中国文学の最前線――躍進する中国SF③

投稿者: | 2022年7月15日

第三回 羽ばたく中国史SF

大恵 和実

■はじめに――中国史SFとは何か

 本連載の第一回で、20世紀後半にSFの拡張が意識された結果、いまやSFを厳密に定義することは不可能であると述べた。とはいえ、やはりSFといえば未来や技術を想起する人が多いことは否めない。しかし、SFには歴史を題材にした作品も一定数存在していることを忘れてはならない。6月に出たばかりの伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』(ハヤカワ文庫、2022年)にはコラム「改変歴史」が収録されており、1960年代から現在までの日本における歴史SFの概要をうかがい知ることができる。
 劉慈欣の『三体』を読んで中国SFにはまった筆者は、短篇集やアンソロジーを読み進めるうちに、中国SFに魅力的な歴史SFが多数存在していることに気づいた。そこで昨年、筆者は中国SFの中から中国史ものを選りすぐった『中国史SF短篇集 移動迷宮』(中央公論新社)を刊行し、飛・馬伯庸・程婧波・梁清散・宝樹・韓松・夏笳の7作家8作品を紹介した。時代は春秋戦国時代から中華民国まで、ジャンルはタイムスリップものから歴史のifを描いた改変歴史もの、ファンタジーや歴史考証SFなど多岐にわたっている。その際、中国の歴史を題材とするSFを中国史SFと呼び、そのおおまかな範囲を文字資料が出現する殷周時代(前16~前8世紀)から20世紀半ばとした。また、歴史上の人物が現在・未来にタイムスリップする作品も中国史SFに含めた。しかし、現代史(20世紀後半)については、中国史SFに含めるのを躊躇ってしまった。なぜならば、20世紀後半はまだ「歴史」として客観視するのが難しいと考えたからである。実際、日本でも1960~90年代を題材にした小説を歴史小説の範疇には入れていないように思われる。しかし、20世紀後半の中国では中華人民共和国建国・大躍進政策の失敗・文化大革命・改革開放・天安門事件と中国内外を揺るがす重要な出来事が発生しており、中国SFとも深く連動している。そこで本稿では、『移動迷宮』よりも定義を拡張し、20世紀後半(現代史)の重大事件を題材にしたSFも中国史SFに含めて論ずることとする。
 中国SFについて紹介してきた本連載では、拙稿「中国史SF迷宮案内」(『移動迷宮』所収)を踏まえた上で、第三回と第四回にかけて中国史SFについて語っていきたい。今回は、中国史SFの分類・歴史などを述べつつ、日本未邦訳の作品を中心に紹介していく。

■中国史SFの分類

 中国史SFといってもその内容は多岐にわたっている。そこで、まずは中国史SFを形式面から分類しておきたい。筆者が『移動迷宮』を編纂する際に参考にしたのが、中国初の中国史SFアンソロジーの宝樹編『科幻中的中国歴史』(生活・読書・新知三聯書店、2017年)である(1)。宝樹は、その序文「当科幻遇到歴史」で、中国史SFをタイムスリップ・秘史・別史・錯史の四つに分類している。
 タイムスリップはよく知られていると思うが、タイムマシンや超能力などによって、過去や未来に人や情報が移動する物語をさす。筆者はひとまずループもの(同じ時間に何度も戻る話)もタイムスリップものに含めることにしている。企業宣伝のために後漢末の曹操に鮮魚麺を食べさせに行く宝樹(稲村文吾訳)「三国献麺記」『時間の王』所収)、時間跳躍能力を持つ女性が北魏や春秋時代にタイムスリップして永生者の男性と恋をする夏笳(立原透耶訳)「永夏の夢」(『移動迷宮』所収)のように日本語に翻訳されたものも多い。ループものでは、日中戦争下の農村で少年・母・私塾の先生(母の愛人)が惨死するたびに時間が戻ってしまう因可覓「雷峰塔」(『科幻世界』2011-12)がある。
 秘史は、歴史の背後に隠されていた秘密を解き明かす作品をさす。その代表作として宝樹があげているのが、銭莉芳『天意』(四川科技出版社、2004年)である。秦末漢初の動乱を陰で操る謎の存在と悲劇の名将韓信の暗闘を描いた『天意』は、人気を博して15万部を超えるヒット作となった。史書の間隙を巧みについたストーリー展開と主人公である韓信の複雑で魅力的な造形に加え、歴史とは何かを考えさせる思弁性も兼ね備えた傑作である。そのほか、明末の1626年に北京で発生した謎の大爆発事件(死傷者2万人)の「真相」を描いた燕壘生「天雷无妄」(『瘟疫』四川科学技術出版社、2012年:初出は2007年)も秘史にあげられよう。
 別史は、歴史のifを描いたSFのことで、日本では改変歴史SFと呼ばれている。前漢末から唐代までの架空のコーヒー文化史を綴った馬伯庸(拙訳)「南方に嘉蘇あり」(『移動迷宮』所収)や、明代に鄭和がヨーロッパを制圧して東西の歴史が逆転した世界の1997年を描いた劉慈欣「西洋」『時間移民』江蘇鳳凰文芸出版社、2021年:初出は2002年)が代表例である。また、清末を舞台にした梁清散『新新日報館――機械崛起』(湖南文藝出版社、2016年)は、蒸気機関が異常に発達した世界を描くスチームパンクSFであり、武術の達人が活躍する武侠SFでもある。
 錯史は、時代・地域の異なる技術・概念・歴史がまじりあった世界を描いた作品を指す。日本には対応する用語が無いものの、歴史的に不可能な技術が発達するに至った経緯が説明されていない点で、通常の改変歴史SFとは異なっている。中国史と現代的な技術が混淆した錯史は魅力的で人気も高く、作品数も比較的多い。映像レコード(DVDのようなもの)が存在する日中戦争下の上海を描いた韓松(林久之訳)「一九三八年上海の記憶」(『移動迷宮』所収)や、始皇帝がTVゲームにはまる馬伯庸(中原尚哉訳)「始皇帝の休日」『月の光』所収)が該当する。馬伯庸はパソコンやインターネットが存在する明朝で、諌官として著名な海瑞がネット掲示板での議論にどっぷりはまってしまう「新海瑞上書」(2012年にwebで公開)も発表している。現代中国のネット文化と明代後期の爛熟した経済・文化が奇妙にマッチした怪作である。
 上記の四分類のうち、タイムスリップと錯史がともに多く、秘史・別史と続く。もちろん、タイムスリップ+秘史やタイムスリップ+別史のように複数の分類を結合した作品や、幻想小説と融合した作品のように四分類に当てはめることが難しいものもある。また、SFにまつわる架空の人物・事件を考証する梁清散の「済南の大凧」(拙訳:『時のきざはし』所収)・「広寒生のあるいは短き一生」(拙訳:『移動迷宮』所収)のような歴史考証SFは、擬史(あるいは偽史)と呼んだ方がいいかもしれない。ただ、限界があるとはいえ、この分類は中国史SFのみならず、日本や欧米の歴史SFを把握する際にも便利であり、汎用性が高いといえよう。

■中国史SFの歴史

 次に中国史SFの歴史を振り返ってみよう(2)。1949年の中華人民共和国成立後、中国SFは科学知識の普及・啓蒙や社会鼓舞の役割を担っていた。そのため、作品の多くが近未来を舞台としており、歴史を題材とした作品は少ない。また、唯物史観に基づく社会発展をゆるがすことにつながりかねない別史・錯史や、荒唐無稽とみなされていたタイムスリップものはほとんどみられない。数少ない中国史SFとして、清初(1645年)に墜落した隕石の正体を現代の少年と科学者が解明する「五万年前の来訪者」(小島敬太訳:『MONKEY』25所収)と、戦国時代(前4世紀)の巴国滅亡の謎と失踪した考古学者の謎を解くミステリー仕立ての「古峡迷霧」(『在時間的鉛幕後面』山東教育出版社、2021年)が考古学者の童恩正によって1960年に発表されている。両作とも歴史考証とSFを融合した形をとっているように、中国史SFの始まりは歴史考証SF(史実を踏まえているので秘史に相当)だったのである。しかし、1966年に文化大革命が始まると、中国史SFどころか、中国SF自体が沈黙を余儀なくされてしまった。童恩正も「古峡迷霧」と国民党との関係を無理やりこじつけられて批判されている(3)
 1977年に文化大革命が正式に終結した結果、中国SFも復活を果たし、歴史考証SFも再び書かれるようになったが、1982~83年に再びSF批判が沸き起こったため、80年代半ばには中国SF全体が低調となってしまった。SFが息を吹き返した1990年代には、晶静前回の記事で紹介した張静)の「女媧恋」(『科幻世界』1991‐5)のように神話を翻案した作品や、からくり人形師の偃師(出典は『列子』)をはじめとする古典中の奇怪な話を題材にした作品が次々に書かれた。この時期にはタイムスリップものの中国史SFも登場している。拙稿「中国史SF迷宮案内」で論じたように、80~90年代には英語圏や日本のSFの翻訳・紹介が進んでおり、世界のSFを吸収しつつ、中国SFの独自性を出すことが求められた。そこでSFの地域化・中国化の一手法として、中国史SFが書かれるようになったと考えられる(4)
 2000年代には、タイムスリップ・秘史・別史・錯史や幻想小説と融合した作品など多種多様な中国史SFが生み出された。唐の太宗が牛の皮や筋を活用した飛行船で高句麗遠征を行う祝佳音「碧空雄鷹」(『幻想1+1』2007年)や、唐代に墨家が復活して科学技術が発展した宋朝を描いた羅隆翔「異天行」『朕是猫』山東教育出版社、2021年:初出は2004年)のように、ケン・リュウの提唱したシルクパンク(東方的意匠である紙・竹・皮などの加工技術が異常に発達して現代技術を生みだした世界を描いたもの)のさきがけといえる作品も書かれている。中国史SFは、大きく翼を伸ばし、羽ばたいたのである。
 2017年に宝樹編『科幻中的中国歴史』が出版されると、中国のSF作家や研究者も中国史SFをジャンルとして認識するようになり、注目が集まっている。現在では、毎年のように中国史SFの長篇や中短篇集が発表されている。例えば2020年には戦国時代の世相を銀河帝国にあてはめた宝樹・阿缺『七国銀河:鎬京魅影』(人民文学出版社)や、清末の重慶にゾンビが出現するスチームパンク&武侠SFのE伯爵『重慶迷城:霧中詭事』(重慶出版社)が出た。2021年には清末スチームパンク&武侠SFの梁清散『新新新日報館:魔都暗影』(新星出版社)と歴史考証SF中短篇をまとめた梁清散『沈黙的永和輪』(人民文学出版社)が出た。また、李商隠と神の一瞬の邂逅を描いた「楽遊原」や、南宋の高宗と異星人の遭遇を描いた「天衣」など中国の歴史・文化に想を得た作品が多数収録されている羽南音(呉霜の筆名:前回の記事で紹介)『竜骨星船』(上海文藝出版社)も出ている。

■中国史SFの舞台

 中国の歴史は殷・周から数えても3500年に及ぶ。では、中国史SFの舞台として人気の時代はいつだろうか。日本では2010年代に発表された日本史SFの短篇・長篇の約7割が近現代を占めている。英語圏のSFを見ても、近現代史を題材にした歴史SFが多い印象を受ける。中国SFでも中短篇で一番多いのは清末~中華民国(近現代)を題材にした作品である。例えば梁清散「嗣声猿」(不存在科幻2019/7/11)は、戊戌変法の最中にお忍びで行動する光緒帝を譚嗣同と袁世凱が護衛する一種のバディものであり、近代化のなかで混迷を深める清朝の様子がうかがえる。一見、普通の歴史小説だが、小道具に魅力的なSFガジェットが登場する。海漄「竜骸」『銀河辺縁 X生物』006、2020)は、清末にツェッペリンと謝纉泰(革命家・中国製飛行船の生みの親)が突如出現した竜を解剖して飛翔の秘密を解明する作品で、生物学SFと歴史SFが融合している。また、韓松・趙海虹・宝樹・張冉・王諾諾など世代を問わず、多くの作家が日中戦争を題材にした作品を書いている。
 ただ、中国SFでは近現代史ものの割合は3割弱(30/108)にすぎず、殷周から明清まで各時代がひととおり舞台となっている。現在、把握しているところでは、殷周6・春秋戦国10・秦漢10・魏晋南北朝11・隋唐11・五代宋元10・明清15・そのほか(様々な時代が登場)5となっており、各時代の作品数に大きな差はない。
 このうち始皇帝を題材にした作品は比較的多く、前述の馬伯庸「始皇帝の休日」や、始皇帝と荊軻が人間計算機を構築する劉慈欣「円」(中原尚哉訳が『折りたたみ北京』に、大森望訳が『円』に収録)、不老長生を果たした始皇帝が現代中国に運ばれてくる郝景芳(及川茜訳)「阿房宮」『中国・SF・革命』収録)、中国統一を果たした始皇帝が天帝を倒すために鬼谷子や墨家の力を借りて核エネルギーを開発する劉天一「天問」(不存在科幻2021/8/22)などがある。
 少々意外なことに明末を舞台にした作品も多い(7作)。2017年に電子書籍の豆瓣閲読から出た慕明「宛転環」は、明に殉じた文人官僚の祁幼文とその娘を主人公に庭園と時空を結びつけた作品である。一方、呉霜「宇宙尽頭的餐館・太極芋煮」『双生』上海科学技術文献出版社2017年)は、明末清初の文人で、貪るように美を楽しんだ張岱(『陶庵夢憶』の著者)を主人公にした時間SFである。対照的な人物を取り上げた両作だが、ともに明滅亡の過程を描き、歴史の悲哀を感じさせる傑作である。また、心宿二「重振之策」(不存在科幻2021/8/3)は、明末の崇楨帝期のもとに一台の計算機があったら、という設定で書かれた改変歴史SF。王朝崩壊を食い止める難しさを示すビターな小品である。

■おわりに――海外にはばたく中国史SF

 ここまで中国史SFの分類・歴史・舞台を概説するとともに日本語未訳の中国史SFを中心に紹介してきた。中国史SFの魅力の一端が伝われば幸いである。
 ただ、注意してほしいのは、中国史SFは中国SFの主流というわけではない、ということである。既に拙稿「中国史SF迷宮案内」で論じたように、中国の年刊SF傑作選(2010~2020)における中国史SFの割合は約4%、銀河賞と華語星雲賞の中短篇部門受賞作における中国史SFの割合も約6%にすぎない。むしろ、日本の年刊傑作選や星雲賞の受賞作・参考候補作における日本史SFの割合の方が若干多いくらいであった(5)。中国史SFは数多ある中国SFのサブジャンルの一つにすぎないのである。
 その一方で、2010年代以降、英語圏や日本で中国SFの翻訳が進み、中国史SFの翻訳も増加している。21世紀に日本語訳された中国SF短篇における中国史SFの割合は、約16%(23/143)に達しており、中国における中国史SFの割合よりも高い。
 このことは中国SFを海外に紹介・翻訳する際、中国的要素の濃いものが若干多めに選ばれていることを示している。多文化主義のあらわれと見る人もいれば、オリエンタリズムとみなす人もいるだろう。では、当の中国人作家はどう考えているのだろうか。今春、中国女性SF作家アンソロジーの『The Way Spring Arrives and Other Stories:A Collection of Chinese Science Fiction and Fantasy in Translation』(Tor Books ※中国語版は『春天来臨的方式』上海文藝出版社)を刊行した王侃瑜は、インタビューの中で、担当編集者の関心が中国的要素に向けられて戸惑ったと述べている。しかし、中国で生まれ育った作家であるからには中国的要素が含まれることは当然であると同時に、もともと中国の読者に向けて書かれた作品なのだから「中国性」を海外に喧伝する目的も含まれていない。そこでオリエンタリズムや「中国性」の問題は気にせず、自分たちが良いと思う作品、自然な作品を紹介することにしたという旨の発言をしている(6)。少年時に渡米した中国系アメリカ人作家のケン・リュウも、中国SFアンソロジーを組んだ際に、中国史SFを例に挙げて「西側の読者にはなかなか理解しがたいと見なされるかもしれない数作を意図して含めた」(『月の光』序文:古沢嘉通訳)と述べ、その基準は自分の好みだとしている。
 中国の歴史や文化を題材にした作品は、欧米の読者の目には新鮮で好奇心をかきたてられるのだろう。また、近年、英語圏では中国系アメリカ人や韓国系アメリカ人などのアジア系作家によってアジアの歴史・文化を題材にしたSFが次々に刊行され(7)、SFの更なる多様化が進んでいることとも呼応しているように感じられる。欧米のSF界は、いま本格的に他地域の文化・歴史の魅力を感じ取りつつあるのだ。一方、漢字文化圏である日本の読者にとって、中国史SFには新鮮さと親しみやすさの両方が感じられるのではないだろうか。実際、日本では劉慈欣の「円」が星雲賞を受賞し、『SFが読みたい!2022年版』(早川書房)のベストSF2021海外篇で拙編『中国史SF短篇集 移動迷宮』が10位にランクインしたように、中国史SFに対する評価は比較的高いように思われる。
 20世紀後半にSFの中国化の一手法として登場し、サブジャンルとして定着した中国史SFは、今度は翻訳されて海外に羽ばたき、各国のSFに影響を与えつつあるともいえるのだ。とはいえ筆者も含め、日本に中国SFを紹介・翻訳する際には、オリエンタリズムや「中国性」といった敏感な問題が含まれていることを念頭に入れておく必要があることは間違いないだろう。また、中国SFといえば中国史SFと認識されてしまうと、中国SFの多様な魅力を損なうことになりかねない。今後、筆者も中国SF全体のバランスを考慮しながら、作品の紹介・翻訳を進めていきたい。
 さて、いよいよ次回は連載最終回。多様な魅力あふれる中国SFだが、明るい話題ばかりではない。次回は中国史SFのタブーを取り上げ、中国の政治動向と中国史SFの関連性について論ずる予定である。

【注】

(1)『科幻中的中国歴史』には以下の11作品が収録されている。魯迅「理水」、長鋏「崑崙」、飛「一覧衆山小」、姜雲生「長平血」、銭莉芳「飛昇」、宝樹「三国献面記」、張冉「晋陽三尺雪」、阿缺「征服者」、劉慈欣「西洋」、韓松「一九三八年上海記憶」、夏笳「永夏之夢」。このうち魯迅「理水」は複数の邦訳(岩波文庫の竹内好訳『故事新編』など)がある。また、飛「一覧衆山小」、韓松「一九三八年上海記憶」、夏笳「永夏之夢」は『移動迷宮』(中央公論新社2021年)に、宝樹「三国献面記」は『時間の王』(早川書房、2021年)に、張冉「晋陽三尺雪」はケン・リュウ編『月の光』に邦訳がある。

(2)宝樹「当科幻遇到歴史」(『科幻中的中国歴史』)および拙稿「中国史SF迷宮案内」に基づきつつ、諸情報を加味してまとめた。

(3)「古峡迷霧」に出てくる秦軍は人民解放軍、秦軍に追われて逃亡した巴国王子は蔣経国の比喩であり、蔣介石の招魂目的で書かれたと結論付けられて批判された。董仁威「両棲人―重文学流派科幻代表作家童恩正評伝」(『中国百年科幻史話』清華大学出版社、2017年)参照。

(4)王瑤(夏笳の本名)「火星上没有琉璃瓦嗎?――当代中国科幻与“民族化”議題」(『未来的座標――全球化時代的中国科幻論集』上海文藝出版社、2019年)は、中国の神話・歴史を題材としたSF作品(蘇学軍・潘海天・飛など)を取り上げて、中国SFの「民族化」「中国化」について論じている。

(5)詳細は拙稿「中国史SF迷宮案内」参照。

(6)王諾諾・王侃瑜インタビュー「王諾諾×王侃瑜《春天来臨的方式》:故事从春天开始」(『科幻研究在倫敦』2022/4/4)参照。 https://mp.weixin.qq.com/s?__biz=Mzg4NzE2NTA4Mg==&mid=2247485509&idx=1&sn=9804c2523abcde773f1dff93fbaf2509&chksm=cf8fd1b0f8f858a6406445a6bfee5df74894e06bf5a0abc99b280a56bdd944f03177660bf571&scene=132#wechat_redirect

(7)英語圏で活躍し、アジアの歴史・文化を踏まえた作品を発表しているアジア系作家には、ケン・リュウ(中国出身)、シーラン・ジェイ・ジャオ(中国出身)、ユーン・ハ・リー(韓国系)、イザベル・J・キム(韓国系)、ゼン・チョー(マレーシア出身)、ニー・ヴォー(ベトナム系)など。東茅子「NOVEL&SHORT STORY REVIEW 英語圏で活躍するアジア系作家」(『SFマガジン』2022‐6)参照。

 

(おおえ・かずみ 中華SF愛好家)

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