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ネット用語から読み解く中国
 
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ネット用語から読み解く中国   (23)「裸官」
   
     

裸官の風刺漫画
 

 前回紹介した『環球時報』の「適度腐敗」論に関する議論が冷めやらぬ中、環球のいわば親に当たる『人民日報』が同じような観点を打ち出し、話題を呼んでいる。
  6月14日に発表された「狭隘な極端主義を捨て去ろう」(摈弃“狭隘的极端主义”)という題名の評論は、「ある問題をめぐり意見が真っ二つに割れた時、味方でなければすなわち敵であるといった思考方式が極端主義」として次のように述べた。

 
   
     

 自分の価値観だけが正しく、我が意に沿うものは全面的に支持し、従わないものは徹底的に批判する。極端主義の危険性はここにあり、自分を唯一正確な道義的基準と考え、他の見解や認識を無視する。このような極端な思考では、思想の交流は難しく、共通認識も社会の調和も生まれない。
  消極腐敗現象(贈収賄など悪質ではないが、公費乱用、官僚主義、縁故採用など好ましくない現象)を見て、この国は何も良い所がないと考えたり、富はあっても人徳がない人がいると、あらゆる金持ちに怨みや怒りを抱いたり、社会に存在するいくらかの矛盾を批判しただけで「中国に泥を塗っている」と罵倒したり、段階的な国情を強調(中国の民主化はすぐには実現せず、段階的なものだといった中国の国情を強調すること)すると、「高級五毛党」(いわゆる五毛党でも大学教授、新聞編集者など肩書きを持ち、政府を擁護する論陣をはる人への蔑称)と批判したり、小悦悦事件(昨年10月、広東省で重傷を負った幼女を通行人多数が助けようとしなかった事件)が起きると、世の中の道徳も末日だなどと言ったり、「最も美しい」(今年5月、黒竜江省でバスに轢かれそうになった子供をかばい、両足を失った「最も美しい女性教師」張麗莉さんらを指す)が出現すると、道徳の低下など全く存在しないなどと語る。
  いずれの極端も、今日社会に存在する問題を正確に認識し、国家社会の進歩を客観的に評価し、社会の力を合わせ問題解決するのに役立たない。それどころか、社会の矛盾を激化し、現代化に向かう大国にとって大変不利である。
  (中国が)改革の真っ最中にあり、社会の矛盾が突出する時期だからこそ、社会は理性的な思考と健康的な議論を必要とする。社会の構成員が冷静、客観、平静に問題を見るようになれば、社会は矛盾が少なくなり、調和的になるだろう。

 

今回のことば

消極腐敗現象(消极腐败现象):贈収賄など悪質ではないが、公費乱用、官僚主義、縁故採用など好ましくない現象。

高級五毛党(高级五毛党):いわゆる五毛党でも大学教授、新聞編集者など肩書きを持ち、政府を擁護する論陣をはる人への蔑称。

小悦悦事件:昨年10月、広東省で重傷を負った幼女を通行人多数が助けようとしなかった事件。

最も美しい:今年5月、黒龍江省でバスに轢かれそうになった子供をかばい、両足を失った「最も美しい女性教師」張麗莉さんら、共産党が模範的人物と賞賛した人や行為を指す。

裸官:「裸体官員」の略で、配偶者や子女が仕事以外の理由で海外で暮らす、あるいは外国国籍や永住権を取得している中国政府の公務員のこと。汚職の温床とされる。

 

 共産党の「凝聚共識」(共通認識を強める)政策の宣伝として書かれたこの文章は、貧富の格差など社会の階層分化が進む中での結束を呼びかけたもので、正論と言えなくもない。だがこの文章が他のサイトに転載される過程で、「腐敗ゆえにこの国は何も良い所がないと批判するのは極端主義だ」などと見出しが書き換えられたことで、文章全体の趣旨よりもこの部分に対する批判が集中し、先の「適度腐敗」とあわせてネット上で議論を呼んだ。
  この文章について、「新京報」が実施したネット上のアンケートでも、「支持、理性的に腐敗問題を見るべきだ」という賛成の見方はわずか64人(8%)、「反対、反腐敗は旗幟鮮明、言葉正しく厳格でなければならない」が716人(91%)と反対派が圧倒的だった。
  例えば、安徽省の劉峰という弁護士はブログに「最近の人民日報はどうしたのか」という書き出しで次のようにつづっている。

 

人民日報の評論
摈弃“狭隘的极端主义”

「新京報」が実施したネット上のアンケート
「新京報」が実施したネット上のアンケート

劉峰弁護士のブログ
劉峰弁護士のブログ

ボイス・オブ・アメリカ
ボイス・オブ・アメリカ

明鏡ニュース
明鏡ニュース

カナダの中国語メディア
カナダの中国語メディア

ラジオ自由アジア
ラジオ自由アジア

 執政党と主流思想を最も代表する新聞が最近発する声はますます不可思議になっている。まずは民衆に適当な腐敗を容認するよう呼びかけ、次には腐敗ゆえに国を批判するのは極端主義だとする、人民日報の腐敗に関する観点はますます受け入れられないものとなり、怒りを覚える。
  人民日報は一体人民を代表する日報なのか、それとも反人民の日報なのか、はっきりさせる必要がある。
  今日中国では腐敗は部分的あるいは適度なものではなく、混乱し全く収拾がつかなくなっている。この国は腐敗が深刻で普遍的な状況を重視せざるを得ない状況であり、反腐敗を強化しなければいけない時期であり、これは国民の義務であると同時に執政党の一刻も猶予ならない責任だ。ところが党の機関紙がこのような現実とは正反対の声を発するとは、この国の悲劇である。民衆の智慧や是非を識別する能力を軽視してはいけない。
  たとえ部分的な腐敗であっても、極力批判すべきで、腐敗はいかなる国にあっても有害細胞であって有益菌などではない。腐敗は毒薬であり、短時間には命を奪わなくても、これを防がなければ早晩死んでしまう。(これに対し)批判は解毒薬であり、(国という)大きなビルが倒れるのを防ぐ力なのだ。
  腐敗ゆえに国を批判するのは極端主義ではなく愛国主義だ。民衆の批判をむやみやたらと極端主義とみなすのは、何か別のよこしまな考えがあってのことだろう。

 
 腐敗に対する民衆の不満が強いゆえに、うかつなことを書くと、批判の集中砲火を浴びてしまう。では、腐敗はどの程度ひどいのだろうか。それを象徴するのが「裸官」という言葉だ。
  裸官とは「裸体官員」の略で、配偶者や子女が仕事以外の理由で海外で暮らす、あるいは外国国籍や永住権を取得している中国政府の公務員のこと。海外へ逃亡する汚職公務員の中にはこの「裸官」が多いことが問題となっている。
  ボイス・オブ・アメリカは今年2月21日の記事で、中国社会科学院法学研究所が20日発表した「法治藍皮書(青書)」を紹介している。4割近い公務員がいわゆる「裸官」を是認、この数値は一般の人よりも高く、体制内の腐敗は非常に深刻だと分析している。
  報道によると、社会科学院法治国情調査研究チームが23の省、市の公務員や一般人を対象とした調査で、38.9%の公務員が配偶者が外国籍を持っていてもよいと考え、この比率は一般人の34.2%を上回った。
  調査を受けた省、市の人民代表大会、政府部門、司法部門の公務員のうち、省・部級、司・局級、県・処級の公務員は半数以上が子女が外国国籍や永住権を持つことを問題ないとしており、地位が上がるほど裸官に対して寛容だという。
  今回の調査について政治学者、劉軍寧は役人は(政府に対して)既に信念を失っており、出国したいとの願望が強いのはそれだけ国内にとどまるリスクが高いことを示している、と指摘した。
  近代史学者の章立凡も、役人が裸官をよしとすることは、この政治体制を是認していないことを示していると指摘した。「これは体制の失敗であり、エリートはこの体制を個人の利益を得るための道具としか考えておらず、奉仕すべき事業と考えていない、彼らは(現体制への)信仰を失っている」と述べた。

 「海外に逃亡し、逮捕された中国の汚職役人はこの12年で1万8000人に達し、金融や国有企業の職員が多いと伝えた。更に多くの者が逃亡したままで、海外に流出した金額は8000億元(約10兆円)に達した」裸官に関連して、このような驚くべき報道もある。

 6月5日、明鏡ニュースによると、中国人民銀行は昨年「汚職により海外流出した資産」に関する報告を発表、中国社会科学院の調査として、90年代中期以降海外に逃亡した党、政府幹部、公安、司法幹部や国家事業単位、国有企業の幹部などで海外逃亡、失踪した人数は1万8000人、持ち出した金額は8000億元に達した。
 北京大学清廉政治建設研究センターの李成言主任は、海外に逃亡した役人は1万人近く、金額では1兆元に上るとみている。
  福建省人民検察院政策研究所の林雪標主任は、国連腐敗防止条約や国際組織犯罪防止条約が発行する前の03年8月3日から5日に北京、天津、上海、広州などで実施した取り締まりで、海外逃亡を図った60人の役人を逮捕、うち持ち出し額が最も少ない者でも60万ユーロ(5990万円)だったと明らかにしている。
  林主任によると、金額が多く、地位が高い役人は米国、カナダ、オランダ、オーストラリアなどに逃亡しており、これらの国は中国と犯罪人引渡し条約を結んでいないため逃げおおせているという。

 この報道によれば、逃亡先として人気のあるカナダには「貪官小区(汚職役人のコミュニティ)」までが形成されているという。もっとも、カナダの中国語メディアの記事を見ると、さすがにこれは中国メディアのつくり話で、中国から追っ手を逃れようとひっそりと暮らしている汚職役人が、堂々とコミュニティを作ることはありえない、と否定している。
 話を冒頭の「極端主義」に戻す。この文章に対しては、海外からも批判の声が上がったと、ラジオ自由アジア(6月16日)は伝えている。
  「国と政府は別の概念だ。実際には大部分の批判は政府や執政党に対してであり、この国に対してではない。中国は長期にわたり党、政府、国という概念が渾然一体となり、政府を批判すると、共産党は直ちに『(そのようなことを言うのは)愛国ではない』などと言い出す、これこそ極端主義だ」在米コラムニスト、章天亮はこのように述べている。
  「大量の極端主義の言論は主に政府が独占するメディアが発するものであり、共産党のイデオロギーと密接に関わっている。共産党のイデオロギーが解決されない限り、極端主義は中国からなくならない」

 これは上の記事にあった中国の作家のコメントだが、確かにチベット問題などで「ダライ・ラマは分裂主義者」などと相手の主張に耳を貸さず一方的に罵ったり、民主活動家の権利維持活動に対して「国家政権転覆扇動罪」などの罪名をかぶせて拘束するなどといったやり方は極端主義以外の何物でもない。極端主義が生まれる大きな原因は中国の政治体制にあると言っても過言ではないだろう。民主化や報道の自由などを通じて、「裸官」などの腐敗を根絶し、社会の不満を生む様々な要素を取り除かなければ、いくら「理性的な議論を」と呼びかけても絵にかいた餅に終わるだろう。

 
     

 

   
 
古畑康雄・ジャーナリスト
   
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