■たらい回しのはてに…
2日目の朝も雨でした。この日は、タイブス旗から300キロあまり北のシリンホト市をめざすのです。悪天候のため、路線バスの運行はあてにならないと、リゾート村そばの宝昌鎮からタクシーを頼んで向かうことにしたのですが……。
「こんな雨だし、4人で260元(1元は約15円)ならいいよ。支払いは着いてからでいいから」と漢民族の運転手。相場より高めでしたが、雨脚は強くなるばかり。背に腹は替えられないと、私たちは車に乗り込みました。
タクシーは、草原を貫く一本道を、飛ぶように走りました。メーターを見ると、時速100キロは軽く超えています。「こ、この分だと、早く着きそうだね」。私たちはいささか不安にかられながらも、必死でシートにしがみついていました。
1時間後――。運転手は突然、とある町で停車すると、車を降りて別のタクシーをつかまえました。「さあ、あんたたち、ここで降りて。車を乗り換えるんだよ」
ハア? とっさに何が起こったのかわかりませんでした。次の運転手が、最初の運転手に100元札を手渡しています。どうやら、運転手同士の交渉が成立したようなのです。「私たち、たらい回しにされている……」
雨天に300キロを走行し、運転手は再び戻らなければならない、というのは確かに大変なことでした。「でも、途中でバトンタッチするなんていわなかったじゃない」「この運転手は、ちゃんと送り届けてくれるのだろうか?」。2台目の車に乗り換えたものの、私たちは半ばパニック状態でした。車の中は、運転手に気づかれまいと、日本語とモンゴル語によるやりとりが続きました。
そして、さらに1時間後――。サンギーンダライに着きました。あの「いかりやさん」が住む地方都市です。すると運転手がおもむろにいいました。「もうこれ以上、行くのはいやだ。列車の駅もあることだし、ここで降りてくれないか?」
案の定、「たらい回し」でした。結局、この日は列車がなかったので、駅前食堂で昼食をとっていた別の運転手を“確保”してもらい、私たちは3台目のタクシーに乗り換えました。もちろん運転手同士、料金清算をしていたようです。
シリンホトについたのは、夕闇迫るころでした。「ボラレるのではないか?」「草原の真ん中で、降ろされるのではないか?」と最後まで気をもみましたが、それでもなんとか到着し、タクシー代も予定どおりの260元で済みました。
ここで、つくづく肝に銘じた教訓が「内モンゴルを個人で移動するなら、路線バスか鉄道、または飛行機で」「タクシーを頼むなら、地元の知人に同行してもらう」ということ。草原は、はてしなく広がり、町以外では、タクシーをあまり見かけませんでした。路頭の「迷える子羊」にならないためにも、足の確保はしっかりしておきたいものだと思いました。
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