瀧本 弘之
前回、龍の図像として中国のものを取り上げたが、今回は日本のものを中心に取り上げてみたい。
私が龍で思い出すのは、タコである。
……と言っても食べる章魚ではなく、飛ばす凧(風筝)である。正月の風物詩の一つだ。昭和30年代は暮れから年の初めにかけて、都内の空地でいたるところ凧揚げが行われていた。主役は団塊の世代の男子たちで、彼らが手にしていたのは竹ひごを四角く組んだ枠組に張られた白い紙でできた安価な凧。その白い長方形の画面に、縦に「龍」の字を赤で大きく描いた凧だった。両隅に白い細長い紙を垂らして、これが安定を図る重石の役割を果たす。この形態からタコと呼ばれたのだろうか。当時は戦後10年ごろで、都内には空地が豊富で子供の遊び場はここに決まっていた。掲載写真は、現代のネット販売されている浜松地域のものだが、縦に竹の棒が突き出ているだけで長い紙の足がない。自分で貼り付けて安定させればいいのだろうか。もっと安直な手作りの、昔の即席風のものの方が却ってその時代らしい風格を感じさせて好きだ。