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日本ビジネス中国語学会
 
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微観中国  (31)スターも相次ぎお忍び来日 日本観光ブーム、新たな問題も
   
     


 

 本コラムでも何度か取り上げた中国人観光客の日本旅行ブームだが、中国経済の鈍化傾向にもかかわらず衰える気配がない。日本政府観光局が10月21日発表した9月の訪日外国人客数のうち、中国(大陸)は前年同月比99.6%増の49万1200人と9月として過去最高を記録、ほぼ前年の2倍となった。1-9月累計でも383万8100人(114.6%増)と年間で400万人突破は確実の情勢だ。
 政府観光局は9月の中国人観光客増加について、「新たに設定された休日(抗日戦争勝利70周年)に伴う3連休(9/3―9/5)中の訪日旅行も好調だったほか、国慶節の前倒し需要も9月の数値を押し上げた」と分析しているが、これを読んで苦笑してしまうのは筆者だけではないだろう。中国政府は抗日戦争勝利を記念する閲兵式を大々的に行い、対日批判の姿勢を強めたが、国民はそんなことなどお構いなく、増えた休みを日本でショッピングや観光を楽しんでいるのだ。
 報道によると、上海の出入国管理当局は国慶節休暇(10月1-7日)で、6日までに上海から海外旅行に出た中国人のうち、日本が旅行先としてトップだったと明らかにした。海外旅行者の5人に1人(21%)に当たる約4万8200人が日本を訪問、前年同期比68・5%増だったという。

     
     
     

 

 

 

 

 

 

 休暇中中国の芸能人やスポーツ選手がお忍びで訪日したことがネットで“暴露”された。中でも人気女優、范冰冰(ファン・ビンビン)が恋人と京都、奈良を観光旅行で訪れたことや、元プロバスケットボール選手の姚明(ヤオ・ミン)も家族連れで日本観光に来たことが大きな話題となった。
 スターの相次ぐ訪日旅行に、ネットでは賛否両論が相次いだ。范冰冰の訪日には「国の恥を忘れるな。あなたたちセレブには、中国人の血が流れていないのか」「(反ファシズム戦争勝利70周年を迎えたのに)これだけ多くの人が日本に行くとは、一体どのような道理があるのか。あなたたちは(日本を旅行し消費することで)日本に航空母艦を贈っているのだ。日本製品ボイコットをやっている私は、今後范冰冰らが出演するどんな番組も見ない」といった反日的な批判があった。
 だがこれに対しても「他人がどこに旅行に行こうがあなたと何の関係があるのか。日本に行ったからどうだというのか。日本で商売をしている中国人は大勢いる。どうして彼らを罵らないのか」「休暇を楽しめばいい。ビザを出してくれるのならどこに行こうが違法ではない」「日本に旅行にいく中国人は数十万いる。だったら中国大使館(注:北京の日本大使館の意味か)に行って日本観光客にビザを出さないよう強制したらどうか。むやみやたらと噛みつき、当たり散らすのには、本当に困ったものだ」。ちなみにここで言う「困ったものだ」は中国語では「醉了」というネット流行語で、日本語なら「何も言えない」「ダメだこれは」「参ったね」という意味がある。

     
   

 この問題で、香港、『東方日報』は休暇中の10月5日、「爆買いは選挙権を持たない中国国民のいわば代償行為だ」として次のように論じた。

 国慶節の長期休暇に、中国人は大挙して日本を訪問、狂ったように買い漁っている。このことは日本製品ボイコットを呼び掛けるナショナリストたちには耐えられないだろう。
反日主義者は、日本が中国の観光客の第1の出国先に選んでいることを認めたくないだろう。だが携程(シートリップ)、衆信、同程など多くの旅行サイトのデータで、2015年中国の観光客の海外旅行先で、日本は韓国を抜いて最も人気となった。
なぜ日本旅行がこれほどブームか?まず中国の商品は信頼できず、人々は日本製品に信頼があること、次に円安により価格が中国の民衆を引きつけていることがある。
国慶節の休暇では、中国人の日本での爆買いはピークに達した。日本のテレビ局の取材を受けた中国の観光客は多くが100万円を準備したと答えている。
興味深いのは、日本の各売り場も中国人顧客向けに多くの準備をしていることだ。中でも多くの売り場で「国慶節歓迎」「国慶節慶祝」などの標語が貼りだされた。最も興味深いのは、「中国の国慶節」ではなく(単に)「国慶節」と表示したことだ。日本には国慶節の概念はなく、似ているのは天皇誕生日だろう。だがもし12月23日に中国の売り場で「天皇誕生日慶祝」などと標語が貼りだされたら、ナショナリストたちに大騒ぎする口実を与えるだろう。
日本はお客が来てくれて商売ができればよく、誰の国慶節だろうが気にしないのだ。人々の生活が幸福なら、国や国慶節などどうでもいいのだ。
爆買いを見ていると、日本製品ボイコットを思い出さざるを得ない。日本製品ボイコットはこれまで3回あった。最初は1910年代、日本の繊維製品が大量に中国に流入、中国の業者はボイコットした。2回目は日本から侵略を受けた1930年代だ。3回目は近年、中国の自動車、電気製品のメーカーが(反日を)操り、日本製品を誹謗した。
この3回の日本製品ボイコットはいずれも政治情勢と関係がある。特に3度目は中国国内の矛盾が激化したため、日本や米国などの仮想敵に矛盾を転嫁する必要があった。
だが人々はだんだん「日本製品ボイコット」に構わなくなった。2015年は温水便座買い漁り事件が起き、中国メーカーは日本製を買う必要はないと批判したが、民衆は日本製の商業基準、商業検査、商業信用を堅く信じていた。今回温水便座を買う人は減ったが、それはこれが大きすぎて他の商品を買えないからで、人々は電気製品、化粧品、さらには風邪薬まで買っている。風邪薬まで外国製を買い漁るのは、中国の国家体制に深刻な問題を抱えていることをはっきりと示している。
中国国民が海外で買い漁るのは、日本だけでなく韓国、米国、欧州、香港、台湾などもある。これは民衆が金銭で投票しているのだ。自らに投票権がないことを不満に思う人々は、時には意識することもないまま、(買い漁りという)投票を時々刻々行っているのだ。

 だが観光客の増加に伴い、様々なトラブルも伝えられるようになった。9月には札幌のコンビニで支払い前のアイスを食べたことを店員から注意された中国人観光客が店員に殴りかかり現行犯逮捕されたニュースは、日本メディアの中国語報道をきっかけに大きな反響を呼んだ。
 同様に大きな問題となったのが、京都で起きた「当たり屋」疑惑事件だ。
 詳しい経緯は日本のネットメディアなどでも伝えているが、中国紙「新京報」は10月6日、事件について以下のように伝えた。

 中国の高齢女性が京都で「当たり屋」を仕掛け10万円を支払わせたとの文書が、中国国内で話題を呼んだ。この女性が所属する旅行団体の引率者、劉(女性)は10月6日午後、「当たり屋」ではなかったと否定した。
劉によると、8月20日から25日、女性を含む旅行団を率いて東京、京都などを6日間旅行。21日午後5時ごろ、京都祇園で自由行動中、劉は旅行客が車とぶつかったと電話を受けた。現場に行くと、多くの人が集まる中、老女は赤い車の前に座っていた。
車を運転していた(日本人)女性の説明では、低速で運転中、右側の人を避けようとして、左側にいた女性の右足とぶつかったという。老女はその後病院で検査を受け、足が痛むものの大した怪我ではなかったとの診断だった。
劉はその後ネットで伝わった、老人が「当たり屋」だったとの指摘を否定。10万円は人民元で5000元に相当するが、今回の旅行は1人あたり7000元かかっており、5000元を騙し取るためにわざわざ海外に行くだろうか、と反論した。
ネットでは「中国の老女が京都旅行中、突然サイドミラーに倒れこみ、『痛い』と叫んだ。診断結果は『怪我はない』との事だったが、家族が金の支払いを要求、運転手は10万円を支払った。警察は『これは恐喝、犯罪だ』と述べた」との日本語の文書が流布した。
だが最初にこのニュースを伝えた香港フェニックステレビの日本駐在記者は6日午後、文書を出した自治会が「老女が怪我をしていなかったというのは誤りで、本日訂正文を出した」と微博で明らかにした。

     
   フェニックスの日本特派員は「日本側の言い分だけで当たり屋と決めつけた」としてネットで批判を受けた。この点については深く立ち入らないが、今回の件で、文書を出した京都祗園町南側地区協議会に聞いたところ、当事者の話が十分伝わらないまま出た内部向けの文書が何者かにより中国の微博に掲載され、騒ぎが拡大したことがそもそもの原因のようだ。
 当たり屋行為は中国語では「碰瓷」と呼ばれる。碰瓷とは安物の陶磁器を持った人がわざと他人や車とぶつかり、高価な陶磁器だったとして法外な弁償をさせる詐欺行為で、中国ではしばしば発生、社会問題となっており、こうした背景から「とうとう日本でも」と人々が考えたのは無理もなかった。
 ただ同協議会から筆者が入手した資料によると、祇園地区では建築物へのいたずら書きのほか、芸妓さんへの暴力的な行為もこれまでに発生したという。具体的には昨年11月、21歳の芸妓が稽古に行く途中、中国系団体観光客10人くらいに取り囲まれ写真撮影を強要され、急いでいたので逃げようとすると観光客の1人に腕を掴まれた。振り切ろうとしたら袖を引っ張られ、下着の襦袢が破れた、という。同組合は「類似事例は多数あるが、今回は特に悪質であるため、警察に被害届を提出した」という。
 こうした事例があったため、京都市は中国人観光客に対する迷惑行為を禁止したパンフレットを作成した。「歩きタバコ」「無理やり舞妓さんの写真を撮る」「ゴミのポイ捨て」「レストランのドタキャン」「並ばない」「畳に土足で上がる」「撮影禁止の社寺での撮影」「古い家屋や物品をやたらと触る」などをマナー違反として並べている。ある店主は「中国人の来店はお断りしている」と語った。
 今回の問題は交通事故に関して言えば、言葉ができない外国人観光客がトラブルに巻き込まれた場合、問題をどのように処理するかという課題を残した。つまり中国人観光客が交通事故に巻き込まれた場合、帰国後でも保険会社などを通じて示談交渉を進め、双方が納得する解決が得られるという仕組みがあれば、その場で現金10万円の支払いを要求し「当たり屋」との疑念を持たれることもなかっただろう。できれば外国人観光客向けのトラブル仲裁機関などを作り、旅行会社やガイドに加入を義務付けるなどが必要と考える。
 一方観光客のマナーの問題も本人はもとより、旅行社やガイドも責任を持つべきだ。心配なのはこうした事例が相次ぐと、香港で中国本土からの観光客への反発が高まったように、中国人観光客に対するマイナスイメージが広がり、一方で中国の側でも、観光地で怪訝な目で見られるなど日本で不快な思いをするなら行かない方がいいというムードが強まることだ。
 中国人観光客の増加は、単に「爆買い」がもたらす経済効果だけでなく、摩擦の絶えない両国民が唯一、相互理解や親交を深める貴重な機会なので、両国の観光業界に適切な対応が望まれる。数が増えればトラブルが増えるのはやむを得ず、今回の件も中国語で言う「学費」と考え、双方ともに改善や相互理解に努めるべきだ。
 さらに誤解やトラブルをなくすため、微博、微信などソーシャルメディアを通じて様々な情報を中国の人々に発信していくことも、日本の観光業界や政府観光局、日本大使館など関連省庁に求められるだろう。
     
 
   

 

 

 


「網民」の反乱 ネットは中国を変えるか?
古畑康雄

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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