「王昭君研究会」について
◇活動目的・内容
和親政策によって匈奴王に嫁した王昭君の故事は早くから伝説化され、中国国内のみならず海を越えて日本にも伝来し、文学・演劇・美術・音楽等の多分野にわたって新たな作品の創作を促してきました。また、生み出された作品は分野を超えて交流し、〈昭君文化〉とも称すべき表象文化を形成してきました。
王昭君研究会の活動目的は、アジアにおいて形成され続けている王昭君の多様な表象文化とその伝播や流布の様相、また各表象の成立背景や地域性等について、多角的な視点から共同研究し、王昭君の享受史・表象文化史を構築することにあります。
この目的のために、王昭君に関連する文学・演劇・美術・歴史等の研究状況と研究課題について発表を行い、専門分野を横断した質疑応答を行なう研究会を定期的に開催しています。
◇発足・発展の経緯
例えば周知のように、『伊勢物語』は能《井筒》や《杜若》を、また白居易詩『長恨歌』や陳鴻の小説『長恨歌伝』は能《楊貴妃》を生み出しました。このように文学の有するダイナミズムは、あらたな表象文化を創造してきました。研究会代表者(泉)は、国内外の古典文学作品を素材にした新作能の創造を大きな目標に、プロジェクト「東西伝統演劇の融合」を立ち上げ、シェイクスピアの作品を能の方法や世界観と融合させた新作能《マクベス》と《オセロ》を創作して上演しました。
続く三作目として、アジアの伝統的な文学・文化の世界で大きな影響力を有してきた「王昭君」に着目し、2010年、国文学・能楽史・美術史を専門とする研究者と能楽師、面打が集まり、王昭君に関する研究会を始めました。
2015年には中国演劇の研究者も加わり、王昭君を主人公とした新作能《王昭君》を創作して、2019年に初演、再演を果たしましたが、この新作能を創作する過程で、アジアにおいて王昭君が形成する文化の享受史の長さと広がりを痛感し、王昭君の担う意味や役割について、より広く、より多角的な視点から共同研究すべきと考えるに至りました。
そこで、2021年、王昭君の表象文化に興味を持つ、文学・演劇・美術・歴史、さらに王昭君研究を希望する研究者に呼びかけた結果、2022年4月、「王昭君研究会」が結成され、月に一度のオンラインによる研究会が始まりました。
以後、研究会は30回を超え、宋代における王昭君の題画詩についての、また近代日本演劇における王昭君表象についての学術論文、粤劇《王昭君》に関する国際学会での発表も生まれ、2026年2月、研究会の成果が『王昭君文化の展開』として和泉書院から刊行されました。
◇特色・魅力
―王昭君の故事は漢民族と遊牧民族との交流史の中でどのように位置づけられるのか。
―王昭君の物語は、どのように文学から舞台芸術や美術や音楽へと展開していったのか。
―なぜ〈昭君文化〉は時空を越えて再構築・脚色され続けたのか。
―人は王昭君に何を見出し、何を託してきたのか。
近年、王昭君研究が高まりをみせていますが、私たち王昭君研究会の特色と魅力は、時空やジャンルを超えた多層的な昭君像の様相と系譜、その成立背景や地域性、また受容の広がりを、専門分野を超えた共同研究によって考察するところにあります。
『王昭君文化の展開』には、研究会で発表・検討した、西北方の異民族の歴史研究、中国宋代の題画詩や日本五山文学における題画詩についての文学研究、院政期の音楽説話に関する文学研究、中国元代の伝統演劇と現代の話劇および日本近世の歌舞伎を題材にした演劇研究、日本中世の能楽と新作能創作による演劇研究、日本近代の歴史画研究など、従来の王昭君研究においては検討の余地が残る作品や未検討の作品、テーマに関する多様な論考を収めています。
このような私たちの研究が、個々の専門的な研究を深めるとともに、これまで作者や時代、ジャンルごとに成されていた王昭君研究をつなぎ、〈昭君文化〉の様相と展開を俯瞰し、あらたな〈昭君文化〉の発見や創造につながっていくことができればと思っています。
◇おすすめの書籍
研究会の成果を王昭君研究会編『王昭君文化の展開』(2026年2月、和泉書院)に収めました。書籍の内容は以下の通りです。
まえがき 泉紀子
遊牧民のシルクロード交易―匈奴からウイグルまでの中央アジア支配― 中田裕子
Ⅰ 文学における王昭君
宋金元の題画詩にみる王昭君像 松尾肇子
院政期における説話としての王昭君―『龍鳴抄』にみえる『俊頼髄脳』の影響― 妹尾恵里
室町期における王昭君像について―妙心寺大心院蔵画軸を中心に― 高語莎
『翰林五鳳集』所収王昭君詩訳注稿 泉紀子・高語莎・松尾肇子・米山敬子
Ⅱ 演劇における王昭君
王昭君はなぜ自害したのか―元雑劇『漢宮秋』と『梧桐雨』との比較を中心として― 桜木陽子
〔コラム〕中国伝統演劇の基礎知識 桜木陽子
曹禺『王昭君』とその影響 瀬戸宏
日本古典芸能における王昭君の描き方―歌舞伎『傾城王昭君』を中心に― 中尾薫
新作能《王昭君》創作の背景と意図 泉紀子
校注 新作能《王昭君》 梗概・詞章・注・現代語訳・上演記録 泉紀子
中国語訳(梗概・詞章) 高語莎
〔コラム〕蛾眉―新作能《王昭君》の能面― 藤原千沙
Ⅲ 美術における王昭君
東洋的歴史画の研究―菱田春草筆《王昭君》を中心に― 日並彩乃
〔コラム〕東京美術学校の卒業制作と王昭君 日並彩乃
あとがき 松尾肇子・中尾薫
定価:本体7,500円+税 2026年2月刊行 326ページ
和泉書院の紹介ページ:https://www.izumipb.co.jp/book/b673804.html
*連絡先 :563‐8532 大阪府豊中市待兼山町1‐5
大阪大学大学院人文学研究科芸術学専攻演劇学研究室
06-6850-2177 engeki*let.osaka-u.ac.jp
(研究会代表 泉紀子)
