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微観中国  (13)ネット統制の中で奮闘する知識人
   
     
大V・慕容雪村
大V・慕容雪村
 

 東京に数十年ぶりの大雪が降った2月初め、中国の著名ブロガー、作家と交流する機会があった。中国の知識人の対日理解を深めるプロジェクトの招聘で来日したもので、日本の選挙制度に関心があるという彼らとともに、大雪の中都知事選各候補者の演説を聞いて回りながら、最近のネット事情を聞いた。
 このうちの1人、慕容雪村(ペンネーム)は1974年山東省生まれ、その作品は各国語に翻訳され、微博でも400万近いフォロワーを持つ名実ともに「大V」(著名微博ユーザー)だったが、昨年5月、突然閉鎖された。
 その当時の状況について、直後にBBCやニューヨーク・タイムズのインタビューに彼が語った内容によれば、おおよそ次の通りだ。

 
   
     

転載された「花儿不再怕」
転載された「花儿不再怕」

 

ジャーナリスト・笑蜀
ジャーナリスト・笑蜀

 

盲目の人権活動家・陳光誠
盲目の人権活動家・陳光誠

 

郭玉閃
郭玉閃

 

慕容雪村の著作
『伊甸樱桃』
『伊甸樱桃 』

『原谅我红尘颠倒』
『原谅我红尘颠倒』

『中国少了一味药』
『中国少了一味药』

 

微博・慕容一村

 

 5月10日、国務院新聞弁公室傘下のネット管理部門、中国国家インターネット情報弁公室が新華ネットを通じ、中国政法大学の何兵教授が「デマを散布した」として微博のアカウントを取り消されたと発表した。ある別のユーザーが流した偽情報を微博で転載したのが理由だった。
 46万のフォロワーを持っていた何兵はこの措置を不服として、国務院新聞弁公室を訴えるとの声明を知人である慕容雪村の微博を通じて発表した。すると11日夜、慕容雪村が新浪、騰訊などに開設していた微博がすべて取り消されたという。
 慕容雪村はさらに、習近平総書記が提唱したとされる「七不講」すなわち、「普遍的価値、報道の自由、公民社会、公民の権利、中国共産党の歴史上の誤り、特権資産階級、司法の独立」について語ってはならないという言論統制の原則に対して、微博で「文明を語ってはならない(理性的であってはならない)」ことに等しいと批判しており、これも原因となった可能性がある。
 「当局は複雑で用意周到なやり方を取る。5月頃に大Vを取り締まると決めた。新華社の記事、そして何兵事件に絡んで私の微博のアカウントを取り消した。だがあまり大きな反発もなかったので、8~9月頃から人を捕まえるなど大規模な行動に出た。中にはデマもあったが、単なる冗談を言っただけで捕まった人もいた。こういう時だからこそ網民(ネット市民)は抗議の声を上げるべきなのだが、大多数の人は沈黙し、微博を去る人が増えた」―慕容雪村は残念そうに筆者にこう語った。
 だが彼自身は沈黙しなかった。ネット規制の嵐が吹き荒れていた昨年11月、「花儿不再怕(花はもう恐れない)」というコラムを発表、長文なのでその一部だけを紹介したい。
 「最近の集まりの中で、友人と常に談じる一つの話題がある。『次に捕まるのは誰か?』ということだ。最初は誰もが恐れおののいていた。最も危険なのが(南方週末のコラムニストだった)ジャーナリスト笑蜀、(軟禁状態にあった盲目の人権活動家)陳光誠を救出した郭玉閃、その次が私であり、多くはここ数年微博で活躍した人たちだ。(微博が登場した)2009年から、我々は微博を通じ、大胆に自らの観点を主張、民主を論じ、役人を嘲笑し、政府を批判し、歴史を論じ、社会の弱者や人権活動家のために声を上げたが、これらほとんどは政府と見解を異にするものだった。
 政府がこうした声に鈍感だった間に、微博のユーザーは5億人を超え、多くの大衆のアイドル、言論のスターが登場し、彼らの言説は改ざんされた歴史の真相を明らかにし、埋もれていた事実を天下に知らしめた。微博は人々が公共の生活に参加し、腐敗を暴露する重要なプラットフォームとなった。さらに政権の合法性や正当性に疑問を持つ人もいた。あらゆる全体主義政権同様、この政府は道理を語る能力を失い、道理を語る忍耐も興味もなく、その奥の手を出してきた。暴力で人々を黙らせたのだ。」
 そして8月以降、前述の通り中国の警察当局は「ネット浄化運動」を開始、デマを流したとの口実で多くの人を逮捕、多くの冤罪が生まれた。だが政府の真の意図は一般ネットユーザーではなく、大Vに向けられており、政府系メディアは「大Vは信用できない、彼らはデマを流す」との一連の報道を流した。彼はこう続ける。
 「検索エンジンで『イデオロギーの陣地』を検索すると、多くの報道や評論を目にする。『陣地』という言葉は中国政府の心理的年齢を表しており、依然として遥か彼方の戦争の時代に生きていることが分かる。もし外部に敵がいないのならば、内部に敵を作り出すのだ。現在彼らの敵は微博の大Vだ。大Vは自ら意見を発表するだけでなく、重要な情報伝達の『結節点』となっており、彼らが相互に転載、評論することで、ある事件が社会の注目を集めるようになる。これに対し、(共産党政権のメディアである)人民日報やCCTVの力はそれほどではない。そのため中国政府は失った『イデオロギーの陣地』を取り戻す決心をしたのである。2カ月間のメディア報道や警察による逮捕、さらに間断ない微博アカウント取り消しや発言禁止の目的は明らかで、すなわち大Vを黙らせるだけでなく、読者との連携を切断したのだ。より重要なのは、大Vは既に価値観に基づく緩やかな連盟を形成しており、政府はこの連盟を破壊することで、微博を人民日報や新聞聯播、すなわち政府の宣伝の陣地に変え、政府を批判する意見の広場でなくすことが必要なのだ」。
 このように「網絡反右」と呼ばれる大規模な言論統制は、1950年代後半に毛沢東が共産党政権に異を唱える知識人らを大規模に取り締まった「反右派闘争」のように、人々に新たな恐怖を呼び覚ましたという。
 だが2013年は1957年とは違う、と慕容雪村は言う。「1957年は、知識人は一人一人の戦いで、抵抗することも、反論することも、大衆の支持を得ることもできなかった。一方2013年、微博は巨大な人民の広場となり、発言者はお互いに呼応し、支援しあうことができる。この広場で、弱者は団結し、勇敢な発言者には多くがそれに連帯を示し『あなたが勇気を出して発言すれば、私もそれを転載する』のである」。そして自分や友人が逮捕されることへの恐れは徐々に消失し、ある知識人は逮捕された場合の声明をあらかじめ用意し、海外の友人に送るなど、戦うための準備もしているという。
 「1957年からこれまで、中国政府の言論政策は『百家争鳴、百花斉放』だった。名義上政府はさまざまな声を発することを許すが、これは政府が認めた範囲だ。名義上政府はあらゆる花が開くことを許すが、規格に合わないものは牢屋に閉じ込める。こうしてつまり、勇気を出してものを言う人は一網打尽にされ中国は反対者がいない国家になった。その後(50年代末から60年代初めの)大飢饉で数千万人が死亡、間もなく文化大革命の大災害が起きた。不合格の花が恐れないのはこのためだ。なぜなら花たちは既に次のことを悟ったからだ、国家には反対の声が必要であり、もしこの貴重な声がなくなったら、国家は牢獄と化し、皆がその中に閉じ込められるということを」。
 「貴重な声を発するために、中国の花は既に代償を払う準備をしている。笑蜀は誰かの身代わりになれるなら、自分は牢獄に入ってもいい、もし自分が牢に入って民衆の恐怖を取り除けるなら、自分は最前列に立つことを望む、と語った。そして9月13日、微博の友人、李国斌弁護士は語り継ぐべき一言を残した。『もし子どもたちが言論により牢に入る恐怖がなくなるのなら、監獄を我々でいっぱいにしてほしい。』」慕容雪村はこう結んでいる。
 慕容雪村はその後「慕容一村」で微博を再開、「一村」が削除されたら「二村」「三村」と発言を続けるつもりだと筆者に語った(本コラム「転生党」参照)。だが今でも時々微博が非公開にされたり、一定数以上にフォロワーが増えないようされたりなど、様々な嫌がらせや制限を受けているという。微博は今や当局の規制に従うだけの、言論コントロールの道具となりつつあり、彼のような著名ブロガーが長年かかって書き込んだ文章や、読者との交流の記録などが、一方的に、突然に消去されてしまう。これが前回取り上げたように、微博のユーザーが減少した大きな理由だろう。
 前回紹介した微信についても、「友人が微信で自由派知識人が集まるグループを作ったら、当局から脅迫された。(昨年10月の)天安門広場突入炎上事件の後、知り合いの雑誌編集長が書いた文章を微信により友人に送ろうとしたが届かなかった」と筆者に語り、「新華社は微信で売買春などが行われていると批判する文章を出した。今後間もなく微信への様々な管理強化が始まるだろう、1つはまず法律などの規定を出すこと、次に騰訊に管理強化を命じること、そして売買春などを理由に何人かの微信ユーザーを捕まえ、テレビなどでさらし者にする。その意図は『微信も我々に属する』というメッセージを出すことだ」と語った。
 だがそれでも将来的には彼はネットに信頼を持っているという。「ネット技術は本質的に自由であり、GFW(中国のネット規制、本コラム「翻牆」参照)は強力だが、ネット技術の発展はこれを乗り越えることができるだろう」。
 慕容雪村は海外にも知られたコラムニストであり、ニューヨーク・タイムズには英語と中国語のコラムを発表している。帰国後の11日に発表した「杜大鵬的神功」(杜大鵬の神業)は現実にはありえない神業で日本兵を次々と倒す抗日ゲリラ兵士など、近年中国のテレビで氾濫する抗日ドラマを取り上げている。
 「戦争が終わって60数年もたつが、中国人は未だにあの戦争から抜けだしておらず、テレビの画面では日本兵は依然中国の大地に横行している。そしてその結果メディアが煽る日本への怨みが広がり、“愛国”青年が集まるウェブサイトでは『日本人を殺せ』といった書き込みがしばしば見られるのだ。」
 「日本について、中国政府が最もよく使うのが『軍国主義勢力』という言葉である。だが中国政府は隣国への怨みを宣伝することで、いったい何をしたいのか。軍国主義は当然反対すべきだ。だが他国を批判する前に、中国政府は自らの教育や宣伝を反省すべきではないのか。荒唐無稽な抗日ドラマが将来の人々に与える影響を考えてみてほしい」。
 2012年の反日デモで日本車ユーザーに重傷を負わせた21歳の若者が、毎日抗日ドラマを見ていたと語る母親が「テレビをつければ、大部分のドラマが抗日ものだ。どうやって日本人を恨まずにいられるのか」と語ったと結んでいる。
 理性的に日中関係を見られる、そして中国の言論の自由のために努力するこうした知識人を我々は今後応援していく必要がある。中国に対して、一部の週刊誌や夕刊紙のように反日一辺倒と決めつけるのではなく、彼らのような言論の自由や民主の重要性を理解し、行動する知識人の存在を認識し、連帯を深めることだ。明治時代に孫文ら辛亥革命に取り組んだ人々を多くの日本の言論人や政治家が支持したように、長期的、多面的に中国の言論空間と付き合っていく必要があり、その結果次世代の中国と良好な関係を結べるのではないか。
 なお、今回取材したもう一人の著名ブロガーについては、次回また取り上げたい。

   

 

 

 

 


「網民」の反乱 ネットは中国を変えるか?
古畑康雄

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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