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日本ビジネス中国語学会
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中国映画のコラム 第5回 .  “意外”と面白い中国の児童映画
    ――慶應義塾大学日吉電影節2014の報告を兼ねて 【後編】

 

●日吉電影節2014のねらい

 慶應義塾大学日吉キャンパスで開催している日吉電影節(ひよしでんえいせつ)は、2008年から続いている中国語圏映画の上映イベントである。扱う作品・テーマは年ごとに異なるが、2014年度は児童映画をテーマとし、『ぼくとママの追いかけっこ(我的影子在奔跑)』(方剛亮監督、2012年)と、『未成年(最青春)』(斉為民監督、2014年)を選び、学生を主体としたチームで字幕翻訳をして上映した。11月29日(土)に保護者や一般向けの上映・シンポジウムを、12月3日(水)に学生向けの上映・交流会を開催したほか、大学や高校の授業などでの交流の場も設けた。
 そもそも中国の児童映画をテーマとした理由のひとつは、2013年に参加した第12回中国国際児童映画祭で観た『ぼくとママの追いかけっこ』が非常に完成度の高い作品だったため、是非とも日本で上映したいと思ったからだ。ともに中国国際児童映画祭に参加した東京キンダー・フィルム・フェスティバルのディレクターである田平美津夫氏も『ぼくとママの追いかけっこ』が気に入り、2014年8月に同フェスティバルで吹き替え版が上映されている。

     
     
     
     もう一つの理由は、日本国内で嫌中・反中感情が広がり、それに合わせて大学での中国語履修希望者も減少するような状況の中で、育児や教育、都市の若者が直面する問題といった国境・国籍を超えて理解しやすいテーマを扱うことで、先入観にとらわれずに人間レベルで中国に対する共感を持つ機会を少しでも作りたいと考えたからだ。中国語を勉強する大学生だけでなく、中国にそれほど関心のない方にも見て欲しいと思い、慶應義塾高等学校と協力して保護者向け教育講座という位置づけで映画を鑑賞してもらう企画もした。また、『未成年』に出演している21歳・13歳・9歳の俳優にも来日を招請し、高校生や大学生と交流する機会を設けたのも、そのためだ。
     

ゲスト:方剛亮(監督)、丁文剣(プロデューサー)
 

ゲスト:斉為民(監督)、斉栩楠(俳優)、于珊(女優)
馬暁琦(女優)、楊尚儒(俳優)

 

 

上映作品について

上映作品のうち『ぼくとママの追いかけっこ』は、アスペルガー症候群の息子を必死に育て上げるシングルマザーの物語である。母親役は『孔雀 我が家の風景(孔雀)』(顧長衛監督、2005年)で知られる張静初。『孔雀 我が家の風景』でパラシュートをくくりつけて自転車で疾走する“不思議ちゃん”のイメージが強いだけに、まず冒頭の母親然とした姿に軽い衝撃を受ける。張静初ファンには必見の一作である。中国と言うと、親はどちらかというと子どもをある枠の中に入れたがるという印象を持っていたが、子どもの個性を認め必死に守り育てようとする母の姿が心を打つ。児童に見せる映画というよりは、子育て中の親に見せたい作品だというのが最初の感想だった。中国語圏映画では、自閉症を扱った『海洋天堂(原題同じ)』(薛暁路監督、2010年)の記憶が新しく、他の外国語映画では2014年にはアスペルガー症候群を扱った映画として『シンプル・シモン』(アンドレアス・エーマン監督、2010年)も話題になっていたが、中国語圏の映画でアスペルガー症候群を扱った作品は珍しい。
『未成年』は都市に住む児童青少年の直面する様々な問題を描いた作品で、前出の『考試』のプロデューサー・斉為民氏の監督作品である。社会的・金銭的な成功を収めた反面で家庭を崩壊させてしまった親たちと自暴自棄な生活に走る子どもたち、過剰な競争社会が歪める親子関係、子どもの誘拐・人身売買など、現在の中国の大都市が抱えるタイムリーな問題を扱っていること、さらには若い出演者の来日も期待できたため上映作品に選定した。実は、日吉で実際に上映した作品は、選定作業中に見た作品より長さが15分ほど短くなり、内容も大きく変わってしまっていた。これは、この映画の出資者に最高人民法院(最高裁判所)が名を連ねていることもあり、検閲も含めて様々な注文がつき、10回以上も大きな編集のやり直しが生じた結果だという。編集が不自然になってしまっている箇所もあり残念な印象も持ったが、映画を取り巻く環境のあれこれが中国児童映画の現実とも無縁でないことを再認識させられた。
なお、両作品とも製作者側は“低予算”と称していたが、ともに日本円で2億円弱の製作費がかかっているとのことだった。

     
   

●イベントを終えて

 『ぼくとママの追いかけっこ』は期待通りの反応だった。会場アンケートを見ても、中国映画ということを特段意識するでもなく、中国でもアスペルガー症候群の子どもたちの問題があり、同じように子育てで奮闘していることを知り、共感を持って見たという方が多かった。11月29日に鑑賞して感銘を受け、12月3日にも再度ご覧になった方も数名いた。『未成年』は、検閲による編集の“傷跡”もあり反応が気になったが、若い出演者たちとの交流の機会もあったため、反応は上々だった。日本で劇場公開されることはほとんどない中国児童映画ではあるが、字幕翻訳をし、授業とも連携しつつ上映・講演のイベントを展開することで、有意義な教育活動ができたと自負している。
 なお、『ぼくとママの追いかけっこ』は、第16回上海国際映画祭 電影頻道伝媒大賞(中央電視台テレビチャンネル・メディア大賞)・最優秀監督賞、第12回中国国際児童映画祭 四平市政府特別賞、第29回金鶏賞 最優秀児童映画賞、第15回華表賞 優秀児童映画賞などの華々しい受賞歴を誇る。実は、本作は中国国内でも未公開のため、これまで観客賞である百花賞の対象になってこなかった。2015年には中国国内でも劇場公開の見込みとのことだが、百花賞の受賞がなるか楽しみなところである。それと同時に、日本でも『ぼくとママの追いかけっこ』を上映してくれる劇場が現れることを、密かに期待している。

     
    吉川龍生(慶應義塾大学)
     
     
     
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