1)『我把青春献給低』(青春をあなたに捧げる)
馮小剛 著 金麗紅など責任編集 長江文芸出版社 2003年3月初版
中国コメディ映画の第一人者、馮小剛(フォン・シャオガン)監督の回想録風エッセイである。『再見のあとで』(1992年、脚本)、『太陽の少年』(95年、出演)、『甲方乙方』(97年、監督)、『没完没了(ミレニアム・ラブ)』(99年、監督)など、数々のヒット作を世に送り出してきた馮監督。作品に込めた思いや舞台裏、私生活のようすが十二分に綴られる。
「機知とユーモア、悔しさと重々しさ、それが馮小剛である」とは、本書に記された監督評。監督自身は「ユーモアは、一種の労働態度だ」と述べている。
2)『老照片(第二十八辑)』(古い写真 第28集)
馮克力 責任編集 山東画報出版社 2003年4月初版
読者から寄せられた20年以上前の写真とそれを紹介する文章(散文、エッセイ、説明など)で、中国の近現代を見つめ直そうとする隔月誌。
3)『我的非正常生活』(私の異常な生活)
洪晃 著 海南出版社 2003年3月初版
著者の洪晃は、中国の文人・章士釗の外孫で、作家・章含之の娘であるという名門一家の生まれ。名監督・陳凱歌(チェン・カイコー)の前妻でもあった。
外交部(外務省)の派遣で、12歳のときに単身ニューヨークに留学、帰国後はコンサルタントや貿易、投資などの業務にかかわり、現在は『I LOOK 世界都市』『楽』『青春一族』などの雑誌を生み出して、一躍有名な出版人となった。
名門の出でありながら、「率直で個性的、きたない言葉を平気で話し、勇敢に誤りを認め、人材を適所に生かすのにたけている」という洪晃。そんな彼女の魅力あふれる半生が、本人と周りの人たちの本音で語られている。
4)『慢』(原題『La lenteur』)
ミラン・クンデラ著(仏) 馬振騁 訳 上海訳文出版社 2003年2月初版
ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』は、チェコスロバキアの「プラハの春」と、その後のソ連軍侵攻を描いた哲学的恋愛小説で、中国の「6.4天安門事件」にも影響をあたえたといわれている。今回のベストテンには、そのクンデラの2作品が登場。いまも読者たちのあつい支持を受けていることがわかる。
パリ郊外の城で一夜を明かすことになった、クンデラとおぼしき作家夫婦が見たものは……。現代と18世紀の幻想がいりまじる哲学的小説で、日本では『緩やかさ』(集英社、1995年)というタイトルで、邦訳出版されている。
5)『王蒙自述:我的人生哲学』(私の人生哲学)
王蒙 著 人民文学出版社 2003年1月初版
中国の現代作家を代表する、王蒙の自叙伝的エッセイである。1934年北京に生まれ、14歳で入党(地下党員)した王蒙は、若くして長編小説を書き始めるが、右派のレッテルを貼られて63年から16年間、新疆ウイグル自治区イリの農村で働く。79年に名誉回復し、北京で作家活動を再開。86~89年には中国文化部部長(大臣)を務め、現在は中国作家協会副主席の任にある。
「人生で最も重要なのは"何をしないか"を知ること」「最も良い人間関係は(関係を)忘れること」「逆境は人生の試練と挑戦である」など、その波乱の人生からつむぎ出された珠玉の人生哲学が、あますところなく語られている。
6)『在宋美齢身辺的日子』(宋美齢のそばにいた日々)
張紫葛 著 団結出版社 2003年3月第2刷
「宋家の三姉妹」の三女、宋美齢は、台湾に逃れた蒋介石の夫人である。著者は1939年、重慶で新聞『大広報』の仕事についていたとき、中国戦時児童保育会の名誉理事長であった宋美齢と出会う。そして、彼女が大陸を離れるまでの9年間にわたり、その機密秘書となったのである。
長女の宋靄齢(財閥の孔祥熙夫人)、二女の宋慶齢(孫文夫人、元・中国国家副主席)とともに、三姉妹はなにかと比較されてきた。「一人は金を愛し(靄齢)、一人は権力を愛し(美齢)、一人は人民を愛した(慶齢)」といわれているが、実際はどうだったのか? 著者は、「実事求是(事実にもとづき、真理を求める)をむねとして、時間の検証と読者の鑑別、歴史家の参酌を仰ぎたい」と語り、見たまま、接したままの宋美齢を描写している。
7)『海辺的触夫触』(海辺のカフカ)
村上春樹 著(日) 林少華 訳 上海訳文出版社 2003年4月初版
昨年秋、日本で話題をさらった村上春樹の長篇書下ろし新作『海辺のカフカ』(新潮社、上・下巻)が、はやくも中国で翻訳出版された。訳者は、村上春樹の作品ではおなじみの林少華。15歳の少年と多彩な登場人物たちがくりひろげる不思議な村上ワールドを、丁寧かつ深みのある中国語で再現している。
8)『身芸』(原題『L'identite』)
ミラン・クンデラ著(仏) 董強 訳 上海訳文出版社 2003年2月初版
熟年男女の危うい愛の物語。「男たちを移り歩く」女のもとにある日、一通の手紙が届く。山のホテルで知り合った同棲相手がいるのだが、女の心は好奇心で揺れ動き……。邦訳本に『ほんとうの私』(集英社、1997年)が出ている。
9)『中国文人的非正常死亡』(中国文人の異常な死)
李国文 著 人民文学出版社 2003年4月第2版
漢の武帝に「宮」(去勢)の刑を受けた歴史学者の司馬遷、泥酔して河に落ち、帰らぬ人となったと伝えられる詩仙・李白、海南島に流された後、赦しを受けて九死に一生を得るも、帰還する途中で病死した宋代の詩人・蘇東坡(蘇軾)……。古代中国の文人32人の死を見つめた本書は、文人たちが類まれな才能をもっていたがために、ときに権力に利用され、ときに見放され、ひとしく非業の死を遂げていたことを改めて教えてくれる。
10)『激情時尚―70年代中国人的芸術与生活』
(激情の潮流―70年代中国人の芸術と生活)
蕭悟了 著 山東画報出版社
70年代、つまり「文化大革命」時代の後半に、数多くつくり出された"プロパガンダ・アート"。それは、きわめて政治的でありながら、ポップでパワフルな独特の雰囲気をかもし出している。
国画(水墨画)や年画、版画、油絵、彫刻など、あらゆる手法が駆使された当時の名作を通して、激動期の中国をふりかえる。カラーページで再現された作品からは、時代の勢いまでもが伝わってくるようだ。
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