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2003年7月  わくわく&ドキドキ 草原のシリンホトへ

     
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青い空と白い雲、どこまでも続く草原には、ヒツジや馬がのんびり草をはんでいる……。そんな牧歌的なイメージにあこがれて、中国の内モンゴル自治区を旅してきました。北京から北へ、タイブス旗(太僕寺、旗は県に相当)とシリンホト(錫林浩特)市の草原をめざした片道660キロの旅。それは、これまでのイメージを一新させるかのような、思いがけない発見と驚きに満ちていました。わくわく&ドキドキの、シリンホトへの珍道中――。

今回は、いささか趣向を変えて「夏休み特番・シリンホト便り」をお送りします。

 

 
     

■牧民のいかりやさん

激しい雨にみまわれた朝でした。北京を出発した小型の長距離マイクロバスは、高速にのってぐんぐん北上、悪天候などものともせずに、定刻どおり4時間ほどで河北省張家口市に到着しました。張家口は、北京と華北地方の河北省、山西省、内モンゴル自治区をむすぶ交通の要衝で、町の北側には、明代に築かれたという長城がそびえています。

bj200307_04内モンゴルの中部南端にあるタイブス旗まで行くには、ここからまた、別のバスに乗り換えて3時間ほどかかります。昼食をそそくさとすませた私たち一行4人は、みるからにオンボロそうな、宝昌鎮(町)行き長距離バスに乗り込みました。

クーラーなどないオンボロバスは、人いきれでむせ返っていました。やっとの思いで空席に座り、「やれやれ」と日程表をとりだして見ていたその時――。モンゴル語の話し声が、肩越しに聞こえてきました。「タイブス旗」「宝昌」などといっているようです。「日程表をのぞき見している。いやだな」と、振り返りざまににらみ付けると、そこには真っ黒に日焼けした、純朴そうなおじさんの顔……。
  「あっ、いかりやさん!」
関係ありませんが、おじさんは俳優のいかりや長介さんにそっくりでした。澄んだ目が、好奇心で輝いています。そして互いに親近感を覚えたのでしょうか? 私たちは、ともにつたない中国語で、ぽつりぽつりと話しはじめたのでした。

bj200307_02おじさんは、生粋のモンゴル族の牧民でした。3人連れで、張家口での用事を済ませ、タイブス旗の先・サンギーンダライ(桑根達来)へ帰るところだといいます。
「今年は雨が降り続いていてね。2カ月くらいこんな調子さ。5年ぶりの恵みの雨だよ。乾燥が激しくて、砂漠化が進んでいたけど、今年の草原はなかなかのものだよ。フッフッフッ…」
おじさんは、そういって目を細めました。車窓には、雨にぬれてキラキラと光る大草原が広がっています。
「牧民といっても、今は定住しているよ。昔は山羊(ヤギ)や綿羊(ヒツジ)を何百匹も飼ったものだが、草を根こそぎ食べてしまう。砂漠化が進むというので、放牧が厳しくなったのさ。それで今では、乳牛の飼育を主にしている。牛はじょうずに、草の根を食べ残してくれるからね」

環境保護などの理由で、牧民の定住が強化されはじめたのは1990年代初頭。今では、内モンゴルの牧民の9割以上が、伝統的な遊牧生活から定住に移行しました。とくにここ数年は、激しい砂漠化を食い止めようと、家畜の種類や飼育法にも制限が加えられているようです。なるほど、ときおり草原に見える移動用住居の「包」(パオ、モンゴル語でゲル)は観光用がほとんどで、人々は漢民族と変わらない、レンガ造りの強固な家に住んでいました。
  「今じゃ白菜だって作っているし、すっかり農民のような生活さ(笑)。だけど環境保護のためには、これも仕方がないんだよ…」

おじさんの話は、なおも続きました。内モンゴルで草原を見るなら、シリンホト以北のホロンバイル盟(呼倫貝爾、盟は行政区)あたりへ行くといいとか、土産に買うなら、純毛ブランドの「オルドス(鄂爾多斯)セーター」がいいとか……。とつとつとした慣れない中国語ながら、自分のこと、生活のこと、内モンゴルのことを一生懸命話してくれました。きっと遠来の客である私に、ふるさとの素晴らしさを伝えたかったのかもしれません。

タイブス旗のリゾート村でバスを降りた私たちは、「牧民のいかりやさん」に手を振りました。おじさんも、節くれだった大きな手を振っていました。同行者の一人で、モンゴル文学を研究する日本人留学生のTさんが、ふと、つぶやきました。「牧民の数も減っているので、ナマの声を聞くなど滅多にないこと。かけがえのないチャンスでしたね」
故郷を想う「いかりやさん」のメッセージが、いっそう心にしみ入りました。

 

■内モンゴルの東西対立

bj200307_01内モンゴル自治区は、中国北部に位置し、西から北にかけてモンゴル国やロシアと隣り合っています。面積は日本の3倍にあたり、人口約2400万人。うち漢民族が約8割、モンゴル族を主とする少数民族が2割ほど住んでいます。
この日、私たちがめざしたタイブス旗は、シリンゴル(錫林郭勒)盟の最南端にあり、「北京からもっとも近い草原がある」といわれています。人口は約21万人。うちモンゴル族は5000人と人口のわずか2%でしかなく、ここでも漢民族との「同化」が進んでいることがうかがえます。
そして――そんな少数民族の問題にも、さまざまな側面があるようです。予期せぬ事件は、タイブス旗での一夜に起こりました――。

草原の中に、宿泊用の「包」が20~30も建ち並んだところ、それがその晩の宿となるチンギス・ハーン リゾート村(成吉思汗渡假村)でした。伝統的なフェルト製ではない、レンガ造りの包もあります。草原でひとしきり乗馬を楽しんだあと、包型のレストランで夕食をとっていた時のことでした。
内モンゴル特産の白酒(バイジュウ)と塩ゆでの羊肉に舌鼓をうち、すっかり気分がよくなった私たちは、しぜんと歌でも歌いたくなりました。とりわけ、同行者の一人で北京の学生Oさんは、お隣の遼寧省出身のモンゴル族です。「モンゴルの男は、酒、歌、馬だ!」と気勢をあげて、ふるさとに古くから伝わる民謡を歌い出したのです。
民謡の「ガダ・メーレン」は清代末期、漢民族が東モンゴルに入植したさい、それに抗して反乱をおこし、非業の死をとげた「ガダ」という英雄をたたえる歌でした。「ノンジァ」は、手綱からはなれた馬にたくして、故郷を思うもの悲しい調べでした。いずれの歌も、東モンゴル地方に伝わる民謡です。Oさんの歌声が、包の中に大きく響きわたりました。

その時です! 隣の円卓に座っていたグループの一人が、ものすごい形相で迫ってきました。「オレたち西のモンゴル族の前で、東の歌なんか歌いやがって!」と、これは後でOさんやTさんが訳してくれたモンゴル語ですが、東の歌を披露したのが、癇に障ったらしいのです。すいぶんと酔っぱらい、足もともおぼつかない様子です。よく見ると、左手に空のビール瓶をにぎりしめ、今にも振り下ろさんばかりではありませんか!
「キャーッ」。ケンカになってしまう。もう、どうしていいのか、わかりませんでした。酩酊男は、なおも文句を繰り返しています。Oさんたちは、騒ぎにしないようにと、完全に無視を決めこんでいました。そのうち、異変に気づいた隣のグループや、服務員たちが男を取り押さえてくれ、どうにか事なきを得ましたが、包を移動してからも、男の血走った目が頭からはなれませんでした。

bj200307_05歴史上、部族同士の抗争が繰り返されてきた土地柄です。同じ自治区に住むモンゴル族同士であっても、自分の故郷や、祖先の名誉を汚すわけにはいかないのでしょう。
「同じ内モンゴルの中でも、東と西では反目しあっていますよ」とTさん。「『東は人口が多く、知識人をたくさん輩出している。権力も集まっている』と東モンゴルの人が自慢すれば、『だから東は鼻持ちならない。西は今でも、伝統的な牧畜文化を守っている。半農半牧の漢化がすすむ東とは、わけが違う』と西モンゴルの人が反発します。いがみあいの火種はつきないのです」(Tさん)。もっとも、モンゴル族のOさんは「ふつう歌くらいではケンカにならないのですが……」と、意表をつかれた様子でした。

漢民族ですら「北京と上海は、仲が悪い」といわれます。チベット自治区の「前蔵・後蔵」、新疆ウイグル自治区の「南疆・北疆」など、歴史の過程や環境・文化の違いなどにより、多かれ少なかれ、同一地域に住む同じ少数民族同士の“仲たがい”があるようです。よく「少数民族問題」と一言でいい表しがちですが、じつはその中にも多様な側面があるのだと、改めて知った出来事でした。

 

■たらい回しのはてに…

2日目の朝も雨でした。この日は、タイブス旗から300キロあまり北のシリンホト市をめざすのです。悪天候のため、路線バスの運行はあてにならないと、リゾート村そばの宝昌鎮からタクシーを頼んで向かうことにしたのですが……。
「こんな雨だし、4人で260元(1元は約15円)ならいいよ。支払いは着いてからでいいから」と漢民族の運転手。相場より高めでしたが、雨脚は強くなるばかり。背に腹は替えられないと、私たちは車に乗り込みました。

タクシーは、草原を貫く一本道を、飛ぶように走りました。メーターを見ると、時速100キロは軽く超えています。「こ、この分だと、早く着きそうだね」。私たちはいささか不安にかられながらも、必死でシートにしがみついていました。
1時間後――。運転手は突然、とある町で停車すると、車を降りて別のタクシーをつかまえました。「さあ、あんたたち、ここで降りて。車を乗り換えるんだよ」
ハア? とっさに何が起こったのかわかりませんでした。次の運転手が、最初の運転手に100元札を手渡しています。どうやら、運転手同士の交渉が成立したようなのです。「私たち、たらい回しにされている……」
雨天に300キロを走行し、運転手は再び戻らなければならない、というのは確かに大変なことでした。「でも、途中でバトンタッチするなんていわなかったじゃない」「この運転手は、ちゃんと送り届けてくれるのだろうか?」。2台目の車に乗り換えたものの、私たちは半ばパニック状態でした。車の中は、運転手に気づかれまいと、日本語とモンゴル語によるやりとりが続きました。

bj200307_a01そして、さらに1時間後――。サンギーンダライに着きました。あの「いかりやさん」が住む地方都市です。すると運転手がおもむろにいいました。「もうこれ以上、行くのはいやだ。列車の駅もあることだし、ここで降りてくれないか?」
案の定、「たらい回し」でした。結局、この日は列車がなかったので、駅前食堂で昼食をとっていた別の運転手を“確保”してもらい、私たちは3台目のタクシーに乗り換えました。もちろん運転手同士、料金清算をしていたようです。

シリンホトについたのは、夕闇迫るころでした。「ボラレるのではないか?」「草原の真ん中で、降ろされるのではないか?」と最後まで気をもみましたが、それでもなんとか到着し、タクシー代も予定どおりの260元で済みました。
ここで、つくづく肝に銘じた教訓が「内モンゴルを個人で移動するなら、路線バスか鉄道、または飛行機で」「タクシーを頼むなら、地元の知人に同行してもらう」ということ。草原は、はてしなく広がり、町以外では、タクシーをあまり見かけませんでした。路頭の「迷える子羊」にならないためにも、足の確保はしっかりしておきたいものだと思いました。

■草原に抱かれて

3日目。ようやく天気が回復し、シリンホト市から東北の郊外へ、車で約15分のゲゲーンオボー リゾート村(葛根敖包渡假村)を訪れました。
数年前につくられたという観光施設で、草原の一角には、宿泊用やレストランの包がぽつん、ぽつんと建っていました。小高い丘に目をやると、石を積み上げた「敖包」(アオバオ、モンゴル語でオボー)の丸い影が見えました。モンゴル族の道標であり、神が宿るという神聖な場所でもあります。

bj200307_17敖包の丘にのぼって、草原を見わたしました。吹く風が心地よく、青い空には白い雲がぽっかりと浮かんでいます。高層ビルや現代的な建物は、どこにも見当たりませんでした。緑のカーペットがどこまでも続いています。その上をゆっくり進む大きな影が、雲の流れを示していました。
「気持ちがいいですね~。草原を見ると人生観が変わるというけど、本当ですね。北京に帰りたくないくらい」と、日本人留学生のYさんが歓声をあげていました。大都会の北京から、そう遠くないところに自然が生きているのです。あわただしい日常から抜け出して、草原に抱かれている自分とは何なのだろう? ふと、不思議な気持ちにかられました……。

こうして、わずか3日間の旅は終わりましたが、それは驚きの連続でもありました。多様な中国にふれたり、自然環境に思いを寄せたり、自分自身を見つめたり――。内モンゴルを旅すると、そんな新しい自分に出会えるのかもしれません。

了。

 

 
   
   
     
     
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■シリンホト旅行 おススメの本

揚帆書店(錫林浩特市錫林大街工人文化宮
  TEL:中国0479-8231339)
※モンゴル語の原書が豊富な書店。ご紹介したのは、中国語の本です 

     
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1.『錫林浩特草原風情』(シリンホト草原風情)
王建新 編著 同・叢書創作研究会

――草原を曲がって流れる「錫林河九曲湾」をはじめシリンホトの9大景観、自然保護区、畜産品、地方料理、動植物など、シリンホトの観光資源をこの1冊に凝縮。とくに、シリンホトだけでも20を数えるリゾート村や観光施設の連絡先が記されているのは、ありがたい。


2.『錫林郭勒草原旅遊』(シリンゴル草原旅行)
錫林郭勒盟旅遊事業管理局

――1998年に、国家レベルの草原自然保護区に指定された「シリンゴル草原」の美しい景観と、そこに生きる人々の暮らしを、カラーグラビアで紹介する。


3.『郭氏 蒙古通』(郭氏 モンゴル通)
郭雨橋 著 作家出版社

――筆者は、内モンゴル自治区四子王旗の出身。内モンゴル作家協会に所属する作家で、モンゴル文化研究家である。本書では、モンゴル族の習俗(冠婚葬祭)や住居、服飾、飲食、牧畜などについて、エッセイ風に解説している。モンゴル族の牧畜文化の “初心者”にとっては、参考になる1冊である。

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■旅のメモ

・グンボラクソム(貢布拉嘎蘇木)旅遊点
チンギス・ハーン リゾート村(成吉思汗渡假村)℡:中国0479-5887098
※包宿泊80元~、乗馬1時間50元程度
・ゲゲーンオボー リゾート村(葛根敖包渡假村)℡:中国0479-8209644
・なお、今年は7月16日から約1カ月間、北京―シリンホト間の直行便が毎日、運航しています。

 

 

 

写真・文 小林さゆり
日本のメディアに中国の文化、社会、生活などについて執筆中

 

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