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微観中国  (29)毛沢東は「主役」にあらず 「歴史歪曲」の映画宣伝に猛烈な批判
   
     


映画『カイロ宣言』の毛沢東とパロディーのポスター

 

 

中国が「世界反ファシズム戦争勝利70周年記念作品」と銘打って宣伝中の映画「カイロ宣言」が議論を呼んでいる。人民網(日本語版)によると、同作品は重慶映画集団や人民解放軍傘下の八一映画製作所などが共同で製作、「1943年に開かれたカイロ会談で『宣言』が示される前後のエピソードを描いている。現在の絶え間ない国際紛争や政治問題の多くは、『カイロ宣言』を端に発しており、それらのエピソードは歴史的意義だけでなく、現在でも大きな意義を持っている」としている。
戦後70周年を記念する映画として、中国がなぜカイロ会議をテーマとした作品を作ったのか、おそらくはその領土問題をめぐる主張と関連があるのだろう。日本の外務省のHPには、「中国政府は1943年『カイロ宣言』、またその後の1945年『ポツダム宣言』を日本が受け入れた結果,尖閣諸島は台湾の附属諸島として、台湾とともに中国に返還された旨主張しています」とある。この問題についての日本側の見解はHPを読んでもらうとして、この映画が北京で大規模な抗日戦争勝利を記念する閲兵式が行われる9月3日に封切られることからも、日本を意識した宣伝的な意味が強い作品であることは明らかだ。
だが、映画を宣伝するポスターが発表されると、ネットでは大きな議論が起きた。BBC中国語サイトは15日、以下のように伝えている。

 

 

 

 
   
     

 

 

八一映画製作所が撮影した第2次世界大戦をテーマとした「カイロ宣言」のポスターが発表されたが、この中で毛沢東中国共産党主席が大きく登場、ネット市民の批判を招いている。
4枚あるポスターは、中国の著名俳優唐国強が演じる毛沢東のほか、ルーズベルト米大統領、チャーチル英首相、ソ連のスターリンが大きく写っている。国を指導するポーズを取る毛沢東の後ろには戦争の硝煙や砲火が描かれ、「中国人民抗日戦争・世界人民反ファシズム戦争勝利70周年を記念する」との文字が書かれている。
カイロ宣言は第2次世界大戦の重要な歴史事件であり、1943年11月22日から26日まで開かれた。ルーズベルト、チャーチルのほか中国国民党指導者だった蔣介石が出席、スターリンは参加しなかった。会議は日本の無条件降伏と、満州、台湾、澎湖諸島の中華民国への返還を要求、戦後日本処理の基本原則を示したとされる。
「カイロ宣言」ポスターが出た後、すぐさま多くの中国ネットユーザーの議論を引き起こした。ポスターが示した内容は当時の歴史とは全く符合せず、歴史を改ざんした疑いがあるとの指摘だった。
これに対し、映画製作者側は中国のエンタメサイトの取材に「映画は中国が1943年カイロ会議に参加した故事を述べたもので、中華民族がともに奮闘した結果だ。中国が(参加国として)認められたのは全民族の抗日戦争の結果であり、毛沢東が指導する中国共産党は重要な役割を果たした」と説明した。

 

 ポスターを見れば、あたかも毛沢東が連合軍の4巨頭の1人としてカイロ会議に参加したかのような印象を与える。だが言うまでもなく、毛沢東は会議に参加していない。在ドイツのジャーナリスト、長平によれば、このころ「毛沢東は陝西省延安の根拠地で、(ロシア帰国派の)王明を排除する党内の権力闘争を終えたばかりで、周恩来、陳毅、彭徳懐らを懐柔と威圧することで、指導的立場を固めたところだった」。
抗日戦争の主力だった国民党が率いる台湾政府は当然、強い不満を表明した。中央通信によると、台湾国史館の呂芳館長は15日、共産党は抗日戦争の「中流砥柱」(大黒柱)だと言っているが、歴史資料からそのようなことはなく、「毛沢東がカイロ会議に参加したなどというのは、誰が見ても荒唐無稽であり」「このような浅はかなパフォーマンスを重視する必要はない」と述べた。
馬英九総統も19日に開かれた抗日戦争を記念するパーティで映画は「大きな笑い話」と批判。抗日戦争を戦った将軍は268人いるが、この中で共産党は八路軍副参謀長1人だけで、その他は国民党軍だったとして「抗日戦争を誰が戦ったのか、非常にはっきりしている」と指摘した。
中国国内でも、毛沢東が蔣介石を差し置いて「カイロ宣言」の主役となったことに不満やからかいの声が広がった。あるツイッターユーザーは、毛沢東のポスターの横に北朝鮮の指導者、金正恩を並べ、こう書き込んだ。「开罗宣言是世界反法西斯战争的里程碑式的会议,它是由中国抗日战争领导人、共产国际最高指挥官毛泽东同志与朝鲜人民军领导人、宇宙联席会议主席金正恩同志共同缔结的拯救人类的共同宣言---《开罗宣言》(カイロ宣言は世界反ファシズム戦争の記念碑となる会議であり、中国抗日戦争指導者、共産主義インターナショナル最高指揮官の毛沢東同志と、朝鮮人民軍指導者、宇宙合同会議主席金正恩同志が締結した、人類を救う共同宣言である)」。
真面目なコメントもある。「あらゆる映画は国家新聞出版ラジオ映画テレビ総局の審査がなければ上演できないが、『カイロ宣言』のような公然と歴史を改ざんする映画が審査を順調にパスし放映される。自らは毎日、日本は歴史を尊重せず、侵略の罪への歴史認識が不十分だと批判しているのに、自らが公然と歴史を改ざんし、鹿を指して馬と為す(是非を転倒する)なら、相手(日本)はあなた(中国)をどうやって尊重するだろうか」と批判した。
さらに、あるネットユーザーは「会議に出席していない毛沢東が主役を務められるのなら、誰だって主役になれる」と「人人開羅宣言」(誰でもカイロ宣言)というページを作成した。自分の好きな写真を選ぶと、映画のポスターが合成されるというもので、サダム・フセイン、オバマ大統領、カダフィ、卒福剣(毛沢東を批判する動画がネットで暴露され、仕事を干された中国中央テレビ司会者)、民主活動家、天安門事件で戦車に立ち向かった男性、さらには日本のAV女優や猫までも登場した。
また、あたかも毛沢東がカイロ会議に参加しているかのような合成写真も発表された。中国や旧ソ連などの共産主義国では、歴史的写真からその後失脚した人物を削除するなどの加工や偽造はしばしば行われてきたことだが、そうしたことへの風刺と言えるだろう。中国の巴丢草という風刺漫画家が書いた「新カイロ宣言」という作品はルーズベルト、チャーチル、蔣介石の間にピースサインをした毛沢東が割り込み、3人は嫌そうな顔をしている。
こうしたネット世論の風刺や批判を受け、本来は擁護する立場であるはずの共産党機関紙人民日報傘下の環球時報までもが、「『カイロ宣言』ポスターがもたらした印象は憂慮すべき」との評論を発表した。この中で、「中国共産党が抗日戦争の中で『中流砥柱』の役割を果たしたのは歴史的にも定まっているが、だからといって歴史の具体的事件を、この結論と照らし合わせ、直接的に結び付けねばならないということではない」と述べた。つまり歴史上の事件を取り上げる際、何でもかんでも共産党や毛沢東が主役として登場するような宣伝をしてはならないということだ。
そして「ネット上では大量の『歴史虚無主義』が登場し、毛沢東など党や国家の指導者のイメージに泥を塗り、歴史上の英雄の業績の真実性に疑問を投げかけた。我々がこうした現象を批判する時、一部の文化部門が歴史を尊重する問題で反対の議論を起こし、人々から批判を受けているが、こういうことはあってはならない」「『プラスのエネルギー』(共産党政権を支持するような言論や行動)を広めるにはやり方に注意する必要があり、誰でも嘘とわかるようなお世辞を言うのは人々を不快にさせるだけだ。プラスの宣伝には事実を重んじるというボトムラインを守る必要があり、功利主義的な目的を混ぜてはいけない」などと指摘した。
抗日戦争をテーマにしたテレビドラマが「8年の抗日戦争が始まった!」と指揮官が兵士に呼び掛け、「私の父は8歳の時に日本軍に殺された!」と少女が語るなどでたらめなセリフや、上空を飛行する日本軍機を兵士が手榴弾を投げつけて撃墜するなど、ありえない展開で批判を受けているが、こうしたドラマや映画がいわば反面教師として、歴史認識に関する議論が広がるのは、評価すべきだろう。抗日戦争において主力として戦った国民党がその後共産党との内戦に負けて台湾へと移ったものの、民主化を実現した。こうした国民党への評価も今回の論争の背景にある。
以前本コラム(16回)で紹介した中国の作家、栄剣氏も「日中戦争は中国が(1930年代に)既に入っていた憲政のプロセスを中断させ、確立し始めていた政治秩序や社会のバランスを破壊し、窮地に追いやられていた共産党に千載一遇のチャンスを与えた。日中戦争により、中国社会は自由主義の憲政革命から離れ、全く違った道、つまり共産主義革命へと取って代わってしまったのだ」と指摘している。
栄氏は「多くの日本の政治家や学者は、日々強大化する中国が日本の国家安全やアジアの国際秩序へ与える影響を懸念する。だが日本の政治家や学者が心配する、強大だが憲政を行わない中国は一体どのようにしてできたのか。もし日本が侵略戦争を発動しなければ、中国はどのような状態となり、中日関係はどのような局面になっていただろうか。日本はこうした問題について深く考える必要がある」と語っているが、中国の今回のような近現代史をめぐる歴史紛争は日本も深く関わっていることを認識する必要があるだろう。

 
     
 
   

 

 

 


「網民」の反乱 ネットは中国を変えるか?
古畑康雄

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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