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2013年04月

 中国で村上春樹テーマに対談、
  藤井省三氏と施小煒氏

   
   

(左から)司会の止庵氏、藤井省三氏、施小煒氏中国でも大人気の作家、村上春樹とその作品をテーマにした日中両国の学者による対談がこのほど、北京と上海で行われた(主催:国際交流基金北京日本文化センター、新経典文化有限公司)。
東京大学の藤井省三教授(近現代中国文学)と中国の村上文学の翻訳家、施小煒氏が、中国でこの春、翻訳出版された村上春樹著『眠(ねむり)』『村上春樹 雑文集』(いずれも施小煒訳、南海出版公司)を取り上げて対談。
村上春樹の小説に反映された中国の文豪、魯迅の影響など、興味深いトークが繰り広げられた。

司会は、学者で散文家の止庵氏(対談は全て中国語で進行)。北京会場では中国の村上ファンや日本語学習者ら約120人が熱心に耳を傾けた。
以下、北京での模様を抜粋してご報告する。(敬称略)

   
 

■『眠り』はシンボリックな作品

止庵:村上春樹についてはこれまで何度も語られましたが、今日は彼と密接な関係のあるお二人を招きました。そして私自身、村上春樹の読者であり、日本文学の愛好者です。
中国での最新刊『眠(ねむり)』は短編小説ですが、彼の創作においては非常に重要な働きがある。発表される前に一時、創作の空白期があって、「眠り」(1989年『文學界』1月号初出)が彼を文学の道に戻しました。

藤井:「眠り」は、友人の画家である安西水丸氏の結婚を祝い、彼のために書いたといわれます。結婚して7、8年になる主婦が不眠症になり、トルストイの長編小説『アンナ・カレーニナ』を久しぶりに読み返す物語。
興味深いのは「眠り」が発表された同時期に、中国では作家、莫言が短編小説『懐抱鮮花的女人』(花束を抱く女)を著したこと。これは89年の(天安門)事件以降、事実上発表禁止とされた莫言が2年ぶりに1991年に発表した作品で、主人公の海軍中尉はアンナ・カレーニナのような女性と心中します。
村上春樹と莫言は全く異なるタイプの作家ですが、同時期に同じトルストイ作品を使って短編小説を執筆した点は注目に値します。

施小煒:私は話ベタなので、至らない点はご了承ください(笑)。
「眠り」は89年『文學界』1月号に発表されました。それまで創作の空白期にあった村上は、友人とギリシア、トルコ旅行へ行き、「春がやってきて……硬直したものが解けていった」(要約)と述べて「眠り」と「TVピープル」の2本を書きました。そういう意味で「眠り」は、村上が改めて作家、小説家の道に戻ったシンボリックな作品といえるでしょう。
中国の皆さんには、詳しい内容は翻訳本で確かめてください(笑)。
 

■『ノルウェイの森』と『1Q84』の違い

熱気溢れる会場止庵:中国には膨大な数の村上春樹ファンがいて、多くは『ノルウェイの森』(87年発表、中国でも80年代末に登場。以下『ノルウェイ』と略)から読み始めました。そこに描かれた都会的な「小資」(プチブル)の世界によって、(中国では)村上自身がプチブルのシンボルとなりました。
しかし近年発表された『1Q84』(2009~10年発表)では、そのイメージが異なりますよね。

藤井:村上文学の世界は非常に広大で、そして複雑です。『ノルウェイ』はリアリズムのラブストーリーですが『1Q84』はSF小説の味わいがあり、その創作範囲は幅広い。
『ノルウェイ』には彼の学生時代の経験が色濃く反映されています。神戸の名門私立高校から東京の名門、早稲田大学に入学。当時の大学進学率は約20%とまだ低く、進学できるのは多くは中産階級、プチブルの子どもたちでした。それで自ずと彼のリアリズム小説にはプチブルの趣が表れ、1990年代以後の高度経済成長期の中国の読者の関心を引いたのでしょう。
『ノルウェイ』に描かれたのは、1960年代から70年代にかけての日本です。一方の『1Q84』は1984年の物語で、状況は異なります。
日本は『ノルウェイ』に描かれたころはモダン・ソサエティーの時代でしたが、『1Q84』のころはポストモダン社会に入り始めていました。『ノルウェイ』は当時の学生が自分の人生を思考することをテーマとしていますが、『1Q84』はポストモダン社会への大過渡期を人々がいかに生き抜くかを描いています。

施小煒:2つのエピソードを補足させてください。1つは『ノルウェイ』の誕生秘話で、これは猫好きの村上春樹が飼っていた猫をヨーロッパに渡る前にある編集者に預けた。その時の返礼として書き下ろした長編小説が『ノルウェイ』だったといわれています。
2つめは当初、『ノルウェイ』に対する評価は高くなかった。『ノルウェイ』は結果的に村上の分岐点だったかもしれない。その後、正道に戻って『1Q84』を書いたのでは、と考えています。
 

■魯迅の影響が見られる『1Q84』

藤井:中国の文豪、魯迅は、太宰治の「惜別」執筆や松本清張の推理小説作家への転向など日本の作家や文学に大きな影響を与えました。村上春樹の『1Q84』といった小説にも魯迅の影響が見て取れます。
例えば、村上のデビュー作『風の歌を聴け』(1979年)の冒頭の一節には、「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」とあります。これは恐らく、魯迅の言葉「絶望の虚妄(きょもう)なることは、まさに希望と相同(あいおな)じい」に触発されたものでしょう。
「牛河」=「阿Q」?また、村上春樹は小説の中にアナグラム(言葉遊び)を潜ませることを好みます。長編小説『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる美少女ユキの父親は「牧村拓」(まきむら・ひらく)といい、「MAKIMURA HIRAKU=MURAKAMI HARUKI」というアナグラムであるとされます。
それと同じように、私は『1Q84』に出てくる「牛河」(うしかわ)という人物に、魯迅の名作『阿Q正伝』の阿Qの影を見ています。
福助頭をした性格が悪く容貌の醜い牛河(中年の元弁護士、準主役級)は、その名前のアナグラムにより「牛河→河牛(かぎゅう、KAGYU)→阿牛(あぎゅう)→阿Q(あきゅう、AKYU)」と阿Qを思い起こさせる。
(新興宗教団体「さきがけ」の仕事を請け負い、屈折した過去を持つ)牛河は、1984年の日本の阿Qではないでしょうか?
ちなみに『1Q84』日本版の表紙を逆さにして、Qの字の中に白い紙箋を置くと、そこに阿Qの顔が浮かび上がるような気がします。
  

■2タイプがある村上春樹の翻訳

止庵:村上はスコット・フィッツジェラルド、レイモンド・チャンドラーなど、アメリカの異なるタイプ、異なる階層の作家の文学を多数翻訳しています。翻訳家として、村上の翻訳をどう見ますか?

藤井:村上春樹は、中学高校時代からアメリカの音楽を好みました。たくさんのロック雑誌を読んで、歌詞を理解するために英語をまじめに学びました。それで作家となってから、小説を書いたり、翻訳をしたりしている。
彼の翻訳には2つのタイプがあって、1つはこれまであまり知られなかった『レイモンド・カーヴァー全集』などの訳。2つめはフィッツジェラルド、サリンジャーなどすでに日本語訳されていて、有名な作家たちの作品の翻訳です。
しかし後者の場合は、最初の日本語訳が出てからすでに数十年が経っている。過去の翻訳はあまりにも古くなり、言葉が現代の日本語とはしっくりこなくなってしまった。それで村上は新訳を強く望んだのです。彼は人柄が良いので、過去の翻訳の誤りを指摘しませんが、誤訳を正したいという気持ちもあったことでしょう。
 

■翻訳の難しさ

会場から熱心な質問が飛び交う止庵:中国の翻訳研究では「信、達、雅」という理念が古くから重視されています。
(※注: 「信」は正確性、「達」は伝達性、意味をよく伝えること、「雅」はそれらの上で文学性や表現力を維持すること)
「信」と「達」は基本的なことですが、「雅」の理解は人によって異なります。例えば、中国では成語(四字熟語、成句など)を使うと美文だとされ、これを好んで使う人がいますが、日本ではどうでしょう? こうした考え方はありますか?

藤井:私が魯迅を翻訳する場合は、原文に忠実に訳しながら、言葉は現代的なものにします。さらに句点、読点を重視します。翻訳家、竹内好氏の魯迅翻訳は原文の2、3倍もの句点の「。」を多用し、長文を特長とする魯迅原文を短く分節化しています。しかしそれだと読者が誤解を招くこともありそうです。

村上作品の中国語訳は80年代末から現れ、『ノルウェイ』には3つの翻訳がありました。中国の読者は3つを同時に楽しむことができた。その後、中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟し(著作権など知的財産権の保護制度を強化)、翻訳は(翻訳出版契約をした1社の)1つのものしかなくなりました。中国の世界化(WTO加盟)は素晴らしいことですが、読者にとってはいささか寂しいことでしょう(笑)。

翻訳には「信、達、雅」、そして「帰化と異化」の問題があります。翻訳をどの程度、帰化し、異化するかは議論のあるところです。
(※注: 「帰化」は原文を訳語文化に置き換えて訳すこと。「異化」は原語文化を重視して訳すこと)
中国の村上文学翻訳家の林少華氏は、帰化傾向の強い翻訳で知られました。村上春樹の小説が持つユーモラスな口語文を、時に中国語の四字成句に訳したり、原文を1行飛ばしたり、多くの誤訳をしています。帰化は自国読者にとってはわかりやすく馴染みやすいのですが、帰化と異化のバランスが大事。そういう私も莫言の小説の翻訳が出た後で、読者に誤りを指摘されたことがあります(笑)。
施小煒氏が訳された『1Q84』と『眠』は、帰化よりも異化に重きを置いているように感じました。

施小煒:藤井先生がいわれた通り、原作者にとって多種の翻訳があるのはやはりいいことだと思います。
翻訳本は、度々の重版がかかれば翻訳がより磨かれますが、実際には(質重視のため何でも重版にしたら)経済上、大赤字を招くでしょう。

止庵:先ほどの帰化に関してですが、中国人自身、いつも成語を口にしているわけではありません。成語は小中学生が好んで作文に書くくらいでしょうか? ですから私には帰化が必ずしも良いとは思えない。翻訳の帰化は、やはり慎重にすべきでしょう。

(了)
 

藤井省三氏

施小煒氏

止庵氏
【プロフィール】

藤井省三氏
1952年東京生まれ。東京大学文学部教授(近現代中国文学)。主な著書に『中国語圏文学史』『魯迅 東アジアを生きる文学』『村上春樹のなかの中国』など。編著に『世界は村上春樹をどう読むか』、訳書に『酒国』(莫言)、『故郷/阿Q正伝』(魯迅)など。

施小煒氏
1957年生まれ。復旦大学外国語学部(日本語文学)を卒業後、同大学で教鞭を執る。その後、日本に留学し、早稲田大学大学院日本文学研究科で芥川龍之介と中国の関係を研究。日本大学文理学部で教員を務める。帰国した現在は、上海杉達学院日本語学科の主任教授、日本文化研究所所長を務める。
主な著書に『日本文学散論』『驀然集』、訳書に『1Q84』『天黒以後(アフターダーク)』『眠(ねむり)』『村上春樹雑文集:無比蕪雑的心緒』(以上、村上春樹)、『老師的提包(センセイの鞄)』(川上弘美)などがある。

止庵氏
本名は王進文。1959年北京生まれ。学者、散文家。主な著書に『周作人伝』『老子演義』『神奇的現実』など。編集に『周作人自編集』『周作人訳文全集』『張愛玲全集』など。


【中国での村上春樹新刊(訳書)】
眠

施小煒氏
『眠(ねむり)』、村上春樹著、施小煒訳、南海出版公司
――突然眠ることのできなくなった主婦の世界を描いた短編小説。21年ぶりの全面改稿を経て2010年、新潮社から『ねむり』として出版された原書の中国語版。
ドイツ語版のカット・メンシック氏のイラストレーションも、中国語版に採用された。

『村上春樹 雑文集:無比蕪雑的心緒』、村上春樹著、施小煒訳、南海出版公司
――1979年から2010年までの未収録の作品、未発表の文章を作家自身がセレクトした69篇を収める(原書:2011年新潮社刊)。
2009年2月、エルサレム賞を受賞した村上春樹のスピーチ「壁と卵」も収録。

※ 写真は、北京での対談の模様(2013年3月19日、北京日本文化センター)。会場からは、4月に出版される村上春樹の新作長編小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)などについての質問が相次ぎ、村上文学への関心の高さをうかがわせた。
  

 
   
   
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★『新京報』図書ベスト
(北京図書大廈、王府井書店、中関村図書大廈、三聯書店など、市内主要書店やネット書店のデータから統計)
2013年3月15日~3月21日

     
第5位:『幸福要回答』

第6位:『鄧小平伝』

第7位:『沙流』



                                                                
 

1.『看見』(見る)
柴静・著 広西師範大学出版社 2012年12月初


2.『正能量』(原題『Rip It Up: The Radically New Approach to Changing Your Life』)
リチャード・ワイズマン著(英)/李磊・訳 湖南文芸出版社 2012年7月初


3.『誰的青春不迷茫』(迷わない青春はない)
劉同・著 中信出版社 2012年12月初


4.『鄧小平時代』
エズラ・ヴォーゲル著(米)/馮克利・訳 生活・読書・新知三聯書店 2013年1月初


5.『幸福要回答』(幸せは答えがいる)
楊瀾、朱冰・著 江蘇文芸出版社 2013年1月初版


中国の人気女性キャスターで、現在は慈善活動家としても活躍する楊瀾。本書は、100万部のベストセラー『一問一世界』の続編となる彼女のエッセイ集であり、自己啓発書でもある。中国メディア大学の学者で作家の朱冰との共著。
人生において多くの人が直面する、結婚と愛情、両親と子ども、事業と家庭といった様々な角度から「幸せになる」「なりたい自分になる」ための秘訣を明かす。 


6.『鄧小平伝』
リチャード・エバンス著(英)、田山・訳 国際文化出版公司 2013年2月初


1950年代半ばに駐中国イギリス代理所の政治参事官として大陸に赴任。60年代の駐在を経て、84~88年には駐中国イギリス大使として香港返還交渉に当たったリチャード・エバンス氏。
3回の通算8年間にわたる中国駐在で、彼が強く引かれたのが“改革・開放の父”といわれた鄧小平その人と、変化に富んだ20世紀の中国だった。
「自分の死後も改革路線が続くことを願っていた」という不屈の革命家、鄧小平。その知られざる横顔と波瀾に満ちた生涯を、西側外交官の目から描く。
日本では、『近代中国の不死鳥 鄧小平』として同朋舎出版から翻訳出版されている。 


7.『瘋了!桂宝9 喜悦巻』(クレイジー!桂宝9 愉快巻)
阿桂・著 北方婦女児童出版社 2013年1月初


8.『沙海』
南派三叔・著 新世界出版社 2013年2月初


中国の大ヒットシリーズ『盗墓筆記』の作者による最新冒険ミステリーで、同作の続編(少年編)。
主人公の呉邪ら、少年たちが神秘の砂漠に分け入ると、伝説の「さまよえる湖」の先には探していた「死の立ち入り禁止エリア」があった。実はそこは、建国後最大規模とされた砂漠機密プロジェクトの遺跡だったのだ。少年たちの不可思議な冒険が続く……。
南派三叔は中国のベストセラー作家で、近年の作家富豪ランキングの常連としても注目されている。 


9.『只有医生知道!』(医者だけが知っている!)
張羽・著 江蘇人民出版社 2012年12月初


10.『旧制度与大革命』
アレクシ・ド・トクヴィル著(仏)、馮棠・訳 商務印書館 2012年8月初版


 
     

 

 

文・写真 小林さゆり
日本の各種メディアに中国の文化、社会、生活などについて執筆中。
著書に『物語北京』(五洲伝播出版社)
訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)

 

  Blog: http://pekin-media.jugem.jp/
   
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