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東京便り―中国図書情報 第37回 .

 目指すは純文学?それともネット有名人?
  岐路に立つ「90後」作家たち

   
   

張皓宸『我与世界只差一個你』中国でいま、流行の最先端をリードするのが、1990年代生まれの「90後」(九零後、ジュウリンホウ)といわれる若者たちだ。
今年18~27歳になる若い世代で、その大きな特徴は、幼少のころからインターネットやITに親しむデジタルネイティブであるということ。視野が広い一方で、一人っ子世代で甘やかされて育ったため、わがままなところもあるとされる。

こうした新世代の若者たちに、中国文壇も熱い視線を注いでいる。「まもなく作家の世代交代が起こる。『90後』が文学界を席巻するだろう」(解放網)というのだ。

折しも中国の老舗文芸誌『人民文学』では、2017年1月号から「90後」作家による短編小説や詩歌のコーナーをスタート。文芸誌『上海文学』でも、昨年12月号で大々的に「青年特集」を組み、新人や「90後」作家による注目作を紹介した。誌面に新風を吹き込むとともに、若手作家に熱いエールを送ったのだ。

だが、当の「90後」作家からすれば、旧来の活字文化システムや文壇の過度な期待に、ちょっとした戸惑いもあるようだ。
そもそも中国の「90後」作家とは? 彼らは自分たちをとりまく現状をどう見ているのか? 彼らの悩みや希望とは?
中国の新世代作家をめぐる「いま」と「これから」をのぞいてみた。
  

   
 

■先輩格「80後」作家と違うのは?

中国で、若者を世代別にカテゴライズした始まりが「90後」の一つ前の「80後」(パーリンホウ、1980年代生まれ)といわれる世代だろう。
文壇においても2000年代に入り、彗星のように現れた「80後」作家たちがいた。
デビュー作の『三重門』が瞬く間に100万部を超える大ベストセラーとなり(現在200万部超)、その後も作家のみならず、雑誌編集者、プロのレーサー、ブロガー、映画監督としてマルチな活躍をみせる韓寒(1982年-)。
そしてデビュー作のファンタジー小説『幻城』で注目を集め、若者向け文芸誌『最小説』の編集長を務めるほか、タレント、歌手、映画監督など、こちらも多彩な才能を発揮している郭敬明(1983年-)。いずれも1980年代生まれの「80後」作家の代表格だ。

一人っ子政策の第一世代で、中国のめざましい経済成長につれて育った「80後」作家たち。変化の激しい時代を背景に、若者特有の不安や孤独感をすなおに描き評価される一方で、「商業主義」や「大衆文学」、さらには日本のライトノベルや漫画の「パクリ」だと揶揄されることもある。作家のなかで村上春樹の信奉者が多いのもこの世代だ。

では、その後輩たちに当たる「90後」作家の特徴は?といえば、デジタル時代の申し子であり、デジタルメディアに慣れ親しんでいるということだろう。
ネットの普及と発達によって、伝統的な紙媒体や文学賞のコンテストを通じて世に出る必要がなく、広く容易に作品を発表し、知名度を上げることができるのだ。

  

■現代は「点賛」(いいね!)の時代

前述した通り、中国の「90後」作家が従来の作家と大きく違うところは、その活躍の場だといわれる。
書籍や新聞、雑誌といった伝統的な紙媒体とは異なり、いまの中国には「微博」(ミニブログ)、「微信公衆号」(SNSのウィーチャット公式アカウント)、ネットコミュニティー、文芸アプリといった、ネット上に無限に広がる情報発信ツールが数多くある。

なかには「顔値」(外見レベル)が高いとなれば、膨大な数のフォロワー(ファン)がつき、アイドルと化すイケメン作家や美女作家もいる。ネット文化の発展で、作家の創作方法や発表のかたちも「碎片化」(多元化)、拡大化しているというわけだ。

「現代は“点賛”(いいね!)の時代。紙媒体の小説だったら売れてもせいぜい数千冊か、原稿を送り返されることがほとんどだろう。ところがネット上で一たび作品を発表すれば、数万人が“いいね!”と共感してくれるし、より多くのファンもできる」(解放網)
「80後」の若手文芸評論家、李偉長氏は、そう指摘する。

さらにこうした多元化の時代、「90後」作家たちは、ひとり孤独に耐えながら、まじめに純文学を追求するのか? それとも活気あふれるネット上で有名になり、ベストセラーを連発するのか? それぞれがいま、人生の岐路に立たされていると李氏は見ている。

  

■「90後」文学の繁栄はこれから

徐暢『我看見夏天在毀滅』「90後」による創作の特徴としては、一般的にタイトルが長々しいこと、そして一つひとつが「心霊鶏湯」(チキンスープのように心を温める話や言葉)といわれるミニストーリーであること(「小鶏湯小説」などといわれる)、さらには純文学の主流ではないという見方もある。

こうした評価に対して、当の「90後」作家たちはどう感じているのだろう。
「ぼくらの創作は、自分もそうだが、言葉や表現力はそれほど問題じゃない。だけど人生経験が浅すぎるせいか、ものすごく個人的、情緒的、閉鎖的な内容になってしまい、大きなテーマを設定するのが難しい。“都会人の孤独”といえば、同じようにひとり自宅で映画を見ることでもないだろう」(解放網)
雑誌社に勤めながら創作活動を続ける「90後」作家、徐暢さん(1990-)はそう悩みを打ち明ける。

「多くの文芸誌がぼくらに注目しているが、それは『90後』文学の繁栄とはいえないよ。なぜなら文学界に記憶されるような名作が、まだ生まれていないから。過去ばかりなぞっていたら、平凡なままだ。ぼくらは個々がオリジナリティーを追求し続けなければならないと思う」
徐暢さんがいう通り「90後」作家には、一大旋風を巻き起こした「80後」作家のような記憶に残る活躍はまだ見られない。


  

■子ども扱いされる「90後」作家

世代別のレッテル貼りに、戸惑いを覚える作家もいる。
かつて作家は「50後」「60後」作家とはいわれなかったが、どうしていまは世代別でレッテルを貼りたがるのか? そして最年長の「90後」なら結婚も話題に上る年頃なのに、「90後」と聞くなり、なぜ多くの人が「子ども」扱いするのだろう?

王蘇辛『白夜照相館』「確かに『90後』はまだ子どもだと見なされています。作品は一定のレベルに達していないし、(創作に必要な)成長の上でも足りないところがあるのは事実」(和訊網)
こう認めるのは、ネット上で「普魯士藍」(プルシアンブルー)というペンネームでも知られる、若手女性作家の王蘇辛さん(1991-)だ。

「昔の人たちは10代で仕事につき、多くの社会経験を積みました。でも私たちの世代は修士号、博士号を取ったら、もう30歳近く。それからようやく社会人になるのです。生活もいたってシンプルで(子ども扱いされることに)否定も反論もできないから、作品で判断してもらうしかないのです」
「90後」作家にも、若さゆえの悩みやジレンマ、望みがあるようだ。

 
 

■「90後」作家の分岐点

呉清縁『単挑』高校時代から作家の道を歩みはじめた「90後」作家、呉清縁さん(1992-)は、従来のような紙媒体での発表に加え、ネット上での発信も活用している。
気の合う同世代の作家仲間とウィーチャット公式アカウントを開設、交互に作品を発表するほか、日本の「知恵袋」に当たる中国の人気Q&Aサイト「知乎」(Zhihu)ではフォロワー8万人超の人気を集める。彼の鋭い論評やユーモラスなコメントが受けているのだ。

「個人メディアの時代、作家への注文は多く、文学性も拡散力も求められる。大変だけど、そうしたなかで『いいね!』の評価をもらうと、達成感を覚えるんだ。でもそれはクセになるから、用心もしなければ……。創作の初志を忘れて、“あちら”に行ってはならないってね」(和訊網)
呉清縁さんのいう「あちら」と「こちら」の境界とは、おそらく「90後」作家の分岐点のことを指している。「あちら」が横道、「こちら」が本道といったところか……。

「90後」作家の有名人といえば、近年では「高顔値」(イケメン)作家として知られる張皓宸さん、北京大学のイケメン学生で、双子の兄弟作家の苑子文さん、苑子豪さんらがいる。彼らがSNS上でつぶやくと瞬時に数万の「いいね!」が集まる。
また張皓宸さんは、中国作家協会主催の「2016年中国90後作家ランキング」〈※1〉で第1位に輝き、苑子文さんも同ランキングで6位につくなど、人気のほどを見せつけた。
〈※1〉50の中国語サイト、126の出版社、3000のメディアが公開した作品の閲覧数から順位付けされた。

だが、やはり「90後」作家の多くが、依然として主流文学界には知られていない。その存在も文学性もぼんやりしている、という指摘もある。

    

■作家かタレントか、読者かファンか

2016年「90後作家」ランキング目指すのは、本物の作家か、タレントか? 真の読者を持つのか、ファンを持つのか? 「白黒つけなくてもいい」と考える若い作家もいるが、前述の王蘇辛さんはこう考える。
「本当に何を書きたいかが大事。大衆文学であれ、純文学であれ、自らにわき起こる感情のもとがわからなければ、理想的な読者(真の理解者)は少ないに違いありません」

評論家の李偉長氏は、「どんな世代の作家であっても、こつこつ地道に創作に励み、まじめに体験を積み重ねることだ。初心を忘れず、よく思考して、文学の夢を自由に描き、そして応援してくれる理想的な読者に捧げなければならない」と後輩作家にエールを送る。

2012年に、中国籍の作家としては初めてノーベル文学賞を受賞した莫言氏は、1955年生まれのいわば「50後」作家だ。
ほかにも中国の作家では近年、詩人の北島氏(1949-)、閻連科氏(1958-)らが同賞受賞の候補者として取りざたされているが〈※2〉、はたして「90後」の活躍はいかに!?分岐点を経て、作家の“王道”を突き進むのか、これからも注目したい。

〈※2〉「東京便り」第33回 「今年のノーベル文学賞は誰の手に!? 村上春樹氏が予想トップ、中国人作家3人の名も」


  

【中国の主な90後作家たち】

徐暢: 1990年、江蘇省出身。上海大学大学院で修士号取得。第3回「会師上海・創意小説大賽」(オリジナル小説コンテスト)で最優秀賞を受賞。現在は『上海文学』社に勤める一方、創作活動を続けている。
著書に、ダーク・ファンタジーの中短編小説集『我看見夏天在毁滅』(上海人民出版社、2016年)など。

王蘇辛: 1991年、河南省生まれ。鄭州、成都、上海などの都市に住む。2009年から『青年文学』『芙蓉』『天南』『北方文学』などの文芸誌に中短編小説を発表し、注目される若手女性作家。
著書に、短編小説集『白夜照相館』(北京聯合出版公司、2016年)がある。
また、「普魯士藍」(プルシアンブルー)というペンネームを使い、ネット上で作品を発表。

呉清縁: 1992年生まれ。高校時代から作家の道を歩みはじめ、現在は、上海作家協会会員にして中学・高校教師。幻想的(マジック)リアリズム文学やSF作品のほか、囲碁アマチュア5段の腕前を持ち、囲碁に関する作品も多い。
著書に、長編小説『呉請願抗占記』(上海人民美术出版社、2012年)、短編小説集『単挑』(上海人民出版社、2013年)など。
中国Q&Aサイト「知乎」では、8万人以上のフォロワーを持つ。
張皓宸/楊楊『謝謝自己夠勇敢』
張皓宸: 1990年、四川省成都市生まれ。90後作家、イラストレーター。2013年に「微博」上で発表した、癒し系のイラストが注目される。2014年に発表した短編小説集『你是最好的自己』(楊楊との共著、湖南文芸出版社、2014年)が、第6回「新鋭芸術人物盛典」の文学分野で「新鋭賞」を受賞。
著書は、ほかに短編小説集『我与世界只差一個你』(天津人民出版社、2015年)、韓寒監修の短編物語集『謝謝自己够勇敢』(江西人民出版社、2015年)など。
中国作家協会主催の「2016年中国90後作家ランキング」(ネット閲覧数による順位付け)では、堂々の第1位を獲得。「90後“小鮮肉”(イケメン)作家」などと呼ばれる。
   

 
     

 

 

小林さゆり
東京在住のライター、翻訳者。北京に約13年間滞在し、2013年に帰国。
著書に『物語北京』(中国・五洲伝播出版社)、訳書に『これが日本人だ!』(バジリコ)、
『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)などがある。

 

  Blog: http://pekin-media.jugem.jp/
   
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