1.『中国農民調査』
陳桂棣/春桃著 人民文学出版社 2004年1月1日初版
まず、最初にお断りしなければならないのは、北京の三聯書店でこのベストテンを調査した3月28日に、本書はすでに「なくなって」いたことだ。その後も大手3店舗で調べたが、ない…。発禁処分を受けたのか? はたまた増刷が追いつかないだけなのか? 店員に聞いても「事情はよくわからない」という答えが返ってくるばかりである。いずれにしても3月末現在、オンラインショップを含めて、北京で本書が手に入らないのは事実。読者の皆様にはどうかご了承くださいますよう……。
今年の全国人民代表大会(全人大、国会にあたる)で可決された政府活動報告は「“三農(農業、農村、農民)問題”の解決」を高らかにうたいあげたが、本書はまさしくその「三農問題」の実態に、鋭いメスを入れた渾身のレポートである。安徽省合肥市作家協会主席の陳桂棣とその夫人である春桃が、3年の歳月をかけて同省の各地を調査。「ほんとうの“三農問題”とは、農民が苦しく、農村が貧しく、農業が危険であることだ。9億農民のための問題解決なくして、真の現代化はありえない」と陳桂棣は手厳しい。
さらに本書が辛らつなのは、「農民を苦しめる“悪代官”たち」を実名で報道したこと。昨年末、隔月誌『当代』に発表されるや否やみるみるうちに反響を呼び、書籍化されると初版3万部が早くも完売、3カ月足らずの間に総計10万部はセールスしたといわれている。
本書のゆくえは知れないが、じつはインターネットを使って中国の検索サイトで調べると36万件ほどの関連アドレスがずらりと出てくる。全文を掲載しているホームページもあるので、ご興味のある方はそちらを参照いただきたい。
2.『往事并不如烟』(往事は決して煙の如く消えず)
章詒和著 人民文学出版社 2004年1月初版
3.『中華人民共和国憲法』
中国民主法制出版社
今年の全人大は3月14日、憲法改正案を可決して閉会した。その焦点のひとつが、憲法第2章第33条に新しく「国家は人権を尊重し保障する」という1項が加えられたこと。
憲法に明文化されたことで、これからは「『人権の尊重と保障』の徹底的な実行が保障され、中国の社会主義的な人権活動の推進や、国際的な人権活動における交流・協力に役立つ」(人民ネット)といわれている。
改正憲法をまとめた冊子は、全人代の閉会後、中国民主法制出版社、中国法制出版社、法律出版社などからいっせいに出版されている。
4.『老照片(第三十三輯)』(古い写真 第33集)
馮克力責任編集 山東画報出版社
5.『禅是一枝花』(禅は一枝の花)
胡蘭成著 上海社会科学院出版社
6.『中華伝統文化経典文庫』
民俗文化編写組編訳 中国致公出版社
7.『同学少年都不賤』(学友みな貴し)
張愛玲著 天津人民出版社 2004年3月初版
張愛玲(1920~95年)は、現代中国がほこる女流作家。代表作に中編小説『傾城之恋』などがある。1944年当時、汪兆銘政権下で宣伝部政務次長だった胡蘭成(作家・思想家)と出会い、2人の思想と文学、愛に大きな影響を与えあった。記録によれば44~47年の一時期に、胡蘭成と結婚していた。
本書は、70年代に彼女が書き残していた未発表の作品を、初めて1冊の本にまとめたもの。1930~40年代、上海のあるカトリックの女学校で、たまたま同じルームメイトとなった2人の女子生徒の異なる境遇や精神的な成長をえがく。
「自伝的小説」といわれているが、その一方で、アメリカの左翼女性記者や中国初の原発実験などのプロットを挟み、小説の時代感に厚みをもたせた――とされている。人生の移り変わりと無常をえがき、新機軸をうちだした張愛玲の注目作だ。
8.『毛沢東伝』
フィリップ・ショート著(英)/楊小蘭など訳 中国青年出版社 2004年3月北京第3刷
原作の『MAO A LIFE』は1999年、イギリスBBCの元北京特派員で歴史学者のフィリップ・ショートが、7年ものフィールドワークと研究を経てイギリスで上梓。この翻訳版は、昨年の毛沢東生誕110周年に合わせて中国で出版された。中国語で600ページ余りにおよぶ大著である。
毛沢東と中国共産党を世界に伝えた外国人では、米国のジャーナリスト、エドガー・スノーや、アグネス・スメドレーがすぐに思い浮かぶだろう。その後もたくさんの外国人ジャーナリストが毛沢東の伝記に挑んだものの、「生涯にわたる伝記とはいえなかったり、二次資料が多く不正確だったり」して、中国側としては満足のいくものではなかったという(中文版序言)。
その中にあって本書は、「客観的かつ公平、全面的に」毛沢東の生涯を描いている。「学術的な伝記でありながら、生き生きとした文体と、馥郁とした文化の香りが堪能できる」というのである。その視点や分析は中国人とは異なるが、むしろ「同じであることを求めるのでなく、中国の読者にも西洋人との視点の違いを比べてほしい」(同)と語っている。
原作本を受けついだらしく、目をひく真っ赤な装丁だ。フィリップ・ショートが第二、第三のスノーになるかは別として、本書の人気は高まっている。
9.『今生今世』
胡蘭成著 中国社会科学出版社 2003年12月第2刷
汪兆銘政権下で『中華日報』総編集長を務め、戦後日本に政治亡命した思想家、胡蘭成。一時期は作家の張愛玲と結婚していた。81年東京で死去。
最近は中国内地でも胡蘭成の再評価が高まっており、今回もベストテン入りした禅の思想書『禅是一枝花』など、復刻版が続々と刊行されている。随筆集である本書も、そんな復刻版の一つ。ふるさと胡村の思い出「清明」「暑夜」「過年(年越し)」をはじめ、愛する張愛玲との交友を描いた「民国女子」「天涯道路」など、日常のあふれる思いが豊かな筆致でつづられる。文豪の心の琴線に触れられるような一冊である。
10.『達・芬奇密碼』(原題『THE DA VINCI CODE』、ダ・ヴィンチの暗号)
ダン・ブラウン著(米) 朱振武/呉晟/周元暁訳 上海人民出版社 2004年3月第4刷
パリのルーブル美術館で起きた殺人事件に、アメリカの大学教授が巻き込まれていく。ダ・ヴィンチの名画「最後の晩餐」などに隠されたキリストの秘密とは……。ダ・ヴィンチ、ニュートン、聖杯伝説というキーワードが複雑にからみあいながら、謎解きが進められる。豊富な史実と創作とが混ざりあう新感覚の推理小説。翻訳本ながら、中国にもいよいよエンターテインメント文学が浸透してきたことをうかがわせる売れ行きである。
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