■2015年ベストセラーランキング
アマゾン中国はここ数年、毎年のようにその年の図書ランキングを発表している。
今年発表された項目は、2015年「ベストセラーランキング」「ベストセラー作家ランキング」「閲読都市ランキング」、そして今年初めてお目見えした「10大新鋭作家ランキング」だ。
まず、2015年ベストセラーランキング(トップ10)を見てみると――
1、『秘密花園』(日本語題:ひみつの花園)
(英)ジョハンナ・バスフォード 著 北京聯合出版公司(2015年6月 第1版)
2、『解憂雑貨店』(原題:ナミヤ雑貨店の奇蹟)
(日)東野圭吾 著 李盈春 訳 南海出版公司(2014年5月 第1版)
3、『島上書店』(日本語題:書店主フィクリーのものがたり)
(米)ガブリエル・ゼヴィン 著 孫仲旭 ほか訳 江蘇鳳凰文芸出版社(2015年5月 第1版)
4、『自控力』(日本語題:スタンフォードの自分を変える教室)
(米)ケリー・マクゴニガル 著 王岑卉 訳 文化発展出版社(2012年8月 第1版)
5、『従0到1:開啓商業与未来的秘密』
(日本語題:ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか)
(米)ピーター・ティール/ブレイク・マスターズ 著 高玉芳 訳 中信出版社(2015年1月 第1版)
6、『追風筝的人』(日本語題:カイト・ランナー)
(米)カーレド・ホッセイニ 著 李継宏 訳 上海人民出版社(2006年5月 第1版)
7、『乖,摸摸頭』(いい子、撫で撫でしよう)
大氷 著 湖南文芸出版社(2014年10月 第1版)
8、『平凡的世界』全3巻(平凡な世界)
路遥 著 北京出版集団公司 北京十月文芸出版社(2012年3月 第2版)
9、『我的第一本専注力訓練書』(私の初めての集中力トレーニング本)
(米)ウォルト・ディズニー・カンパニー著 童趣出版有限公司 編訳 人民郵電出版社
(2012年5月 第1版)
10、『狼図騰』改訂版(狼のトーテム)
姜戎 著 長江文芸出版社(2014年12月 改訂第1版)
――というラインナップになっている。売り上げの部数や金額などのデータは公表されていないものの、驚くのはこのトップ10のうちで、海外作品の翻訳本が7点も占めていること。とくにトップ6位までを欧米や日本の作品が占めており、中国ユーザーたちに「世界のトレンドを知りたい」という、知の欲求の“外向き”志向が強まっていることがうかがえる。
年間ベストセラーの堂々第1位に輝いたのは、以前小欄(「東京便り」vol.20)でもお伝えしたことがある『秘密花園』(日本語題:ひみつの花園)だ。
イギリスのイラストレーター、ジョハンナ・バスフォードさんの著作で、世界的ベストセラーの塗り絵ブック『ひみつの花園』(Secret Garden)が中国でも大ブームとなり、アマゾン中国や「当当網」といった大手ネット書店で品切れが続出。
細密に描かれたモノクロームの花園に好きなように色を塗り、オリジナルの花園を完成させる塗り絵ブックで、大人も子どもも楽しめること、「ストレス解消効果がある」とされること、さらに中国では国内SNSを通じて塗り絵作品を公表しあうことがファンの間でブームとなり、爆発的に売り上げを伸ばしたようだ。
続いてベストセラー第2位にランクインしたのが、東野圭吾の『解憂雑貨店』(原題:ナミヤ雑貨店の奇蹟)。
日本では角川書店より2012年3月に単行本が、2014年12月に文庫本がそれぞれ出版され、今年上半期までに文庫が累計100万部に達したという大ベストセラーだ。
その後、中国語圏では2013年に台湾で翻訳出版(皇冠出版社、繁体字版)されたのに続き、大陸では2014年に簡体字版が登場。その年のアマゾン中国ベストセラーランキングでも初登場で第4位を記録し、今年はさらに躍進した形となった。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、時空を超えた手紙のやりとりによって、さまざまな悩み相談にのる不思議な商店「ナミヤ雑貨店」を舞台に、タイムスリップする奇妙な手紙を通じて人生の岐路に立った人たちに起こる奇蹟を描いた、感動の長編ミステリー小説。中国語題の『解憂雑貨店』(お悩み解決の雑貨店)が本質をついていて、いい味を出している。
また本作は先ごろ、これを原作として中国で映画化されることが発表された(香港英皇電影公司、万達電影)。2016年にクラインクインし、2017年に公開予定とのことで、そうした話題性も手伝って、さらなるヒットにつながった。
ベストセラー第6位のカーレド・ホッセイニ著『追風筝的人』(日本語題:カイト・ランナー)は、2006年に初版が刊行されて以来のロングセラー。
第10位の『狼図騰』改訂版(狼のトーテム)は、中国人作家・姜戎が2004年に発表したベストセラーの改訂版(日本では『神なるオオカミ』として講談社から翻訳出版されている)。雄大なモンゴルの草原を舞台に、遊牧民とオオカミとの世界を描いた作家の自伝的小説で、今年この作品を原作とした映画が公開(中国・フランス合作)されたことから、人気が再燃したようだ(日本では2016年1月~、『神なるオオカミ』として東京ほかで全国順次公開予定)。
このように中国では、時としてベストセラーがやがてロングセラーとなり、長い年月をかけて人々に広く愛読されるという現象がある。それも日本の約25倍もの国土と13億もの人口を抱える、巨大なマーケット事情があるからだろう。
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