沈黙の中国語 心の中でつぶやく中国語 第1回

投稿者: | 2026年9月15日

お見合い中の心の中のつぶやき

氷野善寛&茜千里

ペルソナ:30歳前後の未婚の女性
日本=マッチングアプリで知り合った男性と初対面(新宿のカフェ)
中国=親がセッティングした”相亲(北京・モール内のチェーンカフェ)
時間:15時

【中国都市女性にとっての“相亲”(お見合い)】

 「お見合い」という言葉に、どのようなイメージをお持ちでしょうか。日本でも中国でも「結婚を前提とした出会いの場」として知られていますが、その中身は文化背景によって大きく異なります。特に、30歳前後の都市部の未婚女性をめぐる婚活スタイルには、対照的な傾向が見られます。
 現在の日本では、マッチングアプリや婚活イベントが主流となっており、「自分で相手を探す」「とりあえず会って話してみる」といったスタイルが一般的です。出会いのテンポも比較的ゆるやかで、「いいかも」と思った相手と何度かやり取りを重ね、判断していくのが自然な流れとなっています。
 一方で中国では、“相亲”という言葉が今も日常語として生きています。特に一人っ子政策の影響を受けた世代の女性たちにとっては、「親が結婚相手を探してくる」ことは珍しくありません。上海・北京などの都市部でも、週末の公園には“相亲角”と呼ばれるお見合いスポットができ、親同士が子どものスペック(年齢・学歴・年収・持ち家の有無など)を照らし合わせてマッチングを試みます。
 こうした現実は、ドラマ作品にも色濃く描かれています。たとえば、2013年に放送されたヒット作《咱们结婚吧》では、結婚適齢期を迎えた女性が、親の期待と自分の恋愛観とのあいだで揺れ動く様子が描かれました。また《下一站是幸福》(2020)《三十而已》(2020)などの近年の都市恋愛ドラマでも、婚姻をめぐる「合理性」と「感情」のジレンマは、現代中国女性のリアルとして共感を集めています。
 今回は、30歳前後の女性が「はじめまして」の相手と対面する場面を切り取ります。
 日本では、マッチングアプリを通じて知り合った男性と、初めて会う約束の日。場所は新宿のカフェ。時刻は15時。プロフィール写真よりやや真面目そうに見える相手が、少し緊張した笑顔で、わざわざ席を立って迎えてくれる。彼女は姿勢を正しつつ、内心では「よくある流れだな」と思いながらも、丁寧なリアクションを心がけている。そんな瞬間です。
 一方、中国では、親から「明日、“相亲”よ」と半ば一方的に告げられた女性が、カフェに現れます。時刻は北京時間で15時、場所はショッピングモール内のチェーン系カフェ。テーブル越しに座るのは、スーツでピシッと決めた男性。はじめから「結婚前提」の空気がやや重く感じられ、彼女の脳内ではすでにいくつかのチェックポイントが作動しはじめています。
 では、それぞれの心の中では、どんなつぶやきが交差しているのでしょうか。
(注:つぶやきはあくまで氷野&茜の主観的な想像に基づく産物です)

■日本人女性のつぶやき(日本語 → 中国語)

15:00 席に着いて、向かい合う
「写真とちょっと違うかも……」
和照片有点不一样……
有点”+形容詞は「ちょっと〜だな」という軽い不満や違和感を表す言い回し。この場合、“不一样”は直訳すれば「違う」だが、“有点”をつけることで和らいだ表現になる。

15:05 相手がやけにかしこまって挨拶してくる
「わざわざ立ち上がって、深々とお辞儀。丁寧なのはいいけど…ここ、カフェだよ?」
他居然站起来,深深鞠了一躬,也太郑重了吧……这儿可是咖啡馆诶。
也太~了吧”は話し手の驚きや戸惑いを込めた口語で、「~すぎじゃない?」のニュアンス。“郑重”は「丁重な・かしこまった」。カフェでの大げさな礼儀への、軽いツッコミ。

15:20 自己紹介から趣味の話へ
「趣味は旅行…よくあるやつだ……」
兴趣是旅游?好大众哦……
好〜哦”は「〜だねぇ」「〜すぎるわ」といった感嘆のニュアンス。“大众”は「大衆的・ありがち」なこと。つまり“好大众哦”で「ありふれてるなあ」。

15:45 会話がひと巡りして
「これ、何分くらいで終わるのかなあ……」
这个要聊多久才能结束啊……
要〜多久才能〜”で「~するにはどれくらい時間がかかるのかなあ」という焦りや疑問を表現できる。“”をつけることで語気が少し弱まり、つぶやきらしい口調になる。

16:10 二杯目を頼むか、考えながら
「あ、でも悪い人ではなさそう。」
哎,不过他好像也不坏。
”は独り言の切り替えにも使える、軽いため息的な感嘆詞。“不坏”は否定形だけど、「悪くない=悪人ではなさそう」といった含みをもたせる。

■中国人女性のつぶやき(中国語 → 日本語)

15:00 待ち合わせのカフェに着いて
又是妈妈安排的相亲……
(またママのセッティングか……)
又是〜”は「また〜だよ…」という繰り返しへのうんざり感を含む構文。中国では親による“相亲(お見合い)がまだ一般的なため、このようなセリフはリアル。

15:03 向かいに座った相手を見て
哇,居然把房产证都带来了,是要直接谈结婚吗?
(うわ、まさか不動産の権利証まで持ってきたの? いきなり結婚の話をするつもり?)
居然”は「まさか〜とは」「意外にも」という驚きや皮肉を表す。“把房产证带来了”は、「“”+目的語+動詞」の形で、「不動産の権利証を持ってきた」という意味。“”を加えた“房产证都带来了”には、「権利証まで持ってきた」という強調のニュアンスがある。“是要〜吗?”は、相手の意図を推測しながら「〜するつもりなの?」とつっこむ口語表現。

15:20 相手が自分の趣味を語りだす
说自己健身很多年了,肌肉也没多大啊……是在装吗?”
「何年も筋トレしているって言うけど、筋肉はそんなにないな……見栄を張ってるのかな?」
说自己~”は「自分では〜と言っている」という意味で、相手の自己紹介を少し距離を置いて受け止める言い方。”没多大”は「それほど大きくない」「大したことはない」という口語表現。“在装吗?”は、「格好をつけているの?」「実際以上によく見せようとしているの?」と、相手の発言を疑う、やや辛口なツッコミ。

15:40 会話が途切れがちになって
我的脸都快笑酸了……
「もう、笑いすぎて顔が痛くなりそう……」
都快〜了”は「もうすぐ〜になりそうだ」「今にも〜しそうだ」という意味。“笑酸了”は、笑顔を長く続けたせいで顔の筋肉が疲れ、痛くなることを表す。ここでは、気まずい会話の中で作り笑いを続けるつらさを、少し大げさにぼやいている。

16:00 そろそろお開きという空気で
不讨厌,但也没有心动的感觉。”
「嫌じゃないけど…ときめきはないな。」
讨厌”「嫌う」「嫌い」。否定形にして「嫌じゃない」。“心动的感觉”「ときめく感覚」「恋に落ちる予感」で恋愛初期の感情に使われやすい表現。“但也没有〜”の形で、「でも〜はない」とやや冷静に判断するニュアンスが出る。

■文化比較対談

氷野:そういえば茜先生、中国のお見合いってどんな感じなんですか? 10年ぐらい前には、人民公園の“相亲角”に親が貼り紙してるのを見て驚きましたけど、今もああいう文化ってあるんですか?
茜:ありますよ、まだ(笑)。週末になると人民公園はにぎやかです。でも、都市部の若い世代はネットアプリや“朋友介绍(友人の紹介)が主流ですね。私の周りにも、“家长安排的相亲(親がセッティングしたお見合い)に行った知り合いが何人かいます。こういうお見合いの多くは、親に付き合うためのパフォーマンスにすぎないと思っていたんです。でも実際には、そこで理想の相手を見つけた人もいて、本当に驚きました。
氷野:パフォーマンスのつもりが、ちゃんとご縁につながることもあるんですね。日本だと、アプリで「この人いいかも」と思って実際に会っても、その場(初対面の席)ではすぐに決めないことが多いんです。とりあえず30分は丁寧に話して、「また会ってみようかな」と保留にする。「とにかく失礼のない会話を心がける」傾向が強いのかもしれませんね。
茜:うーん、その丁寧さは日本らしいですね。中国の女性は“讨不讨厌(嫌じゃないかどうか)、“有没有感觉(ときめくかどうか)をすぐに考えますね。で、たとえば頭の中では、“又是妈妈安排的相亲……(またママのセッティングか……)、“他刚才那个假笑太累了(さっきの作り笑い、見てて疲れる)、みたいな、ちょっと辛口なコメントが飛び交ってます。(笑)
氷野:辛口ですね(笑)。でも、親が「条件はいいのに」と勧める相手に、本人は“没有感觉(ピンとこない)。あの温度差は、どこから生まれるんでしょう?
茜:そうですね。親が選んだ相手の場合、親から見ると「見た目も悪くないし、条件もいい」と思える人でも、子ども本人の好みにはまったく合わない、ということがよくあります。親が重視するのは、学歴や仕事、収入、家庭環境といった比較的分かりやすい条件です。でも、本人が実際に会ったときに気になるのは、外見の好みだけでなく、話し方や振る舞い、その人がまとっている雰囲気だったりする。だから、中国のお見合いでよく言われる“没有感觉(何も感じない)という言葉は、単に恋愛的なときめきがないというだけではなく、親はあまり気にしないような外見、話し方、雰囲気などが、自分の感覚に合わないという意味で使われることが多いと思います。
氷野:なるほど。日本人女性の頭の中でも、「またそのパターンか…」とか「うーん、普通…」みたいなツッコミはあると思うんですが、それを絶対に顔に出さないのが文化的な特徴かもしれません。
茜:うん、それ大事な違いかも。中国だと、会話の途中で「もう無理」ってなったら、笑顔もだんだん減っていきます(笑)。だから相手も「脈ナシだな」と早く察する。でも、反応が早い分、気まずさはあまり残りません。
氷野:あ、それは興味深いですね。日本は「お断りするまでが一仕事」で、「またご縁があれば…」という社交辞令を経て、やっと「ご縁がなかったということで」と連絡する。ちょっと疲れます。中国は、もっとあっさり切り替えるんでしょうか?
茜:中国の場合、特に親や親戚、友人から紹介されたお見合い相手だと、“不太合眼缘(あまり好みのタイプではない)と言うだけで、その先に進まないこともあります。ただ、知り合いの紹介なので、相手や紹介してくれた人の顔を立てて、断るときもある程度は婉曲的に伝えることが多いですね。そもそも“不太合眼缘”という言い方自体が、かなり曖昧なんです。外見なのか、話し方なのか、雰囲気なのか、具体的にどこが気に入らなかったのかは、はっきり言いません。でも、この言葉が出た時点で、双方とも「今回はここまでだな」と暗黙のうちに理解する。そういう意味では、確かに判断も、その後の展開もかなり早いと思います。

(ひの・よしひろ 目白大学/あかね・せんり 関西大学)

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