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東京便り―中国図書情報 第10回 .

 【Interview この人に聞く (4)】
 『恵恵 日中の海を越えた愛』の手記を翻訳した 泉京鹿さん

   
   

『恵恵 日中の海を越えた愛』の手記を翻訳した泉京鹿さん■感動の輪 広げる
  「民族、人種、国境を超えた愛」の物語


日中関係がもっとも厳しかった7年間に、困難を乗り越えて共に生きた2人と、日中ふたつの家族の真実の物語『恵恵(フィーフィー) 日中の海を越えた愛』(恵恵、岡崎健太、付楠・著、文藝春秋)が、感動の輪を広げている。

――北京で激しい反日暴動が起きた2004年夏。その4カ月後のクリスマスに、美しい関西学院大学のキャンパスで、ある高校教師の日本人青年と中国からの女子留学生が偶然出会い、恋におちる。恵恵が自身の乳がんに気付いたのは、2カ月後にその青年、健太との結婚を控えていた時のこと。健太はこれまで一度も訪れたことのなかった北京に、たった1人で文字通り飛んでいく。
恵恵は、つらい外科手術や化学治療などを乗り越え、いったんは体調が回復したかに見えた。健太と北京でカレー店を営むなど、希望に満ちた日々を過ごした時期もあった。だが、のちに肝臓にがんが転移。発病から約6年後の2011年6月にこの世を去った。33歳だった――。

そんな恵恵(本名・詹松惠)さん、健太さんの国境を超えた愛の物語、病魔と闘いながらも恵恵さんの明るく懸命に生き抜く姿はまさに「日中の海を越えて」多くの感動を呼び、日本では先ごろ、NHKの「ニュースウオッチ9」が中国取材を交えて大きく報道。
また中国では、本書の原本ともなった恵恵の母・付楠(フ・ナン)さんの著書『我在天国祝福你』(中国対外翻訳出版社)などをもとに、実写映画化が進められているという。

健太さん、母親の付楠さん、恵恵さんの残された手記を1冊に編んだ『恵恵 日中の海を越えた愛』――。
その中国語の手記を日本語訳した翻訳家の泉京鹿(いずみ・きょうか)さんに、出版の背景や、本書に込められたメッセージ、また数々の翻訳実績から中国語を訳すことの楽しさ・難しさなどについて、じっくりと語ってもらった。
 

   
 

――『恵恵 日中の海を越えた愛』(以下『恵恵』と略)は、視聴率の高いNHK「ニュースウオッチ9」で大きく取り上げられましたね(6月26日放送)。大越健介キャスターが、現在北京にいる健太さんと、健太さんが共に暮らす中国人の両親(亡くなった恵恵さんの両親)を自ら訪ねてインタビューしたり、恵恵さんのお墓参りをしたり……。
大越さんの「2人をここまで強く結び付けたもの。それは男女の情愛に加えて、互いへの『敬意』ではなかったか」「国の壁などやすやすと越えて、人間は結びつくことができる。今という時代だからこそ、なおのこと胸を打つ」という言葉は印象的でした。

泉京鹿(以下略) もともと、この本の出版に際し、健太さんと中国の母親の付楠さんが出版社の招きで来日することが決まっていました。それに大越キャスターは月曜から金曜まで番組に出演されているので、非常にご多忙のはずなんです。
にもかかわらず、番組の編集権を持つ大越キャスターがこの本を読んですぐに「どうしても北京に行って(健太さんらに)会いたい」と希望され、誠意ある丁寧な取材をされたと聞いています。番組でも、中国取材や手記の朗読も含めて(本書の紹介に)かなりの時間を割いてくださった。一般的な報道ではなく「今という時だからこそ」伝えたいことを、積極的にご自身の足で取材されたのだと、ありがたく思っています。
お陰様で反響も大きくて、多くの人から「テレビを見たよ」と声をかけられたり、書店でも目立つところに本書を置いてもらったりしています。

――そもそも、中国語の手記を翻訳されるに至った経緯は?

『恵恵 日中の海を越えた愛』“師匠”と崇めている毛丹青さん(神戸国際大学教授)に「この本を読んでみて」と薦められ、読んだことがキッカケでした。付楠さんが、娘の恵恵ちゃんの死去後、彼女とその夫・健太さんとの思い出を綴った『我在天国祝福你』(2013年5月初版)という本で、中国で出版されてすぐのことだったでしょうか。
『恵恵』に毛さんが寄せた一文にもありますが、実は恵恵ちゃんは毛さんのいとこでした。北京に生まれ、25歳で日本に留学した毛さんは『知日』という日本紹介の雑誌を中国で創刊するなど、「ふたつの国を愛しながら、互いの理解がどうしたら図れるか」をずっと考えてきた人です。そしてある時、ごく身近な存在だった「恵恵と健太の物語を両国の人々に紹介することで、その一助となるのでは」と気づいたといいます。

もとより私も毛さんの紹介で、恵恵ちゃんや健太さんとは面識がありました。それもあって付楠さんの著書『我在天国祝福你』に引き込まれ、泣きながら一晩で読み終えました。そして一気に企画書を書き上げ、文藝春秋の『兄弟』の時にお世話になった編集者のところへ持って行ったんです。
最終的には、その編集者のアイデアで付楠さんの著書と著書に引用された恵恵ちゃんの手記、そして健太さんが書き下ろした手記を1つにまとめた、このような形になりました。

いずれの手記も大切な思い出が綴られていてかなりのボリュームがあり、付楠さんの著書から『恵恵』に引用された部分は、原書『我在天国……』の全体(276ページ)の3分の1くらいしかありません。
原書を読んでいただくとわかりますが、そこには亡くなった娘への思いはもちろん、義理の母親として、健太さんが娘にひたすら尽くしてくれたことへの感謝の気持ちと、健太さんに早く自分のこれからの人生を見つめ、幸せになってもらいたいという強い願いが込められているような気がします。それは「自分もつらいけど、健太はもっと大変だろう」と、これからも生きてゆく健太さんを励まし、応援するために書いた本なのだろうと、私は理解しています。

――『恵恵』では、抗がん剤の副作用で髪が抜け落ちた恵恵さんのために健太さんも自ら丸刈りになったこと。喧嘩をしても「言いたいことがあったら絶対に言葉でそれを相手に伝えないといけない。仲たがいしたときに二人の愛が試される」と、健太さんとの愛に真摯に向き合った恵恵さんの姿。つらい闘病生活を強いられながらも「自分は生き残るって思い込んで主観的に生きていい」と明るく前向きに、そして日々を懸命に生きた恵恵さんの精神的な強さ……。
心を打つさまざまなエピソードは、涙なくしては読めませんでした。


翻訳する時も、ゲラをチェックする時も、正直、読むのがつらかったです。恵恵ちゃんと健太さんには北京で何度か会っていましたし……。
2008年にオープンしたカレー店を訪ねた時は、手術や放射線治療をしてつらかった後だろうに、大変そうな様子はみじんも感じさせませんでした。以前のように楽しそうに「ゆくゆくはここを日本語交流サロンにしたい」などと希望に燃えていたんです。
その時に私は、元気そうな恵恵ちゃんを見て「病気はもう大丈夫なんだ」と思ってしまった。何もしてあげられませんでした。
だからこそ、今となっては亡くなった恵恵ちゃんの望みにつながるようなお手伝いをしたい。それには、残された付楠さんや健太さんのお手伝いになること、彼女が心配していた日本と中国の間で何か意味のあることをしたいと思い、どうしてもこの本を形にしたかったのです。

――『恵恵』はいわば「感動の純愛物語」である一方で、その中にも中国社会の厳しい現実が見え隠れしています。乳がんの「病気仲間」が恋人に婚約を破棄させられたり、家族に離婚を迫られたり。中国にも医療保険制度があるとはいえ、病人にとって多くの薬や検査は自己負担で、しかも高額になるために治療が続けられないなど……。

日本と中国の治療方針の違い、医療制度の違い、さらには極端な話、人権の意識の違いみたいなものも、本書には浮き彫りになっています。さらに、中国では女性が病気になると、場合によってはここまでひどい状況にさらされる、という現実がある。だから、今の中国(社会、医療制度)に対して「これでいいの?」っていう問いかけも、本書にはあると思うんです。

そうした中にあって、日本人の健太さんが恵恵ちゃんに対して献身的な看護をし、2人の愛は決して揺らぐことはなかった。
付楠さんの著書の最後に、こうあります。「愛は民族や人種を分けず、国境もない。この本の読者の1人ひとりが、行間にいろいろ感じてほしい」(要旨)と。
日中関係が難しい時期にあったせいか、そこでは一言も「日本」という言葉は使われていませんが、つまりそれは日本や日本人に対する遠回しの“賛歌”ではないか。そして愛する母国・中国への率直な問いかけも含まれているのではないか? とも思えるのです。

『恵恵』には、日々を精一杯生きた恵恵ちゃんの生き方そのもの、彼女たちを取り巻く善良な人たち、中国人が大切にする強固な家族関係など、新たに気づかされるところが多々あります。
最近では“消費期限切れチキンナゲット”など、中国にも問題はいろいろありますが、それだから「こうなんだ」とか「全部がダメ」と決めつけるのではなく、きちんと細かいところを見て、自分でちゃんと考えたいもの。
この本が、そうした(中国や日中関係を複眼的にとらえる)キッカケになってくれたとしたら、うれしい限りです。

――泉さんはこれまでに、激動の現代中国をリアルに描いた余華の傑作長編小説『兄弟』(上下巻)、若手人気作家・郭敬明が描いたピュアな青春物語『悲しみは逆流して河になる』など、中国現代小説を中心に10冊以上も翻訳出版されてきました。

翻訳してきたのは、基本的に多くの人に読まれているベストセラー、今を生きる作家さんたちのもの。鮮度の高いものですから(笑)、とにかく少しでも早く、1人でも多くの日本人に読んでもらって、今の中国のこと、中国人が考えていることを知ってほしい。現代中国人が読んでいるものを同時代に読んでもらえれば、という思いがあります。
中国文学の翻訳ものは日本ではなかなか“大ヒット”しないという残念な現状がありますが……。
幸いなことに私はそれ以外の部分では翻訳者として比較的恵まれていて、作家さん、出版社さんにすごくよくしてもらっている。長年北京に住んでいたこともあり、作家さんと一緒に旅行に行ったり、互いの家を行き来したりと、楽しい思い出ばかりです。日本にいる今でも作家さんたちとはよく連絡を取り合っていて、北京に行くといえばみんな、「家に泊まって」といってくれるし、翻訳者として指名、依頼を受けることがとてもうれしいです。

――翻訳(中文和訳)の楽しさ、難しさとは?

楽しさは、その作品の「一番ディープな読者」になれること。
NHK連続テレビ小説で話題の翻訳家、村岡花子ではありませんが、小さいころから読書が大好きだったので、物語の世界にどっぷり浸かっている間というのは、とても幸せ(笑)。本を読むことはもちろん、言葉と格闘したり、言葉をかみしめて味わったりすることもできる。その上、作家と仲良くなって、自分で企画書を書いたり、プロモーションを考えたり、そういったことも全て楽しめます。

難しさは、技術的な面では、日本語にない表現や言葉にある背景を訳そうとすると説明臭くなり、読みにくくなってしまうこと。また、どんな本でも日本語訳のほうが文字数が多くなり、ボリュームが増して一瞬手に取るのに抵抗を感じるような厚い本になってしまうのも悩みです。
皆さんに読んでいただくと「おもしろい」といってもらえるんですが、本を手に取ってもらうまでが大変、とつくづく実感しています。

翻訳家という職業ではそんなに稼げないかもしれません。でも(中国を知るための)本が増えないことはやはり悲しいので、(大学での講義や講演など)機会を見つけては若い人たちに「儲からない仕事だけれどいいこともたくさんあるから、翻訳にチャレンジしてほしい」と薦めています(笑)。

――『恵恵』については、中国で映画化の話もあるそうですね。また次なる翻訳作品の予定としては?

訳書を前にインタビューに答える泉京鹿さん香港の世界的プロデューサーで、映画「ラスト、コーション」(原題「色・戒」)、「HERO」(ヒーロー、原題「英雄」)などのプロデューサーとして知られるビル・コン氏が昨年、映画化権を買い取りました。私も毛さん、岡崎健太さんと一緒に北京で彼に会いましたが、キャスティングも進んでおり、これから日中両国でのロケに入り、公開は来年くらいになるでしょうか。
付楠さんの著書に続き、健太さんの手記をまとめて中国で出版するという話もあります。恵恵ちゃんのメッセージが、いい形でさらに広がり伝わっているようで、個人的にもうれしく思います。

実は、翻訳はいくつか同時進行で抱えていますが、ひとつは、『人民に奉仕する』『丁庄の夢 中国エイズ村奇談』などで日本でも知られる社会派作家、閻連科(えん・れんか)さんの最新長編『炸裂志』を訳しているところです。「炸裂」という名の小さな村がどんどん豊かになって、やがて“スーパー特別市”になるという現代小説です。
閻連科さんは、2012年の尖閣諸島をめぐる問題で、村上春樹氏が朝日新聞に寄稿したエッセイで日中間の対立を「安酒の酔い」と表現したことなどに対し、「対話のきっかけをもたらしてくれた」と、中国の作家としていち早く冷静なコメントを長文で寄せてくれた人です。実はそのコメントを雑誌の依頼でお願いしたのは私でした。
今度の翻訳も、閻連科さんとの長年のおつきあいや信頼関係があって実現したと思っています。まず一部が文芸誌で連載されますが、最終的な日本での出版は来年以降になるでしょうか。
楽しみにしていてください!

 

『恵恵 日中の海を越えた愛』
  恵恵、岡崎健太、付楠 著/泉京鹿 訳(付楠、恵恵の手記) 文藝春秋 317ページ 2014年06月刊

泉京鹿(いずみ・きょうか)
1971年、東京都生まれ。翻訳家。フェリス女学院大学文学部卒。北京大学留学、博報堂北京事務所勤務を経て、フリーランスに。大学非常勤講師。一児の母。
訳書に、余華著『兄弟(上下)』(文春文庫)、郭敬明著『悲しみは逆流して河になる』(講談社)、衛慧著『ブッダと結婚』(講談社)など多数。
 

 
   
     

 

 

小林さゆり
東京在住のライター、翻訳者。12年余り北京に滞在し、2013年7月に帰国。
著書に『物語北京』(中国・五洲伝播出版社)、訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)。
取材編集に携わった『在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』(阪急コミュニケーションズ)も好評発売中!

 

  Blog: http://pekin-media.jugem.jp/
   
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