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2006年03月  『新華字典』

     4000カ所超の誤り?   
     
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ギャグ・パロディーに噛みついた中国映画『無極』(プロミス)の話題も冷めやらぬなか、こんどは有名な「字典」が裁判沙汰となっている。
中国で、もっともポピュラーな漢字の字引き『新華字典』(商務印書館)に「内容の誤りが4000カ所以上もあった」として、上海に住む男性がそれを販売した書店「上海書城」を相手どり、損害賠償と謝罪をもとめて提訴。このほど公開審理が行われたのだ。
これに対して、上海書城の弁護側は「書店は、規格の合格品でなければ売らない。指摘された"誤り"は、単なる個人の観点にすぎない」と反論。出版元で、辞書のしにせの商務印書館は「公正な裁きを保つため、発言はさしひかえたい」として、事態をみまもっているという。

中国の言語学者らが編纂し、50年以上も再版が重ねられてきた字典のどこに「誤り」があったのだろう? 判決が下されるのはまだ先となりそうだが、北京の新聞にも大きく取り上げられたこの問題。そこには、表記上の"誤り"だけでは説明できない、深淵なる中国語の世界が広がっていた!? 注目の『新華字典』訴訟をさぐってみた。

 
     

『北京日報』(3月1日付)によれば、上海に住む馬捷(マー・ジエ)さんは8年ほど前、娘とおいに指摘されて気がついた。
『新華字典』の「艾」(アイ)という文字の解釈のひとつは、形容詞の「美しい」であるのに、用語例としてあげられた「少艾」(シャオアイ)は、名詞の「若く美しい人」であった。また「丑」(チョウ)という文字の解釈は、形容詞の「醜い、見苦しい」であるのに、用語例の「出丑」(チューチョウ)は、動詞の「恥をさらす、醜態を演じる」であった。
つまり、文字の解釈と、用語の品詞がことなるのである。

「ページを開けば、誤りがある!」と驚いた馬さんは、仕事を辞めて『新華字典』の"まちがい"さがしに専念。『〈新華字典〉解釈分析』という大著をまとめ、「出版してほしい」と出版元の商務印書館へ送りこんだ。しかし、待ちにまった返信いわく「あなたのお原稿は、基本的な言語学と辞書学の常識に欠けている。出版水準に達していない」というものだった。
「もう、こうなったら訴訟しか道はない。8年の研究成果を、法律で証明してみせる……」
馬さんは、こんどは『新華字典』(第10版)を購入した上海書城を相手どり、書籍代を倍にして弁償すること、新聞に謝罪広告をのせること、仕事上の損失として2万元(1元は約15円)を賠償することなどを求めて、上海黄浦裁判所に提訴した。

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公開審理での馬さんの主張は
①『図書質量管理規定』によれば「図書(内容)の誤りは、最大で1万分の1を超えてはならない」。しかし『新華字典』は、誤りが1万分の15という高率だった。
②『消費者権益保護法』によれば「消費者は商品を購入し、また使用したときに合法権益がおかされれば、販売者に賠償を求めることができる」。そのため上海書城を訴えることができる。上海書城は、不合格品の販売を認めるべきだ――というもの。

 

いっぽうの上海書城の弁護側は
「『字典』は正規の出版社による正規の出版物である。内容、校正、印刷などは権威部門のチェックをへて合格している。そうでなければ書店では売らないし、指摘された"誤り"は単なる個人の観点にすぎない」とまっこうからこれに反論。
くだんの商務印書館も「公正な裁きを保ちたい」と現時点では発言を差しひかえているという。
傍聴者のなかには「馬さんはなぜ商務印書館ではなく、上海書城を訴えたのか」と上海書城に同情する人もいたが、彼には彼の考えあってのことだった。それにしても8年もの地道な研究をつづけて、まったくの個人で法人を訴えるという大胆な行動にでた馬さん。『新華字典』の内容や対応が、よっぽど腹に据えかねていたのだろう。

焦点となっている『新華字典』の歴史は古く、いまから約50年前の1953年10月に人民教育出版社が初版を刊行。57年から現行の商務印書館が出版元になり、社会科学院や北京大学など中国のトップレベルの研究成果を加えて、これまでに計10回の改訂が行われてきた。98年には「国家図書賞特別賞」を受賞したというじつに権威のある字典なのだ。
ことばを学ぶ「詞典」(辞典)とはことなり、漢字の意味を学ぶ「字典」として、また小中学生や農村に多い非識字者をなくすための「普及型」の学習ツールとして、累計4億冊が発行された。コンパクトで手ごろな値段も功を奏して、中国でもっともポピュラーな字典として親しまれている。

そんな名著に、馬さんは何を立てついたのか? 指摘箇所をもう少し詳しくみてみると――。

①版:印刷物の印刷の回数。再~(第10版13ページ)
②碑:文字を刻み、事業や功績を記念したり、標識にしたりした石。有口皆~(同19ページ)
③暈:日光、月光が雲を通過するときに屈折する作用。または太陽、月のまわりに生じる光の輪、暈(かさ)。月~而風(同596ページ)

①の解釈は名詞なのに、用語例は「再版する」という動詞になっている(中国語では、「再版」の「版」は動詞になる)。
②の解釈も名詞なのに、用語例は「だれもが皆ほめたたえる」という意味の成語で、動詞になっている。
③の解釈も名詞なのに、用語例は「月が暈をかぶれば、風が吹く」という動詞になっている。
つまり、文字の解釈と用語の品詞がことなる複雑な事態がおこっている。馬さんにしてみれば「完全に内容、表記の誤り」だという。公開審理を終えた裁判所が今後、どのような判決を下すのか注視したいところだが、この問題について国内の第3者はどう見ているのか?

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中国語専攻のあるベテラン中国人教授は
「じつは、中国人にとっても難しい問題です。"内容の誤り"などという明確なレベルではなく、中国語文法の根本的な難しさがそこにある」
それによれば、この問題はまず、中国語文法がひじょうに"ファジー"な成り立ちであることから理解しなければならない。

①中国語は、英語やロシア語のような「形態語」ではない。つまり、人称・数・時制などで構成や形が変化する言語ではない。
(例)学習:我 学習 漢語(私は中国語を学ぶ、学習=動詞)。
我 学習 好(私の学業はよい、学習=名詞)。
※「学習」は、形の変化こそないが、動詞も名詞も兼ねる「兼類詞」であり「活用」する。

②中国語は、その80%が「字義」を連ねることによって「詞義」(語義)を構成する。つまり、「漢字+漢字=詞(ことば)」だが、「漢字」イコール「ことば」ではない。「お米に水を加えて炊いたら、ご飯になるでしょう。でも、お米とご飯は同一ではない。漢字とことばも、それと同じ関係なのです」(同教授)

③中国語の文法は、「語序」文法。時間やアスペクトなどの「順番」を重視する。現在のような品詞分けの文法は、せいぜい20世紀初頭に英語文法を当てはめて整理したものなので、どうしても矛盾が生じる……など。

中国の字書の歴史は古く、最初のシステム的な字書といわれる『説文解字』は後漢の時代、2世紀までさかのぼる。また、古文の文法はおもに漢代に確立した「訓詁学」(くんこがく)などを踏襲していた。
それらは、時代が下って清代(18世紀初頭)の『康熙字典』、20世紀初めに編まれた『辞源』、『辞海』へと脈々とうけつがれ、そして現在の「字典」や「詞典」にも一部使われている。いま、私たちが気軽に手にすることのできる『新華字典』や『現代漢語詞典』(商務印書館)のルーツは、もとをたどれば2000年前までさかのぼる? いずれにしても、そこには気の遠くなるような歴史が凝縮されているのである。
「そうした古文の文法を、科学的かつ数学的な英語文法に当てはめたので、どこかに矛盾が生じてしまう。上海の馬さんが指摘したのは、そこの部分。解釈上の問題というよりも、中国語が本来もっているあいまいさの問題なのです。
法に訴えるという過激な方法がよかったのかどうかは疑問ですが、字典をよりよくする"精益求精"(ジンイーチュージン)、磨きをかけるためには、大いに議論すべきではないか」(同教授)

今回の訴訟に対し、編集サイドは品質にぜったいの自信があるとしながらも、謙虚な態度ものぞかせている。
「めざましい時代の変化で、新語や新義がぞくぞくと生まれている。そのなかには校閲の漏れもあるかもしれない。読者からの意見や批判は連日とどくが、妥当な意見は今後もとりいれていきたい」(『北京日報』)

利用者の立場からすれば、字典は厚くなるけれど、ひとことふたこと解釈に説明を加えてはどうかと思う。たとえば「版」は「兼類詞なので、名詞にも動詞にもなる」などと。現・胡錦濤政権のモットーは「以人為本」(人間本意)であるのだし、直すべきところは直して「利用者にやさしい字典づくり」をめざしてはどうだろうか。
猪突猛進型の勇気と情熱をもった、上海の"ドン・キホーテ"。そのたった1人の行動が、中国の字典界を揺り動かすことになったとしたら、利用者としてはありがたいと思うのだ。

 
 
   
     
     
bestsellere文芸類  

★『京華時報』図書ベスト
(北京図書大廈、王府井書店、中関村図書大廈、三聯書店など、市内主要書店の販売部数から統計)
2006年3月12日~3月18日

     
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1.『蓮花』
安妮宝貝著 作家出版社 2006年3月初版
『八月未央』『薔薇島嶼』など、その作品が立てつづけにヒットをとばす若手女流作家、安妮宝貝の最新長編。


重い病におかされていた慶昭は、高原へ行き、静かに死を待とうと思った。
事業が成功し、家庭生活も円満だった善生は、物質的な幸せにどこかやりきれなさを覚えていた。あるとき利益追求の日々に別れを告げて、妻とも別れ、単身チベット自治区の墨脱をめざす。旧友の女性、内河を尋ねるためだった。
そんな旅の途中で出会った善生と慶昭。
善生は自分のことや内河との昔話を、慶昭に話して聞かせる。目の前には、蛇行してつづくヤルツァンポ河の流れと急峻な谷が迫っていた。それはまるで、善生の苦痛と変化、離散の人生のようであった……。
現代中国の都会人が模索する愛と信仰、生命の本質をほりさげて描く。以前にもまして美感と筆力、重厚さが加わったと評判の作品に仕上がっている。


2.『印記』(心の記憶)
傅彪/張秋芳著 長江文芸出版社 2006年1月初版


張芸謀監督の『幸福時光』(至福のとき)、馮小剛監督の『天下無賊』など数々の映画やドラマ、舞台に出演。中国映画のオスカー「金鶏賞」の最優秀助演男優賞を受賞するなど幅広く活躍した俳優・傅彪(フー・ビャオ)さんが、昨年8月30日、肝臓がんのために亡くなった。42歳の若さだった。
本書は、その傅彪さんと妻の張秋芳さんの共著による回想録。病床で綴られた本人のエッセイ8本と、張秋芳さんの回想、張芸謀監督や俳優の葛優、歌手の韓紅ら友人たちのことばが収録されている。
「……お腹がすけば、食べればいいさ/眠いときには、眠るのがいい/大きくなったら、子どもをつくり/年をとったら、大事にされる/困ったときには、先生がいて/難しくなれば、友達がいる/病気になったら、健康がいい/不治の病も、行ってしまえば最高だ!/偉大なものに近付いたなら、心は最も美しくなる」(「美と美麗」より抜粋)
演じることへの情熱と、家族や友人へのひたむきな愛。ページを開くと、傅彪さんの短くもすばらしい"芸術人生"がよみがえるかのようだ。


3.『騙局』(デセプション・ポイント)
ダン・ブラウン著(米)朱振武・信艶・王巧俐訳 人民文学出版社 2006年3月初版


世界的ベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード』の作者による待望の中国版最新作だ。米国家偵察局員レイチェルは、大統領から直々にNASAの大発見を確認してくるよう命ぜられる。時あたかも大統領選のさなか。レイチェルの父は、なんと現職大統領の対立候補であった。
ホワイトハウスとNASA、国家偵察局の政治的かけひきが絡み合い、その輪のなかにレイチェルが巻き込まれていく。アメリカに実在するという機構や先進技術が随所に織り込まれており、リアリティーも十分。「歴史もの」「宗教もの」で鳴らしたストーリーテラーの現代版ミステリーを堪能することができる。
日本では、角川書店から『デセプション・ポイント』が翻訳出版されている。


4.『Outsider 局外人③』(アウトサイダー)
可愛淘著(韓) 中国城市出版社 2006年3月初版


『局外人』のパート1、2がコンスタントに売れ続けるうちに、早くもその第3部がベストテンの上位に登場。作者はネット世代の若者を中心として、中国でも絶大な支持をほこる韓国の女流作家・可愛淘(中国語訳)だ。
様々な謎につつまれた「江家」にひきとられた孤児の韓雪理の運命は? 時が移り、江家も江家の兄弟の天空、尹湛も変わっていった。そして謎がしだいに明らかになり、彼らが迎える感動の結末とは?
可愛淘の「最高傑作」の呼び声も高い、ミステリータッチの青春小説。ウェブサイトを通じた作品公開やPRが功を奏してか、可愛淘ファン「淘迷」(タオミイ)の心をしっかり掴んだようである。


5.『達・芬奇密碼』(原題『THE DA VINCI CODE』)
ダン・ブラウン著(米) 朱振武・呉晟・周元暁訳 上海人民出版社


6.『藏獒』(ザンアオ)
楊志軍著 人民文学出版社


7.『狼図騰』(オオカミのトーテム)
姜戎著 長江文芸出版社


8.『老店・全聚徳』(老舗・全聚徳)
古榕編著 長江文芸出版社 2006年1月初版


『老店(しにせ)』は、北京ダックの名店・全聚徳を舞台にくりひろげられる人間の悲喜劇を描いたしばい「天下第一楼」の映画版。1990年にフィルム化されて大ヒットした。昨年の中国映画誕生100週年には、「伝統の名作映画100本」の1つに選ばれた。
本書は、その監督・古榕みずからが作品『老店』をふりかえるもの。内容や出演スターの紹介にはじまり、当時のニュースや評論などを余すところなく収録。じっさいの全聚徳の史料や写真なども収められ、読みものとしても、また資料としても十分な価値がある。中国映画ファン必読の一冊だろう。


9.『細節決定成敗』(ディテールが成敗を決める)
汪中求著 新華出版社


10.『一座城池』(THE IDEAL CITY)
韓寒著 二十一世紀出版社 2006年1月初版

 
   
     

 

 

中国中央テレビ(CCTV)1チャンネルで、3月10日から毎晩放送された日中共同制作のドキュメンタリー「新絲綢之路」(新シルクロード)もよかったですが、18日からCCTV8チャンネルで放送されている日本ドラマ「白色巨塔」(白い巨塔)にも、すっかりハマってしまいました。
フジテレビ開局45周年記念ドラマとして注目された「白い巨塔」は、山崎豊子氏原作の同名小説4度目のテレビドラマ化。日本では2003年10月から、ゴールデン枠で半年放送されたそうですが、中国では3月18日から毎晩2話ずつ連続放送されています。
「正統派の日本ドラマ」「物語のプロットと、人物の心理描写が完璧」(『京華時報』)、「ドラマに反映されたのは、アジアの多くの国・地域でも直面する現実問題。ここに表現された複雑な人間性は、国境と民族の隔たりを超えるものだ」(『新京報』)など、中国のマスコミの評判もまずまず。
近年は、韓国ドラマがこちらのテレビを席巻していましたが、正統派「日劇」(日本ドラマ)のひさびさの登場です。「阿信」(おしん)、「東京愛情故事」(東京ラブストーリー)などにつづいて再び"日流"の火付け役になってくれたらいいな~と期待を込めて見守っています。

 

 

写真・文 小林さゆり
日本のメディアに中国の文化、社会、生活などについて執筆中

 

   http://china-media.jugem.jp/
 
     
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