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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国 

(4)「翻牆」

   

GFW

 "Across the Great Wall we can reach every corner in the world."(万里の長城を乗り越え、我々は世界のあらゆるところに到達できる。)――これは1987年9月20日、中国からドイツの大学に向けて発信された、中国初の電子メールであり、中国が初めてインターネットとつながったことを宣言する歴史的な文言として知られている。だが中国の著名なIT(情報技術)ブログ「月光博客」は「今日、この言葉は極めて風刺的な意味を持つようになった」と語っている。「1987年、中国は経済的には開放されていなかったが、ある意味において、あの時代は中国が最も自由な時代だった。人々は貧しかったが、尊厳を持ち、善良で、嘘をつかず、希望があった。だがこの希望はとっくに消滅してしまった」

 
   

  後段のコメントは別として、この中国初のメールの内容が「極めて風刺的」というのは、中国のネットユーザーたちはまさに中国政府が作り上げた現代版「万里の長城」を乗り越えなければ、外部の世界にアクセスできなくなったからだ。このネットにおける「万里の長城」は「Great Firewall」(略称GFW)と呼ばれている。すなわちGreat WallとFirewall(インターネット上の外部不正アクセス等からの防護壁、ファイアウォール、中国語では「防火墙」)の造語だ。GFWは中国語では「防火长城」「国家防火墙」などと呼ばれる。

 ウィキペディアなど多くのネット上の資料には、GFW、すなわち中国のネット規制についてかなり詳細な説明が出ている。専門的なことはそちらを参照していただきたいが、簡略に述べればGFWの仕組みは大きく分けて2つ、つまり海外の“有害な”サイトに国内からアクセスできないようブロックし、そして国内で“有害な”書き込みを防止している。

  “有害な”サイトとは、例えば法輪功など中国政府に批判的な団体だけでなく、以前紹介したユーチューブ、ツイッター、フェースブックなども含まれ、中国国内からこれらのサイトにアクセスしようとしても「該頁無法顕示」(このページは表示できません)とエラーメッセージが出てしまう。また、中国の検索サイト、百度で「天安門事件」「六四」などの語句で検索しようとすると、「根拠相関法律法規和政策,部分捜索結果未予顕示。」(関連する法規や政策により、一部の結果は表示されません。)とのメッセージが出る。ブログ、BBSなどへの書き込みもできない。

  これらのネット使用禁止語句は、「敏感詞」と呼ばれる。具体的にどの言葉がNGなのかは分からないが、「天安門」「共産党」や指導者の名前が含まれていると言われ、そのため有名な「我愛北京天安門」という歌はネット検閲により「我愛北京敏感詞 敏感詞上太陽昇 偉大領袖敏感詞 指引我們向前進」になってしまうとのジョークもあるほどだ。(余談だが、中国でも使えるツイッターのサイトとして「敏感詞」というものもある。)

  ユーチューブなど我々日本のネットユーザーにはおなじみのサイトが、中国に行った途端使えなくなる、このような経験をした人は多いと思う。この夏に香港のテレビ局TVBの「新聞透視」という番組が「網絡自由」(ネットの自由)という特集でこのGFWについて詳しく紹介した。番組で中国の著名ブロガー、毛向輝は「ネットが自由に使える国は、ネットは生活の一部となっている。ところが中国では検閲が生活の一部になっている」と批判した。毛は「ネット検閲は人々の生活にも侵入し、これも見られない、あれも見られない、自分が使っている銀行のサイトまで、突然訳も分からない理由で封鎖され、自分の日常生活まで妨げになる。ネット検閲への反発は政治的な目的ではなく、日常生活まで影響を受けているからだ」と強い口調で語った。

  「中国は“中国的特色のあるインターネット”つまり(海外から隔絶された)巨大なLANを作ろうとしている」と番組に出演した香港インターネット協会の幹部も指摘する。「中国本土に進出する多くの外資企業にとっても、フェースブックなどのサイトを使ってPRできないことは、ビジネス上の障害になっている」
  さて、「防火牆」を略した「牆」は、名詞のほか動詞としても使われる。例えば「我被牆了」(アクセスがブロックされた)などである。そしてこの壁、すなわちネット規制を突破して海外のサイトなどにアクセスすることを「翻牆」(壁を乗り越える)といい、今や中国のネットユーザーには必須のテクニックだ。インターネットで「翻牆」を検索すると「如何翻牆?」(どうやって翻牆するか)「翻牆工具」(翻牆のツール)など、様々なテクニックを紹介したサイトが現れる。

 可能吧」というサイトがことし4月、中国のネットユーザーの「翻牆」に関するアンケート調査を実施している。このサイトは「中国では、アクセスがブロックされたウェブサイトがますます増えており、『胡蘿蔔』(ニンジン)『温習』(復習する)といった言葉までが規制対象だ」と述べている。なぜこれらの言葉がブロックされるかというと、胡錦濤、温家宝という国家指導者の名前が既にネット上で「敏感詞」として禁止されたため、その暗語として使われるようになったのだが、これらすら既に敏感詞になってしまったのだ。

今月のことば

防火牆(防火墙):ファイアウォール

防火長城(防火长城)
国家防火牆(国家防火墙)

該頁無法顕示(该页无法显示):このページは表示できません
根拠相関係法律法規和政策,部分捜索結果未予顕示
(根据相关法律法规和政策,部分搜索结果未予显示)
:関連する法規や政策により、一部の結果は表示されません

敏感詞(敏感词)
 天安門(天安门)
 共産党(共产党)
 胡蘿蔔(胡萝卜):ニンジン
 温習(温习):復習する

翻牆(翻墙):壁を乗り越える
 如何翻牆(如何翻墙):どうやって翻牆するか

  翻牆工具(翻墙工具):翻牆のツール
  自由門(自由门)
  無界(无界)

 

「可能吧」が行った調査によれば、回答者5300人は次のように答えている。(質問項目の一部を抜粋)
(1)男女比:
男性が92%と圧倒的で、女性はわずか8%にすぎない。

(2)学歴:
最高学歴は大学(学部、高等専門学校)73%、修士11%、高校9%など、大多数が高等教育を受けていることが分かる。

(3)年齢:
19-28歳が77%を占めているが、15歳以下、40歳以上の年齢層も利用者が多い。

(4)職業:
学生が49.3%と半数を占め、ハード・ソフトが14.3%、ネット関係が5.6%とIT関係で約20%、金融関係も3.5%などと続く。

(5)地区:
広東省、北京市、上海市、江蘇省、山東省、浙江省、湖北省、四川省と、経済が発展しネット普及率も高い沿海部に集中。

(6)翻牆の方法:
複数回答によれば、5%が会社のVPN(後述)を、16%が自宅からもVPNを使っている。さらに24%がSSH、37%がプロキシサーバーを使用し、もっとも多いのが「自由門」、「無界」などの翻牆専用ソフトで71%が使っている。
VPNとはコンピューター関係の専門家はご存知とは思うが、インターネット回線上に暗号化された仮想の専用線を設置する仕組みであり、企業などで国内と海外のオフィスをつなぐのに使用されている。個人にも有料または無料で提供されており、中国のネットユーザーはVPNを用いることで、海外との情報のやり取りを暗号化し、ネット規制を回避できるのだ。SSH、プロキシサーバーについては説明を省略するが、同様に以前から用いられた方法だ。
自由門や無界は中国政府が布教を禁止した宗教団体、法輪功系の組織が開発したソフトで、幅広く使われている。

(7)翻牆の年数:
27%が1年未満、1-3年が52%、うち2年が大多数を占めている。可能吧は、中国政府により封鎖されたサイトがますます増えていることから、今後1年未満の比率が増えるだろうとしている。

(8)なぜ翻牆するのか:
80%(複数回答)の人がグーグルなどインターネットの基本的サービスを利用するためなどと答えている。また75%はツイッターなどの交流サイト、72%は海外メディアのニュースを見るため、60%はユーチューブなどの娯楽のためで「国内のインターネットサービスは遅れているが、優秀な海外のサイトは封鎖されている」と答えている。

(9)GFWへの態度:
48%が「インターネットの検閲は明確な法律があるべきで、ブラックボックス化は良くない」という意見だった。また「GFWを廃止すべき」と答えたのが38%、「検閲は必要だが、現在のGFWは厳しすぎる」が8%、「現在のGFWに満足している」は4%にすぎなかった。可能吧の運営者自身も「検閲は必要だが、大衆のための明確な基準があるべきで、指導者の喜怒哀楽に振り回されるべきではない」との意見を述べている。

(10)優れた意見:
回答者から以下のような意見が寄せられたという。

「常に国外の専門学術資料を検索する必要があり、長年翻牆をやってきた。最初は敏感な政治的サイトがブロックされたが、2003年頃からまったくひどい状況になり、多くの国外の学術サイトはみな見られなくなり、GFWを憎悪するようになった。最初はGFWに対する批判だったが、それが体制そのものに対する批判となり、ここ数年は政治的な傾向を持つようになった」

「GFWの存在は、政府がネットに対して完全なコントロールを失っており、つまり有効な方法で中国のネットを規制できなくなっていることを意味している。やみくもに国内外の情報を封鎖すれば、中国のハイエンドの人材が政府を嫌悪するようになり、中国の発展に不利だ」

「インターネットは他のメディアと同様、自由放任にはできない。各国ともそうである。だが中国のようであってはならない。ネットへの統制は極点に達しており、中国のネットの発展に影響を与えている」

「米国の大学をまもなく卒業するが、ここ2年ほど帰国した時の体験は非常に強烈だ。国内のネット使用の不自由さが、私が出来る限り米国に残って仕事を探そうと考えるようになった重要な原因だ」

筆者の知人で、「無界」を使っているという上海の20代男性は「ユーチューブなどに興味があるゲームやカメラの情報が出ているので使っている」と翻牆は別に反政府などが目的でないと語る。「政府の規制が強まり見られなくなる場合があるが、半月もしないうちにバージョンアップにより再び可能になる」と、当局とソフト開発者の間でし烈な戦いが繰り広げられていることを物語っている。さらにはツイッターのようなGFWの規制が困難なコミュニケーションツールが生まれたことで、ネットユーザーを活気づかせているようだ。

中国政府は「維穏」(社会の安定維持)のため、ネット規制を緩めることはないだろうし、劉暁波のノーベル平和賞を機にますます強化している。だがこうしてネットユーザーらの反発が強い規制を強めることは、中国のネット社会の発展にとっても決して有利とは言えないだろう。

URL

可能吧 http://www.kenengba.com/post/2920.html

敏感词 https://tuite.im/login.php

 
 
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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