中国語を楽しむために知っておきたいこと

投稿者: | 2024年8月15日

井田 綾

 発音矯正を専門としている中国語講師の井田と申します。個人レッスンをしたり、通信制高校の発音講座を担当したり、発音講師の育成をしたりしています。
 中国語学習者さんとお話ししていると、多くの方がよく似た疑問や迷いをお持ちなのだなということがわかります。このコラムでは、そんな時にお答えしている内容をかいつまんでお伝えしようと思います。
 入門者の方は(1)から、初級以上の方は(4)からどうぞお読みください。

(1)入門・初級段階の心得

 入門段階では、何をおいてもまずピンインの読み方をマスターしましょう。ピンインの読み方とは、“tuan”は「トワン」だけど“yuan”は「ユエン」といったルールを知ること。それが学習の第一歩になります。これができれば辞書も引けるしキーボード入力もできるようになる、必須のスキルです。ここでピンインを覚えずにカタカナ表記に頼ってしまうと、中国語の習得までに大変な遠回りをする羽目になります。
 ところが学習を始めたばかりでは、発音するたびに音が違ってしまったり、つづりを読み間違えたりして、発音が安定しません。これは普通のことなので、焦る必要はありません。文型や単語の学習を進めながら、淡々と発音練習を続けましょう。だいたい半年ほどでピンインの発音が安定してきます。
 入門期の目標レベルの目安となるのは、最も基本的な文型が使えるようになる中検4級・HSK3級。がんばれば半年で到達できます。
 コンスタントに学習を続けていると、次の半年で中検3級・HSK4級に手が届きます。ここまでくればシンプルながら自分の言いたいことを表現することができます。
 最初の1年間でまずは中検3級かHSK4級、ここまで集中して一気に初級段階を駆け抜けましょう。これは十分に達成可能な目標です。

(2)音読と暗唱は語学の筋トレ

 ピンインが迷いなく読めるようになったら、文章の音読に取り組みましょう。
 初級段階になるとテキストの文も長くなってきます。まずはお手本音声を何度もじっくりと聞き、そして一文ずつお手本音声を模倣しながら音読します。自分の音読を録音して、お手本音声と聞き比べてください。「ここはもう少し変えたほうがいいな」など改善点を考えながら、また音読します。
 さっさと原稿を暗記してしまい、原稿なしでお手本音声を聞く、原稿なしで暗唱するというのも一つの手です。よりいっそう音に集中して模倣することができます。
 こういった練習で口に出せる単語の数も増えますし、後々会話で使える例文をインプットすることにもなります。発音練習をすればするほどリスニングの力も向上していきます。アスリートが走り込みや筋トレをするのと同じように、語学学習者は日々の基礎トレーニングとして音読や暗唱を取り入れましょう。

(3)発音との向き合い方

 さて、「中国語は発音が大事」とはどの先生も力説することで、私も発音指導専門の講師ですから異論はありません。ですが、発音にこだわるあまり学習が進まなくなっては元も子もありません。多少のクセがあっても後から修正することは可能です。美しい流暢な発音でなくてもいいですから、まずは「通じる」発音を目指しましょう。
 たしかに、ちょっとした発音の違いのせいで通じないということはあります。では「通じる発音」というのはどういうものでしょうか。端的に言えば、どのつづりをどの声調で発音しているかが分かる発音ということです。 中国語の発音を分解すると、母音、子音、声調、緩急抑揚となりますが、特につまずきやすい要素が声調です。声調があいまいだと「眠る」が「水餃子」になったり、「布団」が「コップ」になったりしてしまいます。
 母語が日本語の方によく見られるクセとして、子音の直後の i が弱くなるという特徴もあります。jiao を「ジャオ」と発音してしまい、zhao と区別がつかないというようなことですね。発音するときに区別できない音は聞いたときにも区別できないままなので、気をつけたいところです。
 入門・初級段階では、まずは声調をしっかりと表現する、ピンインのつづりを1文字ずつ大切に発音する、これだけでとても通じやすい発音になります。
 多くの方が難しいとおっしゃる発音には、他に母音の「e」、子音の「zh, ch, sh, r」などがあります。これについては、一度でいいので誰かプロ講師に発音をチェックしてもらうとよいでしょう。それ以外のたいていの母音・子音は、聞こえたように模倣すればだいたい通じます。
 もちろん全体的に発音をチェックしてもらう機会があれば、言うことなしですね。

(4)会話レッスンの活用法

 基本的な文型を一通りインプットしたら、そろそろ中国語で会話をしたくなってきますね。オンラインやカフェで安価に会話練習に応じてくれるネイティブさんも多いので、そうしたレッスンも学習方法の一つです。
 ただし「会話する」ことだけを目的にして会話に臨むと、意外と苦しい状況に陥ります。違う相手に当たるたびに自己紹介で終わってしまう、話題が見つからない、相手の話を聞くだけで終わってしまう、といったお悩みを耳にします。
 ネイティブさんの会話レッスンで私がお勧めしているのは、フリーテーマで会話をするよりも、何か教材を用意して教わる、あるいは何かテーマを決めてプレゼンするといったやりかたです。
 たとえば、単語テキストを用意してその単語を使った文を作り、よりよい文に修正してもらう。こういう形式で一冊の学習を終えたらとても力がつくでしょう。中上級者になったら副詞や成語を使うのもよいでしょう。
 ある人は、その週に見たドラマのあらすじを中国語で話して添削してもらうという方式でレッスンを受けていました。楽しい上に要約力も磨ける、素敵なレッスンですよね。
 会話のための会話は苦しいですが、目的のあるレッスンなら中国語力を伸ばすこともできて一石二鳥です。

(5)楽しくなければ続けられない

  • 5-1 先輩学習者の中国語を聞く
  •  なかなか上手に話せない、自分の発音が良くないのではないかと気になる、誰にもそんな時期があります。そういう時には是非、先輩学習者の中国語を聞くことをお勧めします。自分が非ネイティブの学習者としてどんなふうに中国語を話したらいいか、どんなふうに話す可能性があるのかとイメージを持つことができます。
     たとえば中国語スクールでクラスメイトの話し方を聞くのもいいですし、各自治体で開催されている国際交流サロンなどに参加するのもいいでしょう。ネット上で参加できる音読会には、指定された原稿を音読したり自分で持ち込んだ原稿を音読したりする他に、リスナー枠が設けられていて聞くだけの立場で参加できる会もあります。
     非ネイティブの学習者でもこんなに上手に話せるのだなあ、自分と同じような初心者でも頑張っている人がこんなにいるのだなあ、と勇気をもらえること請け合いです。

    李軼倫先生の音読会がこちら。
    中国語音読発表会&交流会
    https://x.com/chu595ondo9

    私が開催している音読会もあります。
    音読サークル〈玲瓏りんろん〉
    https://peraichi.com/landing_pages/view/linglong/

     YouTubeチャンネル「和之夢 公式チャンネル」の「私がここに住む理由」というシリーズはたいへん興味深いコンテンツです。中国編としてはすでに200本ほどの作品が公開されていますが、中国に腰を落ち着けて暮らしている外国人の生活が取材されていて、一人一人の人生に感銘を受けます。そして何より、日本人を始めとして多くの非ネイティブ話者の中国語を聞くことができます。ネイティブと同じ発音でなくても十分に豊かな中国語を駆使し、働いたり学んだりと自分らしく活動しておられる姿は、とても刺激になります。

    和之夢 公式チャンネル「私がここに住む理由」作品リスト
    https://youtube.com/playlist?list=PLxBReoeYDcrufad4vv8HhUrxDNTjinZ8F&si=6Jq6V2m4CQRpwKmc

     また、この「和之夢」のリーダーである映像作家の竹内亮さんも大人になってから学習した中国語を駆使して多様なドキュメンタリー取材をしておられます。中国語を使ってできることの大きな可能性を見せてくださっていますので、同チャンネルのその他の作品も是非ご覧になってみてください。

    和之夢 公式チャンネル
    https://www.youtube.com/@wanoyume_hezhimeng

  • 5-2 中国語学習の情報に触れる

  •  目の前の教材に集中していると、たまには息切れしてしまうこともあるかもしれません。学習のモチベーションを得るには、机を離れて広く中国語についての情報に触れることも良い刺激になります。
     取り組むテキストを探したり新たな勉強方法を探したりするには、東方書店を始めとする専門書店や、大規模書店の中国語コーナーに足を運んでみましょう。多種多様な関連書籍を手に取り見ているだけで楽しい気分になります。
     中国語検定試験(中検)の受験案内冊子には『中国語の環』という綴じ込み刊行物が掲載されていて、著名な先生方のエッセイや中国語解説などが読めます。無料ですので、書店や中国語スクールで見かけたらもらってきましょう。
     『聴く中国語』(愛言社)という月刊雑誌ではほとんどの記事が音声付きで用意されていて、ラジオのように楽しめます。記事内容も、初心者向けの学習素材から上級者も楽しめるボリュームのインタビューなどさまざまです。読むだけでも楽しいのですが、リスニングに、読解に、書き取りにと柔軟な使い方ができます。会話レッスンでの話のネタにもなりそうです。
     X(旧twitter)で中国語関連の投稿を見ていると、学習について、レッスン情報、中国文化、ドラマ・映画などエンタメ情報、渡航事情、現地情報など、毎日飽きないくらい色々な情報に触れることができます。手始めに書店や出版社、中国語スクールや個人講師のアカウントをフォローしてみるといいでしょう。「中国語」「中国語学習」といったキーワードで検索すれば、大勢の熱心な学習者さんのアカウントに出会うこともできます。
     「一分中文」というYouTubeチャンネルもお勧めです。さまざまな言い回しをそれぞれ1分以内でさらっと紹介してくれます。出演者は、中国語YouTube界で大人気の李姉妹、多数の中国語学習書の著者であり多くの学習書の中国語録音もなさっている李軼倫(りいつりん)先生、日本人の中国語講師として人気の原田夏季先生です。

    一分中文
    https://www.youtube.com/@1mchinese/shorts

     ネット上で聞ける音声コンテンツにポッドキャストという音声配信があります。動画とは違って画面に注目していなくても聞くことができるので、移動中や家事、運動などのお供に楽しめます。Apple Podcast、Spotify、Amazon Music、Stand FMなどいくつもの配信スタンドがありますが、ご自身の便利なものを選んでお好きな番組を探してみてください。これもキーワード検索で色々な番組に出会えます。いくつかの番組をご紹介しましょう。

    日本人講師による初心者向け中国語学習番組
    えいこの中国語発音
    https://stand.fm/channels/633936718fc92d08baa8b6a6

    通訳者・バイリンガル司会者が日中両語で配信している番組
    日中バイリンガルへの道(宇高よう)
    https://udakayoo.com/podcast/

    中華エンタメ情報を配信している番組
    三崎智子の日中アニトーク!
    https://open.spotify.com/show/6qxBqetUIOo6ifZ4K1nDQ7

    台湾情報を配信している番組
    「佐野いくみの喜々台湾(ききたいわん)」
    https://www.office-linpro.com/works/

  • 5-3 できることを、できる範囲で、あきらめないで

  •  入門・初級の峠を越えた後の取り組み方は、中国語とどんなふうに付き合うか、中国語で何をやりたいかによって人それぞれになっていきます。勉強の方法なら、暗記が好き、ディクテーション(書き取り)が好き、シャドウイング(音声にぴったり着いて発音する)が好きなど人によって好きなものが違います。その時点での弱点や伸ばしたいスキル、仕事か趣味か教養かといった目的によってもお勧めの方法や内容が変わってきます。
     いずれにしても「完璧さを求めない」ということを心にとめておかれるとよいでしょう。毎日学習するに越したことはないのですが、たまには休んだっていいのです。
     とはいえ、どうか投げ出さないでください。継続さえしていれば必ず実を結びます。今日はこれができるようになった、今日はこれを学んだ、と楽しみながら中国語に触れる毎日を過ごしましょう。中国語を楽しむ方が増えることを願っています。

     

    (いだ・あや 中国語発音講師)
    Xアカウント:@aida0627

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