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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国 

(6)「草泥馬」

   

昨年中国のインターネットにおける最大の事件の一つといえば、グーグルの中国撤退問題だろう。1月、同社は中国政府に批判的な民主活動家のメールアカウントに対し、中国国内から大規模なハッカー攻撃が繰り返されたとして、中国当局の対応を批判、当局の要求に応じる形で続けていたネット検閲をやめると発表した。その後両者間は折り合いがつかず、グーグルはついに同年3月23日をもって中国本土から撤退を決定した。この前後から北京のグーグル本社前には、ネットユーザーが駆けつけ、献花をするなど撤退を惜しむと同時に、中国当局のネット検閲に抗議の意を示した。   いよいよ撤退という3月23日の夜、集まった彼らはある曲を歌い始めた。中国のネットユーザーの間では広く知られる「草泥馬の歌」だ。今でもネット上でその時の“合唱”(上手とは言えない)を聞くことができる(http://twaud.io/5cy)。
  草泥馬とは何か。ネットで広く知られている写真はアルパカそのものである。筆者が初めて草泥馬を知ったのは2年前の3月ごろ。当時続けていたブログでも紹介した。

 
   

 ここ1カ月ほど、中国のネット空間で話題を呼んでいる動物がある。ニューヨーク・タイムズやCNNなど欧米メディアには紹介されたが、なぜか日本のメディアには登場していない。
  その動物の名は「草泥馬」、欧米メディアでは「Grass Mud Horse」と紹介されている。「クサドロウマ」や「Grass Mud Horse」では何のことか分からないが、中国語をある程度学んだ人は気づいたと思う。「草泥馬(ツァオニーマー)」は中国の有名な「罵人話(ののしり言葉、隠語)」と同音なのである。英語の「F**k Your Mother」に近い、極めて“どぎつい”言葉だ。かつて魯迅が論じたという「国罵」(中国独特の罵り語)の類である。
  ニューヨーク・タイムズ(オンライン版)3月11日の報道によれば、動画サイトユーチューブにアップされた「草泥馬」の童謡バージョン(http://youtu.be/01RPek5uAJ4)は140万ページビュー、自然科学のドキュメンタリー番組風に紹介(もちろん偽物)した動画は18万に達したという。これ以外にもシルクロードの民謡風のバージョン(http://youtu.be/T2Fl3q5gZNc)も有名で、ユーチューブで「草泥馬」を検索すればいろいろな動画がアップされている。

今月のことば

草泥馬(草泥马):Grass Mud Horse,クサドロウマ。
 中国の有名な「罵人話、隠語」と同音。

斯実馬(斯实马):クサドロウマから派生した別の馬。

給名画穿衣(给名画穿衣):「名画に衣服を着せる」というネット上のキャンペーン。

   
   

動画のバージョンはいろいろあるのだが、基本的なストーリーは同じだ。草泥馬は「馬勒戈壁(マーレーゴービー)」に群れをなして住んでいる。彼らは「臥草(ウォーツァオ)」と呼ばれる草を食べている。「馬勒戈壁」も「臥草」もいずれも性的な隠語と同音なのだという。
  そんな牧歌的な彼らの生活に、ある日侵入者がやってくる。前回の本欄で紹介した「河蟹」である。河蟹は「臥草」を鋭いはさみで刈り取ろうとする。民謡版では「美しい草泥馬よ、どうしたらいいのだろう」と嘆き調で終わるが、童謡版では、河蟹は草泥馬との戦いに負けて馬勒戈壁から退散する。
  草泥馬が初めてネットに登場したのも2009年、中国の検索最大手、百度が運営する「百度百科」(ウィキペディアを模したサイト)に伝説上の動物「十大神獣」の1つとして紹介された。(ちなみに「神獣」とは「青龍」や「麒麟」のような伝説上の動物のこと。)草泥馬のほかには「法克魷」(魷はイカのことだが、中国語の発音は「F**k You」に近い)「雅滅蝶」(蝶のようだが、実は中国語の発音が日本語の「やめて」に近く、日本のアダルトビデオによく出てくる台詞なのだという)などいずれも下品な言葉を連想させるものだった。まことしやかな説明と写真が付いているがこれはすべてでたらめで、「百度」をからかう「悪稿」パロディだったのだ。
  この時から草泥馬は「網絡神獣」(ネット神獣)と今でも呼ばれている。ただ、この時はアルパカではなく、シマウマだった(写真)。これがなぜあのとぼけた表情のアルパカに結びついたのかは、未だに分からない。だがこの画像が草泥馬という文字と結びついた時、中国のネットユーザーの間で爆発的な浸透力を持ったことは間違いない。
  では、なぜこの「神獣」は現れたのだろうか。単なるお笑いなのだろうか。いや、そうではない。
  草泥馬がネットで話題を呼んだ09年3月に、崔衛平・北京電影学院教授は自らのブログで「私は一匹の草泥馬」という文章を発表している。ちなみに崔さんはノーベル平和賞受賞者、劉暁波氏が起草した、知識人による民主化要求宣言「零八憲章」にも署名した民主活動家だ。
  崔さんは草泥馬の歌詞を英訳付きで紹介した上で、こうした歌の出現は「今年に入ってからの(当局による)『低俗サイト取り締まり運動』と関連があり、人々はこの運動に対する感情を、『悪稿』の中で発散させた」と指摘している。
  この取り締まりは1983年に展開された「精神汚染反対運動」という大規模な思想取り締まりと共通点が多いという。当局は「今回の取り締まりで約2000もの違法サイト、300近いわいせつなブログをそれぞれ閉鎖した」と発表したが、その中には「豆瓣」という若者の間で高い評価を受けていたコミュニティサイトが含まれ、多くの「小組(コミュニティ)」が何の通告もなく解散させられたという。
   突然解散させられたサイトには確かに「社会民主主義」「文化大革命」「言論自由」など政治的なタブーに触れるものもあったが、政治思想を論じたまじめなコミュニティや、若者の日常生活を語ったものも多かったという。
  崔さんは 「もし未来の中国が模倣大国でなく、独自の思想を持つ大国になることを望むなら、若者に緩やかで、自由で、尊厳ある環境を与え、育てなければならず、いきなり干渉し、文章を消去するようなことをしてはならない」と語る。
  そして「人々の平和な日常生活をかき乱し、その静かな天地から追い出すようなことをするのは、生活への粗暴な宣戦布告」であり、「(中国の)56の民族は『河蟹族』と『草泥馬族』に分裂した、この責任は誰かが負わねばならない」と厳しい調子で批判している。
  つまりは「低俗サイト取り締まり」に名を借りた理不尽な言論統制の中で、ネットユーザーらは「わいせつがいけないというのなら、『草泥馬』なら文句も言えまい」という抗議の声を上げたのだ。強引な取り締まりの結果、もともと政治には関心のなかった人までが、自らの生活を守るため「反対派」になってしまったと崔さんは述べており、草泥馬はそうした人々の気持ちが生んだ、抵抗のシンボルなのだ。
  このころ起こった「給名画穿衣」(名画に衣服を着せる)というネット上のキャンペーンも、「当局の考えでは、裸体画はわいせつだから服を着せればいいんだろう」という、同じような趣旨で行われたパロディによる反対運動だった。
  「草泥馬」からは「欺実馬」という別の馬も派生した。09年杭州市で起きた交通事故で、学生を跳ね飛ばし死亡させた犯人の学生が実は猛スピードを出していたのに、警察が「70キロだった」と発表、「犯人を不当にかばっている」と怒りの声を上げたネットユーザーたちが「七十」と「欺実(真実を欺く)」が同じ発音なことから創造したものだ。(詳しくはこのほど蒼蒼社から刊行された「中国ネット最前線」で解説したのでぜひご覧いただきたい。)
  ネット上の言葉遊びとして生まれた草泥馬は今や、厳しさを増し続ける中国のネット、言論規制の中で、かえってたくましく育ち、権力にネットとユーモアを武器に立ち向かう中国の草の根ネットユーザーの代名詞となった。前回紹介した艾未未氏は、ツイッターで「草泥馬総司令」などと呼ばれている。突然の理不尽なアトリエ撤去命令に抗議の意思を表すため、草泥馬たちは全国から集まり、河蟹を平らげた。このアトリエは残念ながらこのほど壊されてしまったが、「草泥馬大戦河蟹」(草泥馬と河蟹の戦い)は、これからも続くのである。

 

 

 

 

 
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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