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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国 

(8)「五毛党」

   

囲観

  前回まで硬い内容が続いたので、今回は少し柔らかいものにしようと思っていた。しかし、ご存知のとおり、中国国内各地でここ数週間民主化や政治改革を求める「ジャスミン革命」の呼び掛けが相次ぎ、これに対して中国当局は会場としてネット上で通告のあった場所を封鎖、国内の民主活動家だけでなく外国メディアのジャーナリストを拘束するなど、なりふり構わぬ対応を取っている。今回のジャスミン革命の発信源である中国のネット空間は現在、この問題をめぐり大きく揺れており、その元凶の一つである「網絡評論員」(ネット評論員、略称は『網評員』)、いわゆる「五毛党」について考えてみたい。

  五毛党については、中国のネットについてある程度関心のある方ならばご存知だと思うが、ウィキペディア中国語版から引用させてもらう。「網絡評論員(五毛党)は中国本土に特有の呼称。一般には中国の行政機関、大学、ウェブサイトが雇用、あるいは指導する、フルタイムまたはパートタイムで働き、ウェブサイトや論壇(フォーラム、BBS)などに政府に有利な評論を書き込むスタッフのこと。通常彼らは普通のネット市民の身分で、中国政府(あるいは各行政機関)を擁護する内容を書き込み、あるいはその他ネットを使った策略により世論を誘導し、作り出そうとする」として、「五毛党の名称は一本の書き込みにつき5毛(5角=0.5元)の収入を得ていることを風刺している」と記している。

 
   

 五毛党のルーツは諸説あるが、その1つは2004年10月、湖南省長沙市の党委員会宣伝部が網絡評論員を雇ったのが最初と言われており、その時の報酬が一本あたり5毛だったという。その後各地の学校、地方政府に次々と登場した。網評員の設立や訓練などの記事、写真はネットで公開されている。例えば2010年1月20日南方都市報の報道では、甘粛省の党宣伝部門が開いた宣伝思想工作会議で、同年650人の網評員によるチームを結成したと報じている。
  この報道によれば、網評員のチームはその能力から50人の「高手」(達人)を核心メンバーとして、100人の「好手」(名人)、500人の「写手」(書き手)の3つのグレードに分かれる。彼らはウェブサイト、BBS、ブログなどにアクセスし、ネット上の情報や、ネット市民が関心をもつ問題を理解し、適時に書き込み世論を指導することが求められている。
  ただ、報奨金は必ずしも5毛とは限らないようだ。2010年1月に大手BBS「天涯社区」に掲載された書き込みによれば、湖南省衡陽市の党委員会が組織した「《党校陣地》網評員管理弁法」の中で、「網評員への手当として、評論への報奨金は1本当たり0.1元、毎月の報奨金は100元を超えず、半年ごとに計算して給付する」とあるので、地方都市では五毛党もそれ相応の相場になるのだろう。
  筆者が五毛党について関心を持ったのは、同年2月、胡錦濤国家主席が人民網に微博(ミニブログ)を開設した時だ。開設はどうやら本人の意思ではなく、技術的なミスのようで、わずか1日後に閉鎖され、ネットでは残念だといった声が広がった。これに対し「国家指導者にそのような負担を負わせるべきではない」との評論を目にした。作者を調べたら、どこかの地方都市の「網評員」とあり、「ああ、これが例の五毛党か」と思ったのだ。
  続いて、同年4月には北京で五毛党を批判するある事件が起きた。「南方都市報」などの報道によると、北京の中国人民大学で開かれた演説会の冒頭、雲南省党委員会宣伝部副部長(当時)の伍皓氏の前に3人が壇上に駆け上がり、1人が伍皓氏に5角紙幣を投げつけながら、「伍皓(Wuhao),五毛(Wumao)」と叫んだという。ネットで公開された写真では、まさにこれから演説をはじめようとする伍皓氏の頭上を5角紙幣が中を舞っている。(写真3)伍皓氏はそのまま講演を続けたという。

 

今月のことば

五毛党・網絡評議員(五毛党・播络):中国の行政機関、大学、ウェブサイトや論壇などに政府に有利な評論を書き込むスタッフのこと。

伍皓:新華社などの記者を経て、08年12月、雲南省宣伝部に着任、その後同省で起きた有名な「躲猫猫」事件で有名になった。

ジャスミン革命(茉莉革命):2010年から2011年にかけて起こった、一青年の焼身自殺事件に端を発する反政府デモが国内全土に拡大し、軍部の離反によりザイン・アル=アービディーン・ベン=アリー大統領がサウジアラビアに亡命し、23年間続いた政権が崩壊した事件である。ジャスミンがチュニジアを代表する花であることから、このような名前がネットを中心に命名された。(Wikipediaより)

網絡評論員座談会のようす

網絡評論員座談会のようす

 

伍皓氏は新華社などの記者を経て、08年12月、雲南省宣伝部に着任、その後同省で起きた有名な「躲猫猫」事件で有名になった。
  「躲猫猫」事件とは、09年2月、雲南省玉渓市の男性が盗伐の疑いで拘留され、拘置所に収容中に死亡、地元の公安が説明した死因が「拘置所で同室の囚人と『躲猫猫(かくれんぼ)』をしていた時、囚人から蹴られ、壁に頭をぶつけて死亡した」という荒唐無稽の内容だったため、ネットで批判が噴出したというもので、「躲猫猫」は同年のネット流行語になった。
  伍皓氏は真相究明を求めるネット市民による調査団を自ら組織。その後もブログなどで積極的に発言するなど、ネットでの情報公開に力を入れた。
  確かに政府の側に立ちながらネット世論を誘導していこうとする点では、伍皓氏も五毛党に属するのかもしれない。だがこの抗議行動に対して、ネットでは「伍皓は少なくともネット市民と向き合おうとしている。どうして彼を擁護しないのか。開明的な役人を求めていないのか。伍皓がここまでやったにもかかわらずこのような扱いを受けたら、あとに続く人が出てくるだろうか」「伍皓は確かに一部の問題には正面から答えなかったが、それでも金を投げつける行為は妥当ではない」といった意見が出た。
  「今日、あなたは“5号”に抗議する自由を得た。明日、私はより巨大な“1号”に抗議する権利を得るかもしれない」―「南方人物週刊」で紹介されたあるネット市民の声だが、要は「5号」は伍皓と発音が同じ(Wuhao)で、要するに今後はもっと地位の高い「1号」にも抗議する権利を得られるかもしれないということだ。
  仮に伍皓氏を「高級五毛党」と見るなら、2月20日に予告された中国の「ジャスミン革命」騒動で雲霞の如く現れたネット荒らしは「低級五毛党」と言うべきだろう。
  彼らはジャスミン革命の呼び掛けがあった19日、20日ごろからツイッターに登録、「(改革開放の)30年間で我々の生活は日一日と良くなった。お前たち悪党一味は騒ぎを起こそうとしているが、いったい何の目的があるのか」「天下が乱れることを企む“過街老鼠”(通りを横切る鼠、転じて嫌われ者)ども」「死んでしまえ」と言った罵詈雑言をデモの支持者らに向かって投げつける。
  実は筆者も中国の反体制作家が当局に拘束されたという情報をツイッターで流したところ「倭寇、余計な口を出すな」「アメリカの言う事を繰り返すだけの日本のオウムは黙れ」などと罵られた。このような言葉を投げかけられることは以前は少なかった。

 

 

 

5角札舞う中講演を続ける伍皓氏

5角札舞う中講演を続ける伍皓氏

左が偽、右が本物王丹氏のTwitter

左が偽、右が本物王丹氏のTwitter

 

  さらに質の悪い五毛党は、中国国内や海外で活動する民主活動家、知識人などのツイッターアカウント(ID)と酷似したアカウントを登録、本人になりすましてデマを流している。例えば1989年の天安門事件で活躍し、その後当局に拘束された後に海外に出国した民主活動家、王丹氏のツイッターアカウントは@wangdan1989なのだが、ある五毛党は@wangdan198964というアカウントを登録、王丹氏が使っているツイッターの写真をそのままコピーし、本人になりすましながらジャスミン革命に批判的な書き込みを始めた。だがこの目論見はすぐにばれ、推友(ツイッターユーザー)から「スパム」(悪質ユーザー)とみなされたようだ。本物の王丹氏のツイッターには2万6000人ものフォロワーがいるが、「偽王丹」のフォロワーは僅か1人である。

  この他にもツイッターのリツイート(引用、転載)機能を悪用し、著名芸術家艾未未氏(本コラム第5回「河蟹」参照)の発言だとして「君たち、もっと冷静になろう。ジャスミン革命は君たちを利用しようとしているだけなんだ」などというメッセージを捏造、これに引用記号を付けて信用させようとするなどの手を取っている。以下がその実例だ。
「RT @lailiangping:RT @aiww: 中东局势一乱,国际油价就上涨了,茉莉花行动如果让中国乱了,受苦的还是老百姓。#cn306 #cnjasmine」(中東情勢が混乱し、石油の価格が上がった。ジャスミン運動が中国を混乱させれば、困るのは一般庶民だ。)
これは@hyaoshi72という五毛党と思われるアカウントの書き込みだが、@aiww(艾未未)の発言を@lailiangpingがリツイートした形になっている。だがグーグルで調べたところ艾未未氏本人はこのような書き込みはしていない。ツイッターをやっている人には分かることだがリツイートを繰り返せば、簡単に誰かの書き込みを偽造できるのだ。
報道によれば、艾未未氏は五毛党の跋扈に対して、「それじゃあ、君たちの話を聞こうじゃないか。10~20分間話をしてくれれば2000元出すよ」という「五毛党取材活動」を始めた。艾氏は「あなたたちの人生の理想はたったの5毛であるわけがない、私はあなたたちに2000元を支払いたい、勇気ある人が出てくれるのを期待している」と呼びかけたそうだが、応じた人が出たのかどうかは分からない。
さらには「このツイッターアカウントは五毛党だ」といった書き込みを流して警告する、いわば「五毛党狩り」も激しさを増している。五毛党の側はジャスミン革命を支持する推友を「美分党」あるいは「五美分党」などと罵っている。「美分」とは「セント」のことで、要は「お前らだって米国の意を体しているだけの(5)セント党じゃないか」ということである。こうして、中国のツイッターではお互いにレッテルの貼り合い、罵り合いで大荒れ状態になっている。

  五毛党が一般のネット市民から嫌われるのは、当局に雇われた「お抱えネットユーザー」だからである。自らの意見を発表するのではなく、政府が右といえば右、左といえば左とその指示に従い、ネット空間を埋め尽くし、その対価として些少の報酬を受け取る、その卑しさゆえである。
北京大学のネット研究者、胡泳氏はブログで「政府を支持する言論は本心からのものだ。利益のために自分を売ってはいない」とある「網評員」の発言を紹介している。確かにネット上で政府の立場を擁護する事は当然あるだろうが、問題はそのやり方だ。他人になりすましてデマをばらまき、その対価として金銭を政府から受け取っているとしたら、そのような言論は社会を動かす力とは成り得ないだろう。意見があれば、正々堂々と名乗ってやればいいのだ。そういう主張に対しては、たとえ意見が異なっても、受け入れるだけの寛容性を中国のネット市民は持っている。
ただ胡泳氏も「政府が網評員を動員してネット上で自らを擁護させても網民(ネット市民)は反感を持つだけだ」と指摘。世論誘導という点でもかえって逆効果だと指摘する。「五毛党の出現は、当局がネット世論の大きな圧力に直面していることを意味している」とも述べているが、確かに今回中国のネット空間に起こった「ジャスミン革命」の大きなうねりとそれに対する政府の異常なまでの防御反応を見ても、ネット世論の拡大に対して、より開放的かつ理知的なやり方で世論に向かい合う必要があると筆者も強く感じており、現在のやり方は民心の離反を招くだけではないだろうか。

 

 

王丹氏のTwitter:http://twitter.com/wangdan1989

 

 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
  b_u_yajirusi
 
 
     
   
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