■ “舶来物”はなじまないのか?
上海古籍出版社の編集者、余璇氏は『ひみつの花園』に代表される塗り絵ブックを購入したことがあるというが、「それは型通りのデザインで変化に欠けるし、最初はどのように塗ればいいかわからなかった。ネット上で作品を公開している人は、よほど何度も失敗したに違いない」と塗り絵の複雑さ、難しさを指摘する。
また、前述した『一帯一路画敦煌』の編集責任者、袁小茶氏は「ブームになった『ひみつの花園』の類書は、いかにもバタ臭い感じがした。中国での編集はまるで“出版界のアディダス中国工場”のよう。読者はそのスコットランド調のデザインは覚えていても、中国の出版社のことは気にもとめなかったんです」と“舶来物”のブームについて悔しそうに振り返る。
こうしたなかで、なかば必然的に現れた中国伝統版の塗り絵ブックについて、『ひみつの花園』中国語版の版元の1つ、後浪出版公司の蒋天飛氏はこう語る。
「中国では古くから優れたデザインやパターンが伝えられてきたが、それをうまく開発してこなかった。敦煌壁画や故宮の文化が塗り絵ブームで再開発されることは、伝統文化の発展と、塗り絵ブックの多様化に大きな意義があるだろう」
『ひみつの花園』の版元としても、ブームが変化しながらも継続することに期待を寄せているようだ。
一方、こうしたブームを、冷ややかに見る向きもある。
中国の大手出版グループ、中信出版集団の李静媛副編集長は「今年、中国の塗り絵ブック市場は、落ち着きを取り戻すばかりか、冷遇を受けるかもしれない。なぜならストレス解消文化が、中国では欧米よりも深く根付いていないから……」と冷静に分析する。
日本でも『ひみつの花園』の“二匹目のドジョウ”とばかりに、塗り絵ブックの日本伝統デザイン版の「和柄」「和もよう」「着物柄」などが様々に編み出されている。“人が考えること”というのは、どこでも大体、似通ったものになるのだろうか――。
いずれにしても中国の塗り絵ブック市場が今年、伝統版の登場でいっそうの活況を呈するかどうか、注目される。
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