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東京便り―中国図書情報 第27回 .

 

『ひみつの花園』人気にあやかれ!?
中国伝統版の塗り絵ブックが続々登場
     



『Examples of Chinese ornament/中国紋様集錦』

 

 イギリスのイラストレーター、ジョハンナ・バスフォードさんの著作で、世界的ベストセラーの塗り絵ブック『ひみつの花園』(Secret Garden)が昨年、翻訳出版された中国で一大ブームを呼んだことは、小欄でも度々ご紹介したことがある(中国語題:『秘密花園』、北京聯合出版公司、2015年6月・第1版)。

「東京便り」vol.20
「東京便り」vol.24

 日本では『ひみつの花園』としてグラフィック社から2013年6月に翻訳出版され、以来ロングセラーとなり広く親しまれている。中国でも刊行と同時にアマゾン中国や「当当網」といった大手ネット書店で品切れが続出。アマゾン中国が先ごろ発表した「2015年ベストセラーランキング」でも堂々の1位を獲得するなど話題を呼んだ。

 細密に描かれたモノクロームの花園に好きなように色を塗り、オリジナルの花園を完成させる塗り絵ブックで、子どもならずとも大人も楽しめること、「ストレス解消効果がある」とされること、さらに中国では国内SNSを通じて塗り絵作品を公表しあうことがファンの間でブームとなり、爆発的に売り上げを伸ばしたようだ。

 こうした人気にあやかれとばかり、中国では昨年以来、大人のための塗り絵ブックが続々と登場している。中国メディアによれば、市場には少なくとも100点を超える類似本が見られ、それはまるで“強心剤”のように(苦境が続く)紙メディアに一定の活況をもたらしたという(北京日報)。
とりわけ最近、注目を集めているのが、中国の人々にとって親しみやすい趣の“中国伝統文化版”の塗り絵ブックだ。

     
     
     

 

■ 敦煌壁画を塗り絵に

 なかには、世界遺産の壁画を塗り絵ブックにしたものもあるというから、ちょっとした驚きだ。
この壁画が残るのは、中国のシルクロード、甘粛省敦煌市の近郊に位置する仏教遺跡「莫高窟」(ばっこうくつ、別称・千仏洞)。4~14世紀に造営され、数百窟が現存するといわれている。
貴重な壁画や仏像・古文書・古写本などが多数出土し、雲崗(山西省大同)、竜門(河南省洛陽)、麦積山(甘粛省天水)の石窟とともに中国の「4大仏教石窟」であるとされる。1987年には、莫高窟がユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録された。

 この壁画は、制作されてからすでに数百年以上の歳月を経ているのだが、それでも見学可能ないくつかの石窟に足を踏み入れると、仏教故事や極楽浄土を壁面いっぱいに描いたその色鮮やかとスケールの大きさは、ハッと息をのむほどに美しい(筆者も実際に見たことがあるが、我を忘れて見入ってしまった)。
羽衣をひらめかせて天に舞う飛天や、琵琶や笙を生き生きと演奏する舞楽人などの彩色画を、現場で見たり、テレビや写真集で目にしたりしたことのある人も、読者のなかには多いのではないだろうか。

 中国が世界にほこる仏教芸術の1つなのだが、この敦煌壁画を塗り絵ブックにした、その名も『一帯一路画敦煌』(一帯一路、敦煌を画く、広西科学技術出版社)が4月にも刊行される予定だという(中国メディア)。
「一帯一路」とは、中国の習近平国家主席が2013年に打ち出した構想で、アジアから中東、欧州、アフリカにまたがる60カ国以上の国々と中国とを結ぶ、新しい“陸と海のシルクロード”の建設を目指すものだ。中国ではすでに流行語化しているようで、いろんな場面でこの言葉が使われている。

 

     




『中国紋様集錦』より

 

■ 文化を学ぶ『一帯一路画敦煌』

 『一帯一路画敦煌』は、全3巻からなるシリーズ本。見開きの左ページには、壁画の高解像度デジタル写真が、右ページには部分線画がそれぞれ印刷されている。
本書のプランナー、陳勇氏は、発案のきっかけについてこう語る。
「昨年夏、子どもを連れて敦煌を旅した時に、専門家の話を聞いて驚いたんだ。敦煌壁画はまず輪郭を描いてから、次に彩色を施したんじゃないか。これは塗り絵ブックとして、生まれつきの長所があるぞ、しかもストレス解消の塗り絵ブックではなく、文化を学ぶ書になるぞ、ってね」
出版社もスムーズに決まり、さらに出版側の申し出により、国立の文化財保護研究センターである敦煌研究院が協力を快諾。同研究院の王旭東院長も、今回の試みに期待を寄せる。
「中国人に敦煌壁画の内容がわからなければ、文化財従事者たちが壁画を残すことにどれだけの意味があるのだ? 敦煌壁画は民間から起こり、民間に帰っていく。人々の生活にとけ込んでこそ、その生命(いのち)が最もいい形で続いていくのではないか」

 敦煌壁画の塗り絵ブックは、同研究院によれば初めての出版になる。これまでに研究用として撮影されていた180枚もの高解像度デジタル写真を利用し、その写真から部分線画をコンピューターで解読。
欠落部分や不鮮明なところには修復を加え、塗り絵のアウトラインを精密に作成した。編集スタッフ11人による1カ月がかりの労作になったという。

 敦煌研究院は編集に際して、当初は本格的な学術書にしたいと「時代別」「類別」にこだわりを見せていたが、編集責任者の袁小茶氏は「あまりにも難しすぎると、一般読者が離れてしまう」と主張。
結局、「飛天」「菩薩と蓮」「雲と花」といった特徴的なデザイン別に、全3巻を編集した。

 世界遺産の壁画の絵柄を、自分なりのカラーセンスで“再制作”できるのは興味深い。また仏教壁画の塗り絵に没頭することで、写経するように心を落ち着かせることができるという“ご利益”も期待できそうだ。

 

     

 

■ 塗り絵のレトロブーム!?

 中国の伝統的デザインを採用した塗り絵ブックは、これだけではない。
ほかにも明・清代の宮殿「紫禁城」(故宮博物院)に残る建築彩色画、陶磁器作品、衣服や装身具などから特徴的なデザインを選りすぐり、全3巻の塗り絵ブックとしてまとめた『点染紫禁城』(紫禁城に彩を添える)が、この春にも故宮出版社から出版される。

 また19世紀のイギリスの建築家オーウェン・ジョーンズが、ロンドンのサウス・ケンジントン博物館(現ヴィクトリア&アルバート博物館)収蔵の中国骨董品などから伝統的装飾パターンを書き写し、解説を加えてまとめた1867年刊の『Examples of Chinese ornament/中国紋様集錦』という名著がある。
昨年、中国で塗り絵ブームが巻き起こった際に、中国の若手デザイナーやアーティストたちから本書の復刻を望む声が上がり、それに応える形で一部を塗り絵として翻訳・再編集したのが、塗り絵ブックの『中国紋様』。これもまもなく上海古籍出版社から刊行される。

 上海古籍出版社からはさらに、中国最古の地理書(地誌)といわれ、古代中国人の伝説的地理認識を示した『山海経』(せんがいきょう)に出てくる珍しい鳥類や動物を、現代の若手画家、朱雪俊氏の手により再現、それをもとに塗り絵ブックとしてまとめた『異獣―〈山海経〉主題塗色書』(珍しい動物―〈山海経〉テーマ塗り絵ブック)も出版される予定。

 中国出版界は、伝統文化を次々と塗り絵ブックの新たな活路としており、それはある意味、塗り絵のレトロブームであるかのようだ。

 

     



『中国紋様集錦』より
 

■ “舶来物”はなじまないのか?

 上海古籍出版社の編集者、余璇氏は『ひみつの花園』に代表される塗り絵ブックを購入したことがあるというが、「それは型通りのデザインで変化に欠けるし、最初はどのように塗ればいいかわからなかった。ネット上で作品を公開している人は、よほど何度も失敗したに違いない」と塗り絵の複雑さ、難しさを指摘する。
また、前述した『一帯一路画敦煌』の編集責任者、袁小茶氏は「ブームになった『ひみつの花園』の類書は、いかにもバタ臭い感じがした。中国での編集はまるで“出版界のアディダス中国工場”のよう。読者はそのスコットランド調のデザインは覚えていても、中国の出版社のことは気にもとめなかったんです」と“舶来物”のブームについて悔しそうに振り返る。

 こうしたなかで、なかば必然的に現れた中国伝統版の塗り絵ブックについて、『ひみつの花園』中国語版の版元の1つ、後浪出版公司の蒋天飛氏はこう語る。
「中国では古くから優れたデザインやパターンが伝えられてきたが、それをうまく開発してこなかった。敦煌壁画や故宮の文化が塗り絵ブームで再開発されることは、伝統文化の発展と、塗り絵ブックの多様化に大きな意義があるだろう」
『ひみつの花園』の版元としても、ブームが変化しながらも継続することに期待を寄せているようだ。

 一方、こうしたブームを、冷ややかに見る向きもある。
中国の大手出版グループ、中信出版集団の李静媛副編集長は「今年、中国の塗り絵ブック市場は、落ち着きを取り戻すばかりか、冷遇を受けるかもしれない。なぜならストレス解消文化が、中国では欧米よりも深く根付いていないから……」と冷静に分析する。

 日本でも『ひみつの花園』の“二匹目のドジョウ”とばかりに、塗り絵ブックの日本伝統デザイン版の「和柄」「和もよう」「着物柄」などが様々に編み出されている。“人が考えること”というのは、どこでも大体、似通ったものになるのだろうか――。

 いずれにしても中国の塗り絵ブック市場が今年、伝統版の登場でいっそうの活況を呈するかどうか、注目される。

 

     
     
 

 

小林さゆり
東京在住のライター、翻訳者。北京に約13年間滞在し、2013年に帰国。
著書に『物語北京』(中国・五洲伝播出版社)、訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)、 『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)などがある。

Blog: http://pekin-media.jugem.jp/

     

 

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