いわば「微博」はこれまでに登場したネット上の情報発信、交流ツールの「いいとこ取り」をしたのである。それは簡単に言えば、顔が見える個人をベースとしながら、速報性もあり、かつ集団的な相互交流が可能ということだ。そして微博の本家本元は言うまでもなくツイッターである。
ツイッターの中国語訳は「推特(tuite)」であり、これは音訳だが、グーグルの中国での漢字表記「穀歌(guge、簡体字表記は谷歌)」のような正式名ではない。ツイッターは中国では事業展開をしておらず、台湾など中国語圏のユーザーが命名したと言われる。
ある単語をベースに、その中の一部を取り出して様々な漢字を組み合わせ、派生語を作り出すのが中国語ではよくあるが、「推特」もその例に漏れない。ネットにアクセスすることを「上網」と言うが、そこからツイッターにアクセスするのを「上推」、さらにツイッターに「つぶやき」を書き込むことを「発推」という。そしてツイッターユーザーは「推友」と呼ばれるようになった。
面白いのが誰かのつぶやきを引用する「リツイート」で、「鋭推」と呼ぶが、これはピンインでは「ruitui」であり、まさにリツイートの音訳だ。筆者も最近登録した「中文鋭推榜機器人」はリツイートされた回数の多い書き込みのランキングから自動的に送信してくれる便利なサービスだ。
不思議なことに、ツイッターで最もよく使われる言葉の「フォロー」に当たる中国語(「関注」など)はあまり使われず、むしろ英語の単語の一部を取った「fo」などが使われる。例えば「今夜,蒼井空推特中国fo激増数千」(今夜、日本の女優、蒼井そらさんの中国からのフォローは数千も激増した)「fo我我一定fo回去」(私をフォローして、必ずフォロー返しするから)などの文例が検索すると出てくる。ただ、最近では「follow」の音訳と思われる「仏搂(folou)」や「仏」も出てくる。例えば「歓迎仏搂我」などだが、中国のネット用語はまさに生き物と言ってよい。
ツイッターは1つのつぶやきが140字以内という制限があるが、面白いのは、漢字もローマ字も同じ1文字と数える点。たとえば「follow」は6文字だが「仏搂」は2文字で済む。このためアルファベットと比べ、漢字140文字は4倍の情報量があると言われており、1本の「つぶやき」で十分な内容を伝えることができるのである。この点は日本語も似ているが、まさにツイッターは漢字文化圏で意外な力を発揮していると言えるだろう。
さて、中国のツイッターユーザー数は、公式の統計がないが、中国のツイッター影響力ランキング(http://twibase.com/)の作者から聞いたところでは、推計で約10万人前後だという。最近、日本のツイッターユーザー数が1000万人に達したとの報道があり、10万人はそれにも満たないどころか、確かに人数では4億人とされる中国のネットユーザーのごく一部に過ぎない。だが、注目すべきは、中国のネット世論に与えるツイッターの影響力が着実に強まっていることだ。
北京大学で6月に開かれた中国インターネット研究年次総会で、清華大学の政治学者、呉強氏は「中国におけるツイッター政治の台頭」というテーマで発表した。呉氏はツイッターユーザーが数的には少ないものの、中国の社会変革の中でその影響力が強まっていると強調、その特徴として次の3点を挙げている。
(1)高度な政治化:、中国ではツイッターが昨年7月の新疆ウイグル自治区で起きた暴動以降、政府により封鎖されているが、このことによりかえって中国のネット規制の枠外には比較的自由な言論空間が形成されている。こうした状況は政府のネット規制が緩かった1990年代後半のネット論壇(BBS)の状況と似ている。現在では、これらBBSに対する規制は強化され、政府に批判的な意見や敏感な問題は書き込めなくなったが、その結果ツイッターがこのような問題が議論できる唯一の場として、かつてのBBSを引き継ぐことになった。
(2)オピニオンリーダーの組織化:政治的な話題を提供するSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)として中国のツイッターは、多くの公共分野で活躍する知識人や、活動家が集う場所になった。反体制活動家、弱者の人権擁護で活躍する弁護士、ジャーナリスト、民主化運動などで海外に追放された人々だ。彼らが登場し、議論を重ねることで、ツイッターは中国最大のインターネットによるオピニオンリーダーの集合体、そして中国のサイバー空間における指導的なメディアとなった。そしてここから、新たなオピニオンリーダーも登場し、彼らの影響は(新聞やテレビなど)伝統メディアにも波及効果が及ぶようになった。
(3)社会的な運動への関与:ここ半年の動向を見ると、ツイッターが権力に対抗し権利を主張する多くの運動の発信源、調整、情報交換の場となっていることが分かる。例えば、昨年末から今年初めにかけて、広州市番禺区で起きたごみ焼却場建設への住民の反対運動や、馮正虎氏の成田空港籠城事件だ。2つの事件でツイッターは経過を継続的かつリアルタイムに伝える唯一のメディアとして、事件の進展や結末に大きな影響を及ぼした。ツイッターはこうして、社会運動に人々を動員し、情報交換させ、関与させる潜在力を示したのだ。
以上のような特徴から呉強氏は、中国のツイッターは時事問題などについて議論の場を提供しつつ、さらには現実の空間で展開される活動に人々を動員するという2つの重要な政治的機能を持つようになったと指摘している。いわば人々はツイッターに参加することで、観客であると同時に役者として、議論や運動の全容を俯瞰しながらそれに加わることが可能になったのである。
呉氏は最後に「中国の政治体制のもとでツイッター政治は果たしてどれだけ発展することができるのか」という問題を提起している。結論的には、開かれた選挙制度や、反対野党の存在が認められていない現体制では、ツイッターが大きな社会変革を引き起こすと考えるのは時期尚早だとしている。だがこれまで挙げたような中国独特の「推特」の発展により、やがては社会変革へとつながるだろうと結論づけている。
こうした動きに対し、中国政府のツイッターへの警戒心がありありとうかがえるのが、このほど社会科学院新聞メディア研究所が発行した「新媒体藍皮書(ニューメディア青書)」だ。ドイツの国際放送、ドイチェ・ヴェレ(中文版)の報道によれば「藍皮書」はフェースブック、ツイッターなどを「諸刃の剣」であり、「西側の情報機関に利用される可能性があり、その特殊な政治的機能は人々に恐怖心を抱かせる」とまで論じているという。
これに対し中国のジャーナリスト、安替氏は、フェースブックやツイッターの政治機能とは、(国外勢力の利用ではなく)中国国内のユーザーが政治的な見解を述べ、自由な言論の空間を提供することであり、つまり「国外勢力」「諸刃の剣」とはマイナス面を強調し、規制を加えるための口実にすぎないと指摘する。
代表的なウェブ2.0ツール(相互交流型ネットツール)である、ツイッター、ユーチューブ、フェースブックはいずれも中国政府のネット規制により封鎖されている。政治への関心度が低い人はこれらへのアクセスを初めからあきらめており、規制を乗り越えてアクセスするネットユーザーは政治や社会への関心が高い。「それゆえ他の国と比べ、中国のツイッターは言論の自由、新聞の自由、民主などの言論に傾くのだ。これは実に中国のネット規制が生み出したものだ」と彼はコメントしている。
ツイッターはそもそも個人的な“つぶやき”ツールとして誕生し、日本でも「~なう」と身の回りの出来事をまさにつぶやく人が多い。だがオバマ米大統領がツイッターを選挙活動に活用するなど、政治の世界でもその役割が重視されるようになったが、中国ではまさにその役割が突出していると言える。
ツイッターのネットツールを使いこなし、社会の諸問題に対し「話語権(ものを言う権利)」の獲得を目指す人々を中国社会科学院の「社会藍皮書」は「新意見階層」と名付けた。新意見階層の問題については、いずれ改めて紹介したい。
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