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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国 

(10) 「網絡問政」

   

 本コラムではこれまで、中国のネット社会の動きを、どちらかと言えば民間、特に「草根」と呼ばれる体制の枠外で活発に発言する人々の側から見てきた。だがネット社会のプレーヤーとして、政府の役割を当然無視することはできない。特に「微博」(ミニブログ)など対話型ツールの急速な普及により、政府からネット市民へ向けた発信が盛んになっている。
  このようなネットを執政に取り入れようとする動きを、「網絡問政」と呼ぶ。中国版ウィキペディア「互動百科」によれば、網絡問政とは「政府がネットを通じて宣伝、政策決定、民意把握、アイデアの収集を行い、『取之于民,用之于民』(民から得たものは、民のために使う)目的を達成すること」としており、特に地方政府でブームになっているという。

     
 
     

 網絡問政のきっかけとなったのが、2008年、胡錦涛中国共産党総書記の「人民網」におけるネット対話だと言われている。それ以前にも、ネットから世論を把握しようとする動きはあった。朱鎔基前首相が2000年10月に訪日した際、宿泊した部屋にネットがつながるようにしてほしい、ネットで様々な情報にアクセスするためだ、と頼んだ話が知られている。訪日中の言動について、中国のネットユーザーがどのような評価をしているのかを知る目的があったのだろう。
  08年6月20日、胡錦涛総書記は人民網の著名フォーラム「強国論壇」を訪れたが、単なる民意の把握でなく、ネットユーザーとの直接交流という形を取ったのが画期的だった。温家宝首相も両会(全国人民代表大会、全国政治協商会議)の前に、ネットユーザーの様々な質問に答えるのがここ数年恒例になっている。
  さらに08年9月、人民網には「什錦八宝Fans圏」なるサイトも登場している。「什錦」も「八宝」も中国料理で良く使われる言葉だが、それぞれ胡錦涛と温家宝の名前から1文字取り、要は「胡錦涛、温家宝ファンクラブ」である。サイトではご丁寧にファンクラブ会員証までダウンロードできる。
  さらに人民網は10年9月には、「直通中南海」というサイトもオープンした。中南海、つまり中国指導部の中枢に直接メッセージを送れるというキャッチコピーで、BBCの報道によれば、開設から4日間で2万7000件の投書があったそうだが、サイトを見たところ、「網友留言摘要」(ネットユーザーの発言ダイジェスト)のメッセージは4、5日前の日付であり、内容も「腐敗打破は人民の最大の望み」「国と民が豊かで強くなるには、党や政府の指導と切り離せない」など、紋切り型のスローガンで、あまり有効に活用されているとは思えないのが残念だ。
  果たしてこのようなサイトに指導者が毎日目を通せる余裕があるのだろうか。あるブロガーも「『内部参考』(一般には公開しない、指導者のみに報告されるニュース)などに目を通し、問題は把握しているはず。新たな道筋を作ったところで、これまで解決が困難だった問題が解決するのだろうか」と疑問を投げかけている。
  ただ、そうした評価はあるにせよ、中央から今や地方へと「網絡問政」の動きは広がっている。特に最近では微博の爆発的普及が流れを加速している。
  興味深いのは、微博に熱心に取り組んでいるのが、公安(警察)部門だということだ。4月14日付中国新聞網は、北京の警察部門が始めた「平安北京」という微博が、昨年7月の開設から9カ月でフォロワーが100万に達したと報じている。4月末現在では約111万人だ。
  「平安北京はネットのホットイシューに素早く反応し、権威ある情報を発表する」のだという。北京で起きた重要事件や事故の公式発表、その他各種防犯の呼び掛けなどが掲載されており、興味深いのは警察官個人の微博もリンクされ、フォローが可能になっていることだ。警察官の"私生活"(カッコつきだが)も垣間見ることができる。
  報道によれば、平安北京は開設からこれまで、微博への書き込み(ツイッターで言えばツイート、つぶやき)が6500件、訪問者数は延べ2100万、ネットユーザーの書き込みは13万本に達し、ネットユーザーが提起した問題149件を解決したという。
  平安北京には一部のネットユーザーからの疑問や批判も寄せられるが、「悪意ある攻撃、罵倒、法律に違反する書き込み」を除けば、批判も削除せず、ネットユーザーの批判にも「理性的に答えている」とのことだ。さらには北京語の言い回しも取り入れ、ネットユーザーとの距離を縮めようと努力しているという。
  人民網輿情頻道(世論チャンネル)が3月にこのような動向を特集、発表した「中央党政府機構・役人の微博発展報告」によれば、3月中旬までに、新浪微博の政府機関の微博は2000近くに達し、新浪が(本物であると)認証した微博は367、さらには認証またはお勧めの役人の微博も1200あるという。政府機関のうち、公安部門の微博の数が突出しており、新浪、人民、騰訊の3大ポータルサイトの微博でそれぞれ、1200、65、192が開設されている。
  「網絡問政」の意義について、昨年3月、中国の著名サイト「中国選挙と治理ネット」が開いた座談会では「かつては『電話問政』などというものはなかった。これはネットの特殊性や威力が生んだものだ」と述べ、専門家の次のような声を紹介している。「以前政治は黒箱(ブラックボックス)だった。今はまだ白と黒の中間の灰色だが、それでも黒よりはよい」(北京外国語大学・展江氏)「今日、ネットメディアの呼びかけに伝統メディア、さらには政府が応じるようになり、良好な政治を促進している」(人民網輿情監測センター・祝華新氏)
  ただこの座談会でも指摘するように、地方幹部の間で網絡問政への取り組みはバラバラだ。祝氏は「地方幹部の中にはネットを中国社会に広がる癌のような物だと考える人もいる。だが政府内部で主流の考え方は、ネットを社会進歩のための減圧弁、あるいは社会世論の拡声器、あるいは民意を吸収し、政策を調整するための風向計とみている」と指摘している。
  「ネットは社会の減圧弁」、つまり社会不満のガス抜きという考え方は中国のネットでしばしば目にする。「政府への批判は、いわば沸騰するやかんの中の蒸気のようなものだ」と以前、「五毛党」で紹介した元雲南省宣伝部副部長の伍皓氏は昨年、香港のテレビ局の取材に答えている。「(都合の悪いことに)蓋をするやり方は間違いだ。沸騰しているやかんの蓋を開けると、多少は火傷するかもしれないが、たまった蒸気は発散する」。「信息越公開,政府越可愛(情報を公開すればするほど、政府は愛すべきものとなる)」これが伍皓氏の信条なのだという。

 

今月のことば

網絡問政(网络问政):「政府がネットを通じて宣伝、政策決定、民意把握、アイデアの収集を行い、『取之于民,用之于民』(民から得たものは、民のために使う)目的を達成すること。(互动百科より)

 
     
     

 網絡問政に積極的に取り組む役人の例として伍皓氏と並んでしばしば取り上げられるのが、広東省衛生庁副庁長で医師の廖新波氏だ。
  4月16日の網易に掲載されたニュースによれば、廖氏のブログは実名で、「医生哥波子」(医者の波兄貴)と自称する。2005年以来、複数のサイトにブログを書き続けている。4月11日時点で彼の新浪網のブログには述べ919万人の訪問があり、2048本の文章を発表した。その主な内容は健康、医療の現場、医療政策などであり、多くのメディアやネットユーザーの注目を集めている。
  「ブログを始めたころはパフォーマンスと批判されたが、今は真実を語っていると理解してもらえるようになった。ファンから50歳の誕生日のプレゼントに自分のフィギュアをもらった」と香港のテレビの取材に嬉しそうに語る廖氏。「医者には医者の、政府には政府の苦しみがあり、患者には患者の不満がある。どのようにお互いに交流するか、ブログは最も良いやり方と考えた。ブログはべた褒めも、品のない批判のどちらも望まない」とネット市民と向かい合う心情を述べている。
  伍皓氏、廖新波氏のいずれも微博を始めており、2011年3月、人民網が発表した「党、政府、役人の微博発展工作報告」によれば、総合影響力で伍皓氏が3位、廖新波氏が5位にランキングされている。
  このように、網絡問政は上からの世論への呼応の動きであり、ネット世論を巧みに誘導しようとする動きだ。ただ、問題は政府の側にネット市民と本当に対話しようという意思があるのかどうかだ。
  BBC中国語版に4月4日掲載された「微博問政:熱閙背後的特権与腐敗」という文章には興味深い事例が紹介されている。「中国青年報」の報道として、あるサイトの管理者が役人が微博を開設するにあたり、特殊な技術により自分に批判的な書き込みは表示されないよう削除するなどを約束したり、さらには、政府の高官を微博開設に引き込んだら3万元から5万元の懸賞金を支払ったり、あるいは粉絲(ファン、フォロワー)の数を特殊なやり方で増やしたりといった不正が行われていると指摘した。フォロワー数がその役人の業績につながるからだが、「このような形式主義の泥沼に陥ったら、何ら実際の効果を生むことはない。このような役人が開いた微博など何の生命力もなく、笑いものにされるだけだ」と強く批判している。
  廖氏は人民網の取材に「あまりに細かいことにビクビクするなら微博はやるな、出世の階段と考えるのなら微博はやるな、拍手と生花がほしい(賞賛されたい)のなら微博はやるな、個人的問題が多いなら微博はやるな、『時間がない』というなら微博はやるな」との直言を紹介している。人民網の「中国共産党新聞」にも「流行を追いかけるだけなら微博はやるな」との一文で「流行に乗るだけ、2、3日新鮮な気分を味わうだけではなく、本当に世論やネットと向きあう力を高めるためでなければならない」と強調している。微博をはじめとした網絡問政が政府や役人の出世狙いのパフォーマンスや上からの情報の垂れ流しで終わるか、それともネット市民との真の対話の場となるのか、まさに彼らのネット社会や世論への対応能力が問われている。

 

 

 

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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