■ 中国の国産漫画・アニメ総覧『中国漫画史』が刊行
古代から現代まで、中国の漫画・アニメの歴史を体系的にまとめた学術書『中国漫画史』がこのほど、北京の現代出版社から刊行された。
中国の有名な漫画理論家、陳維東氏(天津神界漫画公司代表取締役)が編集主幹を務め、政府系機関(動漫産業発展部際連席会議)の支持を得て、専門家チームが4年の歳月をかけて編み出した国産漫画・アニメ総覧。
権威性と信頼性が高く、論理的に編集された漫画史として、中国で評価されている。
本書によると、中国で1978年にスタートした「改革開放」が進展するにつれて、国産漫画にもこの20~30年間、天地を揺るがすほどの大変化が起こった。
漫画について「(それは)文化を伝えるメディアであるだけでなく、文化産業化における新しいパワーであり、人々の生活のいたるところに深く浸透する勢いがある」と位置づける本書は、「新しいジャンルを含めた中国漫画の発展史を系統的にまとめた著作は、これまでなかった」として、その出版経緯を明らかにする。
本書の特色の1つは、従来の漫画史では、漫画とはまったくの“別物”としてとらえられてきた中国伝統の子ども向け絵物語「連環画」についても「中国漫画のルーツの1つであり、その発展を支えてきたもの」として詳しく解説されていること。
その箇所を、一部要訳して紹介すると――。
――現代の意義における「漫画」とは、18世紀に西洋で新聞産業が発展するにつれて生まれた新しい絵画表現のこと。
中国には19世紀半ば以降、こうした「漫画」表現が流入し、たちまち新聞紙面に登場するようになった。とくに清朝末期の当時、帝国主義列強の侵略などにより弱体化した政権を批判する手立てとしても、新聞やグラフ誌に掲載される風刺漫画、ユーモア漫画が発展していった。
風刺漫画とほぼ時を同じくして発展したのが、中国伝統の絵物語「連環画」だ。それは風刺漫画よりもさらに叙事性、娯楽性に富み、人気があった。
1908年、上海文益書局が出版した『三国志』が、石版印刷(リトグラフ)による近代中国初の連環画といわれる。
劇画風の絵と文からなる小冊子の連環画は当時、上海で「図画書」、北方で「小人書」などと呼ばれて全国で流行。さらにこうした連環画の影響もあり、広州、上海、天津などでは「連続漫画」を掲載した新聞やグラフ誌も見られるようになっていった。
また、1930年代に出版された葉浅予の長編漫画で、当時の上海市民の喜怒哀楽をリアルに描いた『王先生』シリーズや、張楽平の名作で、孤児「三毛」の泣き笑いをコミカルに描写した『三毛』シリーズ、ずるがしこいが憎めないキャラクター・老夫子を主人公にした朋弟の『老夫子』シリーズなどが中国漫画の確立や発展に「不滅の多大な貢献を果たした」といわれる――。
本書では、こうした中国漫画史の詳しい解説から、近年注目される中国スタイルを強く打ち出したオリジナル漫画やアニメ、中国政府の手厚い産業支援策までを網羅している。
とくに絵本、挿絵・イラスト、アニメのセル画を利用したコミック、ネット漫画、萌え系漫画など、新しいタイプの漫画を紹介。伝統的メディアでは取り上げにくいが、ネットなどの他メディアでヒットした国産漫画についても紹介している。
整理にあたっては、新聞、雑誌、年鑑、漫画史といった膨大な数の資料を参考にしたほか、雑誌やウェブサイトの編集長、オンライン動画配信会社の責任者、漫画協会、編集プロダクションなどに取材。
学術的・系統的に中国漫画史を知るのみならず、ふんだんに掲載された漫画作品や写真とともに楽しく読める一冊となっている。
付録の「中国漫画家名録」「中国動漫(漫画・アニメ)産業の年代記」も充実。
中国の漫画とアニメに興味のある向きにはおススメしたい、520ページを超える大作だ。
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