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2012年11月

 ノーベル文学賞受賞で“莫言ブーム”巻き起こる

   
   

書店内に陳列された莫言の作品2012年のノーベル文学賞は、現代中国を代表する作家、莫言(モー・イエン)氏(57)が受賞した。
北京時間10月11日午後7時、スウェーデン・アカデミーは「幻想的リアリズムで民話と歴史、現代を融合させた」として授与を発表。莫氏はノーベル文学賞を受賞した初めての中国籍作家となった。

今年は村上春樹氏の呼び声も高かっただけに、予想を上回る朗報となった中国ではにわかに“莫言ブーム”が巻き起こっている。書店では小説が売り切れとなり、莫氏のふるさと・山東省高密市では観光開発に余念がない。果ては、ノーベル賞に賄賂疑惑まで浮上している有様だ――。

   
 

■書店で売り切れ続出

ノーベル文学賞受賞後、書店には「莫言コーナー」が出現「莫言氏ノーベル賞受賞」の知らせを受けて中国では一時、各地の書店やネット書店で著作の売り切れが続出した。
市内の大型国有書店「北京図書大廈」では、受賞後1週間に5000部以上が飛ぶように売れたという(地元紙)。ネットショップ大手の「当当網」や「淘宝網」では、10月下旬時点で一部作品の在庫がなくなり「予約受付」表示が出るなど、こちらも人気が集まっている。

中でも売れ行きがよかったのは、長編小説の『豊乳肥臀』(ほうにゅうひでん、96年)と『蛙』(09年)で、いずれも莫氏の代表作だ。
『豊乳肥臀』は、激動の現代中国史を背景に、偏執的な乳房愛好癖を持つ主人公とその母、さらに8人の姉たちの劇的な運命を描いている。台湾国民党をめぐる表現や赤裸々な性的描写、改革開放後の腐敗の暴露などが問題視され、中国では一時期、発禁処分を受けた。
『蛙』は、農村の女性産科医の人生を通して、中国の一人っ子政策の矛盾とタブーに挑んだ傑作。小説のモデルは、主人公の劇作家が莫言氏、産科医が莫氏の伯母、書簡を送る日本人男性が交流のあった大江健三郎氏……と見られるところも興味深い。

莫氏の作品は、中国では俗に「抽象的で難しい」「読みにくい」といわれている。スラスラ読めるというよりは、中国人でも「数ページ読んだらギブアップした」という人が多いようだ。
莫言作品に詳しい西南大学文学院(重慶市)の王本朝副院長は、こう語る。
「彼の作品はテーマが重く、その内容は歴史、人生、社会の変遷に及んでいる。こうした(重厚な)作品を読むには、豊かな読書経験と文学的イマジネーションがなければならない」(『法制晩報』10月22日付)
その上で“莫言ビギナー”に対しては、まず『紅高粱』などの初期の短中編小説や、短い文章で構成されている上、中国人にはなじみ深い『聊斎志異』のような怪異小説『生死疲労』(06年)が読みやすいとして薦めている。
 

■赤いコーリャン畑を作る!?

莫言氏の郷里であり、たびたび小説の舞台ともなる高密市でも“莫言効果”にあやかろうとする動きが出ている。
「6億7000万元(1元は約13円)を投資して、赤いコーリャン文化を発揚する」
「赤いコーリャンを1万ムー(1ムーは約6.667アール)栽培する。1ムー当たり1000元を助成する」――。
莫氏のノーベル賞受賞後、そんな大々的な文化開発プランが報じられたが(『新京報』10月18日付)、のちにアッサリ否定された。
当初インタビューに答えた地元機関(高密市胶河疏港物流園区管理委員会)の主任のコメントは、「かなり誇張したところがある。まだ調査研究も終えていないし、発表する段階ではない」として、地元当局がこれをガラリと覆したのだ。ノーベル賞に沸き立つ地元の混乱ぶりがうかがえる。

一方、莫氏ゆかりの地を観光開発しようとする公的なフィールドワークも、いち早く行われた(『新京報』10月22日付)。
受賞後まもなく高密市宣伝部の案内で、山東省観光局の調査チームが莫氏の旧居を訪問。長らく無人で古くなった旧居を修理し、さらにそこから10キロほど離れた村にある古い石橋と合わせてツアーコースが組めないか、調査するものだった。石橋は小説『赤い高粱』に登場し、映画「紅いコーリャン」のロケ地ともなった場所だ。

旧居の修理はこれまでにも地元政府が何度か申し出ていたが、莫氏はその都度「税金のムダ遣いになるから」としてこれを断ってきた。旧居が観光開発された場合は「無料開放する」というのが莫氏をはじめとする家族の意向だ。
村人たちからも莫氏は「謙虚な人」と評判のようだ。「旧居を修理せずに、自腹を切って村道を整備した」こともあるという。
 

■贈収賄疑惑まで浮上

ブームの影で、ノーベル賞の“獲得”をめぐる醜聞もかけめぐった。
莫言氏の出身地である山東省の当局者から、選考委員に賄賂として書画が送られていたが、委員は返送した――というのである。
中国での翻訳本出版に合わせて上海市を訪れたノーベル文学賞選考委員の1人で、スウェーデンの中国研究家、ゴラン・マルムクイスト(ヨーラン・マルムクヴィスト)氏が、同市での記者会見で明らかにしたもの(『長江日報』10月22日付など)。
 http://cjmp.cnhan.com/cjrb/html/2012-10/22/content_5076545.htm

それによると、マルムクイスト氏は「山東省の文学担当の当局者から半年前に絵画や古書が送られてきたが、送り返した。その後、当局者は別の選考委員に送った」と話したという。
さらに毎月(中国の)作家から手紙や原稿が届き、「賞金はあなたにあげるから、名誉をください」と裏取引を持ちかける者までいた。マルムクイスト氏は「私が作品を読んだことのある中国の作家は、このような手紙を寄こさない。こうした人々は真の作家ではない」と批判したという。

片や、ノーベル賞の開催国スウェーデンでも、スキャンダル疑惑で沸いているらしい。
同国メディアによれば、莫言氏の受賞は、今年4月にスウェーデンを訪れた中国の温家宝首相が、環境研究に90億クローナ(約1088億円)を投資するとしたことへの見返りではないか? というのだ(『BLOGOS』10月19日付)。
 http://blogos.com/article/48639/?axis=b:28585 

北京市・王府井書店の入口の様子隣国のノルウェーは、2010年にノルウェー・ノーベル賞委員会が「平和賞」を中国の民主活動家、劉暁波氏に授与したため、中国との関係が完全に冷え込んでいる。中国のスウェーデンへの巨額投資と友好姿勢は、ノルウェーへの当て付けのように見られなくもない。

中国当局の贈賄疑惑に対し、マルムクイスト氏と同時期に上海を訪れたノーベル文学賞の審査選定委員、シェル・エスプマルク氏は「完全にでっち上げであり、でたらめだ」とこれを全面否定。
「スウェーデン・アカデミーは完全に独立した機関で、政府から指示を受けることも、資金的援助を受けることもない」
さらに「ノーベル文学賞は、5人の審査選定委員が(250人の候補者リストから)最終的に5人にまで絞り込み、その5人の作品をスウェーデン・アカデミーの会員(終身会員)18人がひと夏をかけ読み込んだ上で選考する。マルムクイスト氏は18人の1人であり、1人の意向で文学賞が決まるわけではない」と、疑惑を完全に打ち消している(『新京報』10月24日付)。
また当局者の贈賄行為を明らかにしたマルムクイスト氏も、授賞理由は「文学的な質」の高さであると改めて強調。「中国の現実を批判する力は、莫言氏が群を抜いている。作品を読めばわかることだ」と、その質の高さに太鼓判を押したという(『新京報』10月22日付)。

当の本人、莫言氏は騒ぎにも動じず、「ブームは1カ月もすれば過ぎ去るだろう」(新華網10月12日付)といたって冷静なようすだが……。
この機会に改めて、ホットな莫言作品をひも解くのもよいだろう。

【莫言氏 略歴】 
本名は管謨業。1955年、山東省東部の高密県(現在は県級市)に農民の子として生まれ、現在も同市に住む。高密市は農工業が盛んな人口約86万人の小都市。
76年に人民解放軍に入隊(97年に離軍)し、80年代から郷土をテーマにした作品を描き続ける。86年発表の『紅高粱』(日本語題『赤い高粱』)は張芸謀監督により映画化され(88年、ベルリン映画祭でグランプリ受賞)、「莫言」の名を世界に知らしめた。
2011年に長編小説『蛙』(日本語題『蛙鳴』)で第8回茅盾文学賞を受賞。12年ノーベル文学賞を受賞した。
幻想とリアリズムを融合させた独特な表現世界で中国の農村社会を描き出した著作で知られ、「中国のマルケス」とも「尋根文学(ルーツ文学)作家」とも評されている。
中国共産党党員、中国作家協会副主席。
  

 
   
   
bestsellere
総合
 

★『新京報』図書ベスト
(北京図書大廈、王府井書店、中関村図書大廈、三聯書店など、市内主要書店やネット書店のデータから統計)
2012年10月19日~10月25日

     
第3位:『檀香刑』

第4位:『釣魚島是中国的固有領土』

第5位:『自控力』

第7位:『論中国』

第8位:『霍乱時期的愛情』

第9位:『紅高粱』
                                                                
 

1.『白鹿原』
陳忠実・著 人民文学出版社 1993年6月初版


2.『你若安好 便是晴天:林徽因伝』(あなたが無事なら晴天に:林徽因伝)
白落梅・著 中国華僑出版社 2011年9月初


3.『檀香刑』
莫言・著 作家出版社 2012年10月


2012年ノーベル文学賞を受賞した莫言氏の代表作の1つ。01年発表の長編小説。
清代末期の山東省を舞台に、鉄道建設を計画するドイツ人技師に妻を陵辱されそうになった男が、技師を殺害したことから始まる、血で血を洗う報復劇……。
愛と憎しみ、人間の残虐性を描き、処刑場面の細密な描写では「残酷すぎる」と論争になった。03年第1回鼎鈞文学賞受賞作品。
日本では『白檀の刑』(中公文庫、上下巻)として翻訳出版されている。 


4.『釣魚島是中国的固有領土』
中国国務院新聞弁公室 人民出版社 2012年9月初


日本政府の沖縄県・尖閣諸島(中国名:釣魚島)国有化をめぐり、日中の対立が深まる中、中国政府が「釣魚島」領有権の正当性をアピールする出版物を相次いで刊行している。この宣伝パンフレットも、そのうちの1つ。先に出版された宣伝パンフ『釣魚島――中国固有の領土』(海洋出版社)と内容はほぼ変わらない(「北京便り」2012年10月号)。
白書は、日本政府の尖閣国有化に対して「中国の主権を侵犯し、(これまでの)中日関係にそむいた」と強く非難。その上で「中国は日本が歴史と国際法を尊重し、中国の領土主権を侵害する行為をやめるよう強く要求する。中国には主権と領土を守る自信と能力がある」と主張している。
国営新華社通信(電子版)は、白書全文の中日対訳版を配信。次いで日本語版も外文出版社から出版された。
 http://jp.xinhuanet.com/2012-09/26/c_131873412.htm 


5.『自控力』(自制力)
ケリー・マクゴニガル著(米)/王岑卉・訳 印刷工業出版社 2012年8月初版


サブタイトルに「スタンフォード大学で最も人気の心理学講座」とある。著者は、健康心理学を専門とする同大学の心理学者。
「私たちが自分の注意力や感情、食欲、行動力をコントロールすることは、その健康や人間関係、経済、事業の成敗に大きく影響する」として、自制心の大切さを説く。これまで抽象概念だった「意志の力」を、最新の科学的成果により解明。
「受講者の97%に影響を与えた“驚きの授業”」といわれ、すでに世界15カ国で刊行された。日本では『スタンフォードの自分を変える教室』として今年10月、大和書房から翻訳出版されている。 


6.『百年孤独』(百年の孤独)
G.ガルシア=マルケス著(コロンビア)/范曄・訳 南海出版公司 2011年6月初


7.『論中国』(中国を論じる、原題『On China』)
ヘンリー・A.キッシンジャー著(米)/胡利平など訳 中信出版社 2012年9月初


1972年、「ニクソン・ショック」といわれた米中和解の立役者であるキッシンジャー氏。
毛沢東、周恩来、鄧小平、習近平など中国首脳との40年にわたる対話を記録するとともに、アヘン戦争以降の歴史や中国文化、米中関係について考察した、中国語版で約650ページにわたる重厚な「中国論」。
日本では『キッシンジャー回想録 中国』(上下巻)として今年3月、岩波書店から翻訳出版されている。 


8.『霍乱時期的愛情』(コレラの時代の愛)
G.ガルシア=マルケス著(コロンビア)/楊玲・訳 南海出版公司 2012年8月初版


マルケス氏のノーベル文学賞受賞(1982年)後、初の小説とされる。85年発表。
コロンビアで内戦が疫病のように拡大した時代を背景に、夫を不慮の事故で亡くしたばかりの72歳の女と、彼女を待ち続けた76歳の男の真実の愛の物語。
日本では『コレラの時代の愛』として、新潮社から翻訳出版されている。 


9.『紅高粱』(赤い高粱)
莫言・著 花城出版社 2011年8月版


1986年発表の中編小説。第4回全国中編小説賞を受賞、張芸謀監督の映画「紅いコーリャン」の原作としても知られる。
1920年代末~30年代、抗日戦争期の中国山東省高密県を舞台に、貧しくも懸命に生きる人々の愛と欲望、死闘を描く。
日本では『赤い高粱』(岩波現代文庫)として翻訳出版されている。 


10.『因為痛,所以叫青春』(痛いから青春という)
キム・ナンド著(韓)/金勇・訳 広西科学技術出版社 2012年2月初


 
     

 

 

文・写真 小林さゆり
日本の各種メディアに中国の文化、社会、生活などについて執筆中。
著書に『物語北京』(五洲伝播出版社)
訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)

 

  Blog: http://pekin-media.jugem.jp/
   
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