしまうんですね。正しいとか間違っているとかではなく、少なくとも現実的にそう信じて生きている人たちが隣に暮らしているわけです。

日本人はそれを理解した上で、中国人と接したほうが、より無用な争いを生まないのではないか? 
また日本では、中国の歴史や政治、社会問題といったさまざまな「中国論」の書物があふれていますが、現代の「中国人」そのものをテーマとしたものはほとんど見当たらない。その意味でも、中国人の論理や価値観を理解する“入り口”としてこの本を使ってもらえたら……。漫画というわかりやすいメディアでもありますし、そこから中国人理解をそれぞれ深めていけばいい。そういう読まれ方をしてほしいと内心、期待しています。

   

『チャイニーズ・ライフ』上下巻『チャイニーズ・ライフ――激動の中国を生きたある中国人画家の物語』
  【上巻】 「父の時代」から「党の時代」へ
  【下巻】 「党の時代」から「金の時代」へ
  李昆武(著)、フィリップ・オティエ(著)、野嶋剛(訳) 明石書店 2013年12月刊

野嶋剛(のじま・つよし)
1968 年生まれ。上智大学新聞学科在学中に香港中文大学、台湾師範大学に留学。朝日新聞入社後、福建省のアモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長などを経て、現在国際編集部次長。朝日新聞の中国語電子マガジン「新鮮日本」と中国語ニュースサイト「朝日新聞中文網」の編集長を務めている(※1)。
著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人(GIANT)』(東洋経済新報社)など多数(※2)。

※1)同国際編集部の中国語チームが担当し、大人気を博していた中国の四大「微博」(ウェイボー、ミニブログ)のアカウント(@朝日新聞中文網)が昨年7月、突然閉鎖されるという驚きの出来事があったが、「なんで止められたのか全く想像がつかないし、中国側からの説明もない。残念でならないが、現在も回復を求めて交渉している」(野嶋氏)とのこと。

※2)これまでに著書の『ふたつの故宮博物院』は中国の上海訳文出版社、台湾の聯経出版で、また『謎の名画・清明上河図』は中国の社会科学文献出版社、台湾の聯経出版でそれぞれ翻訳出版されるなど、中国語圏でも人気書籍となっている。
 

 
   
     

 

 

小林さゆり
東京在住のライター、翻訳者。12年余り北京に滞在し、2013年7月に帰国。
著書に『物語北京』(中国・五洲伝播出版社)、訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)。
取材編集に携わった『在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』(阪急コミュニケーションズ)も好評発売中!

 

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