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2007年4月 |
読書の推進、国がテコ入れ |

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中国人の読書率が低下している――。そんな事態に危機感をいだいた中国当局がこのほど、ユネスコの「世界・本と著作権の日」(4月23日)にあわせて、読書推進のための全国キャンペーンをくりひろげた。「同享知識、共建和諧」(知識をともにし、和諧社会の建設を)というスローガンをかかげ、全国の指定書店で本のバーゲンセールをしたり、移動図書館を走らせたりして「本を読み、教養を高めよう」と呼びかけた。
一方、読書は生涯教育のパートナーであるとして、5年にわたり「国家閲読節」(読書デー)の制定を提唱している政治家がいる。朱永新氏だ。全国政治協商会議(政協)委員で、蘇州市の副市長、蘇州大学教授でもある。著名作家の王安憶さんらの署名をあつめ、新暦9月28日の孔子の生誕日を「読書デー」にしようと奔走している。
中国人の読書離れを食いとめようと、いよいよ国がテコ入れを図りはじめた。その実情と課題に迫った――。
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■6年で12ポイント減の読書率
中国人の読書離れは年々、深刻さを増しているようだ。昨年春、2005年に行われた「第4回全国国民読書調査」の結果が公開されたが、それによると国民の読書率がおしなべて低下していることが明らかになった(新華社ニュース)。
国内の識字者は、現在、13億人口の85%ほどだといわれる。読書調査によると「国内の識字者の読書率は、2005年に48.7%(識字者のうち、年に1冊以上本を読む人の割合)で、 03年比3ポイント、1999年比11.7ポイントそれぞれ低下した」という。わずか6年ほどの間に、12ポイントも急減したのだ。
さらに中国人の読書量は、年間4.5冊。ロシア人の同55冊、アメリカ人の同50冊に比べても、大幅に下回っているというデータもある(『解放日報』07年3月21日付など中国各紙より。ちなみに日本人は、年間20~30冊とされる)。
いずれも具体的な調査方法は不明だが、これでは教育・出版関係者でなくとも危機感を覚えるというものだろう。
読書をしない理由は「時間がないから」「インターネットで済むから」など。「時間がない」と答えたのは20~29歳の若い世代が最も多く、全体の54.2%を占めた。大学1年生の4割にいたっては、夏休みの半月間に1冊も読書しなかったという。ほかに、書籍代が1冊で数十元(1元は約15円)、高いものでは100元を超えるなど、近年の値上がりに悲鳴をあげる声もあった。 |
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■孔子生誕日を「読書デー」に
急速な読書離れを食いとめようと、23日の「世界・本と著作権の日」にあわせて、読書キャンペーンをくりひろげたのが当局である。中国共産党中央宣伝部(中宣部)、国務院(政府)新聞出版総署、中華全国総工会、中国共産主義青年団(共青団)中央など、党政府の17部門が共同で行った。
スローガンは「同享知識、共建和諧」。胡錦濤政権の政治目標でもある「和諧」(調和)から名付けられたものだ。全国指定の新華書店で本のバーゲンセールをしたり、移動図書館を走らせたり、貧しい農村の小中学校に本を寄贈するなどして「本を読み、教養を高め、中華民族の復興を実現しよう」と呼びかけた。
これに絡めて、北京の大型ブックストア・王府井書店では、新華書店の創立70周年と「世界・本の日」をあわせた記念セールが行われた(4月末まで)。中国中央テレビ(CCTV)や地元紙などのメディアでも、いっせいに読書をすすめる報道があった。
大々的なキャンペーンとは異なり、ひとりの政協委員、教育者としての立場から「読書デー」制定を呼びかけるのが朱永新氏だ。
朱氏は「教育の基本は読書であり、読書は生涯教育のパートナー。受験教育に偏っていては、子どもの精神発育によろしくない」と、5年前から記念日の制定を訴えている。記念日として申請するのは、"学問の神様"、孔子の生誕記念日である新暦の9月28日。ことしは、著名な詩人の趙麗宏氏、女流作家の王安憶さんらの署名もあつめた。
朱氏は語る。「インターネットが普及したが、ネットは簡単に情報を得ようとするもの。熟読したり、熟考したりするには紙媒体がいちばんだ。それは、人間の思考能力や学習能力を高めることができる」(『新京報』3月13日付)
だが、「読書デー」の申請は、当局から却下されつづけている。
「『もう記念日は設けない』という理由からだが、それ以降も『航海デー』や『文化遺産保護デー』が施行された。今後も注意を喚起していきたい」(朱氏)
読書デーの制定に、あふれる情熱を傾けている。
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■読書離れは社会問題!?
読書離れについて、識者はどう見ているのか? 中国出版集団公司の聶震寧・副総裁は、こう語る。
「理由は第1に、ネットの普及で読者が流れた。第2に、生活が忙しくなり、読書にあてる時間が減った。第3に、広く関心をあつめる優良図書が不足している。第4に、社会への呼びかけが足りないことだ」(『解放日報』)
さらに、読書離れは人々の責任のみならず、社会問題だという有識者の声もある。
「休日ともなると、書店の中は立ち読み・タダ読みする客でごった返す。やはり読書が好まれていることの証しで、中国人の読書離れを決めこむのはいかがなものか。公共図書館の増設や整備こそが急がれているのではないか」(同)
出版業者に対しても、耳の痛い指摘がある。
「子どもたちには漫画やアニメ、ファンタジー小説を、青年にはトレンドものを、その他の世代にはベストセラーをあてがえばいいといった画一化は、業者の手抜きなのでは?」(『燕趙都市報』06年9月4日付)
業者が功利主義に走るあまり、どうしても売れ筋の本に力を入れる。想像力を高め、認識を広め、クリエイティブな力をつける「読書の目的」「出版の意義」を見失っているのではないか? というのだ。
中国人の読書離れは、めざましい社会の変化と切り離せない現象のようだ。当局のテコ入れや有識者の提唱が、どこまで功を奏するか。普及するインターネットと出版業者が、いかに連動していくか。
さらに言えば"出版不況"の日本にとっても「高みの見物」とはいかないテーマであるだろう。人口13億の巨大市場が直面している、読書離れとその攻防戦。これからも注目する必要がありそうだ。
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中国鉄道省の「第6次鉄道高速化」によるダイヤ改正が、4月18日に行われました。目玉は、最高時速200キロ以上で走る高速車両「和諧」(調和)号の運行です。
日本やフランス、ドイツなどの技術をとりいれ、中国で生産したCRH2型車両(通称・弾丸)を導入。北京―上海間を、従来より2時間スピードアップした10時間で結ぶそうです。一部の車両は、鳥のくちばしのような東北新幹線の「はやて」に似ていますが、国内メディアは「中国が独自設計した国産列車」を強調しています。
ダイヤ改正にともない、市内の書店では早くも新版の時刻表がお目見えしました。『全国鉄路旅客列車 時刻表』(中国鉄道出版社、4月初版)です。表紙には、緑ゆたかな都市を走る"和諧号"が描かれています。
今から30年ほど前の1978年、日本を訪れた鄧小平氏は、新幹線に乗ったさいに「ムチで追い立てられるようだ。中国には速すぎる」という感想をもらしたとか。その新幹線型車両が、中国にも導入されたことを思うと、感慨深いものがあります。
旅行シーズンの到来です。広い大陸を200キロのスピードで走り抜けるのも、また一興かもしれません。
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写真・文 小林さゆり
日本のメディアに中国の文化、社会、生活などについて執筆中
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http://china-media.jugem.jp/ |
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