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中国映画のコラム 第10回 .

 中国インディペンデント映画の魅力

  中山大樹
     
mv201511-00   12月12日から27日まで、東京のポレポレ東中野で中国インディペンデント映画祭2015が開催される。2008年から始まり、現在は2年に1度のペースで開かれているこの映画祭は、今回で5回目を迎える。
一部の人たちには浸透しつつあるが、中国のインディペンデント映画はまだまだ一般に知られていない存在だろう。インディペンデント映画というと、「未熟な」「低予算の」「自主制作による」といったイメージを持たれるかもしれない。そういった意味合いも無くは無いが、日本と中国では少しインディペンデントの姿が異なることをまず知っていただきたい。
中国では、「独立電影」と呼ばれる映画のジャンルがある。これがインディペンデント映画と訳されるわけだが、ここで言う「独立」とは「政府による映画管理体制からの独立」や、「商業映画システムからの独立」という意味の他に、「独立精神」「独立思考」といった意味を含んでいる。政府が映画を厳しく管理している中国にあって、映画産業は爆発的な成長を続けているものの、儲かる映画ばかりに価値が置かれているのが現状である。それをよしとせず、より自由な表現手段として映画を作ろうと考える人々が、本当に撮りたい自分独自の映画を撮ってやろうというのが独立電影である。実は、一般的な日本の自主映画に比べれば製作資金は遥かに多いし、作り手には国際映画祭ではよく知られているベテランも多い。近年大きな映画祭で賞をとる中国映画といえば、そのほとんどが独立電影もしくは独立電影出身の監督による作品だと言っても過言ではない。
     
     
     

 

 

 


『トラップストリート』

 


『癡』

 


『最後のハンダハン』

しかし、こうした映画は本国でもほとんど知られていない。スターが出ているわけでもなければ、派手なアクションもない、商業映画とは対極にあるような映画は、今の中国ではほとんど公開されない。それどころか、検閲すら受けていないために、中国国内で劇場上映できない作品も少なくない。こうした映画は、海外の映画祭に選ばれてもメディアで報じられることはない。
中国では十数年前からインディペンデント映画を集めた映画祭が民間で行われ、高い注目を集めていたのだが、ここ数年は政府による圧力を受け、多くが中止に追い込まれている。儲かるどころか、観客の目に触れることも難しい状況なのである。

では、独立電影にはどんなものが描かれているのだろうか。今回上映する作品からいくつか紹介してみよう。文晏(ウェン・イェン)監督の『トラップストリート』は、ちょっとミステリアスなラブストーリーである。この映画の主人公は、地図を作る仕事をしている青年である。一般論として地図には盗作を防ぐために仕掛けが施されているのだが、それがトラップストリートと呼ばれるもので、実在しない路地などを地図に書き込むことで、コピーした人が言い逃れできないようになっている。主人公は、測量作業中に女性に一目惚れし、彼女の入っていった路地のことが気になって調べてみるのだが、地図には描かれていない。疑問に思って上司に訪ねてみるのだが、取り合ってもらえない。実はその路地は秘密機関に関わるもので、地図には載せることができないのだが、事情を知らない主人公はせっせと彼女にアプローチし、あらぬ疑いを掛けられてしまう。地図を作っている人が、違う意味のトラップストリートに嵌ってしまうのである。あまり書くとネタバレになるが、これはラブストーリーではあるものの、国家権力と個人の尊厳について描いた物語とも読み取れる。この監督は、ベルリン国際映画祭で金熊賞を獲ったサスペンス映画『薄氷の殺人』のプロデューサーで、これが初監督作品でありながら、ヴェネツィア国際映画祭に選ばれ、多くの国際映画祭で賞を獲るなど、高い評価を受けた。だが、中国国内ではまったくと言っていいほど上映されていない。

『癡』はドキュメンタリーとフィクションを融合させ、歴史的テーマを新しい手法で描くことを追求した、興味深い作品である。反右派闘争で追放され、長年投獄されていた張先癡という実在の人物へのインタビューと、彼の半生を舞台劇風に再現したドラマで構成されている。資産階級の父親の処刑、解放軍での差別的待遇、同じ境遇の女性との結婚、右派とみなされてからの生活などが語られている。そうした歴史を映像で再現することは難しいわけだが、まだ30代の邱炯炯監督は、下手に脚色することなく、非常に抽象的な手段を取ることで観る者の想像力を増し、非常に印象的な作品に仕上げることに成功している。ただ、中国では、このようなテーマを正面から取り上げることは未だに難しい。国内で上映されることも少ないだろう。しかし、こうした記憶を映像として将来に残すことができるのも、インディペンデント映画ならではであり、インディペンデント映画の役割と言えるかもしれない。

ドキュメンタリーとしては『最後のハンダハン』も面白い。これは北方の少数民族であるエヴェンキ族の男にスポットを当てたドキュメンタリー映画である。彼らは、民族の伝統であった狩猟を禁止され、定住化政策によって森から町へ移住させられた。その結果、多くの大人は生きる目標を失い、酒を飲んでばかりいる。子どもたちはもはや自分たちの民族の言語を話すこともできない。これは世界の少数民族に共通した問題でもある。監督の顧桃は、十年前からエヴェンキの人々が暮らす森に入り、彼らの姿を撮り続けてきた。移住させられた後も、森に帰ってトナカイの放牧をして暮らす一部の人が、テント生活を続けているのである。
映画の主人公は飲んだくれだが、絵画を描く芸術家でもある。彼はエヴェンキ族の憧れでもあるハンダハン(ヘラジカ)を求めて森を歩くが、今はハンダハンも数を減らしており、見つけることができない。主人公はいい年をして独身なので、心配した母親が求婚の広告を出す。すると、海南島で英語教師をしている女性から応募が届く。かくして大興安嶺しか知らないエヴェンキの男は、海南島へ行って彼女と暮らし始め、子どもたちに混じって英語の授業にまで出る。映画はそんな滑稽な姿も交えながら、様々なエピソードが展開されていて、とても楽しめる内容にもなっている。それでも、実はテーマは重い。

顧桃監督は、彼らの姿を映像に残さなければという想いでドキュメンタリーを撮り始めたという。今では貴重な資料となる映像も多い。しかし、彼の撮っている人々は、今の政策に納得していない人たちであり、こうして酒に溺れている人々の存在を知らしめる行為は、政府の望むものではない。多くの映画祭で賞を獲り、国際的にも高い評価を受けている一方で、国内での上映には圧力を受けているのが現状だ。
誤解してほしくないのは、彼らは政府に抗うためにこうした映画を撮っているわけではない、ということだ。彼らにしてみれば、現実としてそこにあるものや、日々の暮らしの中で感じていることを映画という手段で表現しているだけで、制限を受けずに自分なりの創作がしたいだけである。念のため言うが、中国でも許可を受けずに映画を撮ることは犯罪ではないし、映画館で興行する上で許可が必要なだけで、その他の施設で無料上映をするのであれば、それを制限する法的根拠は無い。しかし、現実には上映イベントを開こうとすると中止するよう警告され、それでも上映しようとすると電気を止められたりする。逮捕すると警察に脅された人もいる。
メンツを重んじる中国の役人は、中国のイメージを悪くすると彼らが判断する映画は認めるわけにはいかない。過去に検閲で引っかかった理由として私が聞いているものには、北京の路地が汚く映っているとか、人々の言葉遣いが悪いとか、国営企業の職場環境が悪く映っているといったものもある。そうした制約を受けて作られる商業映画が、どの程度現実が反映されたものかは、容易に想像できるというものだ。
一方で、インディペンデント映画はきれい事を言わない。彼らがあえて映画を撮るのは、メインストリームでは取り上げられないテーマを描くためであり、そこに映っているのはありのままの人々の姿だ。過酷な労働現場で働く人々や、失業者、娼婦、盲目の芸人、主人公はどれも市井の人々だ。厳しい環境の中を、彼らが喜怒哀楽をむき出しにしながら強かに生きている様子は、非常に自然で、むしろ美しい。そこには普段中国の人々が何を感じ、どう暮らしているかが、市民の視点で映しだされている。政府が作ったイメージより、こうした本来の姿こそ、我々が知るべきものではないだろうか。
日本で中国のインディペンデント映画が上映される機会は少ない。今回上映される作品は、これを逃したら二度と観られないであろう作品ばかりだ。嬉しいことに、今回もほとんどの作品の監督が来日してくれる。どうかこの機会を逃すことなく、これまで知らなかった中国映画に触れて、作り手と言葉を交わし、その魅力を感じていただきたい。

 
  (なかやま・ひろき 中国インディペンデント映画祭代表)
     
   
     
 
     
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