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中国映画のコラム 第6回 .

 台湾映画の現在
   ――シネマート六本木「台湾シネマ・コレクション2015」に寄せて
浦川 留

   
   

シネマート六本木のWEBサイトより アジア映画専門の映画館として開業以来多くのファンに親しまれてきたシネマート六本木が、残念なことに2015年6月14日をもって閉館となる。クロージングイベントとしてさまざまなプログラムが企画され、台湾映画に特化した「台湾シネマ・コレクション2015」(4月18日~5月8日)では近年の話題作25本を上映。その多彩なラインナップに、近年めざましい台湾映画の復調をあらためて実感した。
  

   

 まずは上映作品を年代順に並べておこう。

86年:「恋恋風塵」
04年:「僕の恋、彼の秘密」
06年:「花蓮の夏」
07年:「練習曲」「TATTOO―刺青」「ウェスト・ゲートNO.6」「ビバ! 監督人生!!」「DNAがアイ・ラブ・ユー」「遠い道のり」「午後3時の初恋」「言えない秘密」
08年:「九月に降る風」「海角七号/君想う、国境の南」
10年:「モンガに散る」「台北カフェ・ストーリー」
11年:「セデック・バレ(第一部・第二部)」「あの頃、君を追いかけた」
12年:「GF*BF」「花様~たゆたう想い~」「光にふれる」
13年:「おばあちゃんの夢中恋人」
14年:「KANO~1931海の向こうの甲子園~」「ピース!時空を超える想い」「EXIT -エグジット-」「オーロラの恋」

 このうち、「言えない秘密」を除く07年作品は、同じくシネマート主催の「台湾シネマ・コレクション2008」で紹介された全8作品中7本のアンコール上映である(ちなみにもう1本は「シルク」(06)だった)。当時としてはぴかぴかの新作ぞろい。90年代から冬の時代が続いた台湾映画にようやく春の風が吹き始めたことを告げていた。
 中でも、台湾にサイクリングブームを巻き起こしたロードムービー「練習曲」は07年を代表する作品の1つである。「TATTOO―刺青」はアイドルの楊丞琳が同性愛映画に挑戦した話題作であり、「ウェスト・ゲートNO.6」は今や香港や中国の映画でも引く手あまたの彭于晏と阮經天の記念すべき映画初主演作だ。
 全体的な印象としては小粒というか、まだ三寒四温の観はあったが、監督や出演者の顔ぶれもフレッシュで今後への期待感を抱かせた。
 また、ポップス界の寵児・周杰倫が主演と初監督を兼ねた「言えない秘密」は台湾元にして興収5千万を超え、当時の台湾映画としては特大級のヒット。こうした動きから、台湾映画の復活劇は07年にエンジンがかかったとみていいだろう。
 本格的に走り出したのは、翌08年である。ご存じ「海角七号/君想う、国境の南」がきっかけだ。台湾映画が興収1億の大台に乗せることなどほとんど夢のような話だった中、まさかの5億超えを達成。これが号砲となって台湾映画は一斉にスタートダッシュを切り、みるみるうちに活力を取り戻した。
 「海角七号」は、ハートウォーミングな良作だが、大スターが出ているわけではなく、失礼ながら洗練された作りとも言いがたい。それがなぜ台湾映画史に残る記録的ヒットとなったのか(しかもいまだに記録は破られていない)。一因として、ローカルでシンプルで郷愁をさそう人情喜劇が台湾で絶えて久しく、かえってストレートに観客の胸にしみわたったのではないだろうか。
  


 台湾映画といえばニューシネマ、というイメージが長らく支配してきたことはよく知られている。台湾映画界にとって、ニューシネマは栄光であるとともに一種のしばりでもあった。
 ニューシネマ以降、多くの映画人たちは芸術的・文学的・作家主義的な秀作を1本でも多く世界に向けて発信することに一定の使命感を持っていた、と思う。国際的な映画祭だけでなく、芸術性重視といわれる台湾金馬奨の方向性もそれを助長したであろう。
 一方で、台湾映画はマジメで重くて眠くなるという印象が定着しつつあった(あるいは定着してしまった)ため、軽妙さやユーモア感でそれを中和する努力も払われた。90年代から00年代にかけて、台湾映画は総じて「芸術性と商業性との両立」を目指していた。
『海角七号』DVD(日本版) そこへ降ってわいたように現れ、ニューシネマの見えざるベールに大きな風穴をあけたのが「海角七号」だった。監督の魏徳聖は楊徳昌の助監督をつとめた経験を持つという点ではニューシネマの系譜に連なるが、それはそれとして自分の作りたい映画を作っている(ように見える)のが特徴で、強みでもある。
 「海角七号」のけたはずれの成功は、台湾映画は儲からないと思っていた人々をさぞかし驚かせ、励ましたことだろう。「こういう映画が当たるんだ。こういう映画を作っていいんだ」と分かってからの動きは早かった。かつてなく多種多様な企画が動き出し、中でも水を得た魚となったのが娯楽作品である。「海角七号」に続けとばかりに億単位のヒット作が1つまた1つと生まれ、“破億”(=1億超え)がヒットの指標となった。
 上記の作品でいうと、「モンガに散る」「セデック・バレ(第一部・第二部)」「あの頃、君を追いかけた」「KANO~1931海の向こうの甲子園~」「ピース!時空を超える想い」が“破億”作品である。
 先陣を切ったのが、80年代が舞台の青春ヤクザ映画「モンガに散る」(興収2.6億)。監督の鈕承澤は子役出身で、侯孝賢を師とあおぐ、いわばニューシネマ・チルドレンである。「モンガ~」は「ビバ! 監督人生!!」に続く2本目の長編映画であり、主演の阮經天と趙又廷はいずれもドラマのアイドルから映画スターへと飛躍した。
 ちなみに阮經天は、鈕承澤の最新作「軍中楽園 PARADISE IN SERVICE」(14)にも主演。これは69~72年の金門島を舞台にした軍隊映画で、“破億”はならなかったが、鈕承澤も監督としてひと回り成長したことをうかがわせる力作だ。
 「セデック・バレ」二部作は「海角七号」の魏徳聖の次なる作品で、日本統治時代に原住民が決起した霧社事件を描く。前作とうってかわって重くシリアスな映画だが、第一部が4.7億、第二部も3億を超える興収をたたき出した。
 魏徳聖の快進撃は続き、次には馬志翔に監督を任せて自分は製作に回った「KANO~1931海の向こうの甲子園~」が3.3億の大ヒット。「セデック・バレ」と同じ時代に、台湾の無名チームが甲子園で勝ち進んだ実話にもとづくスポ根映画である。
  


『あの頃、君を追いかけた』DVD(台湾版) この魏徳聖とともに、最近の台湾映画を象徴するキーパーソンとして、ベストセラー作家の九把刀がいる。彼が自伝的作品を自ら映画化した青春ラブコメディ「あの頃、君を追いかけた」は台湾で4.1億の興収をマークし、驚くべきことに香港でもヒットして中国語映画の歴代トップ記録を樹立した。
 なお、九把刀原作の映画としては、同じく青春ラブコメディの「等一個人咖啡」(14・未)も2.5億のメガヒット。監督はこれが初長編となる江金霖がつとめた。
 「ピース!時空を超える想い」は旧正月映画で、さらにコテコテの娯楽作。日本統治時代の抗日運動をモチーフとし、台湾人のアイデンティティを問う社会派コメディだ。
 旧正月映画といえば香港のお家芸だが、11年の旧正月に「雞排英雄 Night Market Hero」(未)が興収1.4億をたたき出し、「海角七号」「モンガに散る」に続く3本目の“破億”作品となったのをきっかけに、台湾でも旧正月映画が定着した。
 翌12年は「陣頭」(未)と「ハーバー・クライシス〈湾岸危機〉Black & White Episode 1」がそれぞれ3.1億と1.2億。13年には「大尾鱸鰻」(未)が「あの頃、君を追いかけた」を追い抜いてまさかの4.3億。14年の「ピース!時空を超える想い」が2.1億。15年の「大囍臨門」(未)が2.5億と、5年連続で“破億”を達成している。
 これらのうち青春映画「陣頭」とアクション大作「ハーバー・クライシス」を除く4本はすべてベタなギャグが満載の人情喜劇で、そのすべてに出演しているのが人気コメディアンの豬哥亮だ。長年行方をくらましていた豬哥亮は、「雞排英雄」で映画にカムバックして以来、旧正月映画の顔になった。
 こうして“破億”作品を並べてみると、いくつかの共通項が浮かび上がって来る。その最たるものが“ローカル色”と“ノスタルジー”であり、「海角七号」以来の、娯楽映画のヒットの法則とみていいだろう。
 もちろん全部が全部そうではないが、他にも料理コメディ「祝宴!シェフ」(13)(興収3.1億)や、ドキュメンタリーとしては画期的な大ヒットとなった「天空からの招待状」(13)(興収2億)も(これは娯楽映画ではないが)同じことがいえる。
 台湾の歴史や文化、台湾語が飛び交う街や日々の暮らし、台湾に生まれ台湾で生きるということ……そうした目線から物語をつむいでいく台湾映画が、数年来、観客を映画館へ向かわせる原動力になっているのだ。
  


 さて、長々と娯楽映画に紙数を割いてきたが、台湾映画の好景気は、文芸映画にも大いに恵みをもたらした。
 もともと、製作費のかかる娯楽映画を作る体力がなかった低迷期においても台湾で文芸映画の製作は地道に行われており、ニューシネマ以来、台湾に文芸映画が絶えたことはない。アイドルや人気タレントも総じて文芸映画をリスペクトし、演技力を磨く場、ステップアップのチャンスとして積極的に参加する傾向にある。
『GF*BF』DVD(台湾版) 「台湾シネマ・コレクション2015」のラインナップを見ても、唯一のニューシネマ時代の名作「恋恋風塵」は別格として、「花蓮の夏」「練習曲」「遠い道のり」「九月に降る風」「GF*BF」「光にふれる」「EXIT -エグジット-」など、文芸映画は数多い。そして、そのほとんどが新たにスターを輩出し、あるいは文芸映画が生んだスターを主演にむかえている。
 たとえば、「花蓮の夏」からは主演の1人・張睿家が金馬奨最優秀新人賞を受賞。さらにもう1人の主演・張孝全も、新人賞こそ張睿家にゆずったものの、その後の進境いちじるしく、今や台湾の内外で活躍する若手実力派の代表格となった。
 同様に「九月に降る風」は鳳小岳や王伯傑をスターにした。また、「遠い道のり」と「GF*BF」の桂綸鎂や「EXIT‐エグジット‐」の陳湘琪はかねてより文芸映画のミューズ的存在である。
 台湾映画の盛り上がりにともない、それまでポップス界やTVドラマで活躍していたアイドルが映画にも次々参入したことと、ノースター映画やドキュメンタリーで“破億”の前例も生まれたことから、娯楽映画は売れるが文芸映画は売れないという前提自体、過去のものになった。かつて二極分解していた文芸映画と娯楽映画の距離が縮まり、長らく台湾映画が必要としてきた「芸術性と商業性の両立」はすでに至上命題ではなくなったといえるのではないだろうか。
 近年の収穫と呼べる台湾映画は、これまでに触れてきた作品のほかにも、「あなたなしでは生きていけない」(09)「父の初七日」(10)「ジャンプ!アシン」(11)「志気」(13・未)「失魂」(13)「コードネームは孫中山」(14)などまだまだある。「台湾シネマ・コレクション」(的な)シリーズが今後もなんらかのかたちで続くことを期待したい。


 最後に、台湾映画の復活や隆盛とは別の次元でゆるぎない地位を築いている二大監督について付記しておこう。
 孤高の巨匠・蔡明亮は、日本でも公開された「郊遊〈ピクニック〉」(13)をもって引退を表明し、ファンを驚かせた。とはいえその後も短編の「行者」シリーズを撮っており、再び長編にとりかかる可能性はありそうだ。
 かつてニューシネマの旗手であり現在も第一線で活動する侯孝賢は、「天空からの招待状」「軍中楽園」などの製作者として若手監督をバックアップしつつ、久しぶりの監督作を完成。その「聶隠娘(邦題:黒衣の刺客)」は15年のカンヌ国際映画祭コンペ部門に選ばれ、日本でも15年秋に公開が予定されている。

(うらかわ・とめ ライター)

   
 
   
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